第二十四話・4

 次に楓の部屋に入ってガサ入れをした時には、あの時のエロ本はなかった。

 私に見つかったのが相当堪えたみたいだ。


「やっぱり無いか。もしかして、風見君に返しちゃったのかな?」


 あのエロ本の中身、私が一番気になってたりするんだけど……。

 まぁ、無いものを探したってしょうがないとは思う。

 だけど内容はある程度把握している。

 それを思い出して、一人ボソリと呟く。


「弟くんは、あんな格好をする女の子が好きなのかな?」


 たしか裸体で両胸を揉みしだくように手で押さえ、下半身はM字開脚(?)をして大事なあそこを見せつけて──

 とりあえず、服を脱いでやってみようか。

 せっかくだから、楓の部屋にある鏡の前で試してみようと思い、そんなポーズをとってみる。

 これで楓は喜んでくれるだろうか。

 …ていうか、なんで楓に見せつける前提なんだ?


「やっぱり、やめた方がいいよね。こんな格好してたら、弟くんがびっくりしちゃうだろうし……」


 そう思うと、よけいに恥ずかしくなってしまう。

 楓が帰ってくる前に──

 と、そう思っていたのも束の間。

 いきなり部屋のドアが開いた。

 開けたのは、もはや言うまでもない。楓だ。


「ただいま~」


 そう言いながら、楓は部屋の中へと入ろうとして──

 私の姿を見た途端、しばらくの間沈黙する。


「っ……!」


 そして、我を取り戻した後、慌てた様子で違う方向に視線を逸らし部屋のドアを閉め、入るのをやめた。


「あ……。その……」

「お、弟くん⁉︎ これは、その……。深い意味はなくて……」


 あの時のエロ本に写されていたポーズをそのままやっていたため、なんの弁明もできない。

 この場合は、落ち着いて服を着た方がいいのかな。

 ──ダメだ。

 頭が混乱しちゃっていて考えがまとまらない。


「ごめん! とりあえず、僕は一旦部屋から離れた方が──」

「大丈夫だよ。ふ、服を着るだけだから。向こうを向いていてもらえれば、その…入ってきても──」


 楓の部屋なのに、なんで楓が部屋を離れなきゃいけないんだろう。

 部屋を出なきゃいけないのは、本来は私の方だ。


「う、うん。わかった」


 楓は落ち着きを取り戻し、なんとか部屋へと入ってくる。

 入った瞬間、私の方ではなく向こうを向いていた。

 私は、脱いだ服をゆっくりと着ていって、だんだんと落ち着いていく。

 楓から変なリクエストをされる事が前提とはいえ、あんなはしたない格好をしてしまうなんて……。

 恥ずかしくて、まともに楓の顔を見れそうにないかも。


「ど、どこまで見たのかな?」

「え? なんのこと?」

「見たんでしょ? 私のその……。はしたないポーズを」

「それって、たしかエロ本に載ってた──」


 楓にそう言われてしまった途端、私はなんとも言えないくらい恥ずかしい気持ちになる。


「やっぱり見たんじゃない! もう!」


 これが私の部屋だったら、部屋のドアをノックしてからとか色々と言えたのかもしれないが、楓の部屋だったからこれ以上は言えなかった。


「なんか、色々とごめん……。なんて言うか、その……。香奈姉ちゃんは、そんな趣味があったんだね」

「っ……!」


 そう言われた途端、恥ずかしさのあまり楓の顔が見れなかった。

 楓からそう言われてしまうのは、かなりショックだな。


 今日の夕飯は、唐揚げと味噌汁らしい。

 準備をしている楓を見て、私はふと訊いてみる。


「今日は、唐揚げなの?」

「うん。朝早くに漬けといたんだよね」


 楓は、なんだか嬉しそうにそう言っていた。

 どうやら、とても楽しみにしていたみたいだ。

 ちなみに、私の家も今日の夕飯も唐揚げなんだけど……。

 こんな時は、どうしたらいいんだろう。


「奇遇だね。今日は、私の家も夕飯は唐揚げなんだよね」

「そうなの?」

「うん。たぶん味付けはほとんど同じだから、味自体はたいして変わらないとは思うんだけど。どうかな? 味比べをしてみるっていうのは──」


 私は、そう提案してみる。

 意外にも唐揚げの漬けダレの作り方は、楓から教えてもらったものだから、味は変わらないとは思う。

 だけど楓には負けたくないなって思ってしまうあたり、姉的な存在としての立場がそうさせてしまうんだな。

 あとは、楓からどんな返事がくるのか。


「味比べか……。僕は別に構わないけど……」

「いいの?」

「香奈姉ちゃんの料理はとても美味しいからね。是非食べてみたいなって──」

「本音はそれか……。わかったわよ。そういう事なら、負けていられないかな。──ちょっと待っててね。今から、作りに行くから」

「うん。楽しみにしているよ」


 楓の言葉に、私は嬉しくなった。

 今度こそ、絶対に負けないんだから。


 やっぱり私は、楓には勝てないんだろうか。

 出来上がったのをタッパーに詰めて持っていったんだけど、好評だったのは楓の料理だった。


「やっぱり楓が作る唐揚げは美味しいなぁ」


 花音は、本当に美味しそうに楓が作った唐揚げを食べていた。

 楓と同じ味付けで作ったはずなのに、どこが違うんだろう。

 ひょっとして、持っていく時に冷めてしまったとか?

 楓は、迷いなく私が作った唐揚げを食べている。


「お姉ちゃんが作った唐揚げも美味しいよ。花音は食べないの?」

「食べるけど……。お姉ちゃんのは、なんとなく食べ慣れてる味だから、その……」


 花音は、そう言って恐る恐るといった様子で私の方を見てきた。

 私が怒るとでも思っているのかな。

 食べ慣れてる味、か。

 そんな風に言われてしまったら、たしかに勝てないかも。

 隆一さんは、普段から楓の料理を食べてるのかと思うと、なんだか羨ましいな。

 私も、もっと楓の料理を食べたいと思うし……。


「私のは、食べ慣れてる味、か。弟くんのと、同じ味付けにしてるはずなんだけどな~」

「楓のは、どちらかというと外食をしてるような感じで、お姉ちゃんのは、家庭的な味っていうか……」

「そっか。私のは、家庭的、か」


 それのどこに違いがあるんだろう。

 要するに、私の料理には新鮮さが足りないってことなのかな。

 そういえば、花音はあまり料理とかはしないかも。

 どちらかと言えば、私が常に料理をしてる形だ。

 周防家も、主に楓が料理を作っているんだろうけど。

 そう考えれば、私が楓のことを好きになる理由も自ずとわかってしまうくらい。


「香奈姉ちゃんの料理はとても美味しいよ。僕には、香奈姉ちゃんの料理が外食をしているかのような気分になれるよ」

「そうかなぁ。私には、そんな風には──」


 花音は、疑心暗鬼な表情を浮かべる。

 妹よ。

 普段から私の料理を食べ慣れてたらそうなるのだよ。

 楓の言葉に嘘はないから、それが事実なんだよ。


「作った方としては、美味しいって言ってもらえれば一番嬉しいんだけどね」


 私は、花音の顔を見てそう言っていた。

 花音からは、どんな感情が奥底にあるのかは知らない。だけど──


「それはまぁ……。お姉ちゃんの料理も美味しいけど……」


 花音は、恥ずかしそうに表情を赤くしてそう言った。

 いつか花音にもわかる日がくると思う。

 彼氏さんとかができた時には、絶対に──

 ちなみに、楓と私のどちらの料理が美味しかったかという答えについては、でなかったらしい。

 私的には、勝ったと思いたいけど……。

 実際は、そんなに甘くないか。

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