第17話 終焉の魔女

無機質な音だけが響く

車窓から映る景色はいつもと変わらず

周りからは無邪気に笑い、話をする女子高生の姿


ーお義父さん…


あの頃はよかった

一番大好きな人とずっと一緒だったから、あの幸せな時間がずっと続くもの

だと若い頃のわたしは思っていた…


信彦と別れ、夏菜は帰りの電車に乗車していた。


ーお義父さん、わたしは間違っていたの?

ーわたしはお義父さんを愛してはいけなかったの?

ー教えて?


返ってくるはずもない返事を夏菜は待ち続けながら彼女達の姿を眺めていた。




「信彦、それじゃあバイバイ」


わたしが彼に挨拶を告げたのは昼の2時を少し過ぎた頃だった。

昨日の夜から昼までわたし達はずっと愛し合い抱き合っていた。

まるで、それはつきあい始めた若い男女のように。

わたしの嬌声だけが一晩中聞こえ、さっきまで続いていた。

そして最後の食事を作ってあげ一緒に食べ終えたらいつものように帰るつもりだった。



夏菜さん、やっぱり死ぬのはやめてください

お願いです。僕と一緒に逃げましょう


わたしが玄関の扉を開け別れを告げると、彼は突然わたしに抱きついた。


「………」


外国にでも今から逃げましょう

僕はあなたを死なせたくない

逃げてどこか2人だけで静かに暮らせる場所を見つけましょう


彼は泣いていた…。


「………嫌よ」


僕と一緒なのが嫌なのだったら、代わりに僕が夏菜さんの殺人の罪を背負って

警察に自首します。だから夏菜さんはどこか遠くに逃げてください


「何を言ってるの?嫌って別にあんたが嫌とかじゃなくてね」


僕は夏菜さんを死なせたくない。夏菜さんには生きてほしいんです。

だから警察には僕が今から電話します。その間に夏菜さんは逃げる準備をしてください


彼は持っていた携帯電話から110の数字を押そうとしていた。



ピシャッ


乾いた音が聞こえわたしは彼の頬をおもいっきり引っ叩いていた。


「あんた、何をしようとしてるの!」


ー違う、本当は違うの。わたしだって本当なら一緒に逃げてあなたといたい



「せっかくわたしが今まで積み上げてきた仕返しを全部台無しにする気なの!」


ーでも、お義父さんの事もあなた以上に好きだった。だから裏切れない



「そんな事したらいくらあんたでも許さないから!」


ーそれに…もう二度とわたしが愛した人を失いたくないのわかって



怒りとは反対にわたしの目からは涙がでていた。

信彦は力強く抱きしめてきた。


「…だから、お願い。もうこれ以上はわたしを困らせるような事は言わないで」


…分かった


彼はわたしの耳元でそっと囁いた。

わたしは無言のまま彼にキスをしてマンションのエレベーターに乗った。





「ただいま、ミサ」


ミャー


結局、電車に乗っている間にお義父さんから返事がくることはなかった。


ー当たり前か、お義父さんだってわたしのこと怒ってるよね。浮気ばっかりしてるから

ーでも、次で最後だから許してね。お義父さん

ーそしたら、そっちでずっとわたしが愛してあげるから



「次で最後かぁ」


そう、これで夏菜の復讐も終わる。

信彦が最後に囁いた言葉

後のことは全部僕に任せてくれればいい

だから夏菜も頑張れ。


「頑張れって。何を頑張るのよ…ねぇミサ?」


ーこれから人を殺そうとしてる人間に頑張れはどうなのよ?まったく


おそらく彼の言葉を聞くのもあれが最後

その意味不明な言葉が最後だと思うと

夏菜は思い出して笑ってしまった。




ニャー、ニャー


「なぁにミサ?お腹すいた?」


家に帰りリビングで寝ていた夏菜は時計を見ると時間は夕方の6時を過ぎていた。


「分かったわ。ご飯にしましょうね」


ミャー

ー違うわよ。まったくこの娘はどこで遊んできたのか

ミャー

ーでも、いつもより元気ね。何かあったのかい


愚痴ってはいたが内心お腹もすいていたミサ

夏菜が用意してくれた缶詰めを美味しく頂いていた。


それを眺めていた夏菜は携帯電話を取り出すこれから最後の仕上げに取りかかるのだ…



…もしもし


「お久しぶりです。お父様」


…夏菜君、どうしたんだい急に


「少し、お父様だけに話したいことがありまして。こちらに来ていただきたいのですが?」


…電話じゃ駄目なのか?


「電話だと…お話しづらいので」


そうか…。わかったよ今からそちらに向かうよ

…それと、息子や孫の事はすまなかった。きみを疑ってしまって、警察から君が犯人ではないと聞かされてどう謝ろうかと。…すまなかった


「いいえ。私の事はお気になさらずに。大事な子供を失ったお父様の悲しみに比べたら私なんて」


立派だな君は

あいつも君みたいな子と少しでも一緒になれて幸せだったろうな


「ありがとうございます。お父様。

では、お待ちしていますのでよろしくお願いします」



わたしからの誘いに乗ってくれたお父様

あなたはわたしの最後の復讐相手

だからね、お父様。電話じゃとっても話づらいんですのわたしの復讐のために…

あなたは、わたしをじっくりと味あわせて楽しませたそのあとで、ゆっくりといたぶって地獄を見せ殺してあげますから…


夏菜の近くで食事をしていたミサは、電話を終えた娘の様子が以前の魔女へと変化していくことにいち早く気づいていた。
























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