第2話 かごのとり
かぁごめ
かごめ
かーごのなかのとりぃは
いついつでやーる
よあけのばんにー
つるとかめがすべったー
うしろのしょうめんだーあれ?
「だーれだ」
…おばあちゃん
「あたり。ななはかしこいのね」
えー、だっておばあちゃんがこえだすからぁ。
「そうねごめんなさい。なな」
いいよ。ななはゆるしてあげる。いいこだから
わたしが謝るとあなたはいつも笑顔を見せて許してくれた。笑うと八重歯がとっても可愛いかったあなた。
幼かったあなたの側にはいつも両親とわたしがいた…。
静寂な闇に閉ざされた部屋に激しく叩きつける雨音だけが響いていた。
日付けが変わるのを待たずして眠りについた魔女の姿を窓辺で眺めていた黒猫。
時折おちる眩いばかりの光にみさは目を細めていた。
…今日はあなたの側に狼は居ないのね
あなたに罰を与えるいい機会かもしれないけど…今はやめておいてあげる
あなたがわたしのつたえたかったことに気がつくまでは見逃してあげる
みさがベッドに目をやると魔女はうなされていた。
うなされているの?……なな
かわいそうね。…でも、それはあなたのいままで積み重ねてきた罪の重さよ
必ず悪いことをすれば己にも返ってくるの
…気づきなさい、なな。
ーーーーーーーー
昭和天皇が崩御された年、わたしたちの家族は地方にある山村の集落に住んでいた。
早くに旦那をなくしたわたしは苦しく貧しくてもひとりで息子を育てた。
息子が三十を迎えたとき、一人の若い娘を連れてきた。
その娘はわたしの息子にはもったいないくらいの美人だった。
わたしは、はじめ反対をしていた。
美男子でもなければ収入も資産もない息子になぜ?わたしは娘に聞いてみた。
「優しいからです」その娘はわたしにそれだけを伝えた。それでもわたしは納得していなかった。
…だが、娘は諦めず持ち前の明るさと器量でわたしを認めさせた。
そして二人はめでたく祝言を挙げ結ばれた。
そのときに娘が連れてきていた当時4歳の子供がななだった……
ねぇ、おばあちゃん
「どうしたの?」
かごめってなぁに?かもめさん?
「お空をとんでる鳥さんとはちがうかな。うーんそうね。…ちょっとまっててね、なな」
おばあちゃんどこいくの?いやだぁ。わたしもいっしょにいくぅ。
わたしがどこかに行こうとすると、いつもあなたは大きなおめめをまばたきさせ不安そうに顔を見上げてた。人懐っこくてわたしの服をいつもつかんで後ろからついてきたあの頃のなな。
…あなたは本当に可愛いかったわ
「かごめはねこれのことだよ」
このかご、おばあちゃんがやまにいくときにもっていくやつだぁ
「そうよ、このかごはね竹をじょうずにあんでつくってあるんだよ」
へぇーそうなんだ…
「かごのあんである竹と竹のすきまをかごめっていうの」
…。
「ななにはまだむずかしかったかな?」
えっと…。このかたちのことでしょおばあちゃん?
「あたり、ななはあたまのいい子ね。それじゃごほうびに、ななの大好きな山菜を採りにいくかい」
うん。いくー。
保育園も幼稚園もない田舎の山村。
同い年どころか、子供があなた以外誰もいないこの村で育ったなな。
本当は淋しかったのかもしれない…。
それでもあなたは楽しそうにいつも笑っていた。
そんなあなたがどうして変わってしまったのか。
あの時のわたしにはまだわからなかった。
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