第166話 石槍

ガシャ



マカロフがコッキングされた。



青木「お待たせ」



赤塚「ガイド 何があったか手短に詳しく教えろ」



麻島がマガジンを放り、海原が受け取る



3人も銃器の点検や準備を速やかに行った。



カチャ ガチャン



青木「うん さっきの化け物の名は明神 剛 俺が属してた黒フードの組織の者だよ 南米にあるグアテマラって国知ってる?」 



赤塚「あぁ」



ガチャン 



青木「明神は昔… 20代の頃に そのグアテマラにあるカイビレスって特殊部隊に所属していたらしく そこで狙撃手をしてた 元は凄腕のハンターだよ」



麻島「カイビレス… 聞いた事あるな 南米に広まる死の部隊と呼ばれてるやつだ  海原 手榴弾をもう2つよこせ」



海原「どうぞ」



青木「あぁ あのおっさんの知ってる素性はそんな所で 明神が何であんな化け物になったかというと 虫の卵が入った注射器を持っててそれを自分の体に打ったんだ そしたらあんな醜い化け物に変化しちゃったって訳 まぁ厳密には俺がぶっ刺してやったんだけどね」



赤塚「注射器…?」



海原「やっぱりさっきのロシア兵と同じだ」



各自胸のホルスターに手榴弾やらマガジンが収納されてゆく



赤塚が麻島と海原に目を向け



麻島「やはり 持ってるのは奴だけじゃなかったみたいだな…」



青木「え?」



赤塚「実はついさっき俺達も同様の経験をした スペツナズの奴が自分の身体に同じように注射器を打ちこんだんだ その結果化け物に変貌した」



青木「マジで?」



海原「普通に感染者に堕ちた馬鹿な野郎だったけどな」



青木「そいつは脳を乗っ取られたんだ なら今回は少し状況が違うよ 明神は自我が保たれてる」



麻島「なに?」



海原「まじかぁ… 厄介すね 江藤バージョンかよ…」



青木「あと明神には羽がついてて空を飛ぶ、あと両目が飛び出し伸びて来る、あと両手が銃口型に変化してその腕の周りには数えきれない程の触手がびっしりと生え揃っている。」



赤塚「空を飛ぶだと?」



青木「うん これが俺の知ってる全てだよ」



麻島「空を飛び回るか…  赤塚 ショットガンは?」



赤塚「さっきので使い果たしました」



麻島「っとなると飛び回る相手にサブマシンガンとハンドガン、手榴弾で対処しないとならない訳だな」



ガシャ



4人の準備が整い



海原が光学スコープを覗いた。



すると



海原「隊長 奴がいません」



麻島もスコープで確認するや、明神の姿は消えていた。



海原「何処行った…」



麻島「2人共すぐにライトを消せ」



直ちにライトがオフられ、暗闇に包まれる。



青木「ライトなんて消したら何も見え無いよ」



麻島「光は逆に危険だ わざわざ居場所を教えるだけになる」



海原「赤外線だけが頼りか… 厳しいな」



赤塚「ガイド 付近に平原とかないのか?」



青木「無いね」



麻島「赤塚、海原 おまえ等2人でフロントマンを務めろ セカンドは俺が着く おまえはテールだ」



指刺された青木



青木「え?テールって?」



赤塚「後方警戒 しんがりの事だ」



青木「あ あぁ そうゆう事」



麻島「FM(フロントマン)先導隊形を取って前進する」



赤塚「了解」  海原「了解」



赤塚と海原がツートップで並び、麻島、青木と続く



青木「りょ~かい」



麻島「この森と視界では圧倒的にこちらが不利だ どこから襲いかかって来るか分からん 周回注意しろ」



そしてTの字隊形が組まれ、動き出そうとした時



美菜萌「待って下さい 私も行きます」



駆け寄ってきた美菜萌に一同足を止めた。



青木「何言ってんの 駄目だよ 奴を片付けるまでそこに隠れてて」



美菜萌「こんな所に1人にされる方が嫌 私も連れって」



唇を震わせている



美菜萌「それに今一緒に行かなければこれから一生あの時の恐怖を思い出してしまう気がするの… だからお願い」



そんな震えてるくせして何言ってんだ…



すると 美菜萌の方から寄り添い、青木の耳元に震える唇で口にした。



美菜萌「青木さんが私を守ってくれるでしょ? なら一緒にいた方が安全」



ドキッとさせた青木



青木「う… あ… あぁ… もちっしょ」



ぎこちなく美菜萌の腰に手を回すや



海原「おい ガイド イチャつくのは後にしろ」



パッと手が離され



麻島「これを使え 扱った事あるか?」



麻島が美菜萌に拳銃を差し出した。



ニューナンブの後継拳銃



M360Jサクラを手渡された美菜萌



美菜萌「はい 下手っぴですが こ~見えても私もあなた達と同じ元警官だったんです」



麻島「ほ~~ そうかぁ」 



手元の震えを目にした麻島



麻島「そこのおまえ 1人でも多く戦力が欲しい所だ 連れてくが いいんだよな?」



青木「え? う…うん あぁ 分かったよ いいよ」



気が進まず、ハッキリしない返事で答えた青木に



海原「おい ガイド おまえにもう道案内もアドバイスも頼んでねぇー これからやるのは化け物退治だ しっかり仕事出来んのかよ?」



赤塚「やめろ 海原」



いきなり腹を立て、つっかかる海原が詰め寄ってきた。



青木「…」



海原「その子のお守りがしっかり出来んのかって聞いてんだよ いっとくが俺はお前をまだ許してねぇ~からな」



青木の眼前まで迫り、胸ぐらを掴んだ瞬間海原の肩が掴まれ払われた。



麻島「よせ」



海原「チッ ペっ」



海原はイラついた表情で唾を吐き捨てそっぽを向けた。



麻島「青木とか言ったな」



すると今度は麻島が青木の眼前に立ち冷静な口調で問い掛けてきた。



麻島「おまえ…聞いた話しだと 今俺達が交戦してる黒装束の一員だったそうだな?」



暗闇の中 眼を飛ばし合う2人



青木「あぁ そうだけど それが何か?」



麻島「俺や海原をガッカリさせるなよ それと連れて行くならその子はおまえが責任を持って死守しろ 分かったな?」



青木「そんな事あんたらに言われなくたって分かってる あんたらこそ明神に足元掬われて全滅とか勘弁してくれよな」



それを聞いた途端、海原がプチッとキレ



海原「テメェー 隊長に向かってぇ」



殴りかかろうとした時だ



美菜萌「ハァアア~~~~~~~~~」



美菜萌がいきなり大声で一喝した。



海原が踏みとどまり、麻島、赤塚、青木が視線を向けた。



美菜萌「すいません いきなり大声だして でも今 私 喝を入れました 皆さんに… そして私自身にも…」



麻島「…」



美菜萌「麻島隊長 すいませんでした 私ならもう平気です」



語気から恐怖が払拭された美菜萌の声



震えが取り除かれていた。



そして青木へ振り返り



美菜萌「青木さん 守ってだなんて私らしくない事言っちゃいました ごめんね 色々迷惑かけちゃって本当にごめんなさい でも参加する以上責任なんて自分で負うから大丈夫 明神から受けた屈辱は自分の手で返しますから」



青木「美菜萌さん…」



美菜萌「麻島隊長 これはニューナンブと同じタイプの弾薬ですか?」



麻島「あぁ 同タイプの38スペシャル弾だ」



美菜萌「これの予備弾をもっと頂けないでしょうか」



麻島「あ あぁ… フッ あぁ そうだったな 2人共サイドアームの予備弾を全てその子に渡せ」



懐から取り出されたケースを投げ渡す海原



海原「ほらよ 大事に使え」



美菜萌「はい」



赤塚「どうぞ」



美菜萌「ありがとうございます」



美菜萌の手に渡り、次々収納ポケットにおさめられる



麻島「美菜萌とか言ったな 名字は?」



美菜萌「一条です」



麻島「よし 一条も青木と共にテールガンのポジションに着け」



美菜萌「はい」



麻島「これから銃撃戦が予想される みんな頼むぞ 誰も死ぬな」



赤塚が頷く




海原「蜂の巣にしてやる」



美菜萌も加わり団結された5人がフォーメーションを組んで進み出した



その矢先



ブゥゥゥゥゥゥゥ~~~



蜂のような羽の音



あの羽音が5人の耳に舞い込んできた。



5人に緊張が走った



ブゥゥゥゥゥゥゥ~~



赤塚「上だ」



赤外線スコープで上空を探す麻島、赤塚、海原



青木と美菜萌は隊列後方を注視、樹木のわずかな合間から垣間見える星空を目にした。



そして拳銃を向けた。



ブゥゥゥゥゥゥゥ~~



高速で羽ばたかせる音のみが空から不気味に聞こえ



青木等の周りをグルグルと旋回飛行している…



海原「木が邪魔だな もっと開けた場所まで移動しましょう」



赤塚「この深い森にそんな都合いい場所は無い」



3人が必死にスコープで上空を探していると赤塚のレンズに奴の姿が捉えられた。



赤塚「いた 見つけた 10時の方向」



そして2人も同時にスコープを向けた。



青木と美菜萌もその方向を見上げるのだが肉眼では到底捉える事は出来ない夜の空



青木「どこだって… 何も見えんがな」



海原「見つけたぜ 速攻羽を撃ち落としてやる」



そして海原が撃ち落としにかかろうとスコープの倍率を上げた。



上空で羽をバタつかせ、空中停止する明神を目にした2人もスコープをズームアップ



拡大された明神を目にした時だ



麻島が叫んだ。



麻島「待て 海原」



明神が何やら両手をこちらに向けてきたのだ。



麻島「何か仕掛けて来るつもりだ  発砲中止 すぐに回避運動を取れるようにしとけ 目を離すな」



次の瞬間



夜空から見下ろす明神の口元が緩められた。



明神「フゥククク バレット(弾丸)なら無尽蔵にあるぜ」



向けられし筒状に変形したその腕から何やら発射された。



バシュ バシュ バシュ バシュバシュ



麻島「避けろ」



麻島の掛け声で5人は慌てて回避運動に移り、身を伏せた。



青木「何だ 何だ 何が起きてるんだよ」



訳も分からず青木も美菜萌と共に身を伏せた。



高速で落下する物体が



バキッ 枝をへし折り



ズボッ



そこら中の木々や地中にめりこむ音が鳴った。



麻島「何を撃ってきたんだ? 海原 確認急げ」



海原が木にめり込んだ物体に近づき指で触れる



また伏せた美菜萌も急に起き上がり、ある木に近づくや



根っこ部にすっぽり食い込む物体を指で触れた。



青木「触っちゃ駄目だ」



美菜萌「石だよ」



青木「え?」



海原「石です 拳程の石です」



赤塚「石?」



海原「その辺に落ちてるただの石コロですよ」



明神が撃ち込んできたのはその辺に転がる普通の石



赤塚「脅かしやがって ただの石か」



麻島、赤塚がすぐにスコープを上空に向けると



バシュ バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュ



赤塚「クソ」



麻島「まただ 第2波ぁ~~ 伏せろぉ~」



上空から続けざまに連射された大小様々な隕石が麻島、青木等を襲った。



バキッ バキッ ズボッ



160キロもの豪速石で落下



バシュバシュ バシュバシュ



石コロとて当たれば無事では済まないだろう… 乱射された飛礫(つぶて)が降りしきる中、各自防御姿勢で身を隠した。



バシュバシュ バシュバシュ



バキ ズボッ



麻島「当たるなよ 当たればただじゃ済まないぞ」



ボゴォ パキ



降りしきる連弾の嵐が2分程経過した…



海原「クソ やまねぇ どうなってやがる」



赤塚「隊長 これ どうしますか?」



ベキッ



太い枝がへし折られ、麻島の目の前に落下した。



麻島「攻撃が止み次第、一斉射撃に移る 狙い撃て」



海原「はい」 赤塚「了解」



バサッ ゴーン 



海原「うわぁ」



ガサガサガサガサ ドスゥ~~



海原が身を隠す幹の上部がへし折られ、倒された。



赤塚「海原 大丈夫か?」



海原「はい なんとか」



麻島「おまえ等も平気か?」



青木「あぁ こっちは平気だよ」



美菜萌「平気です」



麻島「奴の攻撃が止まったらすぐにでも攻勢に転ずる おまえ等も射撃の用意をしとけ」



青木「分かった いつでもオーケーだよ」



ドン



青木等のすぐ目の前に岩石が落ちてきた。



それは人の頭より一回りも大きなサイズ、直撃すれば即死ものの隕石だ



青木「ショットガンみてぇに変形した腕はこうゆう事か… 銃に固執しすぎなんだよあのおっさんは…」



ボト ボトボトボト ボトボト

 


美菜萌は自分の目の前に転がってきた野球ボール程の石コロを拾いあげた。



美菜萌「弾はやっぱり 全部自然物…」



青木「え?」



美菜萌「ねぇ 青木さん 全部その辺に転がる自然な石 明神が自ら作った物じゃない… じゃあどっからあんなにいっぱいな石を供給してるんだろう?」



至る所で木が倒され、ボトボトと枝と一緒に落ちゆく石を見つめる2人



青木「蓄えてる…」



美菜萌「もう3分以上も経過してるんだよ 普通そんなに持続なんて出来ないよ」 



青木「ちゅー事は…」



美菜萌「ちゅー事は 私の予想なんだけど、森中のあらゆる石を拾い上げてるんじゃないかな」



青木「拾い上げてる? どうやって? 明神はあんな上空にいるんだぜ」



美菜萌「うん 確かにね でも もし私の予想通りなら明神の攻撃はエンドレスに続くよ 何かしてるよきっと、ちゃんと調べなきゃ」



青木「なるほど 確認して貰おう 相談してくる」



そして乱射乱撃雨霰(あめあられ)な投石の嵐の中



頭を防御しながら青木が飛び出した。



そして麻島の元へとスライディングで滑り込んだ



青木「隊長さん ごめん ちょっといいかな」



バキッ  ドーン



何発も撃ち込まれ、太い幹までもが次々に倒れ出す



麻島「なんだ?」



海原「隊長 これ途切れません どうなってんだ」



青木「この攻撃…」



青木が話しを切り出そうとした寸前



いままで際限なく降り続けていた投石がいきなり止みだした。



海原「止んだ」



赤塚「今がチャンスです」



青木「嘘だ?」



麻島「よし 反撃だぁ」



麻島、赤塚、海原が素早く身を乗り出し、スコープを覗いた。



空中浮遊で停止する明神をレンズに捉え、今度こそはとトリガーに指を添えた3人



引き金をひこうとした



その瞬間



バシュ バシュバシュ



ズボッ



海原の頭スレスレを何かが通過し、後ろの木へグサリ



海原が振り返るとそこには鋭く尖った枝が突き刺されていた。



また 地面、違う木にも同様の物が突き刺さっていた。



バシュバシュ バシュバシュバシュバシュ



麻島「クソ まただぁ~ 伏せろ」



グサ グサ グサ



今度は槍の様に尖った枝の嵐が青木達を襲った。



海原「チキショー 品を代えやがってぇ」



咄嗟に木の遮蔽に隠れた海原、麻島、青木



そして一足遅れて身を隠そうとした赤塚に…



グサッ



上空斜めからハイスピードで飛んできた一本の槍に捕まってしまった。



足が止まり仁王立つ赤塚の口から吐かれた血



赤塚「ブフゥ ぐぅ」



槍が心臓部に突き刺さり、先端が貫通していた。



海原「主任…」



麻島「赤塚 何してる 早く身を隠せ」



青木「…」



そして 3人の見ている前で



グサッ  グサッグサ



赤塚の両目が大きく見開かれた。



大きさも長さもバラバラな大量の木製ランスが飛来



下腹部、右肩…



口内に突き刺さり、後頭部からも顔を出した先端



その内の数本が追い打ちで赤塚の身体に突き刺された。



赤塚の身体はそのまま後ろへと倒れ、目を開けたまま絶命



赤塚分隊長が即死した。






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