第214話 代表

いきなりの出来事にこの場の誰しもが思わず目を疑った…



美菜萌「…」  御見内「…」



村田「殺ったのか…?」



村田がそうもらした途端 山吹の額から一筋の血が流れ、大事に抱える魔法の本を落下させた。



そして目を開けたまま後ろに倒れた。



エレナ「今よ 投げて」



それを目にしたエレナが叫んだ



ゴーレムはまだ生き、修復は尚も続いている



山口「投げるぞ」



御見内「はい」



そして2人は手榴弾を投げ込んだ



1つはゴーレムの腹の上に転がり、もう1つはそのかたわらで倒れた山吹との間に放り込まれた。



その数秒後



ドカァー ボォオオオ~



エレナ達の目の前で2つの爆発を起こした。



たちまち煙が広がり包まれたエレナが小銃を静かに下ろした。



やった… 



手応えありの爆発を前にしばし肩の力を抜いたエレナ



すると



村田「なぁ どうゆう事なんだか説明しろ 奴は変なバリヤーを張ってた筈だろ なのに何で…?」



エレナ「うん 私ずっと見てたの それでずっと観察しててある事に気づいたんだ… あいつが呪文を唱え発動させるほんの一瞬だけあの覆っていたバリヤーみたいなのが消える事に」



村田「あのバリアーが?… そうだったのか」



エレナ「うん 二回ともそうで 山吹の耳にヒットさせてもしかしてと思って それでそのチャンスを狙ったんだよ 上手くいった」



村田「気づかなかった よくあん中でそんな事気づいたな」



エレナ「エレナさんは目の着け所が違うって事よ」



エレナがほころぶ笑顔を村田に向けた



巻き上がる煙が徐々に晴れゆく中



山口「ホントに殺ったのか…?」



まだ疑いが残る山口は煙を見つめている



御見内「えぇ 殺りましたよ しかも魔法使いと一緒にね」



そう口にし御見内がエレナの元へと近寄った。



また青木と純やも煙を目にしながらエレナ達の元へと移動した。



御見内「でかしたぞエレナ」



親指を立てる御見内に笑顔を向けたエレナ



エレナ「へへ」



純や「相変わらず凄いねエレナさんは」



エレナ「エヘヘ どうもありがとう」



青木は美菜萌の元へと歩み寄る



美菜萌「大丈夫だった? 怪我は?」



青木「大丈夫 俺なら平気だよ」



美菜萌に寄り添うや青木はまだ信じられないといった様子で煙の先に目を向けた。



あの代表がこうもあっさり死ぬなんてな…



煙は完全に消え、視界が晴れてきた



そこにはピクリとも動かなくなったゾンビで造られた巨大人形の残骸



それとボロキレの様に横たわる山吹の遺体が確認された。



その横では黒こげとなった魔導書の残骸も見受けられ



胸の文字が消えたゴーレムの活動は思惑通りに完全停止



あの本物の魔術師



山吹も死んでいた。



御見内「さてと」



だが… 喜ぶのはまだ早い…



御見内が目を向けた先に



只今激しいバトル中の彩羽と大熊



一同御見内につられ一斉に視線を向けた。



その時だ



村田「お… おい みんな 見ろ」



驚きの顔で村田が指差すや



死に絶えた筈の山吹の骸がモゾモゾと動きだした。



焼け縮れた赤い衣の下で動きが見られ



腹の底から絞る取るように吐かれた低音の唸り声



「うぅ…… ぅぅう」



村田「あいつ くたばってないのかよ…」



狼狽する村田に



エレナ「まさか… 額を撃ち抜いたのよ しかも手榴弾をまともに受けた… 生きてる訳ないよ…」



信じられないといった様子で目を疑うエレナが答えた



村田「なら何で…」



小指から親指にかけ順々に折り曲げられ



喉を震わせた呻き声の声量が上げられる。



やけに簡単に行き過ぎだとは思ってたが…



やっぱそうはいかなかったか…



そんな思いを巡らせ動揺と焦りを見せる青木の腕にしがみついた美菜萌がボソッと口にした。



美菜萌「あれでも死なないの…」



困惑する美菜萌からしがみつく腕に力が込められる



純や「ゾンビ化か?」



御見内「確実にエレナによって頭を撃ち抜かれたんだぞ ありえない」



山口「いや ありえなくは無い」



純や「そうだよ」



山口「頭部が無くなっても復活する変種はいる… 十分ありえるぞ」



純や「あぁ 例の触手パターンがね」



御見内「…」



困惑と焦り顔で目を見張る3人



すると



「うぅぅ… うう……フクク あ~~ 魔術とは偉大だな」



唸り声から急遽言葉を発し始めた山吹



はっきりと言葉が口にされた。



純や「え?喋った?」



ゾンビじゃない…



この場の全員が更に目を疑い…



そしてエレナ達の目の前でゆっくりとその主(ぬし)の顔があげられた。



死した筈の山吹が起き上がってきたのだ



村田「今はっきり喋りやがった こいつゾンビじゃないぞ 最初から死んでないか生き返ったかのどっちかだぜ」



エレナ「…」



ありえない…



何をしたの…?



目つき鋭く山吹に視線を向けたエレナ



山吹「有機体とは… 生きとし生けるものとは… この世の生き物全て… この肉体とはこの内に宿すほんの数グラムの魂の箱に過ぎぬ…」 



はっきりした口調で話しはじめる山吹にエレナ達は注目した。



山吹「…この現界で活動する唯一の道具に過ぎぬ肉体 使い物にならなくなったらそこでゲームオーバー 魂が肉身から離れた時点で死というものが訪れる それがこの世で定められたシステムであり絶対的なルールである それによって肉体は意味を失い 無と化し ただの死骸へと変わる」



殆どが焼けただれ、黒ずんだ皮膚



そんな黒くなった顔の中 白目が不気味に開かれ淡々と言葉を連ねる山吹



山吹「だが私程の最高級な魔術師ともなればそのルールを逸脱する事もまた可能…」



喋りながらズタボロな身なりでゆっくり起きあがろうとする山吹



山吹「我は生の身死の身を司る操者なるぞ…」



その言葉でエレナはハッとさせた。



エレナ「まさか…?」



村田「え?」



エレナ「ゾンビよこいつは…」



村田「ゾンビ? こいつが?」



山吹「フハハハハハ」



エレナ「あらかじめ自分自身に魔法をかけたのよ」



山吹「ハハハハハハ 左様 己を傀儡する事もまた可能よ」



村田「何だと 己で己を使役したと言うのかよ… マジ イかれた野郎め でも そんな芸当が出来るなら奴は何度でも甦れるのか?」



エレナ「いいえ 少なくとももうそれは無理だと思う なぜならあの本はもう燃えてなくなったから」



御見内「つまり 次仕留めれば完全にこいつは死ぬし 本も無いからもう魔術も使えない… そうゆう事だよな エレナ」



エレナ「そう その通りよ もう1つ加えるなら つまりこいつが復活しようがそのへんのゾンビと対して変わらない もう恐るるに足りない相手って事よ」



エレナが小銃を構えた。



エレナ「つまり もう一度額を貫けば それでジ・エンド… そうじゃないかしら」



そのエレナの言葉で一斉に銃器が構えられた。



村田「ヘッ 脅かしやがって」



エレナ「たいそうな講釈たれようと あんたがネクロマンサーだろうと 復活しようと… 残念だけど もうあんたなんか恐くも何ともないわ またあの世に送ってあげるわよ」



青木も山吹へと銃を向けた。



そして一斉に銃口が向けられ、銃殺しようとした その時だ



山吹「フハハハハハ 甘いぞ 愚か者共め」



山吹が注射器の様な物を取り出し、それをいきなり首筋に刺し込んだ



注射器から注入する山吹を見た美菜萌と青木が血相を変えた。



美菜萌「あれは」



青木「まずいぞ… みんな早く奴を殺せ」



山吹「フククク ハハハハハハハハハハハハ 我は魔の加護を受けし崇高なる魔導士 そしてこれより更なる力を授かり全てを超越する サタンに忠誠を誓う悪魔の一員へと生まれ変わる 私こそ選ばれた悪魔の化身よ」



エレナをはじめ一同が引き金を引こうとした その時だ



ザザザザ



突如床を滑らせながら山吹の背後へと現れた巨体



山吹がその影に包まれた



山吹「ハハハハハハ 我はこの現世で全知全能な存在となり… 恐怖を与える破壊者となるであ…」



次の瞬間



ブチュ



大きな熊の手が振り下ろされ、瞬く間にプレス、一瞬にして潰された。



青木「あ?」



御見内「…」 エレナ「…」



村田「え?」



「グフゥ」



獣から鼻息が吹かれ、潰した相手を見向きもせず少女を威嚇



ゆっくり熊が前進させると、そこにはペチャンコに潰された山吹の残骸のみが残されていた。



呆気ない幕切れ…



思わぬ展開に虚を突かれたエレナ達



山吹は変身もかなわず大熊によって叩き潰された。



こうして殺戮集団のトップはあっさりと戦線離脱され



完全に死んだ



山吹が死んだと同時に各自の目に飛び込んできたのは巨大熊の姿



意識はすぐにこの熊とその先にいる幼き少女へと向けられた。



魔導士は倒してもまだこの熊と少女が残っている…



とくにあの恐るべき少女…



御見内、エレナが少女へと目を向け険しい表情に変わった。



特異感染者だろう バスタードタイプAの少女…



山吹が造り上げた脅威の遺産



彩羽…



エレナが彩羽を目にしながら御見内へと近づいた。



エレナ「こっからが本番だよね どうする?」



御見内「エレナ 今 あいつは熊と激突して戦闘に夢中になってる こっちにとっては好都合 今なら退避するチャンスだ」



エレナ「逃げるって事?」



御見内「あぁ 今こっちには怪我人も妊婦もいる 一旦ここを退こう」



エレナ「それもそうね」



御見内「山口さん 村田さん 臼井さんの奥さんを早く病院に搬送しないといけない ここは一時退却しましょう」



村田「あぁ 異論なしだ」



山口も頷き



山口「吉田 榊原を運ぶぞ 緊急退避する」



吉田「え… あ はい 分かりました」



御見内「純や 退避するぞ」



純や「了解」



御見内「2人もいいね?早織ちゃんを頼む」



青木「うす」



美菜萌「まかせといて下さい」



早織を抱きかかえる青木



重体の榊原を搬送する山口、村田、吉田



妻の手を引く臼井のリードとガードを務める御見内



修羅場から退避行動に移る面々



そしてモンスター同士のバトル中の隙を伺い、御見内達がこのホール内から戦線離脱を図ろうと動き出した



その時だ



シュ



突如ダイレクトに何かが飛んできた



そして



それが輪の中へと投げ込まれ転がってきた時だ



誰よりも早く反応した美菜萌がアイスホッケーのごとくその転がってきた物を木刀で外に弾き飛ばした。



それはスルスル外へ滑らせ



次の瞬間



ドカァァー



爆発を起こした。



投げ込まれたのは小型爆弾



皆爆発に目を向け、仰天するさなか



誰が投げ込んできた…



美菜萌だけが違う方へ目を向けていた。



美菜萌の視線の先にはあの男が映し出されていた。



美菜萌「おまえは…」



そう 離脱を邪魔するかのように立ちはだかる男



ボマー(爆弾魔)ことあの万頭がそこにいた。

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