第219話 千恋

高速で振られた鬼切羽



左逆袈裟斬り(斜め上斬り) キン



上段左薙(水平斬り) キン



上段右薙  シュ



唐竹(剣道の面) シュ



左斬上げ キン



また唐竹(剣道の面) キン



チコの怒濤なラッシュの斬撃が繰り出されるがどれも防がれ、かわされた。



チコ「チッ」



唖然と苛立ちをまじえた表情で一旦バックしたチコ



マジ斬り殺しにかかったつもりなんだけど…



なにこいつ…



チコが下がるや



江藤「へっへぇ~~」



続いて江藤がスキャットマンに飛びかかった。



サバイバルナイフをアイスピック持ちに切りつけようとしたが



ドゴォ  シャリン シャン



リングの音を鳴らし、腹部を突いた錫杖がそれを阻んだ



次いで江藤が2本の触手を伸ばした時だ



同時に…



スキャットマン「オン・ソンバ・ニソンバ・ウン・バザラ・ウン・ハッタ…」



素早き真言が唱えられ、片手で蓮華の印を結んだスキャットマン



スキャットマン「怨怒!」



江藤に向けられると



突如として空中に2つの光輪が現れダイレクトに吸い込まれていく触手



すると



今度は江藤の背後に光輪が現れ、その中から触手が飛び出してきた。



触手は江藤の首や腕に巻きつき、そのまま締め上げてきた。



あるじである筈の江藤本体を攻撃してきた触手が絞め殺しにかかってきたのだ



江藤「うへ…ぐぐ…」



首が絞められ、首吊り状態にされた江藤の乱雑した目玉から苦しみが伺える



冥府に落ちろ… 蟲の化け物…



そしてスキャットマンがトドメとばかりに印を向け、言葉を発しようとした瞬間



シュ



背後から突如振られた刃



スキャットマンが寸間でそれを回避した。



チコ「よそ見するな」



チコが再び連撃で刀を振るいはじめたのだ



たちまち術は解け、光輪が消えた。



光輪内に消えた部分は消滅し、切断され、残骸と化した触手を残して



そんな首に巻きつく触手をほどき、投げ捨てると



江藤「ゲッヘヘヘ っきしょ~ 茶坊主め~~」



カメレオンのごとく目玉をグリングリンさせ、新たに背中から触手を再生させた江藤



ヌメリある新たな触手が生え揃い、猫背な前傾姿勢をとった。



そして落ち着きない眼球が映したその先では激しいチャンバラの真っ最中



キィィン キィーン



制服姿の美少女からは想像もつかない俊敏な動作、チコが様々な角度から鋭い刃を放り込んでいた。



だが ことごとくそれらは錫杖で防がれ、弾かれていた。



キィン キィィーン キイン



一撃も与えられず、焦りさえ感じるチコの表情は一層ムキとなり、チコの剣捌きに乱れが生じていた。



逆胴… 逆風… 下段右薙… 打突…



息もつかせぬハイスピードかつ猛チャージな斬撃の嵐を繰り出すも全てを受け切ったスキャットマン



そして



チコ「なろ~」



チコが躍起に刀を振り上げ、隙が生じた瞬間



ドゴ



チコのガラ空きな胴部に突きが打ち込まれ



錫杖の杖把(杖のけつ部)部分がチコの豊満なムネに当てられていた。



チコ「うっ」



打撃を受けたチコは胸を押さえつつすかさず後退った。



イタタ… こいつ… このあたしに当てやがった…



怯んだチコに代わり、江藤が飛び出そうとするや



スキャットマンが掌を江藤に差し向けた。



すると



江藤の足が急に地面に貼りついたように動けなくなり、前傾に倒れそうになる



江藤「あへ… へ?」



スキャットマン「この小娘に話したい事がある しばしそこで待たれよ蟲付き」



妖術によりまるで石化のごとく両足が固定された江藤には目もくれずチコを見据えるスキャットマン



あの江藤さんを相手に…



このあたしを相手に…



スキャットマン「どうした…?小娘… おぬしの力を全て見せつけるんじゃなかったのか…」



妖術に加え… 体術も心得ている…



やっぱりこいつ…



スキャットマン「なにゆえ おのれの剣技を一向に出さぬ? もしや出し惜しみしておるつもりか? 全てを出し切らねば私には勝てぬぞ」



チコ「おかしな妖術を使い、ルックスだけはいいだけの軟弱男だとばかり思ってたけど… やはりあなた… モンク(僧兵)のたぐいね」



スキャットマン「モンク? あぁ そういった呼称をするならそうかもしれぬ 我が実力はもう分かった筈 ならそれを知った上でまだ温存を考えるなら… まぁ それはそれでかまわぬが…」



スキャットマンが錫杖の把を掴み、外すや刃が顔を出す



スキャットマン「先程の突き、もしもこの状態だったならば… おぬしは今頃血を流し死んでいる… ヘタに手の内を隠せば 次はないと思え」



ムネを押さえ、ブラウスをギュッと掴む手を放したチコ



今の言葉で頭に上っていた血がスゥーと引き、冷静さを取り戻した。



チコ「ふぅ~ それもそうね あなたなんかに胡座家の技 見せるまでも無いと高をくくっちゃってたみたい 変な意地を張っちゃってたみたい これはこれは大変失礼を致しました」



口調も表情も一変



チコの空気ががらりと変わった。



チコ「あなたが僧兵であり それなりの手練れ相手に手の内を伏せ手加減なんかしようとした事は謝ります」



スキャットマン「そうだ 私はおまえの最愛なる側近を殺めた仇討ちでもあるんだぞ 私が憎いんだろ少女よ… 私を憎め その矛先を私自身に向け その憎しみの分だけ…」



チコ「…」



スキャットマン「私を殺すまでそなたの心得し奥義の引き戸を開けてみろ」



煽りともいえる口調で余裕をかますスキャットマンに対しチコも冷静な顔つきで口にした。



チコ「確かにあたしはあなたを見くびっていました あなたがいくら不思議な力を使おうと接近戦に持ち込めば楽勝だと… 懐へ入ってしまえばこっちのもんだと そう思ってたんです  だけどそれは違ってた あなたは見た所 長柄全般の扱いに長けた使い手… 剣士たる者まじえる以前にそれを察知出来なかった自分が恥ずかしい… そう あたしはただ知らなかった」



スキャットマン「…」



チコ「ですがそれはあなたも同様と言えましょう」



チコがゆっくりと抜刀の構えをとりはじめた。



チコ「何手あるかも分からないくせに胡座流の何を知るか?」



スキャットマン「フッ 知らぬからこそ見たいという興味ではいけぬか?」



チコ「1ついい話しがあるので前もって話しておきますね 剣技は表16手 裏16手の計32手ございます」



2本の触手を揺らめかせ、大人しくする江藤の前で対峙するチコとスキャットマン



スキャットマン「…」



チコ「剣技全ては戦国時代にあみ出されたもの 大昔のおじい様がこの刀と共につくりあげたものよ そして代々合間家と共に受け継がれ今に至っている そうやって受け継がれてきたこの32手の内 表裏最後の1手にそれぞれ決め技があるの この胡座流の俗にいう必殺技ってやつよ」 



スキャットマン「…」



チコ「でもね… 戦国の世で生まれてから本日に至るまで最後の抜き手は実際に使用された事がないのよ 実戦ではね」



スキャットマン「…」



チコ「お父様や合間から継承する際に聞いた話しや指南書、文献の記述にはいまだかつて対人間相手に一度も使われた事のない技と記されている なら何故いままで使われる事がなかったのか… お分かり?」



スキャットマン「察しはつくが一応聞いておこうか」



チコ「それを繰り出すまでも無かったから すなわちその手を出すまで立ち向かって来る者が誰もいなかったから ただそれだけの理由よ 先代達の書き残した記録にはこぞってそう記されている つまり胡座流にはまだ御披露目されてない未開封な技が2手もあるのよ どうですかこの話し? そそるいい話しでしょ」



スキャットマン「なるほど ならば見せて貰おうか その技とやらを」 


チコ「えぇ そこまで到達出来ればね 見せてあげる」



スキャットマン「おもしろい 30手全てを受け切れば その必殺技とやらを拝ませて貰える訳だな」



チコ「そうゆう事 本来技は全て単体ものなんだけど それらを繋げ、連続的に流してこそ本領を発揮する そのルーティンの仕上げが2手になる」



スキャットマン「楽しみだな ちなみに未だ放った事も無いような必殺技 本当に扱えるんだろうな?」



チコ「ご心配なく 血の滲むような努力と鍛練の末 バッチリ体得してますから」



スキャットマン「それを聞いて安心した ではっ そろそろお喋りはお終いにしようぞ そこの蟲つき共々2人がかりでかかってくるがいい」



スキャットマンが再び掌を江藤に向け、術を解いた。



術が解けた瞬間



瞬足でスキャットマンに飛びかかろうとした江藤へ



チコ「江藤さん 待って」



チコの呼びかけに反応し、スキャットマンのすぐ背後で動きを止めた江藤



かわす素振りも防御する動作もおこなわずただ立ち尽くすスキャットマンの数ミリ手前ではピタリと止められたサバイバルナイフ、鋭い刃と化した触手が止められていた。



チコ「お願い ここはサシでやらせて貰えないですか」



その言葉を耳にした江藤が身を引いた。



そして皮膚や目が正常に戻り、本来の江藤に戻った。



江藤「構わないが大丈夫か?チコちゃん 君がヤバくなった時は何と言おうが動くからね」



チコ「うん ありがとう ホントわがまま言ってごめんなさいね でもこの男はどうしても自分の手で倒したいんです」



江藤「ハァ~ でもやるからには分かってるね? 俺達はこいつを倒し、早くこの結界から抜け出さないとならないんだ、三ツ葉さんや海原さん達の安否も気になる」



すると



スキャットマン「フッフフ 蟲つきよ そんなに仲間の事が気になるか?なら私からも1つ2ついい話しをしてやろう」



江藤「…」



スキャットマン「分断されたおぬし等の仲間も今 我が作り上げた結界内に閉じ込められておるわ」



江藤「え?」



スキャットマン「あちらは今 月島が相手してる そして 既に1人が死に絶えておるわ…」 



江藤「なんだと」



スキャットマン「今しがた もう1人も身体を乗っ取られ絶命した」



急速に顔色が青ざめていく江藤



江藤「一体誰が?」



スキャットマン「1人は… 月島の元同僚とかって男か それともう1人は… 名も知らぬ雑兵の男…」



それを聞いた江藤は絶句し言葉が出てこない



スキャットマン「兵士の男1人と女1人はまだ生き残っておる それが向こうの戦況だ それからいい話しをもう1つ  この結界は私の術 私が死ねば術は解かれ おのずとこの結界は消滅する 向こうの結界も同じ つまり私の息の根を止めればこの結界から抜け出せるぞ」



江藤「…」



スキャットマンが江藤に振り向き、不気味な微笑を浮かべながら話しを続けた。



スキャットマン「ここから早く抜け出したければ、向こうの仲間を助けたいのならば とにかくこの私をあやめるしか方法はない 向こうサイドの2人も月島に殺されるまでそう長くはもたぬだろうに 時間はあまりないぞ… どうだ?俄然やる気がみなぎ…」



次の瞬間



地を蹴り、踏み出されし1歩



切っ先がスキャットマンの眼前に飛び込んできた。



チコによる神速な突きの1手だ



スキャットマンはかろうじて身をかわし、それを回避するや



避けられた突きの状態からクルッと身を半転



振り向きざま、続けて刃が振るわれた



キン



その刃を錫杖で受け止めたスキャットマンの目の前にはチコの後ろ姿



スキャットマン「…」



鍔競り合う中、背を向けしチコが口にした。



チコ「いつまでペチャクチャ喋ってやがんだよ 何から何までムカつく男ね… お喋りはもう終わりよ」



スキャットマン「…」



チコ「5分で決着をつける」



そしてチコがカッと目を見開かせた。



さぁ… 行くわよ… 一から全て



まず1手…



胡座流一心抜刀術…



一刀斬りの心…



隼の爪跡

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