第十三話 ごっこ遊び

「さて、久々に集まって貰ったわけだけど」

 国尽対の部屋の中、東条が静かに口を開く。


「御厨さんのことは残念だった。けれど、僕たちには市民を尽影から守るという義務がある。だから、立ち止まるわけにはいかない」


 尽影から守ったとしても、市民が感謝してくれるわけではない。ただ、報酬のため。それしかない。


「チームとしては、今まで通り廣田くんにリーダーを担当してもらう」

「ありがとうございます。御厨さんの犠牲を無駄にしないよう、これからも一層頑張っていきたいと思います」


 東条の言葉に、廣田は恭しく頭を下げた。普段の廣田とは全く違ったその様子は、なんていうか、胡散臭い。


「さて、これからの活動だけど……、とりあえずは、単体行動のものばかりを狙っていきたいと思う。チームの再建もしなきゃだからね」


「……え、そうなんですか」

 俺は思わず、そう漏らしてしまう。


「というと?」

「……いや、御厨さんの敵討ちに出るのかな、と」

 俺がそう言うと、東条は首を横に振った。


「ただでさえチームがガタついている状況だからね。それはできない」

「…………けど」


「山瀬君、君の気持ちはわかる。ここに来たときは冷めてた君が、こうやって熱い思いを抱いてくれるのは嬉しい。けれど、今大事なのは組織だ。このチームだ。……御厨さんはよく廣田くんを守ってくれた」

 俺は黙って東条の弁を聞いていたが、最後の一言で思わず首を傾げてしまった。


 いや、そりゃあ御厨が廣田を守ったのは確かだが、なんていうか、それで『よくやった』っていうのは、誰かが死ぬことが決定している状況を前提としていないか?


 そもそも、誰一人死なないようにできたのではないか?


 それに。


 取りようによっては、『廣田じゃなくて御厨が死んでくれてよかった』とも取れないか?


 そう俺が思っていると、仲田が口を開く。


「それは同意。廣田がやられたら、このチームは崩れちまう。だから、御厨はよくやってくれた。正直、廣田がやられた場合のことを考えたらぞっとする」

 いや、それは、その言い方は。


「……」

 氷川も黙っているが、静かに首肯していた。


「……すまないみんな。俺は……仲間をみすみす死なせてしまった。けど、その犠牲は絶対無駄にはしない。だから、みんな俺についてきてくれ!」

 廣田がそう力強く言い切り、氷川と仲田は首肯する。


 俺はその輪の外で、自身の世界が歪んでいるような、そんな気がした。


 仲間? なんだ、その薄っぺらい言葉は。


 御厨の死は、お前らの友情ごっこのためだったのか?


 あ、無理だ。

 ただ、それだけが、脳裏に浮かぶ。

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