第212話 魔人

地下ホール



エレナ達一行vs山吹、彩羽vs巨大熊ミナグロ



強引に埋め込まれた無数の目玉が乱雑に動かされ、ゴーレムが一歩を踏み出した



ズシン



巨体の踏み入れで、微かに床が震動



ゴーレムを見上げた御見内が拳銃サクラを向けつつ後退した。



またエレナや純やもバックでしりぞき山口、村田、吉田達も小銃を構えながらゴーレムから距離をとった。



また一歩踏み出され



ズシン



顔部を山口等へと向け、握られた拳を振り上げたゴーレム



村田「くっ」 吉田「わわ」



山口「よけろ」



3人が逃げの姿勢をとった。



その直後 拳が振り下ろされた。



ドカーーーン



地割れで床にヒビが生じ



モンスター級の鉄槌をかわした3人、ペシャンコを逃れた3人は3方行へとバラけて散った。



ハンマーパンチをよけられたゴーレムはのっそりとした動作でその打ち込んだ拳を戻し、逃げた目標を探した。



ぎこちない腕の可動、ゆったりした動作はロボットを思わせる



トロくて鈍そうなロボットを…



だがそれを遥かに上回る圧倒的な体格差とパワーを見せつけるバスタードが寝転ぶ吉田を見つけ、見下ろした。



ギロリと無数の目線が突き刺さり



吉田「わっ やべ」



そして慌てて起き上がろうとする吉田に手を伸ばしてきた。



吉田「わあぁぁ」



伸びてきた影に覆われ、吉田が叫び声をあげた。



次の瞬間



純や「フン」



バコン



脚部に金属バットが打ち込まれた。



渾身のフルスイングを受け、くの字に折れたゴーレムはバランスを崩し



ズシン



片膝をつけた。



そしてよろけ、両手を着かせた。



その隙に駆け寄ってきた御見内と山口が吉田をそのまま引きずった。



片膝、両腕を着けたゴーレムが今度は純やに目を向け、目を付けるや



ブン



ぶっとい腕を振るってきた。



掬い取ろうとする巨大な腕を難なくバック回避した純や



空振りしたゴーレムは勢い余り肩から崩れ落ちた。



ドスン



青木「馬鹿が 自滅しやがった っであれの対策は思いついたか?」



御見内「いや ない」



青木「ったく考えとけや…」



御見内「無茶言うな」



村田「とりあえず発砲しか手段はないな」



青木「どう見たって鉛弾が通じる相手とは思えないがな」



村田「策がなければ今ある武器でやるしかないだろう」



山口「弾薬はさっきの生首でだいぶ消費してしまった みんな弾はいくつある?」



村田「あと3つっす」



御見内「俺は中身にあるだけ…2~3発ってところです」



エレナ「私はあと5個あります」



山口「そっちは?」



青木「俺もあと3つ」



吉田「え~と あと… 2つです」



山口「明らかに足りない…」



純やがゴーレムの周りをチョロチョロと動き回り、足止めする光景を目にしながら口にする山口



山口「あの巨体相手に全弾使っても倒せるかどうか… それで枯渇したらその後のあいつらをどうやって対処する」



少し離れた場所で行われる大熊と少女の激しいバトルシーンに視線を移し、また腕を組み、宙に浮かぶ男 山吹に視線を向けた。



高みの見物をきめこむ様子に山口の眉はピクリと動き、険相を浮かべた。



村田「でもあのバスタードに物理的ダメージを与えるのは銃器しかないない…」



山口「手榴弾を使おう」



思いついた様子で山口がベストから手榴弾を取り出した。



山口「俺は3つ持ってる みんなあるだけ出してくれ」



その言葉で探す一同



村田「2個ありました」



御見内「持ってない」



エレナ「私も」



吉田「自分1個持ってます」



山口「そっちは?」



青木「ない」 美奈萌「私もありません」



山口「全部で6個か… これっぽっちで倒せるものかな」



青木「なぁ バット野郎が1人であの怪物の注意をひいてくれてんだ やるならさっさとやろうぜ」



山口「あぁ 分かってる」



エレナ「ねぇ あのデカい奴の胸あたりに刻まれた文字が見える」



御見内「文字?」



エレナの発言でゴーレムに目を向けた一同



山口「…」



純やを捕まえようと動き回るゴーレムの胸に刻印された文字に着目された。



美奈萌「…」



吉田「あった あれか」



村田「e…m eth… どういう意味だ」



村田の質問に首を横に振る吉田



御見内「気づかなかったな」



山口「あの文字がどうした?」



エレナ「胸にあの文字が浮かんだ途端あいつは動き出したの 山吹はゴーレムって言ってたわ もし本当にあいつがゴーレムならば…」



御見内「…」



エレナ「あの文字を消せば奴の活動はストップする… かもしれないわ」



山口「どうゆう事だ? あの胸の文字を消せばって そうすればあの化け物を倒せるのか?」



エレナ「多分ね 人がまだ機械に頼る前の大昔 盛んに行われてた有名な秘術がある それが錬金術よ みんな聞いた事くらいあるでしょ その中で生み出された生成の術の1つがゴーレムよ」



村田「おいおい 今度は錬金術の話しかい… ここはマジおとぎの世界かって… いい加減頭痛ぇぞ」



御見内「エレナ 純やは今 命がけで時間を稼いでるんだ 簡潔に要点だけを話せ」



エレナ「うん わかった ようはあそこの頭文字を消せばいいって事」



美奈萌「つまりあのeを消せばいいわけですね」



エレナ「そう」



山口「なるほど そうと分かれば試してみるか みんなそれでやってみるが異論はないな?」



全員が頷いた。



山口「さて じゃあ作戦は決まった 誰か1人 純やに加わって陽動の方を頼む」



美奈萌「あ はい わ…」



美奈萌が手を挙げようとした時



青木「俺がやる」



先に手を挙げたのは青木



美奈萌「え?」



青木「いいよ 俺がやるから」



美奈萌「…」



それに対し美奈萌は素直に手を下ろした。



山口「よし 頼むぞ 可能ならばもう一度あの化け物を這いつくばらせてくれ そこにこいつを投げ入れる」



青木「分かった 努力してみる」



山口「それともう1人… 誰か手伝ってくれ」



御見内「俺がやります」



手を挙げた御見内に3個の手榴弾が手渡された。



山口「これはM26手榴弾 これの起爆にはまずそのピンを抜く、それからそのレバーを引くんだ その5秒後に爆発する」



御見内「大丈夫です 使った事ありますんで」



山口「そうか よし やるぞ」



すると



一足先に飛び出した青木がゴーレムに向かって走り出す



それから慎重な足取りで前進をはじめた御見内と山口の2人



それを固唾を呑んで見守る一同の中



エレナはふと背後にいるあいつに視線を向けた



世にも奇妙なバリヤーに包まれ、舞空術で観戦をきめこむ赤い衣の男 山吹に…



ただボォーと見てるだけとは思えない…



あいつがこの作戦の意図を知れば必ず邪魔してくる筈…



邪魔なんかさせない… ついでに地上に引きずりおろしてやるんだから…



山吹を睨みつけ、注意を払うエレナが警戒態勢を取った。



御見内、純や、青木、山口の4人によるゴーレム退治がおこなわれる。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



創造結界内



江藤、チコ、合間、石田vsスキャットマン



江藤「へっへへ 逃がさないよ」



スキャットマン「のれぇ 図ったかぁ」



その通り… 引っかかったね… 全て注意を引かせる為の罠だよ…



スキャットマンが瞬間移動で逃れようとするや



スキャットマン「ぐぉ」



腰に巻きつく触手が締め上げ、それを阻止、スキャットマンが苦悶の表情を浮かべた。



江藤「いまだ ゴー」



その掛け声で煙りの中から飛び出し現れたチコと合間



チコ「ジャッジャ ジャジャ~~ン」



抜刀の構えで接近



合間が浮遊する光輪目掛け刀を抜いた。



乱斬りの心得… 無刀鳥舞…



シュパ



横一線に閃光が走り、光輪が一刀両断された。



そして呪札が斬られ1つの輪が消滅される



スパ



次いで目にも止まらぬ太刀筋で斜めに裂いた札



続けて光の輪が消された。



またチコも斬撃を繰り出し一気に2つの輪を切り裂いた。



そんな光輪排除に動く2人が次々と輪を消し去るさなか



チコがふとスキャットマンの後ろ姿に目を止めた。



無防備でガラ空きな敵…



今ならチャンスとスキャットマンの背後で足を止め、抜刀の構えを取りはじめた。



あたし程の達人ともなればね…



滝… 川のせせらぎだって斬れるのよ… それは煙や砂もしかり…



あんたがヘンテコな術で砂や煙になろうとね…



それをチラ見した合間が叫んだ



合間「お嬢 待ってくだされ」



裏式一刀… 神威の心…



水簾を裂く物打ち…



だが合間の制止に耳を貸さず、心の内で必殺刀技を唱えたチコが真刃を繰り出した。



シュパ



真横に閃光が駆け抜け、肉を斬る感触



手応え有り…



チコが仕留めたと そう思った矢先にそれは起きた。



チコの目に…



スキャットマンである筈の後ろ姿が合間と入れ替わり映し出されていたのだ



チコ「え!」



合間「ゴボォ」



すると



スキャットマン「愚かな娘よ…」



江藤「なっ」



カッと江藤が目を剥いた。



チコが振り向くと合間がいた筈の位置にスキャットマンが転身しているのだ。



スキャットマン「今おまえが切り捨てた相手とは誰ぞ…」



そしてハッとさせたチコが今斬った相手の背中に目を向けた。



チコ「うそ……な なんで?」



合間を… あたしが斬った…



合間の身体にくっきりと斬れ線が生じ、そこから滲んだ血



スキャットマン「その巨漢な侍は一度我が術中にかかった身…」



合間「ガバッ」



スキャットマン「再びハメるのはたやすい事」



触手に巻かれ、大量の血を吐き出した合間の身体に…




江藤「なんて事だ…」



それを目にした江藤は唖然とする



チコ「う… うそ…」



またチコも信じらんないといった表情を浮かべ、頭の中が真っ白になった。



スキャットマン「これぞ移し身の法術よ」



上腕部の切れ目から血が溢れ、腕がボトリと落下



また2人の目の前でたちまち胴体がズレ落ち、上半身と下半身がきれいに一刀両断された。



チコ「いや… ご… ごうまぁぁぁ~」



叫んだチコは愛刀を放り捨て



切断されても尚 まだ微かに意識を残す合間を抱え込んだ



チコ「やだ やだやだやだ あ… あたしが… なんて事を」



うろたえ、涙目で震えるチコに



合間「ゴボォ …嬢 不覚… これは…ボゴォ…おのれの責任ですので…気になさ… ガバァ」



吐血され、言いかけたまま…



目を開けたまま…



合間が絶命した。



チコ「ぅううぅぅ」



死に目を看取ったチコが合間の胸に顔をうずめ、すすり泣いた。



江藤は顔面蒼白でその光景を見つめていた。



だが徐々にこみ上げてきた怒りの感情に作用され蒼白から一気に赤みを帯びてきた。



江藤「やってくれたな… このかりはデカ過ぎだかんな…」



そう呟いた時だ



スキャットマン「剣の道を極めた天才剣士 超越した剣客とて所詮は人の子か…」



スキャットマンの声が響き、江藤が目を向けるとその場から奴が忽然と姿を消していた。



スキャットマン「その程度で心を掻き乱すとは嘆かわしい… 所詮はその辺にいる小娘と変わらぬという訳か…」



どこにいる…?



辺りを見渡すがスキャットマンの姿は無く声のみが聞こえてくる



チコ「ぅぅぅぅぅぅう」



スキャットマン「言っておくがこの領域は私が作り上げたもの 我が支配する結界のテリトリー内だという事を忘れてはおらぬか そしておぬし等はこの手の内に捕らわれた 獲物に過ぎぬと言うことを… この領域で我にたて突くなどかなわぬ夢よ この結界内で人知れず死んでいくという事も忘れて貰っては困る」



チコ「ぅぅうう ぅぅぅ」



どこにいるんだ…?



スキャットマン「つまらん嘆きを見せる必要も無い 何故ならすぐにそのサムライのあとを逝くのだからな… それにほれ 蟲使いよ 気を抜くのはまだ早いぞ」



すると



江藤の目の前で空間に波紋が生じ、突如ニョキっと錫杖が飛び出してきた。



江藤「なっ」



その上には石田の生首が置かれていたのだ



江藤「石田さん!」



そしてスゥーと錫杖が空間に戻され石田の首がボトリと足下に転がされた。



江藤が視線を向けると直立のまま切断された首からピューピューと血を吹き出す石田を目にした。



白目を剥き、目、鼻、口から血の垂れた石田の首を見下ろすと…



バタン



石田の亡骸が前に倒れ込んだ



スキャットマン「フハハハ どうだ?仇なす気力も消え失せたか? この空間では我は絶対… 無敵なり ほどよい絶望に抱かれほどよく挫けたか…」



絶句する江藤にスキャットマンの嘲りの言葉が浴びせられた。



スキャットマン「さて 畳かけにとっておきを拝ませてしんぜよう」



すると



マグマ煮えたぎる淵から突如腕が飛び出し、何かが這い上がってきた。



しかも2体



頭に1本の角と3本の角を生やした者達が現れ、顔が出された。



赤色の肌に青色の肌



棍棒を握り締め



日本昔話でよく登場するあの架空上の魔人が溶岩の中から這い出てきたのだ



スキャットマン「数々の言い伝えやおとぎ話に登場する もっとも有名な魔人 冥府の番人…」



身の丈3メートルはある2つの巨体がマグマの中から現れた。



スキャットマン「赤鬼様と青鬼様に御召喚いただいたぞ」



江藤「嘘だろ…」



スキャットマン「フハハハハハハ 我が創造結界内では自由自在なり…魔人様に屠っていただけ」



人智を遥かに絶するあやかしの術を前に…



次々と起こる想像を絶した光景に江藤は言葉を失った。



ーーーーーーーーーーーーーーーー




同じく結界内



海原、三ツ葉、中野、七海vs月島



笑い声も無くなり



見る影も無く頭部が完全にイソギンチャクのように形が変わってしまった月島



天頂の口盤が不気味に開閉、無数の細かな触手が揺らめき、体中の刺胞が息づき膨張収縮を繰り返している。



また棘状に突起物が生えた腕、両手もイソギンチャク化し波打つ細かな触手に覆われている。



ヘソから上をおぞましく変えた月島が踏み出し、片腕を向けてきた瞬間



口盤から液体を射出、吐き出されてきた。



海原「よけろ」



遮蔽物なき場所で放射状に排出された液体をよけた4人



2 2で左右へとバラけた。



バシャ~



床に液体がかかり直撃は免れたが飛沫が飛び散り、それが中野の衣服にかかった。



床は瞬く間に溶けはじめ



また中野の衣服が猛烈な勢いで溶けてきた。



中野「わ やばやば かかった 七さん やべ 助けて助けて 脱がして 脱がしてくれぇ~」



みるみる溶けていく迷彩服を目にした七海が急いで中野の衣服を脱がしはじめる



中野「七さん 早く早く」



七海「分かってる 暴れないで じっとして」



焦り顔で1つ1つボタンを外すや、溶解が皮膚まで到達寸前



中野「ぎゃゃ~ あちぃ~ 早く脱がしてよ~ 早く~」



七海はブチブチと一気にボタンを剥ぎ取り、脱がせると、中のTシャツも強引に引きちぎった。



そしてそれを放り捨てた。



煙りが昇り、無残に溶かされていく迷彩服と下着



ほんの表面のみが焼け爛れただけですんだ腕を目にした七海



中野の足腰がガクンと沈み込んだ



七海が咄嗟に肩を貸しそれを押さえた。



七海「ちょ しっかりして」



中野「…」



七海「うっ ちょ ちゃんと自分で歩いて…」



頭(こうべ)が垂れ、力の入らぬ脚、戦意喪失でうなだれた中野を運び、後退する七海がいまだ溶けゆく衣服をチラ見した。



後数秒遅れていればそのまま腕までもってかれたに違いない…



しぶきがかかっただけでこの威力って…



どんだけ強力な酸なのよ…



考えただけでもゾッとする光景に青ざめた七海が必死に中野を運んでいく



また海原が2人の元へ駆け寄ろうとした時だ



三ツ葉「また打ってきます」



クリーチャーが今度はこっちにそれを向けてきた。




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