第1話 わたしがあなたにつたえたかったこと 続

わたしはあなたと一緒にいけなかったことを後悔している…。


あなたやお兄ちゃん、お姉ちゃん達と楽園で過ごしたほうが良かったのかもしれない。


あなたのいないここは地獄。


でも、わたしにはやるべきことがあった。


…あなたについていけなかったことを許して。



復讐の為だけに残ったわたしを見てあの魔女はこう言った。


「あら、あなたは食べなかったの?運がいいのね」


平然とした態度で言い放った魔女の言葉。


わたしからあなたを奪い、あまつさえ親も奪った魔女。


許せない…。



「そんなに恐い顔してどうしたの?まるで私のしている事が分かってるみたいね」


〝ニャー〟


「あら、本当に分かってるの。…そうだったとしてもあなたにはどうすることも出来ないわよ」


…たしかに、今のわたしには、…なにもすることができない。


そんな事はわかっていた。



魔女がまた別の狼を連れてきた。

以前にいた狼よりも風格が違う。


そう…。魔女のあなたは群れのボスを手下にしたのね。


「ねぇ、あなた。私のこと、どうしたい」


あなたから甘い香りを漂わせ、誘いだされたボス狼は、魔女の甘酸っぱい汁を舐める事で虜にされた。


残っていた林檎を、群れからはぐれた狼に手渡したあなた…

その最高の笑顔に騙されながらも、はぐれ狼は尻尾を振っていた。


…あなたは本当に恐ろしい


ボス狼が立ち去っていくとあなたは必ず大きな鏡を見ていた。


「…みさ聞いてる。私の美貌と体があればなんだってできるのよ」


あなたと狼が寝ていたベッドで見据えていたわたし。鏡越しには魔女の裸体が映っている。


「その顔。…本当にあなた、私の言ってる事が分かってそうね。…おりこうな猫ちゃん」


わたしの鋭い眼差しが鏡に映る。


「私とあなたは気があうのかもね」


笑顔でわたしに話しかける魔女…


この微笑に狼達は騙され続けるのだ。


「それじゃあ私は出掛けるから、おとなしくしていてね。みさ」


〝ニャー〟


「あら、珍しい。…あなたが返事を返してくれるなんて、本当は私と仲良くしたいんじゃないの」


魔女が部屋から出ていった。


…勘違いしないでほしい


わたしは魔女のあなたとは仲良くしようとは思っていない。


ただ…

思い出してしまったの。


わたしがこの家に飼われ、あなたが魔女へと変貌を遂げたときに。


だから、わたしはあなたにどうしてもつたえなければならないことがあるの。


魔女の座っていた場所に移動したみさは前足で化粧台の引き出しを開けた。

なかには、あの魔女には似つかわしくないとても小さな可愛いらしい懐中時計がある。

それは静寂な部屋に秒針だけを響かせ時を刻んでいた…。


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