第216話 媒物

我が身に傷を負っただと…



指に染まった己の血痕を信じらんないといった表情で目にし、掠り傷なその傷口を再び指で拭いながらチコに目を向けた。



スキャットマン「成人に満たない小娘ごときがこの私に傷をつけるなど…」



チコ「小娘 小娘ってさっきから随分と子供扱いしてくれるじゃない」 


チコは己の刀を鞘に納め、合間の愛刀を拾いあげた。



そして



チコ「見下してるようだけどおまえはこれからその小娘に斬り殺されるんだよ その覚悟は出来てるんだろうね」



ゆっくりと八相の構えが取られ



チコ「あたしの怒りと憎しみも上乗せしといたからこの子は一味違うからね… それとあたしが心得た全ての抜き手をぶつけてやるから…」



一瞬結んだ髪がフワァーっと逆立ったように思えるほど



怒髪天なチコが吠えた。



チコ「逃げんじゃねえぞ」



今まで見た事もない激しい怒りを見せたチコに感化された江藤



江藤「やべ あんな怒ったチコちゃん初めて見た… しゃーない チコちゃんがマジマジになったんなら俺もなるしかないか… あいつをぶっ潰すには嫌だけどもう一度感染者になるしかないね」



そして江藤もスキャットマンに向け叫んだ



江藤「おい ちゅーわけで 今からお望み通りまたへんげしてやるよ ただし…」



江藤の両目玉がデタラメに動きだし



江藤「降参とかないかんね… 結界とかも勝手に破んじゃねぇえええぇぇぇぇぞ 逃げるんじゃねぇぇぇぞぉぉ~ ここで完全決着だ はぁ~~」



みるみる皮膚が変わり、感染化のはじまった江藤の見た目が豹変していく



そんな2人を見据えたスキャットマンが涼しげな表情で錫杖を握り締め構えた。



スキャットマン「よかろう 遊戯は終わりだ 我が法術で滅殺してくれる」



異界なサークル内でこれより常人な域を越えたつわもの共がぶつかり合う



ーーーーーーーーーーーーーーーー



創造結界内



海原、三ツ葉、中野、七海vs月島



強酸性の村雨が降りしきる結界内



七海「きぁあ~~ ねえこれいつまで続くのよ」



結界のシールドに貼りつく七海が恐怖のシャワーに悲鳴をあげていた。



三ツ葉「もうちょっとの辛抱かもしれません 見て下さい あいつの動きが止まった」



七海が振り返ると



浮かぶ泡は減り、次第におさまりをみせている



そんな酸水に打たれるクリーチャー月島の動きも止まっていた。



浸潤する化け物がその場でジッとし、それを視認する2人



海原「ようやく出し尽くしたか… よーし じき泡がなくなる」



海原と三ツ葉が銃撃の構えを取り、攻撃のタイミングをはかろうとした時



地面は激しく溶け、見渡す限りデコボコ状態



そしてそんな地面から霧のような蒸気がたちこめ、クリーチャーを包んだ



たちまち七海の視界にクリーチャーの輪郭のみがぼやけてうつり、うねうねする手足の影像が恐怖を誘った。



七海「ひぃ」



また銃器を構え、様子をうかがう2人は目を凝らした。



この霧が晴れたら…



2人は言葉をかわす事なく、反撃の好機はここだと判断した。



銃撃は奴に効く…



ならば倒すまで撃ち続けるのみだ…



あいつを倒すか…



こっちが先に弾切れを起こすか…



勝負だ… 月島…



三ツ葉はシグザウエルのグリップを強く握り締め、気合いを入れた。



狭霧のカーテンが消えかかり、クリーチャーが姿を見せるか見せないか



そんなタイミング時に…



濃霧なミストが晴れる直前その中からいきなり触手が伸ばされてきた。



不意な牽制に2人は慌てた。



バン



海原「なろ」



咄嗟にしゃがみ込んだ三ツ葉、その頭上に伸びた触手を見上げた。



結界の壁にブチ当たるや無数の細かな触手が植物ように根を張り



一瞬にしてへばりつかせた。



出鼻を挫かれた2人は突然の攻撃に唖然とさせ、そのへばりつく触手に目を奪われていると



2本目が飛んできた。



七海「きぁぁ」



叫び声と共に瞬発的に腕を離し 身を引かせた七海の目に…



中野の後頭部に触手が絡まり覆っていた。



七海「い…」



それを引き剥がそうと弱った抵抗をこころみる中野を青ざめた顔で見る七海の目の前で



その弱々しい手つきでガリガリ引っ掻くその手にも根が侵蝕し伸ばされた。 また頭部から背中にも急速に根が張り巡らされていった。



七海が恐る恐るそれを引き剥がそうと手を伸ばすや



背後から手首が掴まれ止められた。



また同時に腰に手が回され、七海の身体が引かれた。



七海「た… 助けなきゃ」



海原「もう助からん 離れろ」



七海「い…嫌…」



腕を伸ばす七海の身体を力づくで引き離しバックさせた海原



七海「いやあぁあぁぁ」



耳をつんざく程の大絶叫をあげた七海を遠ざけると同時に共に離れた三ツ葉の前で中野の身体がもってかれた。



その次の瞬間



そのまま頭部から丸飲みされた中野の脚がバタつかせていた。



七海「きぁぁあああ 中野さぁぁぁ~~ん」



両頬に手をつけ、金切り声をあげた七海が目を背けてしゃがみ込むや



完全に中野を一飲みしたクリーチャーに向け2人揃って引き金をひいた。



パァン パンパンパンパン



パスパスパスパス



湯気を帯びた薬莢が排莢口から飛び出し、連続的に鳴る火薬の爆発音が音圧と共に直接鼓膜にコンタクトしてくる



一方サイレンサーによって音を殺された銃口から静かに発射された弾丸がクリーチャーの胴部に連続で撃ち込まれていく



銃創から溢れ出た変な色の血が濡れた強酸水と混じり合い、露骨な嫌忌でたじろぎを見せたクリーチャーにどんどん弾が撃ち込まれ、クリーチャーは突然背を向けその場から逃げ出した。



思いもよらない行動にためらいを感じつつ、2人は発砲しながら前進させた。



左右離れた距離から互いに視線を交え進行する2人



パァンパン パン



醜悪なクリーチャーは背を向けて逃走し2人は発砲しながら追いかけた。



パスパスパスパスパス 



どうゆうつもりだ いきなり逃げ出すなんて…



恐れおののき トンズラ…?



まさかな… っとなると何かの罠か…?



クリーチャーの不可解な逃走に疑心暗鬼する海原



とにかくここは距離を保って様子見…



海原は発砲しながら慎重に歩を進めた。



また三ツ葉も歩調を緩め、背を見せるクリーチャーに発砲



背中に弾丸が突き刺さり、血が吹き出す



すると



弾丸が撃ち込まれる度、痛がる反応を示したクリーチャーが透明な結界の壁に激突した。



思いっきり自爆しその場に倒れたのだ



はぁ…? 何してんだ 間抜けかこの野郎…



海原が足を止め、様子をうかがった。



また三ツ葉も一時発砲を止め、足を止めた。



即座にシグザウエルの弾倉を交換、起き上がろとする化け物に銃口を向けたまま停止する三ツ葉



誰もここから逃げられないと言ったのはおまえだ…



おまえの仲間が張った結界だろ…そんな事も忘れたか… 月島…



とにかく 行き止まりです… さぁ どう出る…?



三ツ葉が睨みをきかせ拳銃を向けた。



そして海原も力強くサブマシンガンを身構え、スコープ越しに狙いを定めた。



数メートルの距離間で向かい合う両者



2人が追い詰めると…



観念したのか…?



逃げるのを止めたクリーチャーが起き上がった。



そして戦闘態勢に入ろうとした時だ



タタタタタタタ



フル連射音が鳴り響き、駆け足で近づく女がいた。



目に涙を浮かべ、怒った表情でフルオートする七海の姿だ



七海「ちっくしょ~ 中野さんの仇だぁ~ 死ねぇぇぇ」



三ツ葉「七海さん…」



ヤケクソに発砲し、叫びながら突っ込もうとする七海を横から飛びつき阻止した三ツ葉



七海「止めないで あいつは中野さんを食ったんだよ 仇をうってやる」



三ツ葉「これ以上 接近しちゃいけません」



七海「ならこっからありったけ撃ち込んで殺してやる」



ひとたび小銃を構え発砲しようとした時だ



突如クリーチャーの頭部が膨らみ



イソギンチャク型の口から何かを吐き出してきた。



吐き出されゴロゴロ転げたのは人間



そう… それはネバネバな体液にまみれまだ微かに息が残る中野の姿だった。



七海「中野さん」



七海が手を伸ばし、近寄ろうとしたが三ツ葉に止められた。



三ツ葉「ノーです 七海さん」



横たわった中野の背中には不気味な管のようなものが取り付きそれはクリーチャーの口まで繋がっていた。



何をする気だ…?



海原は即射撃に転じられるよう身構え、吐き出された中野とクリーチャーに交互に目を配っていると



倒れた中野が起き上がりはじめた。



三ツ葉「…」



それは自分の意志というより無理矢理立たされるといった感じ



七海「中野さん」



足腰に力が入らず、ガクガク足を震わせ何とか立った状態の中野は当然七海の呼び掛けには応じず、口をあんぐりと開け、白眼を剥いていた。



海原「…」



海原がチラッと三ツ葉とアイコンタクトかわした その瞬時



管がボコボコと脈動し、中野の身体に何かが流れ込んでいった。



中野「キィィ~ ケエェェェ」



いきなり甲高い声をあげた中野



全身小刻みに激しく震わせ、首も左右激しく振り子のように振り回す



キチガイ地味た行動に海原が2人へもう少し下がれの指示を送った。



中野「ヒィエエェェ~~~」



七海「な… 何がどうなってるの…?」



三ツ葉「七海さん もっと下がりましょう」



中野「キィエエェェ~~~ シェエエ~~」



あまりに異常で不快な高音の叫びに七海がたまらず耳を塞いだと同時



中野が急に発声を止め、おとなしくなった。



そして白眼を剥いたまま



中野「ハッハァ~ あ~ まさか口も目も無くなるとは思わなかったぜ」



中野からしっかりした口調で吐き出されてきた声



この声… まさか…



それを耳にした途端 三ツ葉と海原の表情が難色へと変わった。



三ツ葉「この声…」 



中野さんのじゃない…



中野「ようやくまたおまえ等と話しが出来て嬉しいぜ なぁ おまえもそう思うだろ 三ツ葉よ」



三ツ葉「くっ やはり月島… おまえなんですね」



中野「俺の思いを届ける媒体にうってつけだろ このスピーカーは ハハハハハハ」



中野の身体を介し発せられる別人の声色



白目を剥いたまま強制的に喋らされる中野の口から月島の声が吐かれてきた。

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