第228話 真向

真っ二つにされた木刀、その無残にも噛み砕かれた木刀を手に美菜萌は絶句した。



また恐怖をそそる冷酷な目に見つめられ、全身に悪寒が走った美菜萌は怖じけづいた。



そんな美菜萌に注視したまま、熊が腕を振りかぶる



攻撃する気だ…



御見内は素早くサクラを構え、トリガーを引いたのだが…



ガチガチ



弾切れ



クソ… こんな時に…



慌てて弾交換する御見内の目の前で



熊は動物らしからぬ動作、まるで人が繰り出すパンチのようにストレートな突っ張りを放とうとしていた。



御見内「美菜萌さん」



御見内の掛け声でハッとさせた美菜萌は反射的にブロックの構えをとった。



折られた木刀でX字の防御姿勢



防御なんかじゃ だめだ… よけなきゃ…



御見内「美…」



御見内が再び叫ぼうとした寸間



猛獣の平手がそのまま打ち込まれた。



いっけん正拳突きを思わせる掌低の如き直線的打撃



強力な平手打ちが繰り出され、美菜萌はそれをまともに受けた。



バコン



当然木刀などではカバーしきれず、胸を強打され



美菜萌の目は見開き、足を浮き上がらせた



そして身体ごと吹き飛ばされた。



御見内の視界を頭程まで跳ね上がり、3メートル近くは飛んだ



ワイヤーでも使用してるかのように人の身体が宙を浮き、横切っていったのだ



そして腰から強打し、美菜萌がうずくまった。



真っ向勝負など愚か…



人を簡単にふっ飛ばす熊のパワーを前に生身の人間など無力に等しいと見せつける光景



美菜萌「ぅ… ぅぅ…」



身をうずめたまま起き上がらない美菜萌に追い討ちで迫った熊が牙を剥き、喉笛に食らいつこうとした時



熊の口に金属バットが突っ込まれた…



バチバチパチ



口内でスパークされ、大熊が仰け反って後退させる



「グフゥ フン」



純や「…」



立ち塞ぐ純や、そして銃口を向けた御見内も隣りにならび行く手を阻んでいた。



熊を睨みつけ両手でしっかり構えた拳銃で狙う御見内の肩がポンと叩かれた。



純や「ハサウェイさんは… お姉さんを」



御見内「……」



うずくまり、震える美菜萌を目にした御見内が銃器を下げ、純やは金属バットを差し向け、熊を睨みつけた。



迅速に身が引かれ、倒れた美菜萌の様子をうかがう御見内



「グゥ グホッ フゴォオ~」



威嚇ともとれる鼻声をあげる熊に



純や「あぁ? まさか俺じゃ不服  それとも狙った獲物の邪魔に入ったのが気に入らんのか」



面と向かう純やに熊が四足で身構え出す



純や「カモーン 熊吉」



睨みつける熊は威嚇の声を止め、前傾で攻撃姿勢に入るや、飛びかかってきた。



だが…



すぐに突撃を止め、足を止めた熊



バチバチ



スパークするバットに警戒したのか? 突っ込んでこない



ほぉ~ 学習したか… やっぱ賢いな…



でも… ちゅーことは… 



こいつもこれにビビってる何よりの証拠だよね…



いつでも飛びかかれる態勢で隙を伺いゆっくり時計回りに動き出す熊に金属バットを向けるその背後では…



うずくまったままの美菜萌の身体がそっと仰向けにされた。



御見内の眼下に大きく見開かれた美菜萌の瞳



御見内「美菜萌さん…」



息継ぎも辛そうに口をパクパクしていた。



美菜萌「はぅ はぁ ぁ 」



呼吸する度苦しそうに漏れる発声、身悶え明らかに呼吸困難な状態だ



マズいな… この症状…



胸骨、肋骨が折れてなければいいんだが…



服を脱がせて触診する訳にもいかず、確認のしようがない美菜萌の首をそっと起こしながらエレナを目にした御見内



とにかく ここはヤバい… 



そして そっとお姫さま抱っこで抱えあげ叫んだ



御見内「エレナぁ~ 来てくれぇ」



大声で叫ばれ、端へと寄せられた。



銃撃真っ最中なエレナが空のマガジンを投げ捨てながらその声に振り向き、御見内等をチラ見した。



パスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパス



化け物に変態した彩羽を撃ちまくる2人…



前進しようとする彩羽だが撃たれる度反応し、気色悪い足が一歩二歩と後退



化け物の進行を阻んでいた。



しかし…



撃たれるも銃創はことごとく塞がれ



撃たれても撃たれてもまるでスポンジのように吸収、1本の触手の口からまるごと吐き出されていく弾丸の山



その光景に焦り顔で村田が言葉を漏らした



村田「おい どうなってやがんだ…これ」



幾ら撃ち込んでも、驚異的な回復力で傷口が癒え、ただ足止めしてるに過ぎない状況に弾のみが無情にも失われているのだ



そんな中



エレナ「村田さん とにかく撃ってて」



射撃を止めたエレナに



村田「おい 何処行く」



エレナ「ちょっと美菜萌さんがヤバいのよ」



村田も撃ち続けながらそれを目にした。



村田「うっ あぁ 行け でも 1人じゃ弾がもたないぞ すぐに戻れよ」



エレナは頷き



急遽迎撃を中断、美菜萌の元へと駆け寄った。



目視の先で徘徊する大熊



放電しまくりなスタンバットを熊が動く度、正面づける



さっきまで憤慨していたのが嘘のように冷静に見える熊の行動



だが 目的は何一つ変わっていない…



電流が流れるバットに警戒してるだけで…



獰猛なハンターの目はしっかりと純や、その背後にいる美菜萌や御見内、はたまた変態した彩羽をしっかり見定めていた。



端へと滑り込だエレナ



美菜萌「ぅ… うぅ」



エレナ「容態は?」



御見内「もしかしたら肋骨が折れてるかもしれない あいつの攻撃をモロに食らっちまって 見てくれ」



エレナが美菜萌の上着を脱がしはじめ、キャミソールの上から胸へと触れた。



美菜萌「ぅぐ…」



軽く押しただけなのに過敏なまでに歪められた表情



何度か押され、押されるたびに美菜萌の顔は苦しさを浮かべた。



エレナ「この反応… ちょっと折れてるかもね もしくわヒビがはいってるのかも」



御見内「やはりそうか 猛獣の張り手をまともに受けたんだ 骨の1本や2本で済んでればまだ幸運 内臓破裂してたっておかしくない」



エレナ「…」



するとエレナがいきなりキャミをめくりあげ、胸をさらけだした。



御見内「お おい」



すかさず目を逸らす御見内へ



エレナ「こんな緊急時に何恥ずかしがってんのよ」



左の胸が真っ赤に腫れ上がっていた。



エレナ「マズいね めっちゃ腫れてる」



キャミを戻し上着を着せながら



エレナ「道 美菜萌さんはリタイアよ とても戦える状態じゃない」



御見内「分かってる」



エレナ「こんな修羅場には置いとけないし とりあえず安全な外に運びましょ」



御見内「あぁ それなら俺にまかせろ」



御見内が美菜萌を抱き上げようと腕を伸ばすや、手首が掴まれた。



美菜萌「ぅう わ わたしなら… 平気です」



表情を歪め、意識もうつろなままの美菜萌が頭をあげた。



エレナ「平気な訳ないよ」



美菜萌「大丈夫です… から ぅぅ 少し休めば」



エレナ「駄目よ 折れてる」



美菜萌「うぐ… ホン ト 平気ですから 私にかまわず…」



エレナ「駄目駄目 無理よ 何も出来ない怪我人がここにいられちゃ逆に迷惑 道 さっさと連れ出して」



御見内「う… うん あ あぁ」



御見内が拒む美菜萌を強引に抱き上げようとした時



村田「うわあぁあ~」



突如村田の悲鳴があがり、エレナ、御見内共に振り返った。



彩羽「さっきからプチプチ痛いよ も~ あったまきた」



そこには連射する銃器に絡みつく触手



その触手が村田の腕に伸ばされ、手首に巻きつくや



村田の身体が引っ張られる。



村田「ヤロー ぐぅおおお」



身体をもってかれまいと必死に踏ん張る村田だが、あっさり競り負け



引き寄せられていた。



御見内「ヤバいぞ エレナ! 助けに」



村田「うぐっ クソ」



そして村田の身体が化け物へと密着



ヌメっとした気持ち悪い体表に頬を押しつけ、触手がグルグルと身体に巻きつかれた。



また彩羽の目や耳から生えた無数の触手が頭部を触り



村田「ぐぅ」



青ざめるその真横から覗き込まれた。



村田「あっ…」



肌は灰色に変色し、白目は充血し真っ赤に染まっている



そんな不気味な目に見つめられ、彩羽が口を開くと舌のような触手が伸びてきて村田の頬が一舐めされた。



たちまち背筋に悪寒が走り、息を呑んだ村田



彩羽「さあ~ 捕まえちゃったんだぞ~ おじさんから食べてやるぅ~」



彩羽の顔面に無数の線が生じ顔が割れはじめた。



それは花びらのようにパカッと…



村田「あ…ぁ」



そんな4つに開いたおぞましき口



その口内には数え切れぬ程牙が生え揃い



また口内奥にはワーム状の口らしきものが見られ、その口から言葉が発せられてきた。



彩羽「いっただっきまぁ~~す」



村田「ひっ ひぃ」



食われようとする村田が村田らしからぬ小さな悲鳴を漏らした。



そして村田にかぶりつこうとした



その時



パス パスパスパスパスパス



変形した彩羽の側頭部に銃弾がめりこみ



発砲しながら果敢にも突っ込んで来るエレナの姿があった。

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