異世界の始まり〜 A.優しくする。紳士的に例え白い目で見られても
「…。」
カメラを置いてしばらく経ったが、俺は自分が見た映像を未だに受け入れられていない。
当然の事だと思う。
不気味な喋る雲が美少女だったんだ。
簡単に受け入れる事など出来るはずがない。
「くっ…‼︎‼︎」
俺は膝についた手を握りしめる。
「もし、わかっていたなら……」
もっと優しくしたし、仲良くなる努力をした。
親子のような気持ちを持つ事もなかっただろう。
俺は心の底から後悔していた。
可愛い子には優しくしたいし好かれたい。
男なら当然の気持ちだと思う‼︎‼︎
だが、今となってはもう遅い。
俺自身もモコの事を可愛いと思うがどこかでやはり親のような目で見てしまう所もあるのだ。
おそらくモコもそうだろう。
だが、俺は一つだけどうも納得いかない事がある。
「あの口調はなんなんだッ‼︎‼︎」
そう、あの口調だ。
俺に話すと時は少し威圧的な話し方をするのにカメラの向こうのモコは素直な子供のような口調で愛嬌がある。
そもそも俺、あいつに召喚されたんだよな?
何故なんだ?
出来る事なら不気味で威圧的な話し方をする変な雲より美少女で可愛い幼女と話す方がいい。
そもそも雲はないだろう。
というわけで、俺は早速モコを待っている。
散歩中で家にはいないがそろそろ帰ってくるはずだろう。
ガチャッ
家の扉が開く。
帰ってきたようだ。
俺は立ち上がりモコを迎える。
「おかえり」
俺はにこやかに紳士的に迎えたつもりだが、モコは怪訝な顔をする。
『なんだ?
迎えなんて気持ち悪い。
今までおかえりなんて言われた記憶がない。
ところで背筋なんて伸ばしてどうしたんだ?
余計気持ち悪いぞ?』
無意識に背筋を伸ばしていたようだ。
それにしても散々な言われようだ。
心なしか嫌われているようにすら感じる。
しかしここでめげてはいけない。
「お前こそなんだ?その話し方。
俺はもう知っているぞ。
お前の食事姿、見させてもらった。」
俺はモコにビデオカメラの映像をみせる。
「俺は、この姿のお前が好きだ!」
あれ?なんか俺言葉間違えたか?
『…。』
モコは固まっている。
いつもふよふよと漂っているだけなのに今は石のような見た目に変わり全く動かない。
「おーい。モコ?」
モコはボン!っと音だして人型に姿を変えた。
羽は無い。
『バレたんだー。
隠したかったって程じゃないから別にいいよー!
でもね隠し撮りなんて気持ち悪いから絶対やめてね!
あと、私はトモの見た目好きじゃないよ。』
やっぱり俺モコに嫌われてる気がする。
それよりなんか知らんが振られてしまった。
「そうか。」
小さく呟き話を変える。
「なぜ姿を変えて、口調を変えていたんだ?」
『それはね…。』
話を聞くと俺に雲の姿しか見せなかった事は特に理由はないらしい。
隠してたつもりも無いのだとか。
ただ口調に関しては意識していたようで俺に子供扱いされたくなくて母親のマネをしていたようだ。
モコに全く好かれていない事がわかりだいぶショックを受けたがとにかく生物作りをなんとかしなければ……
俺は1人寂しく自分を励ますのだった。
さらに月日が流れていくーー……
俺はすでにモコが人型であろうが雲形であろうがモコはモコにしか見えなくなっていた。
それほどの時間が経ったのが、相変わらず俺は何一つ生み出せていない。
自分でも悲しくなるほどに優柔不断だ。
そんなある日、モコは突然世界作りに興味を持ったようだ。
『ねえ、生き物どうするの?
私散歩飽きてきたよ。
何か作ってよトモ。』
興味というよりは今の環境に飽きているようだ。
「そうは言っても後戻りはできないんだぞ。
この世界をどうするのかと考えると安易にできないんだ。」
最終的に知的生命体による文明の構築が必要なんだろ…
かといって俺の世界での人の歴史は争いで築かれている。
それを考えるとどうもな…
相変わらず優柔不断に悩む俺にモコは不満そうだ。
『でも、トモそう言ってだいぶたってるよー?
そろそろ作らないと。
ママに昨日言われたけど、1番目は世界出来上がったらしいよ。』
…おい。お前親と連絡が取れるのか。
なんでそういう大事な事伝えてくれないんだ…
だいたい1番目は世界出来たってどういう事なんだよ。
「…。」
俺はモコをじっと見る。
もちろん手にはビニール袋を持っている。
『…散歩にいこー』
モコは俺の視線、ビニール袋から逃げるかのように外に出ていく。
逃げやがった。
俺は1人家の中に残される。
「わかってはいるんだがなー…」
もちろん俺だっていい加減に何か作らなくてはいけないのはわかっている。
だが、優柔不断な性格のせいで決める事ができない。
そもそも俺は世界を作るにおいて一番大事にしたい、決めておきたいゴールがない。
……
俺は昔の記憶が戻った。
そういえばニートになったのもこれが理由だったんだ…。
俺は行ける大学が無いほど頭が悪いというわけではなかった。
選ぶ事が出来てしまったから選べなかったんだ。
夢を一つに絞れず、志望校を選ぶ事が出来ない。
そのせいで願書が出せず大学受験からフェードアウトしてしまった。
……
こんな俺に知的生命体を作り出すなんて無理だ。
そもそも俺の知る知的生命体は人類のみだ。
だから俺は人類のみを作るつもりだったんだ。
だが、女神は新しい世界を作ろうと考えたから俺はこの世界にいるわけだし…
人類のみの世界を望んでいるとは思えない。
だが、他に知的生命体なんて俺にはわからない。
この考えが俺の中で無限ループに陥っている。
考えていると頭が痛くなってきた。
少し寝よう。
俺はふと時計の存在が気になり時計を持ってベッドに入る。
「時の流れを変える時計か…」
時計を頭上に置いて横になる。
疲れていたのだろうか、横になるとすぐに瞼が落ちてくる。
少しずつ現実と夢が重なり始める。
「望む世界を作れる力か…」
もし、何も考えず自由な世界を作るなら何を作るだろうか。
薄れゆく意識の中俺は考えた。
それならやっぱ人以外に異種族がいて欲しいよな。
そして異種族同士が手を取り合う平和な世界だろ。
でもなー。
どうせなら魔法とかあってほしいし、少しぐらい争いがあってもいいよな…
そこで俺がヒーローになるとか最高だ!
パァァー
家の中が光はじめる。
「まずいっ!」
俺は飛び起きた。
家が先ほどの俺の夢を願いと捉えてしまったようだ。
クソ…どうすれば!
そんな事を考えている間にも家の中の光は大きくなり続けている。
「そうだ!時計だ!」
もしかしたら時を戻せるかもしれない!
ダメ元で時計に手を伸ばす。
『ただいまー!』
モコが勢いよく扉を開けて入ってくる。
勢いよく入ってきたせいでベッドが軽く揺れる。
そこからの事はきっと一生忘れないだろう。
もとより不安定な場所に置かれていた時計はモコによる揺れで簡単に落ちてしまう。
スローモーションのようにベッドの頭上に置いていた時計が落下していく。
俺は必死に手を伸ばす。
ガシャンッ‼︎‼︎
俺の手は時計に届く事はなく、時計は音を立てて床へと叩きつけられる。
すると時計からも光が溢れ出し、部屋の光と共鳴するように光は強く部屋全体を明るく照らす。
世界が真っ白にになり、俺の目はスパークするかのように弾けだす。
「何も見えない‼︎‼︎」
そしてーー…
ドクンッ!
突然大きく心臓が跳ねる。
「うッ‼︎」
体が急激に熱くなり身体は激しく波打ち始めた。
息がうまく吸えない‼︎
『トモ…』
モコが苦しそうに俺に手を伸ばす。
「モコッ‼︎」
うまく動かない体を動かし、俺もモコに手を伸ばす。
もう少しで手を掴めるー…
ドサリ
俺の手がモコの手を掴む前にモコは倒れ込む。
「モコ…」
そこで俺の意識も途絶えた。
ーーーーーーー……
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