第3話 万華鏡

丑の刻、分厚い雲は無くなり満月の明かりが辺りを照らしていた。

遠方からはいつもより遅く若い狼が群れをなし獲物を求めては遠吠えを初めているのが聞こえる。

そんな中、魔女は苦しみから解放されたのか静かな眠りについていた。


狼が横にいない時はこんなに静かなのね

あなた…


いつもは狼の為に甘い声を響かせているのに…


でもね、わたしは最近気づいたの…


あの日のあなたは…


わたしが忘れたくても忘れられないほど


甘く、せつなく、喜悦の声でないていたのよ…。


束の間の静寂。

その静寂にみさの心も落ちつきを取り戻し、瞼も次第に閉じていった…。


ーーーー


おばあちゃん。おかあさんのおなか大きくなってるけど、びょうき?


「大丈夫だよ。お母さんのおなかの中にはね、ななの弟がいるんだよ」


おとうと?


「そうよ、ななはこれからお姉ちゃん」


やったー。わたしおねえちゃんになるんだ


「赤ちゃんの間はああやってお母さんのおなかの中ですごすの。ななもそうだったのよ」


うーん。

……でも、どうやっておかあさんのおなかの中に入ったの?わたしもおとうとも?


「えっとそれは。

…ざんねんだけどその答えはななにはまだ早いかな。なながもっと大きくなったら教えてあげる」


えー、いまじゃなきゃやだ。やだぁ


「だーめ。もう、だだをこねておばあちゃんを困らせないの。

…そうだ、なな。これからきのこを一緒に採りに行くかい?」


…うん


「それじゃあ、今日はななの大好きなきのこごはんにしましょう」


えっ!やったぁ。早くいこ、早くー

おばあちゃん



7歳になったあなたは、好奇心旺盛な元気いっぱいな女の子に育ってわたしをいっつも悩ませていた。

嫁が妊娠してあなたにかまってやることが少なくなったせいなのか、

幼さなかった頃よりもあなたはわたしや息子によく懐いていた。

ほどなくして嫁が息子の子供を無事産んだ。

よく泣く元気な男の子。

わたしにとっては初孫だったから嬉しくて仕方がなかった。

やんちゃで手のかかる孫が可愛くて、

わたしと嫁は孫の世話でかかりっきりだった。

それは、夫が亡くなってずっと息子と二人で過ごしてきたわたしにとっては

眩いばかりの日々だった。


…ただ、

弟が産まれたことで

車で30分以上かかる小学校の送り迎えは息子の日課となり、

あなたの宿題の面倒や学校の行事などがほとんど息子に任せっきりだったのは覚えているわ。


それでもね、なな。

わたしはあなたのことも孫と同じように愛情をそそいでいたのよ。


あなたが小学校でいじめられてないか

ちゃんとお友だちができているのか

学校担任の方に直接聞きに行ったりもわたしはしていたの。

…でも、心配は無用だったけど。

あなたは母親に似て明るく、器量がよかったのかクラスの子と仲良くやっていた。

あんなに楽しそうに笑っているあなたを見たのはあれが初めてだったかもしれない。

わたしは安心して小学校から帰ったの。


…もしもあの頃、

あなたのそばにお友達が住んでいたのなら、

今のあなたはなかったのかもしれない


…わたしはそれを後悔している。



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