第二十四話・3
「そうか。俺が周防に預けた秘蔵のエロ本は、なんとか無事だったってわけか。なんか周防には、悪い事をしたな」
「悪いと思っているのなら、そんな秘蔵のものなんて預けないでよ。香奈姉ちゃんに見つかった時なんて、正直ヒヤッとしたんだよ」
僕は、面白半分に笑みを浮かべてそう言ってくる慎吾にそう返す。
ホントに悪い事をしたと思ってるんだろうか。
よりにもよって、慎吾の秘蔵のエロ本を預けるなんて……。
普通の人なら、そんな事はしないだろう。
とりあえず学校内ということもあり、例のエロ本は持ってきてはいないが。
「とりあえず、アレは今日中に返したいから、いつもの公園でいいよね?」
「別に構わないが……。もういいのか?」
「あんなもの──。持っていても、なにもいい事はないし。それに……」
「そうか。まぁ、俺が押しつけたようなもんだしな。しょうがないか……」
さすがに燃やされたりしたらたまらないと思ったのか、慎吾は残念そうな表情でそう言った。
一体、いつまで預かってもらおうと思ってたんだろうか。
僕自身、安易にそんなものを預かってしまったのが一番悪いことなんだろうけど……。
「ところで、俺の秘蔵のエロ本を見た時、西田先輩はどんな反応だった?」
「それは……。ちょっと言いにくいな」
僕は、微妙な表情でそう言って慎吾から視線を逸らす。
まさか怖いくらいの笑顔で迫られた、なんて言えないし……。
「周防のその反応は、ひょっとして──」
「喜んでなかったのは、たしかだよ」
「やっぱりね……」
慎吾は、がっくりと肩を落とす。
ちょっと期待しちゃったのかな?
いやいや──
普通に考えて、エロ本を見て喜ぶ女の子はまずいないだろう。
あの時の香奈姉ちゃんの笑顔は、どう見ても怒ってたようにしか見えないよ。
慎吾は約束は守るタイプだ。
だから約束した場所にはきちんとやって来ている。
バイト先の同僚でもあるから当たり前のことだが、10分前行動はもはや癖になっている。
かくいう僕自身も、それは同じだ。
「はい。これ──」
僕は、約束どおり秘蔵のエロ本を渡す。
そのまま渡すのはさすがにまずいので紙袋に入れて、だ。
慎吾は、紙袋の中身を確認すると小さく頷く。
「おう。ありがとな」
「うん」
一応、紙袋の中には、エロ本だけじゃなくてお礼の粗品なども入っている。
さすがにそうしないと、申し訳がたたないと思ったのだ。
「西田先輩は? 一緒じゃないのか?」
「今日は、忙しいみたいで」
「そうか。残念だ」
そんな時に、残念そうな表情を浮かべなくても……。
今回は、香奈姉ちゃんとデートっていう口実で公園にやって来てるわけじゃないから香奈姉ちゃんはいないし。
僕の家でエロ本とかの受け渡しとかやると、必ずと言っていいほど香奈姉ちゃんがちょっかいをかけてくるから、そうしなかっただけだ。
どこかから視線は感じるけど……。
そんな事とは気づかずに慎吾は──
「ところで周防。新しいエロ本を持ってきてるんだが、どうする? 読んでみたいか?」
「いや……。やめておくよ。さすがに……」
慎吾から新しいエロ本を勧められたが、遠慮しておいた。
香奈姉ちゃんに見つかったばっかりのタイミングで、また貸し借りをするっていうのは──
さすがにないだろう。
それに、慎吾が持ってるエロ本って、どこで購入してるんだろうか。
18歳未満は購入できないはずでは……。
聞いたら色々とヤバイことだらけなので、敢えて聞かないようにしてるけど。
「大丈夫だって! もしかしたら、西田先輩もやってくれるかもしれないし」
「なにを?」
新しいエロ本の内容を知らないのに、つい訊いてしまっていた。
「それはだな。やっぱり──」
「ごめん。やっぱり聞かないでおこうかな。聞いたら、よけいに借りたくなっちゃうし……」
「え~。借りるつもりで来たんじゃないのかよ。だったら、他の奴に貸しちまった方がいいかな」
慎吾は、そう言って新しいエロ本を仕舞おうとする。
そうしたところで、僕が焦るとでも思っているんだろうか。
「是非そうしてよ」
「ホントにいいのか? 貸しちまったら、次に読めるのは数ヶ月後になってしまうんだぞ。今だったら──」
僕だって『男』だから、まったくエロ本に興味がないかと言われたら、『ノー』と答えるだろう。だけど──
やっぱり香奈姉ちゃんに見つかってしまったのが、ヤバかったんだと思う。
ほとぼりが冷めるまではやめておこうかとさえ思ってしまう僕がいる。
「やっぱり香奈姉ちゃんに見つからないようにするのは、無理だと思うから……。今回は、遠慮しておくよ」
「西田先輩か……。あの人って、やっぱりそういうのは嫌いだったりするんだな」
「うん。香奈姉ちゃんだからね」
「まぁ、見るからに真面目そうだしな」
言い方がマイルドだが、はっきり言えば『お堅い』ってことだろう。
でもエロ本が好きな女の子は、そうそういないんじゃ……。
アニメや漫画の世界ならいるかもしれないが、リアルではさすがに──
「まぁね。香奈姉ちゃんは、バンドのリーダーやってるけど、実直で真面目だからね。そういうのはやっぱり──」
「周防に女装させたりするのに真面目かぁ。もしかして、お前ってそういうのが好きだったりするのか?」
「そんなわけないだろ。さすがに女装はどうかとは思っているよ……」
「そうだよなぁ……」
慎吾は、当然の反応を見せる。
いつもの対応を見せたつもりだったんだが、慎吾の目には、そうは見えなかったらしい。
どうでもいい事だけど。
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