第18話 最後の晩餐

わたしは人形

ただ人の形をした物

今のわたしに優しさや同情などの感情はもう持ちあわせていない

あるものといえば

それは…

……、


お父様への激しい憎悪と怨みだけ

わたしがこの日をどれだけ待ちわびていたか、どれだけ楽しみにしていたか…

お義父さん、いや悟を死に追いやった罪をあなたには思う存分に味わってもらう




「お父様どうですか私の味付けは、お口に合いました?」


ああ、美味かったよ。知り合いの料亭よりいい味付けだ


ニャー


ほら、夏菜君の飼い猫も美味しいって言ってくれてるぞ


ニャン

ー違うわ

ー夏菜、あなたは一体何を考えているの?

ー殺した旦那のお父様を家に呼んで…


自宅に帰って2時間後、

わたしは呼び出したお父様に食事を作り晩酌をしていた。



「まぁお父様ったら、お世辞がお上手ですね」


お世辞じゃないぞ、本当に美味しいぞ夏菜君の料理はさぞかしあいつも喜んでいたのだろう…


「あの人は全然そんなこと言ってくれませんでしたよ。ほとんど外で食べてくることが多かったです。仕事が遅くなるからって…」


そうか、それはすまなかった。わたしが仕事を与えすぎたかな



「気にしないでくださいお父様。…本当に仕事だったのか怪しい時もありましたから」


…?

できの悪い息子で君には迷惑をかけてばかりだったかな。親として申し訳ない


「…でも、私は気にしてませんでしたよ。男性の人ってその方が箔がつくっていうか」


君は良く出来た嫁だな、息子と孫がなくなった時に真っ先に君を疑ってすまなんだ


「いいえ、あの状況でしたら誰でも私を疑います。もし同じ立場にでしたら私だってそう思いますよ。だからお父様は気になさらないでくださいね。わたしだってあの人と子供をなくして本当はとってもつらいんです。でも、楽しかった日々を思い出すと…」


夏菜の目から涙が流れる…


…悪かった。事件を蒸し返すようなこと言って

あれだ、夏菜君もお酒は飲めるのだろう。一緒に飲まないか?

少しは気が楽になるから


「ごめんなさい。本当はお父様に粗相がない様にと飲むのは控えていたんですが」


なぁに1人で飲むよりも、美人の女性と一緒に飲んだ方が楽しいに決まっとる


「そうですか、でしたらわたしもご一緒させていただきますね

…そういえばお父様、社長に就任されたんですね。おめでとうございます」


社長といっても雇われだがな


「それでも凄いと思います。

それじゃあお父様の社長就任祝いも兼ねてワインで乾杯でもしましょう。わたし二階からとってくるので


わたしは晩酌をしているお父様をリビングに残し廊下へと向かう


ー第1段階は終わった

ーあとは第2段階だけど

…ま、あの様子だとすぐ落ちるな


階段を上り寝室のドアを開ける

化粧台の鏡に映ったわたしにさっきまでの涙はなかった

代わりに…

眩ゆいほど輝いた人生最高の笑顔がわたしの目の前には映っている


携帯電話を取り出したわたしは信彦へ連絡をした。


「もしもし、わたしのこと綺麗に撮れてる?音声もしっかりひろえてる?」


…はい。…しっかりと映ってます。音声も大丈夫ですけど


「けどなに?」


だって夏菜さん!


「もう私のことは忘れなさい。

…あなたはわたしの復讐の為だけに今まで利用したの、だから最後まで私の指示に従って行動して!」


…わかりました


「次は、ベッドの位置まで移動するから」


わたしはベッドに寝転び天井に手を振る…


綺麗に撮れてます。夏菜さん


「わかったわありがとう。ごめんなさい

…あなたにはこれからつらい映像を見せることになるけど」


……


「それに、わたしの醜い一面を観ることになるわ。…幻滅しないでね」


…最初に出会ったときの夏菜さんでわかってます


「…これから始まるのはそれ以上よ」


覚悟してます


「じゃあ電話きるね。あまり長いとあいつに怪しまれるから」


はい

…必ず復讐が成功するように祈ってます


通話が終わるとわたしは携帯の電源をオフにした。


ーもうこれでわたしの復讐は誰にも邪魔されない

ー信彦。本当にありがとう

ーあなたがいてくれたらわたしは今まで人間でいられた…


ベッドから起き上がると鏡には自分の姿が浮かぶ。


この顔と体でわたしは男を騙してきた

わたしが甘えれば必ず男は野生の本性を現す

だからわたしの計画は全て上手くいった

そう思うと美人に産んでくれた母親に感謝しなければならない


だけど、母親があの時にあんな事を言わなければ…

わたしはさとるとおばあちゃんの3人でずっと幸せな家庭が築けれたのかもしれない


「…お義父さん」


鏡から浮かび上がった顔には、またうっすらと涙が溢れる。


ーちょうどよかったわ、また作り泣きするのも疲れるし


ニャン


「あら、いつの間にいたの?」


ニャン


「ミサ、あとからこの部屋使えなくなるからその時は入ってきちゃ駄目よ」


ニャ


わたしは部屋にある棚からワインボトルとグラスを取り出すと急ぎお父様の待つリビングへと戻っていった。

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