第175話 潜窟

メローペAOMORIレジデンス 12時08分



12階建て 60戸の新築マンション



1階ロビーにはソファーなどが幾つも置かれ広々とした寛げるラウンジになっている



入居前の、全部屋空室状態の出来たてホヤホヤな新築マンション



これから数日後に一斉入居を控えていたのだろラウンジの壁にはマンションの規則が書かれた文書やゲストルームに関する紙、ゴミやペット、管理組合の会合日程表などが貼り紙されていた。



そのマンション駐車場には無事到着したのだろう警察指揮車が止められていた。



ロビーには誰もいない…



静かな室内を上がっていくと



バタバタバタバタバタ



屋上ではけたたましいプロペラ音が鳴っていた。



屋上に置かれた2機の輸送ヘリチヌーク、その内の1機がいつでも飛び立てる状態で始動されていた。



その機内では操縦士が簡単な計器類のチェックを済ましスタンバっていると屋上の扉が開かれ御見内等がやってきた。



御見内、マツ、麻島、海原、村田、臼井、三ツ葉の7名



そして未だ意識が戻らない小泉と重傷の柊がそれぞれ担がれ、御見内の肩を借りたポン吉達がチヌークへと乗せられた。



どうやらこれから負傷者を搬送するようだ



うるさいプロペラ音が回る中、操縦士と打ち合わせをする麻島



また3名が搭乗されるや三ツ葉もチヌークへと乗り込んだ



機内に横たわる柊に臼井が寄り添い何やら言葉を交わす



柊「母さんを頼む」



臼井「あぁ 後はまかせろ 必ず救出してみせるから心配しないでしっかり治療してもらえ」



柊「あぁ わるい」



麻島「三ツ葉 頼んだぞ」



三ツ葉「はい 報告したらすぐに戻ります」



麻島が頷くと



海原「閉めるぞ」



臼井が柊の手をギュッと握るや、機内から飛び出し扉が閉められた。



そして皆がヘリから離れるや、輸送ヘリはゆっくりと浮上、屋上から飛び去っていった。



ヘリはこれより東京にある病院を目指す、それからもう一つ



通信妨害を受け本部と連絡が途絶えた今 三ツ葉が直接足を運び報告に向かう



一方 5階 ある一室では…



早織「可愛ぃ~」



七海「ほんとねぇ」



座り込み、微笑みで見つめる美菜萌



スヤスヤと布団で眠る赤ん坊を囲み覗き込む女性陣達



七海「この子名前は?」



エレナ「遼太郎くん」



七海「へぇ~ 遼太郎くんってのかぁ 可愛いねぇ」



早織「うん 可愛い~」



七海と早織が遼太郎の頬をツンツンした。



エレナ「2人共起こさないでね それより遼太郎くん昨日からミルクも何も飲んで無いの 起きたら大変よ きっと凄くお腹を空かせてる」



七海「おっぱい出る奴なんていないしねぇ~ 困ったなぁ」



早織「七ちゃんもエレナちゃんもおっぱい大きいんだから出るんじゃないの?」



七海「え? いやいやいやいや 出ない出ない」



早織「そうなのぉ~ じゃあ美菜ちゃんは?」



七海「美菜なら出るかもしれない」



早織「ホント?」



美菜萌「出ませんから もっと出ません もう七海さん止めて下さい 早織ちゃんに嘘教えないで下さいよ」



早織「みんな出ないのかぁ~」



美菜萌「確かこの近くにドラッグストアがありますよね そこならミルクも紙おむつもありますよきっと 私が今から取ってきます」



七海「ならほ乳瓶も必要だよ 他にもお尻拭きだって欲しいし肌着だって欲しいし ベビーローション、ベビーバスだって必要だよ」



美菜萌「え… そんなに… それは置いてありますかね…?」



七海「無いよ それなりにベビー用品が揃ってる所に行かないと」



エレナ「この辺に大きなスーパーはあるかな?」



美菜萌「確か… あったと思います ですがちょっと距離がありますよ」



エレナ「行きましょう すぐに行きましょう」



七海「今から? 今外は危ないよ」



七海が部屋の窓から外を覗いた。



屋上で響き渡らせたヘリの羽音



道という道をその音を聞きつけたゾンビ等が闊歩し向かって来る様子が見られた。



七海「あちゃ~ やっぱし これは駄目でしょ ほとぼりが冷めるまでは待機だなぁ~」



エレナ「日が暮れるまでなんて待てない 私1人でも行ってくるよ」



立ち上がったエレナがマカロフのマガジンを抜き、弾数をチェックした。



七海「エレナ 待って 外見てから言ってよ こん中をどうやって移動するのさ」



美菜萌と早織も窓から顔を覗かせ、エレナも外を見下ろした。



早織「すご~い いっぱいいるぅ」



美菜萌「やっぱりここら辺は栄えてるから数も多いですね」



町の栄えと比率する奴等の数



人口が多ければ それ相応に奴等の数も増している



大通りは歩行者天国と化すゾンビや感染者で溢れていた。



そして マンションの周りを徘徊、次々と周囲に集まってきていた。



七海「このマンションだって特定されてないだけまだマシだよ 万が一張り付かれでもしたら夜遅くまで諦めないよ」



美菜萌「はい これではちょっと外出は厳しいかと」



早織「え~ でもミルクどうするの?」



七海「遼太郎くんには可哀想だけど 命には代えられないっしょ それに私達だけじゃなくみんなを危険な目に巻き込んじゃうから」



早織「じゃあ七ちゃんが頑張っておっぱいあげてよ」



七海「だから出ねぇ~つうの わるいけどまだ飾りです」



早織が今度は美菜萌へ目を向けると



美菜萌「出ないよ早織ちゃん 期待に添えれなくてごめんね」



早織「ふ~~ん」



エレナ「やっぱ行かなきゃ」



七海「駄目 絶対駄目だからねエレナ」



エレナ「でも」



七海「でもじゃないよ 無理だから 勝手な行動はマジやめて ここは我慢なさい」



エレナ「うぅ… はぃ…」



スヤスヤ眠る遼太郎を目にするエレナ



七海「気持ちは分かるけどみんなを危険な目に遭わせるような行動だけは本当に止めてよ 分かったわね?」



エレナは苦渋な面持ちで渋々と頷いた。



七海「よし なら後で男達にでも取りに行かせよう 私の方からマツさんに掛け合ってくるから」



そして七海が部屋をあとにした。



外を眺める美菜萌と早織が…



美菜萌「フゥ~」



早織「フ~」



2人揃って同時に深い溜め息をついた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



1階エレベーター前に山積みにされたダンボールや箱の数々



男達が総出でその搬入作業を行っていた。



このマンションの護衛として残っていたレジスタンの石田、ザクト隊員の吉川がマツ、麻島と館内図片手に話している。



石田「じいちゃん婆ちゃん達は最上階もしくわ11階にみんな集めてます あと食料品や生活用品は1208号と1109号室に運んでます」



吉川「武器や弾薬などはこのフロアーの4号室に置きました」



吉川が館内図の204号室を指差した。



マツ「バリケードの方は?」



石田「大丈夫です ここに来て最初に行いましたんで 一応建物周囲の侵入されそうな箇所は全て鉄板や木材などで封鎖してます ロビーの全面ガラスは一応強化ガラスなので心配ないとは思いますが不安はありますけど」



マツ「落ち着いたら補強しよう」



石田「そうですね」



マツ「光熱の方は?」



石田「えぇ それも大丈夫です 全て使えます ガスも水も電気も使えるようにしてあります」



マツ「そうか ご苦労」



麻島「銃器 弾薬の残りの数は?」



吉川「はい 89式が3挺 MP5が2挺各弾倉が20個づつです」



麻島「それしか残ってないのか? 少ないな…」



吉川「えぇ 1人頭3~4個でしょうか」



麻島「分かった… っにしても随分だな まだこんなに残ってるのか?」



麻島が山積みのダンボールや箱を目にする。



石田「倉庫にあったやつ全部持ってきましたからね そりゃあ凄い量ですよ でもこの量なら当分調達に行かなくても 少なくとも2年は食いつなげられます」



マツ「あとはここにあるので全部なんだな?」



石田「はい」



マツ「よし とりあえず早くここをスッキリさせたい 片っ端から運び込もう 男手を全員呼んでこい」



石田「うす」



チーーン



EVの到着音が鳴り



台車を押した村田と御見内が現れた。



村田「もう09も08も満杯だ 部屋はいくらでもあるんだし、あとは適当な部屋に入れちゃっていいすか?」



マツ「一応上階から順々に各階に振り分けて保管してくれ」



御見内「じゃあ次は10階だね」



村田「おっし 御見内 夕方までには終わらせっからな」



御見内「了解」



積み荷を台車に乗せはじめる2人



村田「ちなみに10階なら何処でもいいんすか?」



マツ「そうだな それなら09号室にでも入れてくれ」



村田「おいっす」



チーーン



すると



EVの中から後続で海原、臼井、護衛組の中野と佐田も降りてきた。



村田「お前等 次は8階と7階に手分けして入れてくれ 各階の09号室な」



海原「了解」 中野「じゃあ俺達が7階で」



2人1組に分かれ台車に積んでいく



麻島「じゃあ私達も手伝いましょう」



マツ「あぁ おし みんな 16時までには終わらせるぞ」



男たち総員で作業を進める中



海原「なぁ あいつ何処行った?」



村田「あいつ?」



海原「青木だよ あの野郎また手伝いもせずにサボってやがんのか」



佐田「あぁ~ その青木ってのなら半田さんの所に居たよ」



海原「油売りやがって 後で説教だな」



御見内「フッ メサイアの奴…」



作業しながらそれを耳にした御見内から笑みがこぼれた。



ーーーーーーーーーーーーーーー



2階 201号室



2DKの家財も何も置かれていない殺風景な1室



そんなだだっ広さを感じる部屋の真ん中に敷かれた布団に横たわる半田



半田は意識を取り戻していた。 



病院行きを断りここに残っていた。



まだ拷問で受けた傷も癒えず、身体中に包帯が巻かれている、そんなぐるぐる巻きな包帯を青木が新しいのと交換していた。



青木「折角のドクターヘリになんで乗らなかったの? むしろあんたが一番乗らなきゃいけなかったんじゃない」



半田「伝えなきゃならない情報がいくつかあるんで…残る事にした」



青木「なるほど しかしマル兄弟の拷問受けて生きてられるなんて相当運がいいかタフガイか…だね」



半田「もう駄目だとなかば諦めてた  あんたが俺を助けに来てくれた人かい?」



青木「うん まぁね そうだよ」



半田「礼を言うよ ありがとう」



青木「いや 礼なら御見内に言ったってくれ」



半田「御見内?」



青木「単身組織の巣窟に乗り込んであんたを救った当人さ マル兄弟を始末したのもあいつだ」



半田「あのマル兄弟を? あの兄弟って倒せるのか?」



青木「あぁ ホント驚きだよ 俺も目を疑った あんなイかれた怪物兄弟を殺せる奴がいるなんて でもあいつのおかげでもうあの兄弟はこの世から消えたんだ」



半田「あの兄弟が死ぬのか… なら… なら冴子は?」



そう口にした途端



半田の手が急に震えだした。



青木「あ~ もっとイかれたあの女か 残念だがあのビッチはまだ生きてるよ」



血糊の包帯が剥がされ綺麗な包帯が巻かれる腕から伝わる震え



半田「あ…あんな恐ろしい女… あいつこそ人間の皮を被った悪魔のような女だ」



半田の震えは全身に広がっていた



青木「あぁ 冴子のプッツン具合はよく分かってる あれはマル兄弟以上だ」



半田の泳いだ目、急変する



冴子に何かされたのか…?



尋常じゃない震えだ…



途端に半田の顔が怯えた表情に豹変した。



ヤバい…



青木「何されたか知らないが まぁ落ち着いて 思い出さないでいいから 忘れるんだ よし もうこの話しはよしとこう」



青木が腕を擦り、なだめると徐々に震えはおさまっていった。



青木は一安心といった表情で包帯の交換を続けた。



数分後…



青木「よし 換えは終わり」



半田「あぁ すまない」



汚い包帯をコンビニ袋に詰め部屋をあとにする青木



青木「じゃあお大事… あ そうそう 今日の夜にロビーでブリーフィングやるみたいだから もし体調よければ出たらいい 色々報告したい事があるんでしょ」



半田「分かった」



部屋をあとにしエレベーターを待つ青木



すると



チーーン



開いた先には七海



七海「あ!」



青木「…」



七海「丁度いい あんたでいっか」



青木「え?」



七海「ちょっと頼まれ事があんの いいから乗って」



青木「え? あ あぁ…」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



それから数時間後…



日も沈み、町が夜に包まれてきた頃



村田「終わったぁ~ 今何時だ?」



海原「17時過ぎ」



村田「予定より1時間も過ぎてんのかい あ~ マジ疲れた」



ロビーのソファーにもたれかかった村田



臼井、中野、吉川 もう1人の常駐組の倉敷等もロビーに揃い



残りの荷物もキレイさっぱりと収納、作業を終えた



チーーン



マツ、麻島等も降りてきた。



マツ「みんな お疲れさん」



村田「う~す」



続いて



チーーン



エレベーター2号機が到着



「ンギャ~~ ウギャ~~ ギャ~~ん」



扉が開くや泣き喚く遼太郎を抱えた七海、エレナや早織、美菜萌達女性陣等も1階に降りてきた。



「ンギャ~ ンギャ~ ウギャ~~」



七海「ねぇ ちょっとまだぁ? この子に早くミルクあげないとなんだけど」



男達は皆 顔を見合わせる



マツ「何の話しだ?」



七海「え? 聞いてないの?」



マツ「何がだ?」



七海「この子のミルクとかオムツを取ってくるよう頼んだのよ 誰も聞いてない?」



麻島「誰か聞いてるか?」



皆 首を横に振り



七海「青木に頼んだんだよ 男達何人かで取ってきてってリストも書いて渡したんだけどさぁ」



マツ「そういえば見てないな 青木は何処だ?」



海原「怪我人の所じゃないですか」



吉川「さっき様子見に行きましたがいなかったです」



御見内「あいつまさか1人で…」



御見内がそう口走った時



サァーーー



ラウンジの内床タイルを滑らせてきた一個のダンボール



それが七海の足下で止まり



青木「それ紙おむつ お買い得4個パック 箱買いしといたよ」



肩にベビーバスを担ぎ、幾つものビニール袋を手にした青木が戻ってきた。



そしてベビーバスに袋を詰め込むや



サァーー



再び床を滑らせた。



青木「ご注文通り全て持ってきたよ 新生児用とか何歳時用とか分かれてんなら教えて欲しかったなぉ わかんなかったから手間取ったよ」



エレナは箱を破り、紙おむつと袋からほ乳瓶、ミルクを急いで取り出した。



エレナ「七海さん とりあえず行こう 早く遼太郎くんに飲ませなきゃ」



七海「うん 美菜 先行ってるから後でこれ全部運んで」



美菜萌「はい 分かりました」



チーーン



エレナと七海はエレベーターに乗り込みそそくさと上がって行った。



御見内「何で一声かけない? これ全部おまえ1人で取ってきたのか?」



青木「あぁ かなり苦労したぜ」



海原「おまえまさか車使ってないよな? ゾンビにバレてると…」



青木「チャリだよ 3往復した 大丈夫 バレてない」



首を反らし深々ともたれた村田



村田「へっ 1人格好つけやがって」



現生存者リスト



レジスタンス



御見内 エレナ マツ



美菜萌 臼井 石田 中野 佐田 青木 9名



ZACT



麻島 村田 海原 吉川 倉敷 5名



非戦闘員



七海 早織 半田 他生存者達


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