わたしがあなたにつたえたかったこと 続

yuki

幕開け

事故で親をなくし、

行くあてもなかったわたしを里親として引き取ってくれたあなた


家族が猛反対をするなかあなたはひとりで説得してわたしを守ってくれた。


あなたのおかげでわたしは認められた。


『みさ』と言う名前をあなたはわたしにくれた。


あなたの子供より小さかったわたしに、お兄ちゃん、お姉ちゃんができた。


わたしにもようやく家族ができた。


…なのに、わたしはあなたに「ありがとう」と、つたえることはできなかった。



ある時、わたしは怪我をした。


外で遊んでいたわたしが足から血を流して帰ってきたのを見たあなた、


あなたは慌ててわたしを病院に連れて行ってくれた。


恐怖と痛さで泣いているわたしにあなたはそっと近づいた。


あなたの大きな指先がわたしにふれるとわたしは全てを忘れることが出来た。


…でも、あなたに「ありがとう」とはわたしは言えなかった。



あなたが家にいる時、わたしはいつもあなたのそばにいた。


本当はお風呂も一緒に入りたかったけど…


さすがにお兄ちゃん、お姉ちゃんにダメって言われた。


さみしくて甘えたかったわたしはいつもあなたと寝たいとだだをこねた。


あなたは「いいよ」とわたしを優しくむかえてくれた。


あたたかいあなたに抱かれて眠るのがわたしは幸せでした。


…わたしはあなたが「大好き」でした。



幸せな日々がずっと続くかとわたしは思っていました。


でも、…それは幻想でした。


魔女が狼を家に連れてくるようになったのです。


狼はあなたが帰ってくる前には必ずいなくなりました。


魔女と狼が何をしているのかはわかっていました。


わたしはあなたにその事を教えたかった。

…でも、無理だった。



狼が毎日現れるようになると、魔女はあなたやお兄ちゃんお姉ちゃんに林檎を食べさました。


魔女の全てを見ていたわたしはその林檎を食べませんでした。


わたしは必死に叫びました。


「その林檎を食べないで!」


だけど、わたしの声はあなたに届きませんでした。


その時に、ふっとわたしに見せた魔女の最高の笑顔は忘れることができません。




穏やかに晴れ渡った日曜日の午後、都心近くにある墓地の一角に彼女はたたずんでいた。

新しく建てられたお墓の前で座り微動だにしない。視線の先に新聞紙が置いてある。


…「世田谷区、親子三人毒殺」と書かれた見出しを彼女はずっと見つめていた。



わたしがあなたにつたえたかったこと…


「あなたにありがとうや大好きは言えなかっ たけど… これだけは約束します。

あの魔女にあなたの怨みはわたしが必ず果

たします…かならず」


みさは目を見開き〝ニャー〟と大きく一度だけ鳴き真っ黒な毛並を揺らせ墓地を去っていった。


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