第193話 足留

ガシャン ガシャ



銃口を鋭い視線で狙い定める先頭の3人



鈴木「おい そこの 立ち止まれ」



ガシャ カシャ



するとすんなり言うことを聞き、立ち止まった鎧の者



鈴木「おかしな格好してるな おまえが今やった犯人か? まずは名を名乗れ」



「え~ はい 初めまして 僕の名前はチャッキーといいます」



子供…?



いや… 身の丈180くらいある…



まるで子供のように声変わりしない高い発声



エレナ「…」 山口「…」 青木「…」



村田「銛を投げたのはおまえか?」



チャッキー「うん あ 2回共ちゃんと当たったんだね 良かった良かった」



村田「テメェ~」



チャッキー「あ お兄さん達あのデッカいお屋敷に向かおうとしてるんでしょ?」



山口「あぁ そうだ」



チャッキー「あ ごめんね それは出来ないよきっと もう諦めて 僕達と遊んでってよ」



村田「僕達?」



チャッキーが顔を覆う兜 ベンテール(面頬)を下げ、ホイッスルを口にした。



そして ピィィィ~~~~~~



笛の音が森に響いた。



次の瞬間



笛の音が合図なのか? 物陰から人影が現れ



エレナ達はいつの間にか囲まれていた。



「ゲッヘヘヘ」 「フヒヒヒヒ」



薄気味悪い笑い声が周囲から聞こえ



エレナ達は周回を見渡した。



榊原「なんだあいつら… 沢山いるぞ」



純や「いつの間に… 隠れてたのか?」



青木「こんな人数に気づかないなんて」



美菜萌「…」



エレナ「罠ね 狙ってたとしか思えない」



ざっと見渡し、100名近い町民がそこら中にいる



距離はあるが確実に包囲されている。



「シッシッシッ」 「ヒヒヒヒヒ」



走って襲いかかって来る事もなく



その包囲をジリジリと狭めながら迫り来るイかれた町民達



チャッキー「さぁ これで死に場所は決定されましたよ もう一度このホイッスルの音を鳴らせば 奴隷達が一斉に襲いかかってきて皆さんジエンドとなります そこで1つどうですか? 襲われる前に誰か僕と決闘してくれませんか? もしこの僕を負かせればここを通ってもいいよ」



村田「決闘だ? 誰がテメェーなんかと」



タァン



村田が1発引き金を引いた。



ピキュン



だが…



弾丸は兜に当たるも、傷を残す程度



チャッキー「残念 このメイルに銃弾は効かないよ」



村田「クソったれ」



山口「ここを通して貰う」



チャッキー「じゃあ まずはあなたが僕の決闘相手でいいんだね?」



チャッキーが山口に向け2本のハルバードを振り回し、構えを取るや



美菜萌「それなら私がやります」



背後から美菜萌が口にし



前に出ようとした時



美菜萌の前に金属バットが伸ばされ、制された。



純や「ちょっと待って いいよ ここは俺がやるわ」



美菜萌「いえ 私がやります こいつは私の仇相手ですので」



純や「いや 待って… 一条さんにはみんなとあそこに行って貰わないといけないから」



純やが顎で屋敷を指し示す



美菜萌「でも…」



純や「それにその武器じゃ鎧にダメージは難しいっしょ」



木刀が指差された。



美菜萌「…」



エレナ「純やさん タイマン勝負なんて馬鹿正直に受ける必要ないよ」



純や「いいかい ちょっとみんな聞いて 今からこいつは俺が相手する 引きつけるから その隙に突破してって」



エレナ「引きつける?」



山口「囮を買って出るのか? ありがたい話しだが周りは敵だらけだ 上手い事いくかどうか」



エレナ「でもあいつが言ってた 町民の方達はあの笛の音が鳴らない限り襲いかかってこないって なら」



鈴木「あんな奴の言ってる事信用出来るか」



エレナ「今や町民は忠実な下僕となってる あいつの言ってる事は…」



純や「とにかく考えてる時間は無い いいからやるよ」



エレナ「そうね でも1人残し…」



純や「いいから 大丈夫」



エレナ「うん…… じゃあ信じる… ここは純やさんにまかせましょう」



村田「あぁ 仕方ない やろう」



ジリジリ接近する町民達の包囲網



山口「そうゆう事らしい」



山口が鈴木と目を合わせ、鈴木がなくなく頷いた。



鈴木「あぁ いいだろ」



そしてみんなに視線を向けるや皆も頷いた。



山口「そっちもいいな?」



榊原「オーケーです」



吉田も親指を立てた。



純や「よし きた じゃあこのグライディエーター気取りの勘違い野郎はまかせとけ」



エレナ「気をつけて あの銛を軽々投げつけてきた相手なんだから よほどの力自慢だよ」



純や「了解」



そして純やが前に出た



純や「ちゅー訳で俺が決闘相手になってやるよ」



チャッキー「はいは~い 簡単に死なないでね」



チャッキーが2槍で構え、純やも両手でグリップを握り締め、構えた。



そして互いに対面、ジリジリ歩み寄った。



その時だ



純や、チャッキー等のすぐ真横の土が急に盛り上がり



ズボッ



突然地中から1本の腕が突き出された



土にまみれ、見たことも無いような虫に食いたかられし腐った皮膚、指先が動かされ…



純やをはじめ、敵であるチャッキー、エレナ達が皆 それに視線を向けた。



すると



ズボッ   ズボッ ズボッ



そこら中、各所で同様に腕や頭部が地中から現れ出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



麻島班



「地球内部の世界 俺はそのアガルタの住民だ…」



バシュ



触手の斬撃で首が飛び



「自慢の単車 SRのカスタムに5000万かかった ダートトラック仕様でスカチューン済み これぞミカエルズハンマーだ 幻の7速入りだぜ」



スパ



チコの繰り出す斬撃の一線が首に刻まれ、ゆっくりズレ落ちる



左右から感染者が現れるなり、江藤、チコによって首がハネられていた。



七海「っかし凄いわね あの2人…」



中野「うん なんか別格だね 俺達何もしてない それにあの人の背中から生えてるあれはなに…」



2人の圧倒的な戦いっぷりに圧巻する七海と中野



麻島班はランナーが迫り来る森をスムーズに歩を進めていった。



そして先導する麻島の視界に道路が映るや麻島が停止、皆に止まれの合図を送った。



道路を挟んだその先、入口には見張りをする複数の奴隷達の姿が見えたのだ



江藤「どしたの?」



麻島「前方道路向かいのあそこが例の施設の入口となる…  だが町民達が検問で居座ってる」



すると



チコ「だからぁ~ じゃあ あたしがチャチャっと片付けて来るから皆さんはここで待っててぇ~」



江藤「あ… チコちゃん待…」



麻島「ちょ… あ」



勝手に突っ走って行ったチコ



江藤「そうゆう訳なんで」



チコを追いかけ江藤も飛び出そうとするや腕が掴まれた。



麻島「待ってくれ あれはランナーじゃない 行くなら殺さずに制圧を」



江藤「分かってますよ」



そして江藤も颯爽と駆け出した。



江藤「チコちゃん 斬殺はNGだよ いいね?」



チコ「はいよ~ じゃあ おっさきぃ~~」



中野「あの子… この状況で楽しんでる」



合間「はぁ~~ おてんばにも程が過ぎまする…」



中野、七海が振り返ると背後では顔を覆い嘆く合間を目にした。



チコは疾走しながら刀を鞘に納め、緩やかな坂となる森から道路に飛び出した。



チコ「じゃ~~ん」



そして奴隷達がうろつく道路の真ん中に着地、辺りを見渡しながら薄ら笑いで口にした。



チコ「ヘロ~~」



いきなり現れた女子高生に奴隷達が注目



チコを囲む8名の奴隷の内の1人が特殊刀剣フェザースタッフで斬りかかろうとするや



バシバシバシ バシ



左下腹部 右脇腹 右頬 右頬



目にも止まらぬ打撃が繰り出され



4連発 叩(はた)かれていた。



奴隷は白眼を剥き、失神



両膝を落とすや間髪入れずに特殊刀剣ブラインドエストニックなる武器を手にする奴隷の懐へと入り込んだチコ



突きの心…



雷鳥…



バコォ



そして鞘が被されたままの刀の突きが喉元を直撃



奴隷は吹き飛ばされ、アスファルトを転げた。



とても女子高生から繰り出されたとは思えぬ、重い一発



転げた奴隷は泡を吹きながら既に気を失っていた。



戦斧ブローバ、棍棒トゥハトゥハを手にした奴隷が一斉にチコに襲いかかろうとした瞬間



今度は殺さずに戦意を奪え…



シュ



森の中から2本の触手が伸び



ボカッ ドスッ ドスッ ドカッ



水月(みぞおち)に打撃が打ち込まれ、4人の奴隷達が倒された。



それから



江藤も道路へと飛び降り、奴隷の前に降り立つや



バコォ



頬を殴りつけ



また その横にいる奴隷の頬にも



バコ



パンチを喰らわせ



2人揃ってバリケードの角に頭を打ちつけ、崩れ落ちた。



見張りの奴隷達8名を一瞬にして屈服させた2人



チコ「もう終わり? 物足りないな」



江藤「終わりました いいですよ」



江藤が皆を手招きする



七海「ヒュー 鮮やかね」



そして麻島をはじめ、一同が道路に降りてきた。



道に倒れ込み、ピヨった奴隷達を目にする海原



1人も殺す事なく制圧… 銃器も使わず… これを短時間に、しかも簡単に成し遂げるなんて…



これが殲滅隊の… 実力か…



驚きの表情で見渡した



また及川、南、恩田も倒れた奴隷達を見渡し



パチ パチ パチ



軽く拍手する三ツ葉



三ツ葉「いやはやお見事ですね むしろお二方だけで私達など必要無いのではないかと」



チコ「ねぇ~~ 歯ごたえが全然無いんだけど まさかこの先もこんな感じなのかな?」



三ツ葉「ハハ 頼もしい限りの言葉ですね むしろそうあって欲しい」



合間「お嬢 いけません 過信してはいけないといつも申してる筈です いつなんどき…」



チコ「あ~~ もういい はいはい」



ウンザリした顔でプイっとさせたチコ



合間「お嬢 待って下され」



チコ「もう~ あっちいけ」



合間「そうはいきませぬ 私目はお嬢を教育、指南する義務がございまする故に」



三ツ葉「ハハ 刀刃隊の隊長もお目付の前では形無しですか」



チコ「合間ついてこないで」



江藤「っで ここが入口って事はこの先に目的地があるんだよね」



麻島「えぇ この先3キロ程歩くと敵陣地 サタナキアと呼ばれる大きな工場がある」



七海「え~ またそんなに歩くの」



石田「文句言わずに歩くんだよ七海」



七海「え~」



海原「隊長 随所に監視カメラが設置されてますし警備の町民もうろちょろしてるかと 真っ直ぐ突撃か サイドから迂回しつつ周り込むか どうしますか?」



江藤「そりゃあ勿論…」



その時だ



ガァ~~ピィ~



いきなりスピーカーが作動



「諸君 よく来たな さぁ このまま入って来い 歓迎するぜ」



スピーカーから吐き出された声にチコ、合間がピタリと動きを止め耳を澄ました。



またこの流れるアナウンスを聞いた途端



三ツ葉の表情が険しくなった。



三ツ葉「月島」



月島「さぁ 早く中に入れ 罠や仕掛けがあるんじゃないかと心配してるなら安心しろ そんな小細工は無い 堂々とこの道を来たらいい」



海原「隊長…」



麻島「あぁ」



茅ヶ崎、石田、東條も顔を見合わせ、耳を傾けている



チコ「挑発ですか いい度胸ね」



チコも目の色を変えた。



月島「どうした? 何を躊躇してるんだ なぁ~ 麻島よ なぁ~三ツ葉よ 俺を殺りたいんだろ? 俺を逮捕したいんだろ? なら躊躇せず早く来い 俺ならここにいるぞ」



七海「真っ正面から来いだなんて罠に決まってる」



三ツ葉「…」



月島「待ってるぞ バチバチにやろうぜ」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



広範囲な地中から這い上がってきたゾンビ



エレナ達周囲にも奴等が這い出てきた。



「うぅぅぅぅうう」



腐った肉に土がこびりつき、得体の知れない虫に蝕まれた動く屍



いきなり現れた奴等の群れに一同茫然と眺めているや



這いつくばるゾンビに足首を掴まれた吉田



吉田「わぁ」



そしてゾンビが吉田の足首に噛みつこうとした。



その間際…



パス



榊原が発砲、頭を撃ち抜かれたゾンビは足首を掴んだままあの世に逆戻りした。



榊原「ボォーとするな」



吉田は振り払い



吉田「海外の墓地じゃあるまいし 何で土から奴等がこんなに…」



パス パス



榊原「いいから 撃て」



吉田「はい」



パスパス パス



思わぬゾンビ出現によそ見する純や



すると



シュ



一本の斧槍が純や目掛け振るわれた。



キーーン



バットでブロックされ、金属音が鳴り響く



純や「おいおい タイマンの決闘とか言っておきながら不意打ちとかズルくねぇ」



チャッキー「後ろでまだかまだかと順番待ちしてますからサクサクいかなきゃでしょ」



純や「いやいや 俺で終わりだから つ~かこっちの台詞だから」



純やvsチャッキー



純やが槍を振り払い、踏み込んだ



だが…



シュ



もう一本のハルバードが振るわれ、純やは仰け反りそれを回避



ブン



続け様 今度はハサミ打ちで2槍の斬撃を振るってきた。



純やはそれもバックステップで回避、後退と同時に前に出ようとするや



シュ



今度は槍の突きが放たれ、純やは頭を下げこれも回避



シュ



連続の突きが打たれ、それはバットで弾いた。



キーーン



再び金属音を奏で、純やは距離をとった。



なるほど…



長く重い斧槍を棒でも振るうかのように軽々と扱うか…



確かに力には自信があるようだ…



だけど…



チャッキー「へぇ~ 中々やるじゃないですか 普通なら今ので終わりなんですよ」



純や「そりゃ~あ どうも」



純やが再びバットを構える



チャッキー「じゃあ次は僕からいきますよ」



シュ



チャッキーが前に出ながら今度はクロスからの斬撃を放ってきた。



純やは屈み込み、頭を下げてそれを回避



シュ



次に頭上から鋭い斧の刃が振り下ろされた。



ガチーーン



三度 激しい接触音が鳴り、純やがそれをバットで受け止めた。



純やの脇がガラ空きとなり



チャッキーがもう一本のハルバードでその箇所を狙った。



フフッ



お留守ですよ…



はい まずは1人目頂きま~す



そして脇目掛けハルバードを振るおうとした



その刹那



ビリビリビリビリ ビビビビ



チャッキーの身体中に電撃が走った。



チャッキー「ぬくくくぐぅぅ な…なにこれ… うぐぉぉお」



電気が体内を駆け巡り、満足に指も動かせぬ強烈な通電



チャッキー「な… んんん…」



純や「茶番はおしまい どうよ たまんねぇだろこの電気ショック」



チャッキー「で…ん き うぐぐぐぐぐぅぅ」



純や「今の内だ みんな行って」



チャッキーの足止め成功を目にした一同



山口「よし 行くぞ みんな続け」



村田「今の内だ そこぉ 行くぞ もうゾンビなんか放っておけ 早く来い」



電撃で身動き出来ぬチャッキーの横をすり抜けて行く山口、鈴木



次いで村田が通り過ぎ、美菜萌と青木が純やの横を通り過ぎていく



その間 美菜萌と目を合わせた純やが軽く頷いた。



エレナが純やの背後で止まり



エレナ「純やさん 1人には出来ない 私がバックアップするからまかせて」



純や「いい エレナさんも早く行って」



その間に通り過ぎて行く榊原、吉田、臼井



エレナ「駄目だよ いくら純やさんでも周り中ゾンビだらけ、町民だらけなんだし」



純や「大丈夫 1人で何とかする メインがあそこに行かないでどうするよ さぁ 早く行って」



エレナ「何言ってんの 流石に1人だけ置いて行けないよ」



純や「ハサウェイさんを救出するんだろ? なら行け 行って早くハサウェイさんを奪還してきてくれ」



エレナ「まさか カッコつけて死ぬつもりじゃないよね?」



純や「ハァ? まさかぁ すぐにこのグラディエーターもどきをぶっ倒したらあとを追うよ」



エレナ「ホントなの? 約束よ?」



エレナの他 みんなが通過し屋敷へ向かう後ろ姿を目にした純や



純や「当たり前っしょ 久々会いにきたのにハサウェイさんのツラも見れないで死んでたまるい それよか俺が行くまでに助け出しといてよ」



エレナ「うん… 分かった それはまかせといて」



純や「じゃあ のち程ね」



エレナ「うん 絶対だよ のち程」



純や「よし ゴー だ」



純やの掛け声でエレナも走り出した。

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