第二十一話・4

 高校三年生になってからというもの、楓とのスキンシップがめっきり減った気がする。

 楓は、相変わらず積極性がないし。

 私を押し倒すくらいのことはやっても別に怒らないんだけどな。

 こんな時は、黙って楓の部屋にいれば、寂しい気持ちもどこかに吹き飛ぶというものだ。


「ふぅ。いいお風呂だった」


 私は、楓のベッドに横たわり、そう言っていた。

 いつもどおり楓と一緒にお風呂に入った後、私はまっすぐに楓の部屋へとやってきたわけだけど。楓はキッチンの方に向かい、料理をし始めたのだ。

 そういえば、帰ってきてから何も食べてなかったからね。

 何かしら作っているのかもしれない。

 ちなみに、私も何も食べていない。

 そんな事を思ってしばらく待っていたら、楓が部屋に戻ってくる。作った料理を持ってきて──


「お待たせ。夕飯を作って持ってきたけど……。香奈姉ちゃんは、夕飯は食べた?」


 楓は、私にそんな事を訊いてくる。

 その時には、私はベッドから起き上がり、床に座っていた。

 いつまでも楓のベッドで寝そべっていたい気持ちがあるが、なんだか楓に申し訳ないと思ったのだ。

 先程も言ったとおり、もちろん夕飯は食べていないから、私は素直に答える。


「ううん。これからかな」

「それなら、ちょうどよかった。香奈姉ちゃんも一緒に食べよう」


 楓は、笑顔でそう言ってくる。

 私の分も考えてなのか、楓が作って持ってきた料理は、少し多めだった。

 おにぎり4個と唐揚げだけだったが、唐揚げの量がハンパない。

 唐揚げに関しては山盛りにしてあるくらい、多く作ったみたいだ。


「唐揚げ、たくさん作ったね」

「うん。朝に漬け込んでいた肉がたくさんあって」

「そうなんだ」


 私は、微笑を浮かべて楓のことを見る。

 基本、楓は料理を作る時、家族の分も作るから、みんなが食べられるように多く漬け込んでいたんだろう。

 できるなら、私にも漬けダレの作り方を教えてほしいくらいだ。

 私の唐揚げは、楓みたいに美味しくはできない。


「それじゃ、遠慮なく。いただきます」


 私は、さっそくおにぎりを一口頬張る。

 楓の手作りのおにぎりは、どのおにぎりよりも美味しい。

 やっぱり楓の想いが詰まったおにぎりだから、余計に美味しく感じるのかもしれない。

 楓も、私と同じタイミングでおにぎりを食べ始める。


「ねぇ、弟くん」

「ん? どうしたの?」

「食べ終わって一息吐いたらさ。私と『いい事』しない?」

「『いい事』って?」

「いつものスキンシップだよ。…いいでしょ?」

「それは……」

「嫌なの?」

「嫌ではないけど……。香奈姉ちゃんは大丈夫なの?」

「私なら大丈夫だよ。むしろ我慢してたくらいなんだから、このくらいの事は…ね。許してほしいな」


 私は、そう言って身体をもじもじとさせて、楓のことを誘ってみる。

 そんなことくらいで乗ってこないことはわかっている。

 お風呂でも何もしてこなかったくらいだから、意志はかなり固いものと思う。

 だけど私にとっては、もう我慢ができない。


「別にいいけど……。激しくしないなら」

「うん。もちろん!」


 楓からそう言ってもらえると、嬉しいかも。

 食べ終わってしばらくしたら、あんなことやこんなことをたくさんしてもらおう。

 私は、お皿に山盛りにされた唐揚げを一つ食べた。

 一口で食べるのは無理なので、二口にわけて食べたのだが。やっぱり美味しい。

 私が作ってもこの味にはならないのが残念なくらいだ。


「楓が作った唐揚げ、ホントに美味しい。なんかコツでもあるの?」

「いや。特にはないよ。普通に作っているだけだよ」

「そうなの? 私はてっきり隠し味とかしてるのかなって……」

「隠し味か……」


 楓は、呟くようにそう言って思案げに唐揚げを見つめる。

 なにやら、考えている様子。

 そんな様子を見ていたら、私には楓以外ありえないなとさえ思えてしまう。


「その顔は、『無し』っていう感じかな。ごめんね。楓が作る料理が美味しくてつい聞きたくなっちゃって──」

「そっか。僕は、個人的には香奈姉ちゃんが作る料理が一番好きなんだけど」

「え……。それって、どういう──」


 私は、楓のことをまじまじと見てしまう。

 告白なら何度もされてきてるのに、いざ目の前で言われてしまうとどうしてもドキドキしちゃって、うまく言葉が出てこない。

 当の本人も、恥ずかしいのか赤面している。

 そして、誤魔化すように言った。


「な、なんでもないよ。こっちの事──。はやく食べてしまおう」

「う、うん。そうね」


 私も無理矢理に笑顔を浮かべて、二つ目の唐揚げに箸を伸ばした。

 楓の言いたいことは、大体はわかってる。

 こういうのは、楓が言いたい時に言わせてあげるのが一番だ。

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