感染症Sequel

第215話 抜刀

創造結界内

江藤、チコvsスキャットマン

1本の角に１つ目の赤鬼様　3本の角に3つ目の青鬼様

2体の魔人が溶岩の中から這い上がってきた。

江藤「くっ」

現実世界ではありえぬ圧倒的存在感な魔人を前に江藤はたじろいだ。

まじかよ…　おとぎ話のあの鬼かよ…

ドスン　ドスン

巨躯な身体から足を踏みしめる度地響きが起きる。

そしてその行き先がチコへと向けられた。

マズい…

ドスン　ドスン

江藤「チコちゃん　チコちゃん」

江藤が声を張り上げるがチコは無反応、合間の亡骸に顔をうずめたままだ

ドスン　ドスン

２体の魔人が急接近し、チコを見下ろすや赤鬼が棍棒振り上げはじめた。

江藤「クソ」

そして　それが振り下ろされる直前

猛スピードで2本の触手が伸びてきた。

1本はチコの腰に巻きつき、もう1本はチコの愛刀を拾いあげた

ドカン

そして棍棒が叩きつけられ、合間の亡骸は潰され

間一髪チコは救出された。

江藤「チコちゃん　チコちゃん　しっかりしろ」

チコ「うぅぅぅ」

必死に呼びかけるが未だ泣き崩れ、戦意喪失しているチコ

江藤「クソ」

すると

鬼が2体揃ってこっちに向かってきた。

ドスン　ドスン　ドスン

江藤「くっ」

江藤はチコを捕まえたままその場から移動した。

それを２体の鬼が追いかけてくる。

超リアル鬼ごっこでフィールドをダッシュする江藤

ブン　ブン

青鬼が棍棒を振り回し、その風圧を感じながらもダッシュで逃げ回る江藤が後ろを振り返った刹那

棍棒のスイングが迫ってきた

江藤「チッ」

江藤はヘッドスライディングで身を屈め、滑り込んだ

ブン

すぐ真上を棍棒が空振り、危機一髪回避　江藤が見上げると

ハッ

踏みつけようとするその足裏が目に飛び込んできた。

ドカァァ

手加減なしな思いっきりのスタンプがかまされ

江藤は身体を転がし、それを紙一重でかわしていた。

だが　間髪入れず再び棍棒を振り上げる鬼が江藤目掛け振り下ろそうとしていた。

駄目だ…　避け切れない…

すると1本の触手が素早く真剣をチコの腰に取り付く鞘へと収め、先端部を刃物状に変形

ガシッ

振り下ろされた棍棒を受け止めていた。

その間　江藤はすぐに起きあがり、その場から離れた。

ドスン

触手は力負けで叩き潰され

青鬼から振り下ろされたごっつい棍棒が岩石の床を砕き、穴を開けた。

江藤はバックステップで2体の鬼から離れ…　その際頭の中で交わされる会話…

邦光…　そのおなごのお守りをしながら戦うのは無理だぞ…　手放せ…

駄目だよ…　今この状態のチコちゃんを置いたら奴等の格好の餌食にされちゃう…

しかし…　そのおなごを庇いながらではこっちも危険だ…

なんとか1本で頑張ってよ…

言うておくが貴様は我等と一心同体、宿主である貴様が死ねば我等も消えてなくなるんだぞ　そこのおなごよりこの身の方が優先だ　当然の事だろう…

分かってるよそんな事は…　でもチコちゃんだって大事だ…　死なせる訳にはいかないよ　それにあの悪い坊さんとやり合うには彼女の力が絶対に必要でしょ…

ちなみに俺１人で勝てる見込みはあるの？

そうですな…　まぁ　はっきり申し上げるとあやつのテリトリー内にいる以上　現時点では難しいでしょうな…

じゃあジイ　チコちゃんがいればどう？

そうですなぁ…　この娘さんの持つ刀には命が宿っております　非常に強い力がありますね　しかもかなりのよこしまな力です…

よこしま…？　いい力じゃないって事…？

えぇ　善悪で判断するのなら怨念地味た悪い力です　しかも忠犬のごとく主にしかなつかない　扱いにくい妖しき刀ときてます　確かに毒を持って毒を制すならこの刀はこの結界を打ち破る糸口となりましょう　そうなれば必然的にそれを扱い、この刀を使いこなすこの子は必要不可欠となりますな…

でしょ～～　　やっぱチコちゃんがいなきゃ駄目だ

ですが　今のこの状態ではそれも厳しいですぞ…

うん…

邦光…　とりあえず今この状況を何とかせねばならん　心身の主導をこっちに渡せ　対処する

え？

貴様では知らず知らずセーブしてしまい思うように力が引き出せん　

交代って　ゾンビになれと…？

人の力が及ばぬ相手となれば　こっちもそれ相応な力で対抗するしかない…　いいから代われ　こちらでコントロールする　

でも…

迷ってる時間は無いぞ早くしろ…

もう　ちゃんと返してよ…

あぁ　貴様はそこのおなごをしっかり捕まえておけ…

うん…　分かった　んじゃ　まかせる

江藤によってイメージ化された西洋の鎧姿の白人　その騎士なる男に主導権が今　渡された。

するとたちまち

江藤「はあ～～」

顔を俯き深く吐かれた息

吐息と一緒に解き放たれし邪悪な力

顔をあげると目玉がグリングリン乱雑に動き、イかれた顔つきへと豹変していた。

腕、首筋、顔に浮き上がった血管

江藤「へっへへへへ　ハァ～～～～　さぁ　おっぱじめようか　オーガ狩りを」

共生する蟲にバトンタッチ、特異感染者へと変貌を遂げた江藤が向かって来る2体の鬼を見上げながら口にした。

またチコに巻きつく触手が収縮、チコをおんぶな体勢で密着させる

ドスン　ドスン

がに股で大股な歩行で迫って来る2体の鬼

江藤「ハァ～～　ハハ　へへ」

江藤が大口を開け、よだれを垂らしてその2体へと突っ込んだ

そんな向かって来る江藤に赤鬼、青鬼共に棍棒が振り上げられ、打ち下ろされる。

ドカン　ドン

叩きつけられた棍棒

だが　そこに江藤の姿は無く

江藤は青鬼の脚部からよじ登り、首元まで這い上がっていた。

そして開けた大口で青鬼の耳へと噛みつき

青鬼「ウオオォォオオ～」

噛み切った。

青鬼「グオオオオオォォ」

青鬼が悲鳴にも似た大声量な咆哮をあげる

それから振り払おうと手を伸ばすや江藤は正面へと移り、３つの目が江藤の姿を捉えた時だ

江藤「ハァ～　ハハハハ」

サバイバルナイフをアイスピック持ちで握りイかれた笑顔を見せていた。

その直後それをギョロつく目玉へとブチ込んだ

青鬼「ウオオォォオオオオオ」

たまらず棍棒を捨て、２度目の咆哮をあげながら顔を押さえた青鬼

巨体を俯かせる

その背中に江藤が跨がり、再びサバイバルナイフを振り上げるや

今度は背中をメッタ刺しにした。

ザクッ　グサッ　グサ

抜き刺しするたび刃に付着した青い血液が飛び散る

江藤「ハッハハハハハハ　ミスタージャパニーズブルーデーモン様様　ザ　ザコいわ　ハハハハ　へぼい　しょぼい　つたないわ　ハハハハ」

グサッ　ザクザク　ブシュ　ザクザクザクザク

イかれポンチで楽しげに喚きながら魔人の背中をメッタメタに刺していき、青鬼の両膝が着けられた時だ

背後に現れた赤鬼が棍棒を振りかぶり、打ち下ろされた。

ドカン

打撃は青鬼の背中に直撃、青鬼は地べたを舐める

江藤の姿は既に消えていた。

赤鬼がキョロキョロ探すや倒れた青鬼の陰からいきなり現れ、今度は赤鬼の背中へと飛び移り、順手で握られたナイフを構えた。

そして刺突のサバイバルナイフで赤鬼の目を捕らえた。

それは深々と根元まで食い込まれた。

赤鬼「あがあぁぁぁぁ～」

赤鬼も大声をあげ、顔を押さえると尻餅をつかせた。

その隣りでは地べたに這いつくばり、悶絶する青鬼

江藤「アッハハハハ　弱い　魔人様ってデカいだけでその程度　ぬるい　ハハハハ」

巨人なる2体の魔物を軽々と一蹴し、ケタケタ笑う感染者

そして不規則に動き回る目玉がある物に触れた時　両目玉が一瞬静止された。

江藤「あは～　あ～」

無邪気な子供の笑顔のように不気味に笑いながらそれに着目した江藤

江藤「あ～～～」

いい物を見つけた…

そんな表情で素早く動いた。

江藤が拾い上げた物

それは合間の遺物…

合間の愛刀　鬼切羽だった

江藤「あ～　う～　へへへへへ」

何百年も経つのにまるで新品のように輝く打ち刀を半笑いで眺める江藤がおもむろに抜刀の構えをとりはじめた。

面白半分な真似事の構えで…

そして

江藤「あ～　ハハ　ハハ　え～　トワゾン・ドール騎士団流フィニッシュムーヴ…　ハハ」

真剣を両手で握り締め、振り上げるや江藤が突撃

江藤「えい～～　スペシャルブロー（必殺）～　クルセイドスラッシャー（十字軍斬り）」

適当に今思いついただろう必殺技名を叫びながら飛びかかった江藤

うずくまる青鬼の首にその刃を打ち下ろした。

ザクッ

江藤「あら？　ハハ」

キレイに斬首すると思いきや、刃が鬼の強靭な筋肉に阻まれ、途中で止まってしまっていた。

江藤「ハハハ　あへ？」

刀を押し込むがビクともせず、半分斬られた状態の鬼の頭を足で押しつけ、強引に切り落とそうするや

ブン

サイドから振るわれた棍棒が目に入り、江藤はとっさに刀を離し、後ろへ回避した。

顔を腕で覆いながら振るってきた赤鬼だ

半分切られた首から青い鮮血を流し、青鬼は動かなくなった。

視力を失った赤鬼は当てずっぽうに棍棒を振り回し、江藤がそこから距離をとった時だ

チコ「ヒドい太刀振り…　なんですかいまの無様な剣術は…」

江藤「あ～～」

無軌道に動きまくる黒目が背後から聞こえた声に反応し、振り返った。

チコ「あれはオモチャじゃないです　素人が軽はずみに扱っていい代物じゃあないんですから」

すぐ背後から発せられるチコの声が聞こえてきたのだ

江藤がチコと目を合わせた瞬間

目つき、皮膚が元へと戻り

すぐさまバトンタッチされた江藤の自我が戻された。

江藤「チコちゃん　良かった　もう平気なんだね？」

チコ「これ　下ろしてくださいませんか」

江藤「あ　あぁ　ごめん」

背中合わせにおんぶし腰に巻き付かせる触手がシュルシュルと解かれた。

チコは自分のほっぺを両手ではたくと

チコ「ふ～　短時間で大泣きしすぎたみたい　涙も枯れるとはこうゆう事なんですね」

江藤「ハハ　出すもん出してスッキリしたようだね　でもマジ良かった　一時はどうなるかと思ったよ」

チコ「それよりこのデカいのは何なんです？」

動じる様子もなく、むしろ冷めた口調で暴れる赤い巨人を指さしたチコ

江藤「見ての通りだよ　鬼ってやつ　あのなまくら坊主が異界から召喚したそうだ」

チコ「ふ～ん」

江藤「マジ？あれ見てノーリアクションって…　驚かないんだ」

チコ「あ～　なんかもういちいち驚くのも疲れました　ここは何でもありですから」

江藤「あ！　う　うん…　まぁ　そうだね」

何だかいつもと雰囲気も勝手も変わったチコに江藤は苦笑いを浮かべた。

チコが棍棒を振り回す鬼をしばし眺めると、静かに口を開いた。

チコ「ねえ江藤さん　合間のあの刀…　あれはあたしが引継ぎますんでもう2度と触らないで下さい」

江藤「え？う　あ…　あぁ　了解」

そしてチコが鞘に指をあてた。

チコ「っで　肝心なあのイケメン僧侶はどこ？」

江藤「それが分からない　でもどこかに隠れてこっちの様子をうかがっているにちがいない」

チコ「そうですか　じゃああのデカブツを見せしめに切り刻んでやれば　嫌でもかくれんぼはやめますね」

江藤「多分…　あ　ちょと　待って」

そう言い放ち、そそくさと歩き出したチコ

チコ「そこで見てて下さい」

そして刀を握りボソッと口にした。

チコ「とことんやってやろうじゃない…」

あらゆる雑念が吹き飛び、覚悟を決めた面構えのチコが視界を失われ、乱暴に振り回す赤鬼を目にした。

そんな赤鬼をターゲットに低い姿勢を取り、抜刀の構えに入った時だ

あれだけ荒れ狂う赤鬼の動きがピタリと止まった。

鍔を親指で押し、いつでも抜ける姿勢で突然動かなくなった赤鬼を静眼するチコ

江藤もゆっくり近づき、チコの隣りにつけた。

どうしたんだ…？

いきなり動きの止まった魔人を警戒していると

魔人の身体が徐々に腐りはじめている事に気づいた江藤

江藤「チコちゃん」

それは背中からはじまり、腹、肩へと広がりを見せていた。

チコ「えぇ」

チコもそれに気づいたようだ

またひざまずいた状態の青鬼も腐食しはじめ

2体の身体が腐っていく

そしてその侵食スピードがあがっていった。

みるみる　腐乱し、肉身が粉のように散っていく2体の魔人を凝視する２人

江藤「これは…」

チコ「はい…」

腐食じゃない…　

消滅…

って事は…

ドデカい図体が急速に散りゆき、まるで燃えた紙のようにぽっかり空いた腹部の穴から…

その背後に佇む男の姿が垣間見えた。

広がる消滅のその先から長髪な黒毛、F4も真っ青な美形の顔立ちが徐々に垣間見え、そのキリッとした目つきでこちらを見る男と目が合った。

やはりおまえか…

チコ「どうやらかくれんぼは止めたようですね」

江藤「あぁ」

2体の鬼はサラサラな塵と化し、上体がほぼ消滅

合間の愛刀が地面に落ちた。

そしてスキャットマンの全身が２人の目に映り、口を開いた。

スキャットマン「よもや期待を膨らまし地獄からわざわざ参上させたというのにここまで役立たずとはな…」

江藤「地獄から参上…？　嘘つけ　これはおまえの勝手なイメージで作りあげたものだろうに」

スキャットマン「フフ　例えそれがそうであったとして…　問題でもあるのか？　さほど分界も差異もなければ　おまえらに真実の見分けなどつくまい」

完全に鬼は消滅し姿が消された。

江藤「…」

スキャットマン「それよりもそこの小娘　見事復活を遂げたようだ　嬉しく思うぞ」

チコ「それは　どうも」

スキャットマン「何故ならおまえ等２人は　　この手で自ら冥府に送りたいと願っていたのだからな…　あれしきで挫けてもらっては沸きだつ興も醒め、つまらなくなる所だった」

チコ「…」

江藤「お喋りはそのへんにしろ…　　カモーン」

スキャットマン「蟲つき　先程の変化はどうした？」

江藤「あぁ？　しようがしまいがおまえには関係ないだろ」

スキャットマン「鬼を軽々一蹴したさっきの化け物をもう一度見せろ　あれほどの禍々しい邪気を秘めた蟲　それを今出さずにいつ出す気だ？」

江藤「はぁ？　つ～かおまえなんか変身するまでも無くぶっ倒してやるから　もうそんな御託並べてないでさっさと来いよ」

スキャットマン「哀れな」

スキャットマンが札をつけた掌をある箇所に向け、差し伸ばした。

すると

カタカタ地で揺れ

そのある物が宙を回転しながら引き寄せられ、スキャットマンの手の内に収められた。

それを目にした途端チコの目つきが異常なまでに変わった。

スキャットマン「ほぉ～　素晴らしき逸品」

スキャットマンが手にした物とは…

合間の愛刀　鬼切羽

チコ「触るな」

スキャットマン「長い年月を経て幾千もの怨みや憎しみを吸い取った呪われし太刀　確かに我が繰り出す呪いなど効かぬ筈だ　見事」

チコ「その刀に気安く触るな」

眉間にシワを寄せ、怒りの表情に変わったチコ

スキャットマン「面白い　このかたなでそなたのその首…」

その瞬間

鋭いチコの眼光と共に

スキャットマンの脇腹目掛け振るわれた斬撃

スキャットマンがその尋常じゃないスピードの太刀筋に目を向けるや

逆サイドの頬目掛け同時に放たれてきた斬撃

スパッ

スキャットマンの頭部が横一線に斬られた。

だが…

目を見開くスキャットマンの目尻下から真っ二つに斬られ、ズレると同時に…

瞬く間に身体が砂状へと変化、合間の刀のみを残し2～3メートル後方に浅黒い煙と共に出現させたスキャットマン

合間の刀が地面に落下

チコが最も得意とする防御、回避不能な必殺抜手

幻楼がかわされた…

スキャットマン「フフフ…　ん？」

…かに思われたが

煙と共に現れたスキャットマンの目尻に切れ目が生じていた。

わずかに斬られ、そこから一筋の血が流れていたのだ

スキャットマンが指で触れると指先につく血痕を目にし、チコに視線を向けた。

馬鹿な…