第七話 再戦 1
深夜、俺は国尽対のメンバーと共に、例のバンに乗り込んでいた。
バンは静かに夜を切り裂き、目的地へと向かう。
「さて、この前逃した尽影だが」
移動中、廣田がブリーフィングを行う。
「街頭の監視カメラ等々の調査によると、○○公園の中にいるのが濃厚とのことだ」
「で、作戦は?」
氷川が問うと、廣田は大仰に頷いた。
「とりあえず、囮を一人立てようと思う。……山瀬くん」
廣田が無駄に元気よく俺を指さす。
「……俺ですか?」
「ああ、君が適任だ。というか、君しかいない」
「……それは、何故?」
疑問に思って問うと、仲田が横から話に入ってくる。
「簡単だ。尽影は逃した獲物に執着する。それは座学でやったろう?」
「……あー、はい。やりました」
正しくは、やったような気はします、であるが。いちいち覚えていないのだ。
もっとも、自分の命が懸かっている事柄なのに、そのような軽い扱いをしている方もどうなのだ、という話である。
「と、いうわけさ。山瀬くんを囮にしつつ、理子と御厨ちゃんは後方で様子を見ててくれ。無論、何かあれば戦闘に参加。その際、周囲に注意を払って、増援の有無には気をつけること。で、俺と仲田は、いざという時に加勢出来るよう、すぐ近くで潜伏しておく」
俺を除く全員が、廣田の言葉に首肯する。
「……で、俺はどうすればいいんです?」
「簡単なことだ。歩いていればいい」
「……散歩ですか。まるで老人ですね」
と言ったが、俺自身、夜の散歩は好きだ。
「そうだな。ま、命がけの散歩だけど」
廣田はそう言って笑った。俺は苦笑を浮かべることしかできない。
「まあ、尽影が出たら、そのときは君の右手で殴り飛ばせばいいさ」
俺の肩を、廣田がばんばんと平手で叩いてくる。軽い痛みがじわりと広がった。
○
俺たちが到着したのは、市の東側にある大きな公園である。ライブをやるような競技場もあり、休日は人で賑わっている。
とはいえ、今は深夜。誰もおらず、ひっそりと静まりかえっている。
「……誰も、いない?」
深夜とは言え、歩行者が一人もいないのは、少し妙に思えた。
「ああ、それなら、人払いをしてるから」
氷川が黒い革ジャケットを着込みながら、そう答える。
今の氷川は、上下ともに黒い革で出来た衣服を着込んでいる。まるで、映画で出てくる女スパイだ。きっと、それが仕事着なのだろう。
仲田と御厨は、国尽対から支給されたジャージを着ている。灰色の生地に、でかでかと『国家尽影対策室』とバックプリントが描かれたものだ。
廣田はというと、まるで普段着のようなラフな格好だった。下はジーンズ、上は白いノースリーブシャツと、革のジャケット。
そして俺はというと。
「いや山瀬くん」
廣田が苦笑する。
「なんでしょうか」
「さすがにそれ、学校の制服はマズいのでは?」
「とはいえ、これしかなかったので」
学校制定の白シャツに、黒いスラックスという格好だった。国尽対のジャージが間に合わなかったこともあるが、仮に間に合ったとしても着るかどうかは怪しい。
「……ま、いいか」
廣田は小さく笑い、その後、俺の背中を叩く。
「さて、そろそろ作戦開始だ。……頼んだぞ、山瀬くん」
廣田がにっこりと笑って、サムズアップをする。なんていうか、いちいち動作が演技くさいんだよな、この人。
まあ、とりあえず。俺も親指を立てる。
「ええ、死なない程度に頑張ります」
そう返し、バンを出る。
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