第二十話・7

 バレンタインデー当日というのは、男の子たちの行動原理すらも狂わせてしまうらしい。

 普段は横柄な態度を取っている男の子たちが、今日に限っては柄にもなくしおらしい。

 一応、平静を装ってはいるみたいだが、こちらのご機嫌を伺うような感じで女の子に接しているからすぐにわかる。


「なんだか男の子って、わかりやすいな。なんて言えばいいのか……」


 あたしは、ため息を吐きながらそう言っていた。

 あまりにもあからさまな男の子の態度に呆れてしまう。

 ひょっとして、彼も同じなんだろうか。

 いや。彼に限ってそんなことはないだろう。

 あたしは、いつもと同じように男子校の校門前で彼を待っていた。

 いつもよりも可愛く見えるように、少しだけメイクをしてみた。これだけでもいいのだが、あえて制服のスカートの丈を少しだけ上げてギャルっぽくもしてみる。

 あんまりお洒落とかには興味がないのだが、彼のためにも頑張ってみようと思ったのだ。

 香奈が見たら、絶対に揶揄ってきそうだな。

 ちなみに香奈は今ごろ、生徒会の仕事を手伝わされているはずだし。

 今の時間にやってくることはない…はずだ。


「香奈はいないことだし。渡すなら、今がチャンスだよね」


 あたしは、丁寧に包装したチョコレートを手に持って、内心ドキドキしながら彼のことを待つ。

 香奈がいたら、きっと渡すタイミングを逃してしまいそうだから。

 チョコレートなんかあたしの柄じゃないはずなのに、バレンタインデーというのはそんなあたしを乙女チックにしてしまう。

 こんなの、普段のあたしじゃ絶対にありえない。

 そんなことを考えているうちに、彼がやってくる。

 まさか校門前に立っているのが香奈じゃなくて、あたしだというのは、彼でも思わないだろうな。


「やぁ、楓君」

「奈緒さん。今日は、一人ですか?」

「うん。まぁね。今日は、どうしても渡したいものがあるから、一人で来ちゃったんだ」

「渡したいもの? なんですか?」


 彼は、首を傾げてそう訊いてくる。

 鞄を肩に担いでいるということは、彼も学校帰りなんだな。

 わかっている癖にと思いながらも、あたしは微笑を浮かべて言う。


「それは……。ここだとちょっと渡しにくいから、あたしの家でいいかな?」

「奈緒さんの家で…ですか?」

「うん。あたしの家。…ダメかな?」


 ここでそう言えば、いかに彼といえども断らないだろう。

 本当は、ここで渡すつもりだったんだけど。

 やっぱり人がいる前で渡すのは恥ずかしすぎる。


「別にいいですよ。奈緒さんの頼みなら、断る理由もないから」


 彼は、そう言って笑顔を浮かべていた。

 気のせいか、あたしに気を遣っているような感じに見えるのは一体……。

 でも、嬉しいことに変わりはない。

 やった!

 あたしの家に誘うことができた。

 理恵や美沙には悪いけど、今日という日を逃すわけにはいかないのだ。

 今日はライブもあるので、直接渡す暇なんてないだろうし。


「それじゃ、さっそくだけど行こうか?」

「え、あ……」


 あたしは、彼の返事を待つ前に彼の手を握って先に歩き出した。

 嬉しさのあまり、駆け足になってるかもしれないが。


 あたしの家に着いた途端、彼は緊張した表情であたしのことを見てくる。

 あたしの家に来たのは、今回が初めてだったっけ?

 どちらにしても、渡したいものについては、あたしの家に置いてあるため、ここに来てもらわないとどうにもならない。

 不思議に思ったあたしは、首を傾げて訊いていた。


「どうしたの? 入らないの?」

「あ、ごめん……。ちょっとボーっとしてた。お邪魔します」

「もしかして、香奈以外の女の子の家に入るのは初めてだったりする?」


 玄関先で立ち止まってる彼に、こんな事を訊くのは不躾だとは思ったけど、つい口から出てしまった。

 彼は、気恥ずかしいのか頬をぽりぽりと掻きながら言う。


「うん。あまり…ね。女の子から誘われることもないから……」

「そっか」


 あたしは、相槌をうつ。

 それは嘘だろう。

 彼なら、結構女の子にモテたりするだろうに。

 現に彼と同学年の女の子にアプローチされてたりするし。

 ちなみに名前は忘れたが。

 あたしって、あんまり人の名前を覚えていられないから、その辺りは結構ドライだったりする。

 彼をあたしの部屋まで案内した後に、あたしは彼に言っていた。


「ところで楓君」

「ん?」

「楓君は、チョコレートの好みとかってある?」

「チョコレートの好みですか? 特にはないけど……」

「そっか。特にない…か。それなら、大丈夫かな」

「大丈夫って何が──」


 彼は、最後まで言いきることができなかった。

 なぜなら彼が何かを言う前に、あたしは彼の目の前に立ち、そのままキスをしていたからだ。

 ずっとしてみたかった彼とのキス。

 あたしは、そのままの状態でベッドの上に押し倒す。

 もちろん、あたしが騎乗位の状態だ。


「っ……⁉︎」


 彼はどんな表情をしてるんだろう。

 きっと驚いているんだろうな。

 あたしは目を瞑っているから、彼がどんな表情をしているのかわからない。

 どちらにしても、チョコレートを渡す前に、まずこれをやりたかったのは確かだから良しとする。

 できれば彼の両手を握りたかったけど、彼が嫌がるかと思ってやらなかった。


「あの……。奈緒さん。これは……」


 キスを終えた後、彼は呆然とした表情であたしのことを見てくる。

 あたしの行動に、わけがわからないといった感じだ。

 ここまでやっても、まだわからないなんて……。鈍感にもほどがある。


「わからない? あたしの気持ちだよ」

「気持ちって……。奈緒さんの渡したいものって、これのことなの?」

「まぁ、そうだね。これの他には、あたしとのスキンシップってのもあるよ」


 あたしは、そう言って彼にも見えるようにスカートの裾を少しだけたくし上げた。

 これならどうだろうか。

 勝負下着ではないけど、比較的可愛いものを穿いてるし。

 彼は、あたしの下半身の方に視線を向けた直後、赤面して硬直した。

 どうやら、あたしの下着を『見た』みたいだ。


「どう? あたしの下着…可愛いでしょ?」

「いや、その……」


 彼は、すぐさま視線を逸らす。

 あたしは、そんな彼の態度にムッとしてしまい口を開いた。


「目を逸らさないで。しっかりと見てよ。お楽しみは、これからなんだから」

「お楽しみって……」

「バレンタインデーの日に渡す定番のアレのことだよ。楓君なら、わかるでしょ」

「そのことなんだけど……。僕からも、渡したいものがあって……」

「渡したいもの? それって、何なの?」


 いくらあたしとのスキンシップを断りたいからって……。

 彼にもあたしに渡したいものがあるとか、そんな嘘を……。理由としてはホントに見苦しい。

 あたしは、そんな本音を出さずにそう訊いていた。


「それは、その……。鞄の中に入っていて……」

「ふ~ん……。なるほどね」


 悪いけど、そんな言葉には乗ってあげないんだから。


「悪いけど。こっちも楓君と特別な行為をするのに必死なんだ。今の時間は、あたしに付き合ってもらうよ」

「いや、その……。ちょっと待って……」

「待たない。まずはあたしとエッチしよ。話はそれからだよ」


 あたしは騎乗位の状態のまま少しだけ腰を上げ、彼の目の前でそのまま下着を下げ始める。

 香奈だってやったんだ。あたしだって──。

 見せるのはちょっと恥ずかしいけど、彼に誠意を見せるためにはこのくらいの事はしなきゃ。

 しかし彼は、そこだけは見たくなかったのかあたしの手をそっと掴んで、それを止める。


「ダメだよ、奈緒さん。それをやったら、奈緒さんの大切な箇所を傷つけることになっちゃう。僕は、奈緒さんとだけは仲の良い友人でいたいんだ」

「でも……。あたしは──」


 やっぱり香奈だけなのかな。

 あたしじゃ、ダメなのかな。

 そんなことができるのは、彼にとって特別な人じゃないといけないのか──。

 彼は、優しく笑みを浮かべて言った。


「奈緒さんの気持ちはわかるけど……。それをやったら、たぶん香奈姉ちゃんが怒ると思うんだ。だから──」

「あたしの気持ちがわかるのなら、このくらいの事は許してよ。どうしてもダメなの?」


 あたしは、哀しげな表情で彼を見る。

 あたしだって、ちゃんとした恋がしたい。

 バレンタインデーのチョコレートだって、本命のをきちんと渡したい。

 楓君は、それすらも許さないのかな。


「チョコレートを渡すくらいならまだわかるんだけど、さすがにこれは……。僕が抱いている奈緒さんのイメージが──」

「あたしのイメージ? それって、例えばどんな感じなの?」

「いや……。それは……。改めて訊かれると説明しにくいかも……」

「なによ、それ。よけいに気になるじゃない!」

「えっと……。奈緒さんが、気にすることではなくて──。あくまでも、みんなが抱いていることだから……」

「それなら、今ここで言いなさい! さもないと、無理矢理にでも──」


 あたしは、そう言って彼の制服をゆっくりと脱がしていく。

 もちろん下の方だ。


「ちょっ……。やめ……」


 言うまでもなく彼は、抵抗をし始める。

 あたしのイメージがどんなものなのか気になるっていうのもあるけど、それよりも彼とスキンシップを図りたいのが本音だ。

 なぜだか、あたしの秘部も疼いているし。

 彼も最初は抵抗していたが、あたしが本気だということがわかると、諦めたみたいだ。

 その隙を逃さず、あたしは構わず彼の下着(トランクスって言うんだろうか?)を脱がす。

 途端、彼の立派な男根が露わになった。

 あたしは、まじまじと彼の男根を見やる。

 勃起していないためか、そんなに大きくはない。


「あら。意外と──」


 あたしは、わざとらしく驚いたような表情をして手を口元に添える。

 これくらいの大きさなら、あたしの秘部にも無理なく挿入できそうだ。


「………」


 彼は、何か言いたげな表情であたしを見てくる。

 そんな目で見られても、あたしの意志は変わらない。

 香奈には悪いけど、あたしも楓君との繋がりが欲しいから。

 途端、あたしの秘部が少しだけ反応する。

 どうやら、下着が濡れてしまったらしい。

 あたしは、下着の濡れ具合が気持ち悪くなり思わず下着を脱ぐ。


「もういいよね? チョコレートは、あたしとのエッチの後でも渡せるから」

「奈緒さん……」


 彼は、あたしの秘部に夢中になったのか、男根がぐんぐん大きくなっていった。

 要するに勃起したのだ。

 ちょっと待って。

 こんなに大きいだなんて聞いてない。

 ホントにこれがあたしの中に挿入るのか⁉︎

 そんな事を考えると、途端に怖くなってしまった。

 でも楓君ともっと仲良くなるためだ。

 今更、後には引けない。

 あたしの心は、冷めるよりもむしろ熱くなっていく。

 あたしは、ゆっくりと勃起した彼の男根に秘部を押し当てようとゆっくりと近づけた。しかし──


「やっぱり、ダメ!」


 彼は、あたしの秘部に手を添えて男根が挿入らないようにガードしていた。

 きっと香奈のことを思い出したんだろう。

 いくら拒否しても、男の煩悩はそうはいかないんだけどな。

 その証拠に、彼の男根は相変わらず勃起したままだし。


「どうしたの? あたしとのエッチはできないのかな?」


 あたしは、優しく笑みを浮かべてそう訊いていた。

 彼の反応を見る限りでは、心の底から『嫌』っていうわけでもなさそうだけど。

 ひょっとしてゴムを着けてないから、どうしてもできないのかな。


「それは……」


 彼は、あたしの秘部からゆっくりと手を離す。

 触られた反動なのか、あたしの秘部はさらに濡れてしまい、疼いていた。

 彼の手も、あたしの愛液でじっとりと濡れている。

 ここまで疼かれたら、何がなんでもエッチをしないと収まらない。

 あたしは、スカートのポケットの中からゴムを取り出す。


「ゴムならちゃんとあるからさ。安心していいんだよ。何を気にする必要があるの?」

「僕は、たしかに奈緒さんのことは好きだけど……。エッチがしたいほど『好き』かと言われたら……」


 彼は、あたしの騎乗位の状態から抜け出したいのか、無理矢理起き上がろうとする。

 あたしはといえば、彼の男根を手で触れて、先端の方を優しく撫でていた。

 こうすれば抜け出したくても、抜け出せないはずだ。


「っ……⁉︎」


 彼は、声を出すのを我慢しているみたいだった。

 ゴムを着けさせるなら、今しかない。

 あたしは、さっそく彼の男根にゴムを装着してあげる。

 ゴム有りのセックスなら、何も問題はないはずだ。


「抵抗したってダメだよ。今日は、あたしとエッチをした記念日にするんだから──。それとも。楓君は、あたしのようなお姉さんは苦手なのかな?」

「そんなことはないけど……。だけど……」

「だったら、いいよね?」

「奈緒さん……。やめてください」


 楓君は、自分の男根があたしの秘部に挿入っていく時までそう言っていた。

 ──そう。

 あたしが、そのまま楓君の勃起した男根の上に秘部をあてがわせ、中に挿れたのだ。

 そこから先は──。

 気持ち良すぎて、あまり覚えていない。

 挿入った瞬間に、体全身に電気が走ったような感覚は、よく覚えている。

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