第225話 居合
小虎「気持ちわりぃー化け物だな なんじゃあのランナー」
塚崎「触手タイプだな」
間口「でも頭パカァ タイプじゃないって事は変種Bかな」
羽鳥「さっき佐田さんが話してた人工的な変身ってやつじゃ これの事すか?」
佐田「分からない… でももしかしたらそうかも」
羽鳥「ならまがいものだ 分類は亜種だろ」
宴「亜種って何?」
月島を見ながらざわつく刀刃隊の連中に
薊「亜種だのどうでもよい 少し私語を慎め この緊迫な現場を前におまえ等には緊張感というのが無いのか」
薊に叱られ静かになる
月島が海原、七海を捕縛しながら身体を向け対面させた。
月島「刀にサムライ姿… おまえ等」
糀「喋った ちゅー事は…」
松本「シッ 静かにしろ またじいさんに怒られっぞ」
薊「こちらも野暮用で急を要する そこの2方の身柄を速やかに解放せよ」
月島がサブマシンガンを刀刃隊へ向けると何人かが刀を握り締めた。
月島「刀刃隊 あの生意気な女の属する連中どもか」
薊「その娘こそ我らの長よ 次いでに居所を吐いて頂こう」
月島「あ~ あのガキンチョならその先の部屋にいる」
薊「皆の衆 しかと聞いたな」
羽鳥「えぇ」 名倉「しっかりと」
月島「場所は教えてやったが ここを通すとは言ってねぇ」
サブマシンガンを向けたままニヤつかせる
藪谷「あざみさん ここは俺が」
間口「じいちゃん 順番的に次は俺にやらせてくれ」
薊「駄目だ 今回は私がやる」
間口「チェ ケチ」
薊が刀を掴みながら前に出た。
月島「老いぼれ1人で相手だと 全身の骨をへし折って溶かしてやるわ」
薊「老いぼれ? まだ50半ばのピチピチつかまえて老いぼれとは失礼な化け物め」
薊がそのまま鞘から真剣を抜いた。
薊「そこいらの常人と侮るなかれ… 私がこれを抜くからには…」
シャキン
刃を光らせた薊の愛刀
薊「死んだと思え」
薊vs月島の死合い開始
薊が抜刀の構えでゆっくりと摺り足で前進した。
月島「もうろくしてんのか 単なるバカなのか この銃器が見えてねぇのか? ちょっとチャンバラが得意か知らねぇが 銃に勝てるとでも」
徐々に接近する薊に舐めきった顔で銃口を定めた月島
薊「…」
薊が刀を抜き、前に出た途端あれだけ騒いでいた刀刃の連中が口を閉ざし、騒ぎを止めた。
馬鹿はおまえだ…
本物の居合の凄さ…
達人の本当の居合術の凄さってやつを…
知らない…
しかも鞘から刃を抜いたって事は…
マジでやる気だ…
どんなに恐ろしい姿の化け物だろうと…
あいつは終わりだ…
同じ居合いを極めし男 藪谷が胸の内でつぶやき…
皆 一戦の行く末を大人しく見守っていた。
薊が足を止め、片膝を着けてしゃがみ込んだ
切っ先を地に着け、柄頭(けつ)を月島に向けた構え
そして俯かせ、目を閉ざした。
距離はわずか1.5メートル
突如座り、黙りこくり、身を伏せた薊に海原と七海が視線を向け、月島も虚を突かれた表情を浮かべた
何してやがるこのジジイ…
まぁいい とにかく死ねや…
そしてサブマシンガンの引き金をひく瞬間
薊の眉がピクリと動き
シュパ
既に初撃の一振りが繰り出され、手首に一線が刻まれていた。
薊は再び同じ構え、同じ姿勢でしゃがみ込んだ
ポロリと切り取られた手首が落ちゆく間に…
月島「あぁ??」
座業からあまりに早すぎる斬撃に七海、海原はおろか月島でさえ目で追えず、丸切りにされ、落ちた手首を見下ろした。
その瞬間芸を目にした小虎が藪谷へと近づき耳元で口にする
小虎「改めて すげぇ… やっぱ迎撃の振りは藪さんより上かな」
藪谷「居合いマスターレベルの抜き打ちスピードは0.2秒から0.3秒」
小虎「0.? チョッぱや そりゃあ目で追える訳ねぇわな」
藪谷「薊さんは更に早いんだよ」
小虎「何秒なん?」
藪谷「さぁな ストップウォッチ持ったところで人間が反応出来ないから計測不能 少なからず刀刃隊の中では初撃スピードNo.1な人だわ」
丸切りされた腕から新鮮な血が飛び散る中
ボコボコ断面が隆起し細かな触手群が飛び出し、出血が止められた。
そして落ちたSMGへ伸ばされた瞬間
シュパ
横一線に斬光が走り、触手群がバッサリと断ち切られた。
まただ… このジジイ…
目を閉じたまま刀を振るう薊を目にした月島
俯き、目を閉ざしているにも関わらず、動作を見せた瞬時に反応を示した…
どうなってやがるこのジジイ…
刀がSMGを握ったままの手首に突き刺され、後方にスローされた。
床を滑らせ、刀刃隊の手前にサブマシンガン付きの手首が転がる
そして薊は再び同じ構え、同じ姿勢へと戻った。
小虎「視覚なんかいらねぇってか… 相変わらずなリアル座頭○っぷり だ 末恐ろしい…」
藪谷「あぁ 居合いとは絶対的カウンタースキルでなくてはならない 殺る前に殺る剣術だからな っとなれば肉眼では到底間に合わない 居合いには頂門に一隻眼を具す… なんて言葉がある 頭にもう一つの眼を持つということ つまりは心眼を持ち 心眼で見ると言う事だ」
小虎「心眼って それ仙人レベルじゃん」
藪谷「心眼とは肉眼では通用しない世界を見る目 剣術でこうした眼を考えるなら、相手の動きを眼で追い対処するということではなく、相手の呼吸を見て 気を見て 脳を経由することなく体がそれに対応してゆくと言う事だ 衣服の掠れる微かな音 吐かれた吐息 動く寸前の気配や空気の流動 それら総体的な変化を感じ取り 察知し 予測する 相手よりも早く動いて迎撃の一手を打ち込む これこそが居合いの真髄」
小虎「剣闘に目はいらないってか…益々おっかない」
藪谷「それとよく見えるものが1つある」
小虎「よく見える?」
藪谷「あぁ それが殺気だよ」
小虎「…」
藪谷「薊さんには手に取るようにはっきりと見えてるだろう… あんな分かりやすい殺気を撒き散らしてるんだからな」
2人共薊の後ろ姿を目にし、月島に視線を移した。
月島「クソジジイがぁぁ~ 痛ぇ~だろがぁ」
月島が薊に腕を向け、触手の束を発射させようとするや
スパッ バシュ シュパ
敵の攻撃に反応し発動された迎撃
間合いに踏み入れた薊から既に刃が繰り出されていた。
初発刀(しょはっとう)…
二の腕をぶった斬り、連撃で胸部に横一線の2打を加えた。
霞(かすみ)…
次いで左腕をとって返し、のけぞる月島の真横に移動、振り上げた上段から斬下された。
バシュ
イソギンチャク化した腕がキレイに真っ二つにされ、海原、七海の捕縛が緩められる。
薊「誰でもいい そこの二方を防護しろ」
藪谷「かしこまり」 小虎「あ! へい」
すぐさま藪谷、小虎の2名が動き、周り込もうとする途中
月島「テメェー等 勝手に通ろうとしてんじゃねぇ」
切られたイソギンチャクの断面が変形、穴のようなものが開きだし、それを2人へと向けはじめた。
月島「ドロドロにし…」
次の瞬間
肩から当て身で懐に入り込んだ薊
月島の耳元でソッと呟いた。
薊「何 よそ見なんかしておる 今 死合いの相手は私ぞ」
密着からの離れぎわ
一回転しつつ しゃがみ込み
下腿へと刃を振り抜いた。
シュパ
膝下数センチの位置に斬光を走らせ
薊が刀を鞘に仕舞いながら数歩バック後退
再びしゃがみ込むや
月島「あ…?」
月島の両脚がゆっくりとズレはじめ…
今度は両脚をぶった斬られ、月島の上体が地を舐めていた。
その間2人の元へと駆け寄り、海原の首を絞める触手を解く小虎
藪谷が七海の全身に纏わりつく触手をひっ剥がしていく
藪谷「もう大丈夫 心配ない」
七海「あ ありがと…」
海原「ガハッ ゲホ あんたら…」
藪谷「刀刃隊だ お頭(かしら)は無事か?」
七海「お頭ってもしかしてチコの事?」
藪谷「そうだ 俺達はお頭探しでやってきた 無事なのか?」
海原「ゲホォ ケホ ついさっきまではな… お探しの隊長さんならそこの扉の先にいる 今 どうなってるのかは俺達にも分からない」
海原が指さす扉を藪谷、小虎が目にする
終始落ち着き、座り込む薊の目前には両腕、両脚を断ち切られた月島が地面に這いつくばってた。
月島「いってぇ~じゃねえか このヤロー テメェー等1人残らずここで消滅させてやるからな」
薊「ほ~ その状態で気張るか 私1人にここまで手こずってる輩(やから)風情が選りすぐられた豪傑なもののふ達相手にどう立ち回る気だ? おまえには もはや万に一つの勝機も残されておらん」
月島「ケッ ゲヘヘ 勝機がないだと? 笑わせやがって それは通常の対人戦の話しだろ」
薊「…」
月島が顔をあげるや顔中にドス黒い血管が浮き出ていた。
月島「テメェーが相手してるのは超人だぜ」
薊「超人?」
月島「あぁ 高潔で洗練された姿 まぁ見てくれはお粗末だがあらゆる面で進化されパワーアップされた理想の姿」
薊「その毒された姿が高潔で…? 理想だと…?」
月島「超越した力を手に入れた代価だ やむをえん」
斬られた両手、両脚の断面が沸騰したお湯のようにボコボコと気泡を膨らませはじめた。
月島「だがなジジイ テメェーが相手にしてるのは明らかにワンランク上の存在だぜ 今から本領発揮ってやつを見せてやる」
塚崎「おいおい なんかヤバそうだぞ」
周りの連中も刀を掴み、抜ける姿勢がとられる
薊も刀を強く握り締め、黙視する目の前で月島が嘲笑を浮かべると
月島「ククク 遠慮はいらねぇー…」
激しく泡立つ4つの断面からそれぞれ複数の触手が飛び出し、4足体勢をとった月島
そして口を開き不気味な長い舌を出した。
月島「皆殺しだ」
タコのように触手の足を地面にうならせ四つん這う月島の身体に新たな変化が生じた。
今度は背中部が隆起しだしたのだ
月島「ハハハハ 今からタップリ味わせてやっから」
その変化に…
海原「まさか…」
月島「ハアァァァ~」
衣服が激しく浮き沈み、膨らみ出した。
名倉「なんかする気だぞ」
名倉が刀を抜く
そしてその衣服の中で暴れまくる隆起が突如突き破り出てきたのは…
ブシュー
巨大なイソギンチャク化の触手体
周次郎「うげぇ 何あれ キモ過ぎ」
宴「ウソ…」
間口「チッ みんな抜け 薊さんに加勢するぞ」
ジャキン
佐田「なんだあれ…」
唖然とする佐田
また目の前で生えてきたイソギンチャクの物体に戸惑いを見せる刀刃隊が次々に刀を抜いた。
海原「ヤバいぞ 強い酸を含んだバブルを吐く気だ」
七海「まじ? あれは駄目 ヤバい ヤバいよ あのバブルシャワーだけは…」
藪谷「強い酸…?」
小虎「いいからみんなでかかろう藪さんも抜いて」
小虎も刃物をぬき
海原「貸して」
海原が七海から銃器奪った。
俯く月島から下品な笑い声があがる
月島「ハハハハ 毛一本残さずみんなまとめて溶けちまえよ」
海原「やらせるかぁぁ~」
海原が必死な形相で銃器を構えた時
刀刃隊の全員が刃を構え、一斉に飛びかかろうとした時
月島が長い舌を垂らし、顔をあげたその時
ジャキ
鞘から抜かれた一閃の刃が繰り出されていた。
その刃は月島の喉元に深々と食い込まれ
誰よりも先にその刃を食い入れていたのは…
薊「何回言わせる気だ…」
薊…
林崎流居合い 先手必殺…
無逸 刃絡(むい はらく)…
薊の一振りが抜かれた。
ブシャャャー
シルエットに写る跳ねられた首
薊「よそ見するなと言うたばかりだ」
月島の首が瞬時に斬首され、転がった。
月島「あら…」
ボト コロコロ
海原「…」
海原の引き金に掛ける指が止まり
一同足を止めた。
薊が刀を納めながら口にする。
薊「超越… 理想… 進化… いくら飾り事を並べたてようとも首を切られてはどうにもなるまい」
首を刈り取られた四足の躯体は沈み
月島の斬り取られた首を見下ろした薊
薊「分不相応な未熟者の戯言ならあの世でせい」
月島「ハハ おまえ等健気にあのクソガキを探しにきたみたいだが 無事で済んでればいいがな」
薊「…」
月島「ゲハハ これで終わりだと思うなよ テメェー等の皆殺しフラグはまだ立ちっぱだぜ この先にいる法力僧に全員殺されちまえよ」
薊「首だけでペチャクチャと」
月島「ガッハハハハハ 死ね ザクトのカス共なんかみんな殺されちまえ 1人も生かしておかねぇから覚悟…」
ズボッ
脳天に刃が突き刺された。
薊「黙れ」
嘲笑のさなか刀を刺し込まれた月島の首は笑いを止め
中野の身体に乗り移った月島の声は止んだ
静かに刀をおさめた薊が先の扉へ目を向けた。
また海原、七海も視線を向け、一同も続いて視線を向けた。
長はこの扉の先にいる…
この扉の向こうでは一体何が…
いままで冷静な面持ちを保っていた薊の顔に緊張が浮かばれた。
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