第五話 国家尽影対策室 前半

 廣田ら四名と共に、黒いバンに乗り込む。


 バンは黒服を着た屈強な男が二人乗っており、なんていうか、このまま港にでも連れて行かれたら恐怖しかないな、と思う俺であった。


 しばらく走り、バンの速度が落ちる。おそらく、目的地に到着したのだろう。

 俺は窓の外を見る。


「…………わーお」

 その建物は、見たことのあるものだった。

 馴染みがあり、それでいて、あまり行きたくないような建物。


 警察署、だった。

 俺が住んでいる街は府庁所在地であり、この建物はこの府における警察の大本山みたいなところだ。


 バンは地下の駐車場に入り、そこで止まる。


「……ほんとにここで合ってるんですか?」

 不安になり尋ねる俺。器物損壊や銃刀法違反でこのまましょっぴかれたりしたらどうしようか、と思った。


「ああ、ここで合ってるさ。……中々こんなところに来ることもないだろう?」

 廣田がそう言い、御厨が続く。


「初めてだとびっくりするよね。私も最初来たときは怖かったなぁ」

「あーそうそう。御厨ちゃん怯えてたもんね」

「いや、あれは初めて尽影と戦ったから、ってのもあるんですけど……でも、今からどうなるの? って不安はありました」


 廣田と御厨が楽しげに談笑している。俺はそんな二人の会話を聞きつつ、周囲を観察する。……なんていうか、高級車多いな。


 駐車場を抜け、エレベーターに。廣田は地下三階のボタンを押した。


「……地下、ですか」

「小さな部署だから、端に追いやられてるの」

 エレベーターの壁にもたれ掛かる氷川が、短くそう言った。


「……な、なるほど」

 エレベーターを出て、廊下を歩く。時刻も合わさってのことだろうが、地下三階はほとんど人の気配がなく、不気味だ。


 やがて、廊下の突き当たりにあるドアの前で俺たちは止まる。

 そのドアの上には、『国家尽影対策室関西本部』とプレートが貼ってあった。


「……関西、本部?」

「ああ、そうなんだよ。今のところ尽影はこの国の各所で見られてるんだけど、関西がダントツで出現数が多いらしい。関東の方が自殺者多いのに、不思議だよな?」

 仲田が笑いながらそう言う。俺は「ですね」と笑顔を繕って返した。


「ま、ようこそ。俺たちの拠点に」

 廣田がそう言って、ドアを開き、中に入る。俺も続いた。


 部屋の中には、机と椅子が四セットずつ配置されていた。端には、休憩所らしきスペースがあり、上に雑誌が放置されたソファーがある。


「やあ、おかえり。……おや、その少年は?」

 部屋の奥に立っていた一人の男性が、廣田に問う。


 その中年男性は眼鏡を着用しており、ぱっと見、人が良さそうだった。


「ああ、この子、山瀬向陽くんっていうんだけど、“操者そうしゃ”だ」

「へえ、偶然拾えたわけだ。それは運がいいね」

 ……そうしゃ? なんだそれ。


「初めまして、山瀬君。僕が国家尽影対策室、関西支部室長の東条だ」

「……初めまして」


 東条と名乗った男は笑みを浮かべ、握手を求めてくる。俺はそれに返すも、心のどこかでなんとも言えない異物感を覚えていた。


「君も操者なんだね。驚いた」

「操者、ってなんですか?」

「ああ、操者っていうのは、廣田くんたちのような、尽影と対峙できる異能力を操る者たちのことさ。異能力操作者、略して操者」

「……はあ」


 わかりやすいような、それでいてどこかぼやけているような説明である。


「色々と、疑問や質問があるんですけど」

 俺がそう言うと、東条は笑みを浮かべながら返す。


「大丈夫。今から教えるさ」


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