第十七話・13
曲を弾き終えた後、奈緒ちゃんはいかにも満足そうな笑みを浮かべていた。
楓が作曲したベースソロの曲に、ギターの音が入れたのが嬉しかったみたいだ。
「なんか手探りで曲を弾くのって、新鮮な感じがする。久しぶりに楽しめたよ」
「そっか。奈緒さんが楽しめたのなら、よかったよ」
楓は、微笑を浮かべてそう言った。
その微笑は、どこか無理をしてるような感じもするんだけど、私の気のせいかな。
なんかこう、ホントは見せたくなかったし、弾きたくなんてなかったかのような、そんな感じ。
奈緒ちゃんは、楓のそんな表情に気づいてないのか、音楽のノートの別のページを開いて、言う。
「今度は、これを弾いてみたいな。…いいかな?」
「別に構わないよ。…ただ、時間は大丈夫なの? もう夕方だけど……」
楓は、窓から外を見てそう言っていた。
たしかにもう夕方だが、すぐにでも陽が沈んで夜になりそうな感じだ。
これ以上は、泊まりがけになってしまいそう。
「そのくらいなら平気だよ。夜道は慣れてるし。それに、あたしはこの曲をどうしても弾いてみたいんだ」
奈緒ちゃんの熱意は、たしかなものだった。
時間なんて、まるで気にしない。
自分の音楽への執着が深い女の子が、奈緒ちゃんだ。
だけど、今の季節ならすぐに真っ暗になるだろう。
楓は、微笑を浮かべて肩をすくめる。
「そこまで言うのなら仕方ない。やってみるかい?」
「うん! ありがとう、楓君」
奈緒ちゃんは、嬉しそうな表情でお礼を言った。
そこまでして強請るとは思わなかったもので、私はつい口を開く。
「せっかくだから、今日は泊まっていったらいいんじゃないかな」
「いいの? でも香奈の家は、妹さんがいるから泊めるのは難しいって言ってたような気が──」
「大丈夫だよ。泊まっていくのは、私の家じゃなくて、楓の家だから」
「「え……」」
私の言葉に、二人は固まってしまう。
そして──
「いやいや。香奈姉ちゃん。奈緒さんを泊めるのは、さすがに……。兄貴だっているんだし」
「そうだよ。さすがにお泊まりなんて、楓君に申し訳ないって──。迷惑をかけないか心配になってくるよ」
やはりというべきか、二人とも慌てた様子でそう言っていた。
なんだか、見ていて私の方も楽しくなってきちゃう。
「大丈夫だよ。私も、楓の家に泊まっていくから」
「そうなの?」
楓は、思案げな表情でそう聞いてきた。
その表情からは、嬉しそうな感じではない。
どちらかといえば、ホッとしたような感じだ。
まぁ、私がいきなり決めたことだから、内心ではビックリしてるのが本音だろうけど。
「当たり前じゃない。奈緒ちゃんと楓を二人っきりにしたら、間違いが起きちゃうかもしれないでしょ。念のために、私が奈緒ちゃんの傍にいて、よく見張ってあげないと──」
「はは……。あたしって、そこまで信用ないんだ……」
奈緒ちゃんは、微苦笑してそう言っていた。
別に信用してないわけじゃないんだけど。
楓と二人っきりにしたら、奈緒ちゃんが楓にスキンシップを図りそうで恐いのだ。
「楓は、放っといたって何もしないからね。この場合は、奈緒ちゃんのことを見張っておかないといけないかな」
「たしかに僕は、何もしないと思うけど……。母さんが、許可してくれるかなぁ……」
「その辺りは、大丈夫だよ。もう連絡しておいたから」
そう言って、私は楓にスマホの画面を見せる。
スマホの画面には、楓のお母さんとのメールのやりとりが載っているはずだ。
あらかじめ、私が泊まる旨の許可を貰いたくて送ったものだが、これが役に立つとは思わなかった。
楓のお母さんは、話せばわかる人だから、一人くらい増えたって平気なのだ。
花音が泊まっていくときも、普通に受け入れてもらえたし。
楓は、驚いた様子で私に訊いてくる。
「本当だ。…いつメールを送ったの?」
「楓たちが、曲を弾き始めた時かな。なんとなく、そうなるんじゃないかなって思って──」
「香奈……。いくらなんでも、これは……」
奈緒ちゃんも、さすがに楓の家に泊まっていくとは考えていなかったのか、何か言いたげな表情だ。
何を言いたいのかは、すぐにわかるが、敢えては聞かないことにする。
「そういうことだから…ね。今日は、楓の家に泊まっていこうよ」
「う、うん……。楓君がいいのなら……」
奈緒ちゃんは、遠慮がちにそう言う。
遠慮がちに言ってるが、こういう時ほど、奈緒ちゃんは嫌がらないはずだ。
私は、すかさず楓の顔を見て訊いてみる。
「いいよね? 楓」
「あの……。えっと……」
「楓が嫌がったって、これは決定事項なんだからね。ちゃんと奈緒ちゃんをおもてなししなさいよ」
「あ、はい」
楓は、素直にそう返事をした。
単純な話、私に逆らうことができなかっただけなのかもしれないが。
ちなみに、奈緒ちゃんを泊める部屋も楓の部屋だということを言っておいた方がいいのかな。
──いや。
さすがにわかっているか。
「そういうことだから、奈緒ちゃん。さっそく制服を脱いでおこうか」
私は、そう言って手をわざと怪しげに動かして、奈緒ちゃんに迫っていく。
「え……。冗談…だよね?」
奈緒ちゃんは、ひきつった笑みを浮かべて後退りする。
私は冗談なんか言わない。
「冗談なんかじゃないよ。私は、いつだって本気だよ」
「え、いや……。楓君もいるし。そんな──」
こんなこともあろうかと思って、私のルームウェアを用意してある。
楓が見ているところで悪いけど、奈緒ちゃんの服を脱がす気はマンマンだ。
「大丈夫だよ。楓は、見ないふりをしてくれるから──」
「いや、でも……」
「問答無用!」
私は、思い切って奈緒ちゃんに襲いかかり、まず先に制服のスカートを掴んだ。
「いや……。ちょっと……」
奈緒ちゃんは、当然のように抵抗しようとしたが、スカートが翻ってしまい水色の下着が丸見えになっている。
「いいではないか、いいではないか。何を隠そうとしているのか」
私は、そのままスカートを脱がそうと端を掴み、一気にスカートを引き下ろした。
まさか下着まで掴んでいたとは思わずに…だ。
途端、奈緒ちゃんの大事な箇所が露わになった。
綺麗な秘部まで丸見えである。
誰ともセックスなんてしてないから、言うまでもなくまだ処女だ。
まさか、私が先に拝むことになるなんて……。
「あっ……」
「あうっ……⁉︎」
途端、奈緒ちゃんの顔が羞恥に真っ赤になる。
「⁉︎」
楓の方も、思わず顔を赤面させて速攻で私たちから視線を逸らす。
あ……。楓ったら。逃げたな。
奈緒ちゃんは、悲鳴をあげようと口を開く。
──うん。
これは、事故だ。
しかし、奈緒ちゃんから悲鳴があがることはなく、むしろ恥ずかしそうにこちらを見つめてくる。
「香奈のエッチ……」
「あ、いや……。ごめん……。すぐに元に戻すね」
私は、元に戻そうとゆっくりと下着だけを穿かせていく。
しかし──
水色の下着は私が脱がした勢いでゴムがすっかり伸びきってしまい、そこに収まることはなかった。
私は、奈緒ちゃんの顔を見て、気まずそうな表情を浮かべる。
「あ……」
「あたしのパンツ……。お気に入りなのに……」
「ホントごめん……。今度、可愛い下着をプレゼントするから……」
「わざとじゃないんだし、別にいいよ。それに今日は、せっかく楓君の部屋に泊まるんだし、ノーパンで過ごそうかな」
奈緒ちゃんは、私が脱がしたスカートを元に戻してそう言っていた。
私は、すぐにルームウェアを奈緒ちゃんに渡す。
「それだけは、絶対にダメだよ。それに、制服のままだと過ごしにくいだろうから、これを着るといいよ」
「ダメって言われたって……。替えの下着は持ってきては──」
「下着ならあるよ」
そう言ったのは、楓だった。
「え……」
私は、思わず声を漏らす。
女の子の下着があるの?
そんなもの、楓の部屋の中のどこに?
私は、ついそんなことを考えていたけど、楓のその手には小さなピンクの布があった。
間違いなく、それは下着だ。
だけど、どこから出したんだろう?
「それは……」
奈緒ちゃんは、その下着に見覚えがあったのか、それを見て躊躇している。
私は、なるほどと言った風に口を開く。
「そっか。奈緒ちゃんの下着か。そういえば、楓に渡したんだったね」
「う、うん……。あたしからの好意の証として…のものだけど」
「替えの下着がないんだったら、これを身に付ければいいんじゃないかな」
楓は、笑顔でそう言っていた。
これって、女子校のジンクスに反する行為になると思うんだけど、どうなんだろう。
私と奈緒ちゃんは、思わず顔を見合わせていた。
そして、奈緒ちゃんは楓の方を見て微妙な笑顔を浮かべる。
「あ、うん。…ありがとう、楓君」
「どういたしまして」
楓は、笑顔で奈緒ちゃんに下着を渡した。
私の方はというと、楓の部屋を見回している。
奈緒ちゃんやバンドメンバーたちの下着は、どこにあるのか気になったのだ。
この部屋にあることには間違いないんだけど……。
楓の口からは、絶対に言わないだろうし。
どうしたものかな。
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