第223話 反魂

眉間を貫かれ吹き出した血



反り返った頭



この俺が…



万頭が見開いた目で天井を見上げるや手から爆薬入りのペットボトルがコロコロと転がった。



よもやこんな所で…



急速に意識は失われ 急激に視界が失われ



くたばるとは…



万頭が前のめりに倒れ込んだ



目を見開いたまま



万頭は死体と化した。



包み込んでいた煙が晴れ、その先には膝射の構えで89式自動小銃を向けるエレナの姿が露わにされる



その後方にはキャミソール姿でしゃがみ込む美菜萌、それを覆い、ガードする御見内と純やの姿もあった。



晴れてきた視界、前方で倒れ込む万頭を目にした村田が口にした。



村田「殺ったのか?」



エレナ「えぇ 完璧にね」



御見内、純やが立ち上がり、純やの差し伸ばす手を借り美菜萌も立ちあがった。



エレナ「フゥー」



そしてエレナも一息つかせゆっくり立ち上がろとした時だ



そんな安堵もつかの間



エレナの視界に…



ザザザザ



突如巨大な体躯が滑り込んできた。



皆の眼前を、床を滑らせる巨体が映りこんできたのだ



吹き飛ばされた体躯がブレーキを掛け



エレナ、御見内、純や、美菜萌、村田の視界に現れたのはあの巨大熊



「グフゥー」



鼻息を荒げた怒り露わに血走るまなこがギロリとエレナに向けられ、目を合わせる



一気に緊張感が高まり村田が熊にサブマシンガンを向けた。



その時 ハッとさせたエレナ



この巨体を吹き飛ばす相手



「フフフフン」



笑い声にエレナが振り向いた。



御見内、純や、美菜萌、村田も一斉にその笑い声に視線を向けた。



幼き少女が笑い顔で近づいて来る



そう… 彩羽の姿だ



彩羽「フフハハァ~」



あどなけさも純粋さも可愛らしさもまるで欠く狂気に満ちた笑い声



そんな顔を浮かべる彩羽の口から



少女は不気味な笑みを浮かべながら口にした。



彩羽「パパとママを奪ったおまえ達はみ~んな許さないんだから」



「グルルルルル」



巨大熊が威嚇の声を発し



改めて対顔が果たされトライアングルな位置づけで配置された3つの巴



決着の時



ーーーーーーーーーーーーーーーー



創造結界内



江藤、チコvsスキャットマン



空中蛇行し2匹の大蛇が襲いかかってきた。



大きく開かれた口、2本の鋭い前牙を光らせ食いかかってくるや、チコは素早く移動、抜刀のフォームでサイドへと逃れた。



2匹の大蛇は地面に直撃する手前で柔軟にC字を描き切り返す



そしてチコに頭が向けられた。



蛇にはピット器官(熱感センサー)が備わっている



チコが生きてる限り、発する体温を感知し目標を見失う事は無い



軽快にバックステップで後退するチコに二股の舌をピロピロ出し入れしながら1匹は警戒



もう1匹はひとたび空中を小刻みな蛇行運転で襲いかかってきた。



すると



チコは目を光らせた。



2匹同時では分が悪いが…



1匹ならば…



そのチャンスに前に出たチコ



簡単に人を丸呑み出来る程の大きな口をあけ向かって来る大蛇に果敢にも突っ込んで行った。



そしてガブリと食らいつく寸前、チコは身を翻し、スルリと半転、かわし、蛇の横を軽やかに移動



そして鱗に刃を突き入れた。



ザク ブシャャャー



空中蛇行で直進運動する体表に横一線で刻まれていく切っ先



こいつの身体に我が刃は… 通る…



この一手で体表の硬さを確認



つまり… 



チコは口角を上げ、不適な笑みを浮かべた。



ぶった斬れる…



身体を切り裂かれながらも、大蛇が小回りなUターンを決めチコへ振り向いた時だ



疾風の心…



颶風(ぐふう)…



シュパ スパッ



幾線もの閃光を走らせ



風の如き、大蛇の正面に颯爽と現れ、かまいたちの如き切り裂き、過ぎゆく疾風斬で大蛇を攻撃



ビシュ ジュバー



ヤコブソン器官(嗅覚)搭載の舌が真っ二つに切られ、目と鼻の間にあるピット器官をも斬りつけられた。



また猫目のような縦長な瞳孔をも裂斬し、瞬時に感覚器官を潰していた。



10手…



そして空中で七転八倒する大蛇の側で新たに繰り出される剣技



虎三足開門の心…



遠い月の影縫い…



バシュ バシュ



鱗に三日月状のアウトラインが刻み込まれ



シュパ



スライスされた。



江藤「…」 スキャットマン「…」



江藤、スキャットマンが静観する前で…



体表が三日月状に深くえぐられ、カッティングされる。



圧倒的身体の大きさのハンデをものともせず手応えを感じたチコがひときわ身悶え、ジタバタする大蛇にフィニッシュをかける



11手…



死出(冥府の山)の使い…



死の鳥の異名を持つホトトギスが背景にイメージされ



拳取りの心…



死翼剣…



ブシューーー



力強い一突きが三日月の傷口にブチ込まれた。



すると



イメージ化のホトトギスの羽が広げられ



裂破された。



そして内から破裂され飛び散る血潮や肉片と共にボディーが一刀両断



斬り落とされた。



あんなぶっとい胴体を…



江藤「すげ…」



斬り倒されたヤマタノオロチの首



その落とされし首が落ちた途端、塵化し消滅していった。



チコがすかさず抜刀態勢に戻すと、もう一匹も襲いかかってきた。



巨躯な身体を這わせ襲い来る大蛇に



12手…



竜眉六尺開眼の心…



楽々人間など呑み込めるだろう大きく開かれた口でチコを丸ごと飲み込もうと襲い来る大蛇…



だが次の瞬間



食らいつくが獲物が突如いなくなった…



捕食に失敗し一瞬目標を見失った大蛇が頭部を上げ、探すと



透明な瞼の真上に座り込む少女の姿があった。



それは目の上に突き刺された日本刀、その柄に脚を組みながら座り込むチコが手櫛で髪をとかしていたのだ



チコ「あたし達哺乳類には潜在的にお蛇が怖いってプログラミングされてるらしいの 人間や霊長類の進化にはあなた達の存在が大きく関係してたんだって 確かに見た目はグロテスクだし、動きもめちゃめちゃキモい あたし 蛇って大っ嫌いなのよ」



よっこいしょと立ち上がり、柄に立ったチコが大蛇の細い瞳へと覗き込み



ボソッと口にした。



チコ「一朶(ひとえだ)に留まりし雲雀(ひばり)の毛繕い」



自ら飛び降り、柄を掴むや



ブシャヤー



テコの原理で頭頂から刃が飛び出し、串刺された小さき脳幹が飛び出されてきた。



次いで間髪入れずに唱えられた次の手



13手…



返討ちの心…



鬼哭(きこく)…



シュパ スパッ シュ



幾筋もの刃の閃光が大蛇の頭部に走り



大蛇の頭部にイメージされたのは八芒星(オクタグラム)の図形



それをなぞり、星型多角形状に斬撃が放たれた。



それから刃を一振り、突き刺さる脳みそと血を振り払うや真っ正面でゆっくりと鞘に刃を納めはじめた。



ゆるりと残心な納刀で鬼切羽が鞘に戻されると



大蛇の頭部に無数の亀裂が生じ、小間切れに分解された。



ブシャャー プシュュュー



たちまち砂のように滅びゆく魔獣を前に精悍な目つきで佇むチコがスキャットマンに視線を向け、叫んだ



チコ「さぁ そこのイケメンさん もし次があるならチャッチャと神話のモンスターを出しなよ もう無いのならさっさと下りてきて」



溶岩池上空であぐらを組んで浮遊するスキャットマンに煽りたてた。



すると



ドロン



上空のスキャットマンが煙に消え、煙と共に地に降り立った。



指を失った掌をチコへと示し



スキャットマン「治癒する時間も与えぬか… 2頭のみとはいえ 伝説の大魔獣様をもこうもあっさり葬られるとは… いやはや未熟な小娘…」



シュ



話しも聞かず速攻で懐に入り込んでいたチコが脇腹目掛け斬撃を繰り出していた。



ぬ…



スキャットマンはかろうじて反応し、その太刀筋を錫杖で受けた。



だが…



同時に



シュパ



逆方向からやってきた斬撃に喉頸をかっ切られていた。



14手…



幻楼…



頸動脈を裂かれ、ドバドバと血を吹きだすスキャットマン



スキャットマン「ゴフゥ」



馬鹿な…



そんな表情で首に手をあて、吹き出す血を塞ぐが溢れる出血は止まらない



血を吐き、うろたえ、たじろぐスキャットマンが数歩後退した。



当然この好機を逃すまいと…



15手…



突きの心…



雷鳥…



チコがノーフォームから素早く踏み込み、鬼切羽を突き出した。



ズボッ



そしてスキャットマンの心臓に刺突された。



深々と刃は食い込み、背中から切っ先を覗かせる。



スキャットマンは張り裂けんばかりに瞳孔を広げ、大量に吐血しながらチコと目を合わせた。



スキャットマン「おの… ブハッ」



チコが太刀を引き抜き



スキャットマンは目を見開かせ膝を落とした。



それから正座の状態で前に崩れゆき、倒れ込んだ



一瞬の出来事



また幻を斬ったか…



だが皮膚を斬った感触 肉を裂いた手応え



紛れなく我が刃で実体は捕らえた…



間違いない… こいつを今 完璧に斬った



チコ「…」



チコは屈み込みピクリとも動かぬスキャットマンから広がる血の池をジッと見下ろし、勝利を確実なものにした。



またそれを決定づけるかのように、張られていた結界が解けはじめた。



微かに波打ち、歪む空間が燃えた紙のように穴を開け消滅、その先に現実の世界が顔を出してきたのだ



江藤「チコちゃん」



血に染まる鬼切羽をマイハンカチでキレイに拭き取るチコに近づく江藤



江藤も解けゆく結界を見上げながら口にした。



江藤「例の結界が消えていく… 凄いぞチコちゃん やっつけたようだね」



チコ「えぇ しゃらくさい妖術が解除されたのが何よりの答えですね この悪いイケメン坊主の首 我が胡座がこの手できっちりと討ち取りました」



江藤「うん 見事な成敗だったよ っかし本当にこの法力僧を1人で殺っちゃうなんて さっすが胡座流だね」



チコ「結局こいつも最終まで辿り着く事は出来なかった… しかも半分で終わりなんて 威張ってたわりには口ほどにもない 胡座流をなめんじゃねぇ~ って事です」



江藤「ハハ 怖っ! こんな怖い女子高生どこにもいないわ まぁ とにもかくにも現実世界に戻ってこれた こいつも無事に倒せた事だし」



江藤がチコに向け親指をたてた。



江藤「グッジョブだチコちゃん お手柄だね」



拭き終えた合間の形見とも言える妖刀鬼切羽を鞘におさめ



ようやくチコらしい無邪気な笑顔が戻り、チコも親指を立て返した。



そして結界は完全消滅し施設内のひと部屋に戻ってきた2人



江藤がハッとさせた



江藤「海原さん達は…」



分断された扉へ江藤が振り向いた瞬間



チコ「江藤さん!」



江藤「!?」



動揺し戸惑うチコがいた



チコ「ねぇ 待って 合間の死体がないの…」



江藤「え!?」 



チコ「石田さんのも… あいつの死体だってない… みんな消えてる」



江藤「なに」



チコ「どうゆう事なの これ…」



次の瞬間



スキャットマン「ふっ ふくくくく」



鼻で笑うスキャットマンの声が室内に響き渡ってきた。



スキャットマン「くくく ふふふふふふ」



チコ「嘘でしょ…」



江藤「くっ」



海原達の安否が気掛かりだ…



だが… この声…



奴はまだ生きている…



クソ…



江藤、チコはどこからともなく聞こえてくる嘲りの声に警戒態勢をとった。



チコ「首を裂かれ、心臓を貫かれたのに死んでないなんて どんだけしぶといのよ」



江藤「…」



スキャットマン「フハハハ 勝ち誇るにはまだ早かったな」



江藤「出てこい」



江藤が聞き耳をたて、超人的な聴力で音の出所を探るのだが、室内中に共鳴し場所が突き止められない



スキャットマン「我が身柄はどこにいったのか 仲間の亡骸はどこに消えたのか… 探してみるか? ハハハハ」



むしろ 気配さえ感じられない…



もしかするとこの室内に奴は存在しないのか…



ならこの声はどこから…



そう思考する江藤に



チコ「またうざったい妖術を使ってんね… 恐らくお得意の別次元ってやつに転送して隠れてやがるんじゃ」



ボソッと口にしたチコへ江藤が振り向いた。



それだ



チコは刀の鍔に親指を押し当て、いつでも抜ける態勢に入る



それから江藤も触手を伸ばし、攻撃態勢をとった時だ



スキャットマン「ハハハハ 焦らずとも今からそちらに顔を出してやる」



すると



部屋中央の空間がいきなりヒビ割れのようなひずみが生じ、それが渦巻き状に回転、次第に膨張し人が通れる程のゲートが誕生した。



そしてそのゲートから現れてきたのは… 骸骨



法衣を纏い、錫杖を手にした全身白骨化状態のスキャットマンが姿を現した。



チコ「な! なんじゃありゃ」



2人の前に現れた途端、今度は急速に身がつきはじめた。



驚異的な細胞分裂を繰り返し、血管や内臓物を形成、みるみる肉身がつくられていく



同時にしゃれこうべにも脳味噌やら筋肉が造られ、かざした右腕は凄まじいスピードで肉体が復元されていった。



スキャットマン「ハハハハハハハハ」



髪の毛が生えだし、皮膚が覆われ、瞳が完成



チコは汚い物でも見るよう不快な表情を浮かべ、江藤はハッとさせた。



見届ける訳には…



復元途中を狙って、江藤が飛び出そうとした時



掌がかざされ



江藤の足がピタッと止まった。



クソ…



石化のように足が固まり、触手さえも動かせない



またか…



完全に身動きが封じられてしまった。



それはチコも同様に



チコ「何これ… 身体が重い…」



スキャットマン「慌てるな慌てるな こっちも時空域の狭間より転生した身 肉体が着いてこれぬが故 時間差の再生よ しばしそこで大人しく待たれよ」



みるみる肉がつき、形成されてゆくスキャットマンをただ見てる事しか出来ない2人



スキャットマン「それともう1つ そなた等に会わすべき者達がいる  我がしもべとなりし者達 さぁ 来い」



スキャットマンの合図後



ゲートから2体の骸骨が現れてきた。



それを目にするなり



2人の瞳孔が見開いた。



ドクロが纏う服装は合間と石田の物…



チコ「冗談でしょ…」



そして…



スキャットマン「なるほど… 完全に元通りとまでは至らぬ訳か…」



チコにぶった斬られ、指を失った掌をスキャットマンは眺めた。



頬や首にも傷口を残し



法衣を纏い錫杖を手にしたあの僧侶が完全再現



スキャットマン「ふくくく まぁ こうしておまえ等に再会出来たのだからよしとしよう」



殺めた筈のスキャットマンが復活を遂げていた。



江藤「チッ この野郎…」



スキャットマン「まぁ そう カッカするな 代わりにそなた等が抱いてるだろう疑問に答えてやる」



江藤「…」



スキャットマン「あの時本当に私を倒したのか? おまえ達それが知りたいのだろ?」



チコ「あたしがこの手でキメたんだ 手応えも感じた 殺したに決まってるでしょ あたしが知りたいのは…」



スキャットマンが被せで答えた。



スキャットマン「その通り 不覚にもあの斬撃によって落命させられてしまった 一度はな…」



江藤「…」



スキャットマン「そなた等も存じているだろう 我等の主唱者である代表 山吹の禁術について」



チコ「…」



スキャットマン「山吹は死者を操る事の出来る崇高なネクロマンシー 西洋黒魔術の禁の域に達し生や死を自由に操作する事が出来る偉大なる魔術者だ… だが… 残念ながらその操者もいましがた命を散らしてしまったようだ 魔の力を借りようと己自身までは扱えなかったようだ」



スキャットマンは嘆いた表情で首を左右に振らせた。



江藤「…」



スキャットマン「西洋にはそういった死者を甦らせ、操る術がある しかし それは西洋だけにあらず 密教にも存在する」



江藤「なに」



スキャットマン「空海がこの地に広めた真言密教 それに伴い生み出されたある禁術… 反魂術(はんごんじゅつ)がな…」



江藤「反魂術?」



スキャットマン「様々な流派がこの日の国に生まれ その中で真言髑髏流と呼ばれる一派が存在した 髑髏を本尊とし、髑髏を祀り、髑髏を崇める いわば髑髏崇拝の流派 そしてその一派によって編み出された秘術こそが反魂の術と呼ばれる死者回生の術式である」



江藤「もしかしておまえはその反魂なんたらってのを使ったってのか?」



スキャットマン「男女の性交を通じ即身成仏に至る儀式を執り行うのが髑髏流儀 他にも生身のまま髑髏と見たて生きたまま本尊に即身として祀る儀式も執り行っていた」 



チコ「最悪な流派…」



スキャットマン「髑髏流は鎌倉から室町にかけ一大勢力をほこり強大な力を築き上げてきた だが 他の流派からそれは邪教と見なされ、忌み嫌われ、迫害の対象とされてしまった」



チコ「そりゃあそうね」



スキャットマン「そして弾圧され、滅ぼされてしまったのだ」



スキャットマン「その際秘伝書や記述書などは一切合切焼かれ、口伝封じにと生き埋めにされた者は数知れず まさに焚書抗儒な迫害の嵐を前に抹消されゆく中 滅びに抗う最後の望みと手を伸ばし作りだされた禁術こそが反魂の術 それはまたの名を…」



スキャットマン「髑髏還りと呼ぶ」

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