第7話 彼岸花

ベットの上から起き上がった魔女は外出の準備を始めていた。

朝食を適当に済ませ、クローゼットの中から服を持ってくると着替えを始めた。


あら、あなた今日はとても暗めな衣装を選ぶの狼を誘うときとは大違いね


みさは化粧台へと移動し懐中時計を口に咥える。


ニャー


着替えに夢中になっていたあなたは手をとめわたしのほうを振り向いた。


「なぁにみさ、ごはんなら少し待ってて」


ニャー


わたしは運んだ懐中時計をあなたの前に置いた。


「あら、みさ。この時計どこから持ってきたの?」


わたしが勝手に持ってきてあなたは怒るかと思っていたけどあなたは複雑な顔をしていた。

懐中時計の蓋を開いたあなたはなぜか悲しそうな表情をした。


「よし。ドライブに行こうかみさ。わたしも丁度話し相手がほしかったから」


わたしはあなたの運転する車に乗せられた。



ーーーーーーーー


夏菜!大丈夫か


わたしはあなたの呼ぶ声で歌うのをやめた

わたしはあなたの胸の中で泣いた


障子の向こうからはまだ断末魔が聞こえてくる。わたしは本当に恐ろしかった。

恐ろしくて恐ろしくて泣きそうになっていた。


だからわたしはあなたの唇を塞いだ


仕事から帰宅したばかりのあなたには何が起きているのかわからない様子だった。

わたしの唇を素早く離すと携帯電話を取りだした。

その様子からあなたも相当焦っていることがわかった。

私達が住んでいるこの家は電波が圏外なのは知っているはず、受信するには5分ほど歩かなければ使えない。

それに気づいたあなたは家にある電話へ走ったが、わたしがそれを止めた。


「まって!お義父さん。…いえ、悟さん。

…もう遅いの」


…何が遅いんだ、夏菜?


「悟さん。あなたは帰ってくるのが遅すぎたの」


…まだ、洗浄すれば間に合う


「救急車を呼んでもここまで30分。

…それに、弟はもう死んでるわ。最初のトリカブトの毒で」


………。


「もうすぐ、次の毒があの2人を襲うわ。今の状況じゃ体はもたないでしょうね」


…………夏菜


「……だからさとる聞いてほしいの。

それでも救急車を呼んでわたしのことを警 察に突き出すか

それとも、わたしと結婚して一緒になるか

それはあなたにまかせるわ。

だから今すぐ選んで!」



それからわたし達は時間を潰す為、2人を放置して車でラブホテルへと向かった。

近所には老夫婦の家ともう1軒、家があったがその2軒とも今日は町内会の旅行の為

留守にしていた。

つまり、誰もわたしと悟の行動を知る人物はいなかった。


翌日、わたしと悟は変わり果てた3人を発見。119番と110番をした。

警察は、あの夜のアリバイをわたしと悟に聞いた。


「山の中でお義父さんのきのこ栽培の手伝いをしたあとは、2人でラブホテルに行き愛し合っていました」


わたしが告げたラブホテルの防犯カメラを警察は調べたが、それ以上は追求してこなかった。

わたしの住んでる場所は村の外れにある。近くにある2軒も昨日は朝から不在。

仕事場はさらにその山奥。近くに防犯カメラがあるような建物は一切無かった。

ただ、まったく行動がわからないのもかえって怪しまれるだろうとラブホテルで証拠を残しておいたのだった。

警察はその時間の証明が出来ず。この一件は事故として処理された。


そしてわたしと悟は家を離れ、わたしが通う高校近くのアパートを借りて住み始めた。


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