第二十二話・7

 最近、香奈姉ちゃんからのアプローチが強い気がする。

 それというのも、何かを期待しているかのような表情で僕のことを見てくるのだ。

 ひょっとして、特別扱いしてるのかな。

 だとしたら、あまり良くないかも。

 僕も、香奈姉ちゃんのことを『お姉ちゃん』として見ているが、深く意識しすぎるといつもどおりに見れなくなっちゃうから、敢えてそんな風に見ないでいるのだ。

 だからこそ、香奈姉ちゃんとのスキンシップは、ほどほどにしている。

 別に嫌いになったからというわけではない。

 三年生ということもあり、色々と気を遣うのだ。

 なんとなく、なのかもしれないが。


「ねぇ、弟くん」

「なに? 香奈姉ちゃん」

「最近、奈緒ちゃんと何かあった?」

「え……。急にどうしたの?」


 僕は、香奈姉ちゃんの質問に一瞬ドキリとなってしまう。

 もしかして、奈緒さんが香奈姉ちゃんに何か言ったのかな。


「どうしたっていう話じゃないんだけど。最近ね。奈緒ちゃんの見る目がおかしいっていうか。あきらかに弟くんしか見ていないような気がするんだ。なにか心当たりがあるんじゃないかと思って」

「心当たりっていうか、その……。スキンシップを求められてしまって……」


 僕は、端的にそう説明する。

 はっきりと言わない理由は、それなりにある。

 まさか『セックスをした』だなんていう直接的な説明をしたら、香奈姉ちゃんもそれをやってきそうな勢いになりかねないからだ。

 香奈姉ちゃんは、いかにも『そうきたか』という感じで僕を見る。


「スキンシップ、か。まぁ、奈緒ちゃんも色々と我慢してるだろうからね。そんなこともあるんじゃないかな」


 どうやら怒ってはいないみたいだ。

 でも、セックスというのは、軽々しくやっていいものじゃない気がするんだが。

 バレてないのなら、それはそれでいいか。


「そっか。それじゃ、あの時のアレは──」

「なに? アレって?」


 香奈姉ちゃんは、訝しげな表情でそう訊いてくる。

 ボソリと呟くように言ったつもりだったんだけど、香奈姉ちゃんに聞こえてしまったらしい。

 僕は、誤魔化すように言った。


「なんでもないよ。こっちの事……。香奈姉ちゃんが気にするような事じゃなくて……」

「なによ、それ。余計に気になるじゃない」

「いや……。だから、その……。やましい事は何もなくて……」

「だったら、はっきりと言いなさいよ。そのくらい、問題ないはずでしょ?」


 香奈姉ちゃんは、ずいっと寄ってくる。

 すごく顔が近いんだけど……。

 そんな綺麗な顔が近くにあると、逆に意識しちゃう。


「それは……」


 僕の方からは、これ以上何も言えなかった。

 どうしてかわからないけど、これ以上言ったら、香奈姉ちゃんを傷つけてしまうと思ったからだ。

 しかし、何も言わなかったら言わなかったで、不機嫌そうな表情になってしまう。

 一体、どうしたらいいんだろうか。


「弟くんは、ただでさえ女の子にモテるんだから、その辺りは気をつけてもらわないと──」

「気をつけてって言われても……。アレはさすがに回避しようが……」

「アレって? 何をやったのよ?」

「………」

「黙ってないで、正直に答えなさいよ」


 こうして迫られても、絶対に言えない。

 まさか奈緒さんに強引に迫られて、そのままエッチな行為をしただんて言えるはずがない。

 奈緒さんからの、エッチなアプローチはどうしようもなかったのだ。

 拒否権も逃げ場もなかったし……。


「や、やましい事は何もなかったよ。ゴムはしっかりとしてたから──」


 最後のセリフは、香奈姉ちゃんに聞こえないように言ったつもりだったんだが。


「ふ~ん。なるほどねぇ」


 香奈姉ちゃんは、いかにも不機嫌そうな表情で僕を睨んでくる。

 いくら聞き耳を立てていても、さっきのセリフは聞こえなかったはずだ。

 もしかして、聞こえちゃったのかな。いや、まさか……。

 自分の部屋だというのに、ずいぶんと居心地が悪くなってしまったぞ。


「どうしたの、香奈姉ちゃん? そんな顔をするなんて、めずらしいね」

「別に~。まさか奈緒ちゃんとそんなことまでしてたなんて思わなくてね。やっぱり、私よりも良かったのかなって──」

「そんなことは……。香奈姉ちゃんの方がその……」

「なにかな? 私の方が上手だったりした?」


 香奈姉ちゃんは、意味ありげな笑みを見せてそう訊いてくる。

 お願いだから、その顔はやめてほしい。


「いや……。上手というか、その……。僕には、なんて言ったらいいのか……」

「そっか。弟くんには、わからないんだね。だったら、今日は私と一緒に寝ようか。そうしたら、少しはわかるんじゃないかな」

「さすがにそれは……」

「断る理由なんて、ないと思うんだけどな……」


 そんな不満げな表情で言われても……。

 それって、確実に何かしようとしてるでしょ。

 いくらエッチなことをした仲でも、さすがにそれは……。

 ただでさえ香奈姉ちゃんは、自分の気持ちに正直なタイプだから、こんな風にグイグイこられたら、さすがの僕もたじろいでしまう。

 本人に自覚はないんだろうけど。

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