第二十四話・5

「ねぇ、弟くん。せっかくだから、一緒にゲームやろうよ」


 何を思ったのか、香奈姉ちゃんはそう言ってテレビの近くに設置してあるゲーム機を持ってきた。

 香奈姉ちゃんの部屋にあるものだから、何をしても自由だが。

 ちなみに香奈姉ちゃんの得意なゲームジャンルは、主にアクションゲームだ。


「いいけど。何をやるの?」


 だからこそ、僕と一緒にできるゲームは意外と多い。

 得意っていうわけじゃないんだけど、僕の場合、軽い気持ちでやっている事がほとんどだ。


「これなんかは、どう?」


 そう言って画面に表示させたのは、流行りのレーシングゲームだった。

 別にめずらしいことはない。

 僕も、暇があればやるくらいだから。


「別にいいよ」

「やった! 弟くんなら、そう言ってくれると思っていたよ!」


 香奈姉ちゃんは、なんだか嬉しそうだ。

 香奈姉ちゃんのそんな顔を見ると、僕も自然と笑顔になる。


「負けたらバツゲームとかは、無いよね?」

「さぁ。どうかなぁ。それは、弟くん次第かな」


 香奈姉ちゃんは、悪戯っぽく笑みを浮かべて言う。

 そんな曖昧に言われてもな……。

 それに、その顔は……。

 なにかを企んでるような表情だよ。


「それって……」

「まぁ、私に勝てたらとっても良い事してあげるよ。…どうかな?」

「やめておくよ。もし負けたら、どんなバツゲームが待っているか……。そんなの考えたくもないし……」

「そっか」


 途端につまんなそうな表情になる。

 もしかして、そっちが目的だったりするのかな。


「ちなみに、僕が負けたらどんなバツゲームをするつもりだったの?」

「それはねぇ。『秘密』かな──」

「秘密、か。なんか怖いな。色んな意味で……」

「そうかな? 私は、とっても嬉しい気持ちになるけど」

「僕に秘密の悪戯、か。それはさすがに……」

「どうして、そこで嫌な顔をするかなぁ? 私は、弟くんともっと仲良くなりたいと思っているのに……」


 そこでムスッとした表情にならなくても。

 もうすでに仲良くはなってると思うんだけど……。


「と、とりあえずゲームしようか? 負けた時のバツゲームはその後で決めるとして──」

「そうだね。もし弟くんが勝ったら、好きなジュースを奢ってあげるよ」

「いいの?」

「私とのスキンシップは、嫌なんでしょ? それなら、好きなジュースを奢った方がいいかなって思って」


 好きなジュースって言われてもな。

 それなら、わざとでも負けた方がお得な話ではないのか。

 香奈姉ちゃんとのスキンシップは、ちょっとだけ激しいとは思うけど、嫌ではないし。


「いや……。別にスキンシップは嫌っていうわけじゃ……。僕はただ──」

「わかっているよ。弟くんは、私に気を遣ってるんだよね? そういうのは、ホントに必要ないのにな──」

「お風呂とか、一緒に入ることがほとんどなのに、ゲームで僕が負けたらスキンシップって、どんなハッピーイベントなのかなって思ってさ──」


 つい本音が出てしまったけど、香奈姉ちゃんはどんな反応をするんだろうか。

 香奈姉ちゃんは、途端に笑顔になる。


「ハッピーイベントかぁ。弟くんは、どんなのがいいのかな?」

「え……。それって……」

「弟くんは、どんなスキンシップがお好きなのかなって──」

「それは……。僕には、なんとも──」


 僕に聞かれても。

 いつもは香奈姉ちゃんから積極的にやってくるのに。

 それをわかっているのか、香奈姉ちゃんはゲーム機を元の位置に戻して、やり始めた。


「まぁ、私が勝ったら楽しみにしていてよ。退屈はさせないから!」

「お風呂も一緒、なんだよね?」


 僕は、確認のために訊いてみる。


「そんなの当たり前でしょ。またいつものように私の体を抱きすくめてもらうんだから──」


 当然の事のようにそう言う香奈姉ちゃんが、なんだかすごいなって思えてしまう。


「なんの迷いもなくそんな事を言えるのって、逆にすごい事だと思うな。されても恥ずかしくない秘訣でもあるの?」

「そんなのあるわけないじゃない。他の男の人にされたら、普通に恥ずかしいわよ。相手が弟くんだから、いいんだよ」


 香奈姉ちゃんにとって、僕はぬいぐるみと一緒なんだろうか。


「なるべく負けないようにしないとな」


 僕は、ボソリとそう言っていた。


 いつもなら、僕が必ず勝つのに……。

 どうしてこんな時に限って、負けてしまうんだろう。


「やったぁ。私の勝ちだね」

「………」


 香奈姉ちゃんは、とても嬉しそうだ。

 わざと負けたわけじゃないから、これはこれで悔しかったりする。


「さて、どうしよっか? 私とのスキンシップ…記念として写真に撮っておきたかったりする?」

「それは──。わざわざ、香奈姉ちゃんの部屋でやらなくても……」

「私の部屋だから、いいんじゃない。誰かに見られる心配もないわけだし──」


 香奈姉ちゃんは、そう言って体を密着させてくる。

 僕が負けて早々、密着してくるのって、さすがに香奈姉ちゃんらしくないような……。

 もしかして、ゲームはきっかけにすぎないとか?


「ほ、ほら。もう一戦…始まるよ」

「もう! すぐに話を逸らすんだから──。そんなのだと、女の子に嫌われちゃうよ」


 香奈姉ちゃんは、ムッとした表情で僕にそう言った。

 なにも勝負は、一回ってわけじゃない。

 そう言いながらも、香奈姉ちゃんは僕の傍でゲームをし始める。

 さっきまで僕から離れてやっていたのに、いつの間にか僕の隣でゲームをやっていた。

 ──さて。

 僕も、負けてはいられない。

 なんとしても、香奈姉ちゃんとのスキンシップは避けないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る