第218話 干戈

バタン



扉が閉められ、無事退避した青木、山口達



それを見送った純やが御見内へと近寄り、ボソリと口にした。



純や「良かったですね これでひとまず作戦は成功って事で」



御見内「成功?どこがだよ」



純や「みんなは無理でも 3名は救出出来たじゃないですか  いや 妊婦さんのお子さんをいれて4名すね 4名の尊い命が救われただけでも十分ですから まぁ 無駄ではなかったって事っすよ」



御見内「あぁ そうだな」



純や「そうゆう事にしておきましょ さて 俺達はどうします?」



純やが視線を向けた先には只今激しいバトル真っ最中の彩羽と巨大熊



そして御見内が黙って見守る先には



エレナ、美菜萌と万頭が互いに睨み合っていた。



村田「御見内 あの爆弾野郎 手ぶらだ 今なら射殺出来るぞ やっちまおう」



2人の合い間に割り込んできた村田がMPの照準を万頭に合わせ発砲しようとした。



御見内「待った あの2人にまかせよう」



村田「おい またかよ 何でいつも止めんだ 今ならチャンスだぞ」



御見内「撃つ気ならエレナがとっくに撃ってる 獲物を横取りしたらあとで何言われるか分からん… ひとまずあれは2人にまかせよう」



村田「別に何言われってかまわねえがよ ホントに大丈夫なのか? いくら2対1とはいえ奴は凶悪なテロリスト犯だぞ」



村田が銃器を下ろした。



御見内「見てみぃよ 2人はやる気十分だよ」



戦う気満々な2人の後ろ姿を目にする3人



村田「あぁ じゃあ俺達は何を?」



純や「俺達はあっちじゃないすか」



純やが彩羽と大熊の方に親指を指し向けた。



村田「あそこに参戦するのか?」



御見内「いや 火の粉がこっちに来ない限りは敵同士の潰し合い 俺達が相手するのはあのバトルの勝者…かな」



3人揃って激闘を目にした。



純や「少々リラックマが劣勢っすかね」



御見内「あぁ だがあれも普通の熊じゃない」



村田「あのデカさだしな」



御見内「身体のデカさだけじゃなく あのビッグベアはアイヌに伝わるミナグロだって話しだろ」



純や「ハサウェイさん ミナグロに詳しいんすか?」



御見内「全く ただ本とかで読んだレベルだがあの異常なデカさから伝説を信じざるを得ない もし本物のミナグロなら山神の乗り移りか具現体かだろ… どちらにせよ一筋縄ではいかない獣だぞ」



村田が指を順々に折りながら口にした。



村田「ゾンビ、サイボーグ、ミミズのUMA、それから黒魔術に錬金術…っでお次は山神のなりすましときたか ハチャメチャな展開過ぎやしねぇーか」



純や「ミミズのUMAって何すか? そんなのとも遭遇したんすか」



村田「あぁ 地下炭坑で…」



御見内「おい 2人共 エレナ達がはじめるぞ」



エレナ、美菜萌vs万頭



万頭がごっついボウイナイフを構えるや



美菜萌が木刀をノーマルな中腰で構えた。



エレナ「…」



すると何を思ったかエレナがいきなり小銃を投げ捨て、ボクシングの構えを取った。



美菜萌「エレナさん… 武器は?」



エレナ「持ってないわ これでいい」



美菜萌「え?」



素手…?



万頭「おい おまえ 舐めてんのか?」



エレナ「美菜萌さんは剣道の達人よ それに2対1だから丁度いいハンディキャップよ」



万頭「つまり舐めてるって事だな いいだろう その顔に一生消えない傷をつけてやる」



エレナが拳を強く握り締め



万頭「切り刻んでやるから来い」



その挑発と同時にエレナが踏み込んだ



これより2対1の白兵戦がはじまる



エレナ、美菜萌vs万頭



スタートダッシュで仕掛けたエレナがピタリと足を止めた。



眼前数センチ手前にナイフが向けられていた為だ



エレナが鋭い目つきで万頭と目を合わせるや



万頭がクルッとナイフを半転、素早く逆手にグリップを握り、右フックなスラッシュを放ってきた。



持ち手のスイッチから身のこなし、そして斬撃



たった一度の動きを見ただけで



明らかに素人とは思えぬ自然に振るわれたナイフのテク



一連のこの動作から万頭が爆弾の扱いだけでなくナイフの扱いにも長けている事が想像出来た。



そんな手慣れた手つきで振るわれた刃の半円な軌道を頭を反らし避けたエレナ



するとまたスイッチさせ、今度は順手に持ち替えたナイフで突いてきた



シュ シュ



2連の突き



だがこの刺突も空を裂いた。



身を屈め、よけたと同時に間合いを詰めたエレナが…



左のストレートを放った



だが… 万頭もこれをかわした。



それからエレナの背後へスルリと周り込み



首に腕が回された。



頸動脈を決められそうになる寸前、瞬時に顎をしめブロックしたエレナ



締め落としは何とか防いだが、かまわずそのまま力業で締めてきた万頭



そして その際エレナの目の前で再び逆手へとスイッチされたナイフ



そのナイフを頬に突き刺そうとしてきた時



ゴン



エレナは後頭部で頭突きをかました。



鼻筋を見事に捕らえ、ほんの一瞬ひるんだ万頭



その隙に手首を掴み、腕の輪をこじ開けるや抜け出し、座り込んだ状態から万頭の金的にエルボーを打ち込んだ



万頭「ぐっ」



金的にきれいに入り万頭はぐらついた。



それからエレナは起き上がりざまに腹部にも蹴りを打ち込んだ



万頭「うっ…」



みぞおちに入ったと思われる万頭はよろめきつつ後ずさった。



その間 既に立ち上がり、ファイティングポーズをとるエレナを鼻筋と股間、腹部を触りながら目にした時だ



美菜萌「ハア」



気合いを込めた発声と共に



今度はエレナの真横から颯爽と美菜萌が飛び出してきた。



面打ちを狙う、上段構えから木刀が振り上げられ



ゴン



加減なき力強い一振りが打ち込まれた。



それを腕でガードした万頭



受けとめたはいいが生身の腕で固い木刀の打撃を受け



激痛の走る万頭が顔を歪ませた瞬間



美菜萌「ハイ」



美菜萌の掛け声と共に



シュ



木刀は既に万頭の側面に位置…



バコ



横振りの1打がきれいに頬を捕らえた。



モロに打撃を貰い、万頭の視界は一瞬真っ白に



一瞬フラつくと



ドン



ついで心臓の位置に突きが叩き込まれていた。



村田「おお」



万頭の身体は吹き飛び、ゴロゴロと床を転げていた。



純や「やる」 御見内「…」



転がり、咽せかえる万頭を見下ろす美菜萌



そしてゆっくり中段の構えに戻しながら口にした。



美菜萌「立ちなさい」



万頭「くはっ ゴホォ」



きめられた七三ヘアーが乱れ、咳払いしながら目にした先には追い打ちをかけて来る事も無く、静かに構えたまま待つ、美菜萌がいた。



万頭「コホッ… のれぇ」



村田「さっきの発言撤回するわ」



純や「女子2人やりますねぇ エレナさんは分かるとして、あの美菜萌って子の抜刀もファーストアタックのシーンを見た時からやるなとは思ってました」



御見内「純や 抜刀じゃない それはあのJK剣士の方で 美菜萌さんのはれっきとした剣道だ」



純や「あっ そっか チコちゃんの影響でつい… まぁ似たようなもんでしょ… つ~か向こうサイドって今どんな感じなんすかね?」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



創造結界内



江藤、チコvsスキャットマン



キィン キンキン ブン



お経の合唱が木霊する結界内にそんなオノマトペで表された接触音が響き渡っていた。



シュ



チコの放つ上段横振りの斬撃をかわし



キン



中段横振りの太刀を錫杖で受け止めたスキャットマン



シュ



そして背後から突いた江藤のナイフをもかわし



感染者と化した江藤の胸ぐらが掴まれるや背負いで投げ飛ばされた。



その際に御札の貼りついた掌を腹部に押し当て



スキャットマン「破ぁ」



その発声と共に梵字の印された光輪が浮かぶや発剄(はっけい)のような衝撃波が発動



高速回転しながら江藤がはじき飛ばされた。



江藤は空中でバランスをたて直し



ザザァーー



両手両足で着地、地面を滑らせた。

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