第12話 ピノキオ
あれは、わたしが5歳の頃だったかしら
わたしはおばあちゃんがしてくれるお話がだいすきだった。
「おばあちゃん、いつものおはなしがききたい」
そうかい、ななはお話し聞くのが好きだね
「うん、おばあちゃんのおはなし、たのしいもん」
ありがとうね、なな。…それじゃあ今日はこのお話にしようかね
むか〜し、むかし。
ななのしらないお外のおくにで、
おもちゃを作っているおじいさんがいました。
自分の子供がほしかったおじいさんは木を使ってうごかせるお人形さんをつくりました
「うごくの?おにんぎょうさんが?」
うごくのよ。
…ななが思ってることとは違うかもしれないかな
ひもをね、お人形さんの手や足にとおして、おじいさんがうごかせるようにしてあるの
「おにんぎょうさんがかわいそう」
うん、そうね
でも、そうしてでも子供がほしかったんだね
おじいさんは。
そして、おじいさんはおにんぎょうさんに
ピノキオというお名前をつけました。
「子供がほしい」というおじいさんのお願いをかなえてあげようと、おそらでみていた
妖精さんがピノキオにいのちをあたえまし
た。
「うん、うん。それから」
その妖精さんはピノキオがいい子になったら、ほんとうの人間の子供になれるよとやくそくしました。
「ようせいさんピノキオがいい子になったかわかるの?おばあちゃん?」
妖精さんはピノキオがうそをつくと鼻がのびるようにしておいたの
「おはながのびるの?いやだ」
ななも、うそをつくとおはながのびちゃうわよ
「なな、いい子だもん。うそつかない」
そうね、いい子だもんねななは。
うそはつかないかな…。
それからねピノキオは学校にいって、がんばって人間らしくなろうとするんだけど…
ピノキオは人のことを大切に考えてあげる
優しい心が何かわかってなかったの
「……」
やっぱりななにはこのお話はまだむずかしかったかな。
おばあちゃんも途中で気づいてやめようかなと思ったんだけど
「ううん。わかるよおばあちゃん。
…パパになってほしかったんだよね。ピノキオさんに」
パパ?
「だってパパ、いっつもななのことだいじ、だいじしてくれるもの」
うんそうだね。ななはいい子。お義父さんのことよくわかってるのね
「パパがだいすきだから」
そこからは先の話しは正直忘れてしまった。
コオロギが必死で良心を教えようとしていたけど悪い商人に誘拐されて『操り人形』として見せものにされてしまった。
そして、なんか色々あって…
クジラ?サメだったかな…
それに食べられていたおじいさんを救い出したピノキオが
妖精に本当の人間にしてもらってハッピーエンドだったような気がする…。
ピノキオのあとだったなぁ。おばあちゃんにあのことも教わったの…。
なな、さっきおばあちゃんにななはいい子っていたよね?
「うん」
でもおばあちゃん、ななにはいい子にもわるい子にもなってほしくないの
「なんで?おばあちゃん」
いい子になろうとすると人はそれだけの嘘をついてそれだけの傷を自分や誰かに負わせてるからね
「…おばあちゃん、よくわかんないよ」
たとえばね…、ななに好きな子ができたとしようか
「パパがいい」
パパか、…まあパパでいいかな
………
……
…
記憶が朧げなのは、あの当時のわたしでは完全に理解出来ていなかったのかもしれない
…おばあちゃん時々、本当に難しいことを子供のわたしに言ってたから
でも今ならわかるよおばあちゃんの言ってたこと、わたしが人形になっていた7年間でわかったよ…
いい子になろうとすれば、それは自分に偽って生きなければならい。
悪い子は自分に正直に生きてはいるが、社会の仕組みの中では当然厄介な存在だし
嘘を上手に使っていかなければ悪い世界では生きていけない。
「わたし(俺)はそんなこと知らない、…だって友達も、彼氏(彼女)もいたし結婚もして子供もいるし仕事だって…」
そうやって幸せを語っている人ほど、どれだけの人間を傷つけてきたのか知っているのだろうか?
世渡り上手な人や社会的に上に立っている人ほど嘘をついている人が多い
その事に気がついている人はいいけど…
どれだけのピノキオがこの国にはいるのか?
たぶん、わたしもふくめた全員なのかもしれない…
公園であそんでいる子供や、
その近くで赤ちゃんを抱っこしてるお母さん
電話をしながら忙しそうに歩いている
サラリーマンのおじさん
楽しそうに話しをしている若いカップル
みんなお鼻が伸びてる…。
長い人もいれば短い人もいる。
きっと、子供の頃はわたしがみえてなかっただけでおばあちゃんやお義父さんも少しは伸びていたんだろう…。
今もそう…
みんな、わたしが夫や子供を殺したと思っている。
事実なんだからそれは仕方がない。
なのに表向きはわたしに対して
「お気のどくねぇ」とか「誰が犯人なのかしら?」
としか語らない。誰も本音を言わない。本当は知ってるくせに。
誰かが一番最初に手をあげないとあげられない
誰かが言わないと話すことができない。
先走って自分だけが社会の除け者にされ、
はじかれるのを恐れ自らに嘘をついている。
だから誰もわたしを犯人扱いできないでいた。
ただ、これは先日知り合った一匹のボス狼を
わたしが虜にして操ってるからあらがえないと言われればそれまでだけの話になっちゃうけど…
でも、わたしってそんなに魅力的なの
そんな嘘をついてまで多くの狼は
わたしの甘い蜜を吸いたいのかしら
わたしはもうとっくに人の良心を捨てた人形なのに…
…振り返れば、この7年間は心を捨てた人形だったとはいっても苦痛だった。
飼いならした忠実な狼のおかげで復讐相手の息子と結婚できた。
ちょっと遊んでそうなタイプの1歳上の人
わたしが一番嫌いな相手だがどうせ殺すんだ、少しは優越感に浸らせてあげよう
…子供ができた。男と女の子。
夫のお父様は大変喜んでいた。
しかし、こいつの息子。外ヅラだけはそうとういいな…こんなやつに騙される女の気持ちがしれないわ
…さて、いつ殺そう
そんなことばかり考えていた。
本当はもう少し子供が大きくなってからの方がいいかなと思ったけど、
6歳と5歳ならかわいいさかりだし
…もうわたしが我慢の限界だった。
それに、愛している悟との年数を上書きされたくはないこんな奴に。
なのになによ、その汚らしい黒猫なんか拾ってきて
…まあいいわその猫ちゃんもどうせ死ぬんだから
でも、わたし人形にはなったけど、ピノキオじゃなくて良かった。
そうしたらわたし、お鼻が伸びぱっなしですぐバレてた。
…わたしの復讐も終わりに近づいています。
そうしたら愛しているお義父さんのもとに逢いにいけるから待っててね。
この7年間もずっとあなたのことだけを想って過ごしてたけど、あのわたしが飼いならした狼さんだけは許してあげて。
あの狼さんにだけはなぜかわたし、哀れみの気持ちがあるの。
決して好きになったとかじゃないから安心してね。
わたしの復讐の為に利用してるだけだから、ちゃんとお義父さんには死んでから謝るから…。
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