第229話 吃緊

被弾した彩羽の動作が止まり、口内に移動した目玉が浮き出てきた。



その赤く染まる奇っ怪な目が向けられた先には走行射撃で向かって来るエレナがいた。



彩羽「プチプチ痛い もぉ~~」



とんだ邪魔者に苛立ちの声をあげ、村田を捕縛しながら蜘蛛のような細長い脚を動かして正面づけた。



彩羽「おじゃま虫ね あのお姉ちゃんから食べちゃうかぁ~」



するとコブ状の塊からうじゃうじゃと数本の触手が突出



エレナはそれを視認するなり機敏な身のこなしで直進から横移動、発砲しつつスピーディーな回り込みに転じた。



パスパスパスパスパスパスパス



そんなエレナ目掛け、触手が放たれた。



彩羽「それぇ~~」



一瞬 カール状に内巻きにされた触手が一斉発射



鞭のようにしならせ、触手の攻撃がエレナを襲った。



エレナは足を止め、即座に複数の触手へと銃口を合わせた。



そしてクイックファイヤー(急射)で狙い撃ち



パスパスパスパスパスパス



素早い動きの標的をものともせず、恐るべし命中率で的当てするのだが…



捉え切れぬ数



カーブを描き両側面から飛来する触手の打鞭に気付いたエレナが…



瞬発的に自ら倒れ、自ら転がり込んだ。



両脇からの挟撃な鞭は空振られ



エレナはそのままモディファイドプローン(伏射)な状態からある箇所に狙いを定めた。



そして



単発発射させた。



パス



その1秒後



彩羽「キャアアァ~ 目がぁぁ~」



彩羽の叫び声があがり



花びらのように開いた醜悪な顔がいびつな形で閉ざされた。



彩羽「ぅぅう ふぇぇぇ~~ん 痛ぃ~~」



幼き少女の歔欷(きょき)の声がスピーカーの様に響き渡り



捕縛され、身動き取れぬ村田の真横では原形に戻れず、グニャグニャに乱れた顔



今まで散々銃撃を受けるもまるで効果のなかった彩羽に…



初めてダメージを負った様子が見られた。



彩羽「うううぅぅ 目がぁあぁあぁ~ いたいよぉ~ ママ~」



負傷する彩羽が暴れ、村田を捕まえる触の手が次第に弱まっていく



エレナ「村田さん 今よ」



その掛け声で村田が脱出をこころみた



触手を力づくでこじ開け、ほどきにかかる



そして自力で抜け出し、着地と同時にエレナの元まで駆け出した。



後ろを振り向く事なく…



膝射で身構えるエレナまでひたすらダッシュする村田が目の前まで近づいた時だ



村田の足が寸前で止められ



エレナの目に…



また御見内の目に映った光景…



2人は言葉を失った。



村田「ぐっ… ぐふ…」



村田の両足が浮きあがり



腹部から槍のごとき鋭い触手が突き出していた



吐血する村田が持ち上げられ



御見内「あ…」



エレナの目の前で串刺しにされた村田の身体が引き戻されていった。



彩羽「もぉ~ 餌が逃げちゃ駄目じゃない 」



形の定まらぬ彩羽の顔が再びパカッと花開かれると



村田がそのまま持っていかれ、丸呑みにされた。



エレナ「村田さぁぁぁぁん」



叫んだエレナの目の前で頭から飲み込まれ、バタつかせる脚



そしてその足も彩羽の胃袋へと吸い込まれていった。



彩羽「ゲフゥ」



不快なゲップ音が鳴り、村田を丸々呑み込んだコブははちきれんばかりに膨らんでいた。



村田さんが… 食べられた…



エレナはその光景に愕然とし、銃口をおとした。



また美菜萌のサポートにまわる御見内も決定的捕食シーンが瞼に焼き付けられ、凍りつかせた。



そんな2人の前で…



彩羽「んぐ? ん!? うん?」



彩羽がもごもごするや触手の排出管から何やら吐き出されてきた。



それは陸自用の黒いブーツ



明らかに村田の物と思われる靴だ



続けて迷彩の上着からズボン、下着と順々に着衣などが排出され



食べ物と分別されただろう衣服の数々が吐き捨てられ、それを目にしたエレナは肩を落とし、膝を落とした。



次いで体液まみれな89式用バヨネット(銃剣)ナイフ、サブマシンガンなども吐き捨てられてきた時だ



茫然とする御見内の目にあるものが止まった。



あれは… 



ハッとさせた御見内



もしや…



御見内「美菜萌さん ここにいて」



美菜萌「うぐぅ… は はぃ…」



それから御見内はすかさず動き、うなだれたエレナの背後からそっと腕を回し耳打ちした。



御見内「エレナ 村田さんはまだ生きてる」



その言葉にエレナが顔をあげた



エレナ「え?」



御見内「あの化け物のデケェ瘤を見ろ」



エレナがコブへ視線を向けると…



体表がうごめいていた。



エレナ「あれって…」



内部で村田が暴れている…



つまり…



御見内「あぁ そのまさかだ まだ希望はある」



まだ村田さんが奴の胃の中で生きている…



そんな微かな生存の可能性見いだしたエレナの目から活力が戻った。



御見内「時間との勝負だぞ  消化される前に助けだす」



エレナ「でもどうやって?」



御見内「見ろ あいつ 満腹感に浸って動きが鈍った 今なら隙だらけだ 奴のあのコブに貼りつける」



エレナ「どうする気?」



御見内「そりゃきまってんだろ 村田さんをあのコブから引きずり出すんだよ」



エレナ「引きずり出すって 接近なんて無謀よ 奴には銃弾だって効かないんだよ… それに道だってすぐに捕まっちゃう」



御見内「無理かどうかはやってみなきゃ分からん」



エレナ「何をする気なの?」



御見内「まぁ ちっと見てろ とにかく助けるぞ それで俺が貼りつく間 エレナには…」



エレナ「触手の迎撃でしょ 言われなくたってわかってるわよ まかせて」



御見内「頼む おまえのその腕に俺の命も託すからな」



御見内がエレナから離れ突撃の構えをとった。



エレナ「えぇ 未来の旦那様に死なれちゃ困りますから…」



エレナのひょんな発言に



今何て言った…?



そんな顔で振り返るや



エレナ「ゴー」



エレナが鋭い目つきで小銃を構え、口調の強まる掛け声を発した。



そしてそれを受けた御見内は果敢にも彩羽へと突っ込んだ



緊急かつ決死の救出作戦に挑む2人



コブの腹に飲み込まれた村田を救い出せ

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