第二十一話・2
「どこに行ってたの? お姉ちゃん」
家に帰ってくるなり、花音はすごく不機嫌そうな表情で私のことを見てきた。
これはあきらかに怒っている。
何に対してなのかはわからないけど。
私は、らしくないなと思いながら微苦笑して答える。
「うん。ちょっと学校帰りにね。奈緒ちゃんたちと遊びにね」
「それって、楓も一緒だったんだよね?」
「え……」
「隠さなくてもいいよ。わかってるから──」
わかっているなら、何で訊いてきたんだろう。
もしかして、花音も一緒に遊びに行きたかったとか?
だけど──
「そういう花音は、何をしていたの? その格好を見る限りだと──」
「えっと……。これはその…なんとなく……」
花音は、恥ずかしそうに顔を赤くして体を縮こませていた。
よく見れば、花音も私と同じ女子校の制服を着ている。
新しいもののせいか、ブレザーも短めのスカートも、今の花音の身体には少し大きめな感じだ。
見れば見るほどダボダボしている。
ちなみに、まだ下着の方はお子様なんだろうな。
それでも、同世代の男の子を惚れさせるには充分だろう。
花音は何も言わなかったけど、高校は私と同じ女子校にしていたみたいだ。
てっきり共学の高校にしたものかと思っていたんだけど。
花音なりに勉強は頑張っていたみたいだからな。
きっと私と楓をびっくりさせたかったんだろう。
今度からは、花音とも一緒に帰るようにしないとダメなのかな。
「花音のことだから、どうせ楓に見てほしかったんでしょ? 違う?」
「それは…あるかも……」
「やっぱりね」
「私も高校生になったんだし。ダメかな? 楓にアプローチするのって?」
花音は、もじもじとした態度でそう言ってきた。
花音はおそらく楓に好意を持っていたんだけど、あの時は中学生という事もあって感情を素直に出せなかったんだろう。
だけど、こういうのははっきりと言っておかないとあきらめてくれない。
「ダメに決まっているでしょ。ただでさえ、ライバルが多いのに……」
「ライバルって?」
花音は、思案げな表情を浮かべる。
わからないのかな。
大体の見当はついているかと思うんだけど……。
「花音は気にしなくていいよ。大体、楓のどこを好きになったのよ?」
「楓はその……。私のことも、しっかり見ていてくれるし……」
「それはね。楓は優しいから──。隆一さんは、どうなの? 花音のことを見てくれてるんじゃないの?」
「隆兄は、私のことなんて全然見てくれなくて……。最近、お姉ちゃんのことばっかり聞いてくるんだよね」
「そうなんだ」
私は、相槌をうつ。
正直、隆一さんが私のことをどんな風に思っているかなんて、興味がない。
彼は、私のことを『可愛い妹』のようにしか見ていないのだから。
それなら、一人の女の子として見てくれる楓のことを大切にしたい。
「全然興味なさそうだね。お姉ちゃん」
「そう? そんなことはないと思うけど」
「ホントに興味ないでしょ。あるんだったら、どんなことか聞いてくるもん」
「それは……」
たしかに興味はない。
楓のことなら、話は別だけど。
「お姉ちゃんって、その辺りは態度に出ちゃうからすぐにわかっちゃうよ」
「そういう花音は、どうなのよ? もしかして、隆一さんに変なこと言ってないわよね?」
「言わないよ。隆兄も、色々と大変みたいだし──」
「そっか。色々…ね」
なんとなくわかってしまうのは、私も同じだからかな。
「興味ある?」
「別にないわよ。私だって、色々と大変なんだから」
「あっそ」
花音は、私に興味をなくしたのかスカートのポケットの中からスマホを取り出して、なにやら操作をし始める。
私は、肩をすくめた後、二階へと上がっていく。
制服のままというのは疲れる。とりあえず、普段着に着替えてから、のんびりしよう。
のんびりといったって、ほとんどはバンドの歌詞作りと受験勉強なんだけど。
ちなみにバイトは、三年生になったタイミングで辞めた。
今年は、大学の受験の年でもあるから。
楓はやめてないみたいだけど、大丈夫なのかな?
私たちとのスケジュールには、合わせられるのかな?
ちなみに私たちの進路は、みんな楓と一緒の大学に行くために共学の大学に行くつもりだ。
楓にはまだ言ってないけど、近々言うつもりである。
「今日は、楓はバイトか……。仕方ないから、夜まで待つか」
部屋に戻った私は、呟くようにそう言っていた。
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