第184話 仕掛

バスタードの後ろ姿



Tバックから丸見えなキュッと上向く羨ましいヒップ



スラッと伸びる美脚に砂時計のようにくっきりヘコみ、くびれたウエスト



文句なしな女性の理想像



そんな完璧なプロポーションの身体は生々しい流血にまみれ、全身赤色に染めあげられていた。



そんなバスタードの眼前には壁に押し当てられた御見内、豊満な胸に吸いつき、その腕から逃れようと宙ぶらりんな脚をバタつかせ、足掻いているエレナの姿があった。



エレナは掴まれた腕を何度も殴打し引き剥がしを図るが一向に離れる気配は無く、バスタードが握力を込める度、苦痛の表情を浮かべた。



また壁に叩きつけられた御見内は膝を落とし、エレナ同様苦痛の表情でバスタードを見上げた。



ギロリと目玉が動き感情無きまなこで御見内、エレナと目を合わせたバスタード



御見内「くっ」 エレナ「…」



2人は同時に銃口をバスタードへと向けた。



だが…



エレナ「あぁぁ」



御見内「ぐはっ」



膨む胸が握り潰されそうな程の力が再び込められ、銃口は下がり



また手首から喉笛へと掴み変え、壁に叩きつけられた御見内の銃口も下げられた。



御見内、エレナは脚の浮いた状態で壁に押し当てられた。



御見内「ぐぐぅ くっ…」



エレナ「こい…つ おっぱい潰れちゃうよ あ…」



そして



苦しむ2人を交互に見渡し、おっさん顔のバスタードが開口した。



「生け捕り完了 これより生命は維持しつつ活動不能状態に致す」



低く機械じみた声音を発する操り人形



胸に力が加えられエレナが悲鳴をあげた



エレナ「あぁぁあ~」



そして力が抜けエレナの手からマカロフが落ちた。



また首を鷲掴まれた御見内の方にも力が込められ



息もかなわず辛そうな表情になりながらエレナを横目にした。



エレナ…



壁に押し付けられ身動き出来ない2人



御見内がバスタードへと目を向けた。



このままじゃ2人して殺られる…



バスタードの生気の抜けたまばたき1つせぬ目を…



血まみれで無表情なおっさんと目を合わせた御見内



バスタードが御見内と冷徹な視線を合わせるや喉笛を締め付けながらおもむろに引き寄せた。



頭部を叩きつけるつもりのようだ



グリップを握ってるのが精一杯な御見内の手はプルプルと震え



意識が薄れゆく中



ジッとロボットのような空虚な眼差しで見つめるバスタードが渾身の力で壁に叩きつけようとした



その瞬間



タン タン



トリガーが引かれ、発射



89式小銃から銃声が鳴り響き、バスタードの右膝へと着弾された。



銃撃を受けたバスタードの視線が下向き、ほんの一瞬膝を覗き見した次の瞬間



バスタードが視線を戻したその時だ



眼前には小銃の銃口が向けられていた。



タタタタタタ



そして超至近距離からの連射



顔面修羅場な蜂の巣で被弾したバスタードの顔部が反り返った。



御見内の喉輪を絞める手、エレナの胸に吸引する手が離れ、仰け反り、後ずさるバスタードの上半身に御見内が更に撃ち込んだ



タタタタタタタ



胸や腹に無数の穴が開き、飛び散る流血



ガチガチ



弾切れを起こしたと同時にバスタードはひっくり返り、倒れ込んだ



御見内「エレナ」



エレナ「ねぇ 道 私のおっぱい萎んじゃってないよね?」



女の子座りでへたり込んだエレナが御見内の手を掴み、自身の胸を確認させた。



御見内「大丈夫 萎んでない」



仰向けで倒れた人形を目にしながらそう答えた。



そしてエレナを即座に起こし



御見内「行こう」



エレナ「やっつけたの?」



御見内「分からない」



エレナ「じゃあトドメ刺さなきゃ」



壁に立て掛けた小銃を手に取ったエレナへ



御見内「いい とにかく逃げるぞ」



御見内がそのままドアノブを捻り廊下へと飛び出した。



扉が開かれ、御見内が顔を出すや否や



タタタタタタ



プュン ピキュン ピン



御見内「チッ」



御見内が舌打ちで顔を引っ込め、鉄扉に数発もの銃弾が撃ち込まれた。



廊下で待ち受ける、黒フードからの銃撃だ



黒フードは片膝をつけた膝射の構えで狙い定め、何やら無線端末でやり取りを行っていた。



御見内「ザコがいた事忘れてたよ エレナ 仕留められるか?」



エレナ「うん まかせて」



倒れたバスタードの様子を伺いながらエレナに命じる御見内



御見内「…」



エレナは小銃を身構え、軽く息を吐いて飛び出すタイミングを伺った。



「えぇ… 2階です 間違いありません…… そうです ちなみにガキは見当たりません はい2人だけです 現在人形に捕獲させてる最中です えぇ 分かり……」



タァン



交信途中 黒フードの後頭部から突如血が吹き出した。



フラついた黒フードの額には穴が開き、目を見開いたまま前方に倒れ込んだ



狙いも距離の調整もままならない状態からの一発必中



エレナが1発で黒フードを沈めていた。



エレナ「道 仕留めたよ」



御見内「あぁ よし 行こう」



部屋で倒れるバスタードを再びチラ見



動く気配が見られない…



死んだか…?



そんなピクリとも動かぬ姿を目にしドアが閉められた。



そして2人は廊下を駆け足で移動した。



死体と化した黒フードを通過中、御見内が死体から銃を拾い上げた。



それは AKー12突撃銃



ガチャン



御見内が小走りでマガジンを抜き取り弾薬をチェック、再装填させながらそのまま廊下を抜け、非常階段に出るや上下に目を配った。



御見内「大丈夫そうだ 行こう」



エレナ「オケー」



いつ敵と遭遇してもおかしくない危険な階段を2人は駆け上がって行った。



その2人が部屋を出てから2~3分後の出来事…



まるで全身赤のペイントをしたかのように血で染まった女の身体



身体中からいまだ血を垂れ流し、うつ伏せるバスタードの手や足の指先が微かに動きはじめた。



反響する音



5階の階段表示プレートを通り過ぎ、2つの足音が6階へと駆け上がって行った。



御見内「なぁエレナ さっきバスタードが口走った言葉覚えてるか?」



御見内が唐突に尋ねた。



エレナ「うん 私と道の2人が捕獲対象だって言ってた件でしょ」



御見内「あぁ 何故かは知らないが生け捕りのターゲットに俺達2人が指名された…」 



エレナ「狙われる程私達の名が向こうサイドに轟いちゃったんじゃないかしらね」



御見内「随分あっけらかんとしてんだな」



エレナ「あら でもこれって以前に宣言した通りじゃない? 前に言ったじゃない いずれ私達2人の名を聞いて震えあがらせてやるって それだけ私達が有名になった証拠よ」



御見内「なるほどな だがこの襲撃の目的がハッキリした以上 合流すれば皆にも危険が及ぶ」



エレナ「え? じゃあ合流はしないつもり?」



御見内「いや マツさんや隊長等とは一旦合流してこの事を説明しないといけない それに状況も確認しときたい でもすぐに…」



エレナ「ねぇ でもさっきの人形は倒せたんじゃないの? まだ生きてるの?」



御見内「……倒せたとそう願いたい所だが…」



エレナ「あ~あ やっぱトドメを刺しとくべきだった… ある意味キモイ人形だったからね しかも忍法とか言って全然忍法使ってなかったし… 訳わ…」



御見内「…」



ぼやくエレナを尻目に9階へと差し掛かった時だ



踊り場で急に立ち止まった御見内の背中にエレナが接触した。



エレナ「わぁ 何 急に止まって」



御見内「…」



御見内が見上げる先



9階から10階にかけての照明が落ちていた。



暗がりとなる階段を見上げ、動きを止めた御見内にエレナが口にした。



エレナ「どうしたの? まさかおばけが出そうで怖いとか?」



御見内「何かおかしくないか…?」



エレナ「何が? ただ照明が切れてるだけでしょ 電球切れじゃん」



御見内「電球切れ? ここは新築だぞ」



エレナ「ならここだけ消されてるだけでしょ 考え過ぎよ さぁ 早く行こうよ」



エレナが足を踏み入れようとするや



御見内「エレナ いつからそんな鈍感になったんだ? 何だかおかしい」



エレナの腕が掴まれた。



エレナ「何が? ただ電気が消えてるだけだよ 上も下も照明は点いてるんだし 平気だって」



エレナが螺旋状の手摺から上下を見渡した。



御見内「…」



ただ消えてるだけなら勿論問題は無い…



ただ照明が落ちてるだけならば…



だが 妙な違和感を感じる…



こう嫌な感じがした時は決まって何かある…



御見内「何だか臭う… まずは調べないと」



エレナ「臭うって それって」



御見内「あぁ お決まりのトラップだよ 明かり貸してくれ」



エレナ「トラップ? うん… スイッチは無いの?」



エレナが照明スイッチを探すが…



何処にも無い

 


御見内「無いよ 全ての階が連動してるタイプだろう 一カ所だけ消す事は出来ない っとなれば故意に消されてる可能性が高い」



エレナが小銃に取り付けられたライトを点け、御見内に手渡した。



御見内「ワイヤーならいいんだがな」



それを受け取り、暗い階段を照らした



その時だ



バタン



下の階からドアの閉まる音が響き渡り、エレナが手摺から顔を覗かせ、見下ろした。



すると



エレナの瞳にこちらを見上げる奴の姿が映し出された。



エレナ「道… ヤバいよ…」



御見内も手摺から下を覗いた。



顔はほぼ崩壊しつつも、こっちを見上げる赤色に染まった人間



バスタードだ



エレナ「急いで」



御見内「クソ…」



「御用だ 御用だ 天地神明に誓って捕獲いたす」



血みどろな顔部の中、うっすら開かれた左目の眼球が2人を捉えるやバスタードが動き出した。



エレナ「道! その銃貸して」



御見内がAKライフルを放り投げ



それを受け取ったエレナが即座に手摺から身を乗り出し、構えた。



ほぼ垂直に向けられし銃口



下方に狙いを定めるやその先からバスタードが這い上がってきた。



階段を登るのでは無く、真ん中の吹き抜け空間を手摺を伝いながら一直線に這い上がって来ているのだ…



トカゲのような動作、不気味な目で見上げながらバスタードが迫って来る



エレナは片目を瞑り、顔面に照準を合わせるや一発発射させた。



タァーーーーン



反響し数倍にも感じる爆音の銃声が鳴り響くもバスタードは素早くサイドへ移動、肩に被弾しながら階段に逃れた。



マジ…? 今のを避けたの…



普通なら確実に顔面を貫いていたが人間離れした直進移動からの急激な横移動でポイントを外され、エレナは戸惑いを見せた。



でも完全に外した訳じゃない…



次は仕留めてやるわ…



エレナは全神経を注ぎ、階段死角に逃げ込んだバスタードを探した。



エレナが迎え撃つその背後では、トラップを探す御見内



見落とさぬよう一段一段ライトを照らし慎重な捜索にあたっていた。



すると



ライトに一筋の反射



御見内が覗き見するとそこには極細なワイヤーが張られていた。



思った通りだ…



読み通りトラップらしき物を発見した御見内はワイヤーを光で辿った。



ワイヤーは壁を伝い、踊り場の天井まで繋がっている。



そして天井を照らすとそこには手榴弾らしき物がぶら下がっていた。



やっぱりあった…



ワイヤー式の簡単な手榴弾トラップが仕掛けられていた。



子供騙しなトラップだな…



そう思った矢先



ん…?



ワイヤーが更に続いている事に気づいた御見内が更に光で追った先



急激に御見内の眉間にシワが寄せられた。



何だこれ…



ざけんなよ…



手摺という手摺の格子に複数の手榴弾が設置され、回避不能な程のワイヤーが張り巡らされていた。



しかも10階踊り場の側壁には爆弾らしき物まで設置されていた。



カーキ色の器にはSemtexの文字



セムテックス…



クソ…



プラスチック爆弾かよ…



時間が止まったかのように動きを止めた御見内



ワイヤーに1つでも触れればたちまち連動した手榴弾の爆発の嵐を受ける仕掛け



しかも追い打ちのプラスチック爆弾ときている…



これを一個づつ解除している時間は無い



万事休すとはこの事だ…



打つ手無しな状況に諦め声でエレナを呼んだ



御見内「エレナ…」



エレナ「何? あったの?」



御見内「あぁ… それが…」



エレナ「ならさっさと解除して」



バッサリ切り捨てるトーンでエレナは言い放った。



エレナは今それどころではなかった



何故ならバスタードが行方をくらましているのだから



何処にいる…



気配も物音も消したバスタードに…



いつどこから現れるかも知れぬ恐怖を感じ



銃口を前後左右に向けながら忽然と消えた奴を探していた。



動きが無い あの死角へ隠れてジッとしているのか…



エレナ「ふぅ~~」



ったく さっさと出てきなさいよ…



バスタードが逃げ込んだだろうポイントに銃口を合わせたエレナ



焦りと苛立ちが生じ、トリガーへ添える指が微かに震えた。



エレナ「ふう~~」



緊張が募り、鋭い目つきで数回吐息したエレナがふと何も言わない御見内へ振り返った。



暗闇に佇む御見内の後ろ姿を目にし、視線を戻そうとした



その時だ



突然ニョキっと下から伸びてきた腕に足首を掴まれた。



見下げた視線の先にはひょっこりと真下から覗かせ、腕を伸ばすバスタードの姿



引きずり込まれ、体勢を崩したエレナは尻と背中を打ちつけた。


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