第159話 波動

損傷した耳を押さえ、ヴァジムが逃走を図った。



ヴァジム「Хо(クソッ)」



押さえる手の間から大量の血が湧き出し、背を向け遁走(とんそう)する背後から…



御見内「待て」



呼び声でヴァジムが振り返ると



シュ



放たれた一筋の弓箭(きゅうせん)がヴァジムの右ふくらはぎに突き刺された。



御見内は突き立つ予備矢を装填し、片膝をつけた座位の体勢から2矢目の狙いをつけた。



脚部がもつれ横転したヴァジムのベレー帽が脱げ落ち、視線を向けるとふくらはぎには突き刺された弓矢



ヴァジムはとっさにその弓矢を引き抜き、放り捨てるやAKを向けた。



標的の位置も確認せぬまま見境なしな乱射を行おうとした



次の瞬間



シュ



銃口に弓矢が差し込まれた。



そして引き金をひいたと同時に



ボォン



破裂音と共に突然暴発を起こした突撃銃のマズル(銃口)が破砕、バレル(銃身)からハンドガード(先台)部にかけ炸裂した。



ヴァジム「ぐお」



ヴァジムは衝撃で倒れ込み、粉々になったAK本体を手放した。



倒れ込み、何が起こったか呑み込めぬまま、変な角度に折れ曲がった右手指を目にする。



御見内は予備矢を引き抜き、3矢目を装填しながら、歩み出した。



そして弓矢を構え、ヴァジムの前へと出た。



御見内がギロリと睨みつける



数メートルの距離を挟んで対峙した2人



ヴァジム「この私が… 我がスペツナズがニッポン人などにこうもやられるとはな」



眉間にシワ寄せ厳しい表情で言葉を吐くヴァジムに



御見内「確かこの国がお気に入りだとかって言ってたよな?」



めいいっぱいに引かれた弦



ヴァジム「…」



御見内「いいぜ ならずっとこの国にいさせてやるよ この県 いや この豊かな森で永遠にな」



ヴァジム「くっ…」



脂汗を額から滲ませたヴァジムが最後の反抗とばかりに腰に忍ばせたホルスターからサイドアーム(拳銃)を素早く抜き取り、御見内へと向けた。



ヴァジム「Умереть(死ね)」



そしてヴァジムがリボルバーの引き金を押そうとする間際



タァーーーーーー



銃音が響き



ピキュン



ヴァジムの手にする拳銃が弾かれ、空を舞った。



すると



タァーーーン



ピュン  タアーーン  ピン



まるで踊るように回転したリボルバーが空中で連続ヒットされ、ヴァジムから離れた箇所に落下した。



なっ…



唖然とするヴァジムの前に



エレナ「我ながら惚れ惚れしちゃう腕前 オリンピックにでも挑戦しとけばよかったかなぁ~」



エレナが姿を現した。



御見内「弾の無駄遣いするな」



エレナ「はぁ~い それより…」



おどけた表情が一変、怖い表情に変わったエレナ



エレナ「観念しろ あんたは人の命を奪い過ぎた 酌量の余地なしよ 死んで償いなさい」



射撃態勢で小銃が向けられると



御見内「エレナ待て」



エレナ「駄目」



御見内「聞きたい事があるんだ」



エレナ「今更何よ こいつから聞く事なんか何も無い 射殺する」



御見内「いいから早まるな」



突然制され、水を差されたエレナが怖い顔を御見内に向けた。



御見内「おい 一つ教えろ」



ヴァジム「…」



御見内「大量の人形をどこへやった?」



ヴァジム「人形?」



御見内「あぁ テメェー等がバスタードとか言ってる例の生体兵器だよ 前日研究所から搬送したんだろ どこに運んだんだ?」



エレナ「道 何を言ってるの?」



御見内「臼井さん達から聞いたんだ 実行可能な人形はこいつらロシアが全て持ち去ったと どこに持っていった?」



エレナ「そんなのこいつが喋る訳ないよ」



御見内が更に弦を引き、狙いをつけた。



御見内「吐け」



ヴァジム「……フフフ……」



御見内「…」



エレナ「何がおかしんだよ」



ヴァジム「何を言い出すかと思えば…… あぁ 確かに優秀ランクのバスタードは私達スペツナズが全て持ってった フフフ とうに大佐の元に送られ済みだ 既に大佐の監視下に置かれたよ」



御見内「ならその大佐とやらは何処にいる?」



ヴァジム「ハハハハ それを聞いてどうする?」



御見内「人形は始動する前に破壊する その大佐とやらは… ブチのめしてやる」



ヴァジム「ハハハハハハ」



エレナ「だから笑ってんじゃねぇよ ねぇ 道 もういいでしょ?」



御見内「待て」



エレナ「んもぉ~ さっさとして」



ヴァジム「ニッポン人とは頭が悪いようだな バスタードは既に大佐のもとにあると言ったんだぞ どうやって破壊するつもりだ」



御見内「おまえも頭が悪いようだな 今言っただろ だから大佐とやらをブチのめして全ての人形を破壊してやると やり方なら簡単だ 殴り込む」



ヴァジム「ハハハハハハ 愚か者が 大佐の元に殴り込みだと ハハハハ」



御見内「っで その当人は何処にいる?」



するとヴァジムが人差し指を下へと向けた。



ヴァジム「既に貴様等の近くにいる このニッポンの地のどこかにな」



エレナ「え?」



御見内「…」



ヴァジム「フフフフフフ なら教えてやろう 大佐率いるスペツナズ本隊は最北の地に上陸した」



エレナ「道 それって」



御見内「あぁ 北海道か… 奇遇だな 俺達もその地には用がある」



ヴァジム「邪魔しようたって無駄だ 計画は必ず実行されるだろう ここは植民地となり理想郷として生まれ変わるんだからな」



御見内「テメー等の好き勝手にはさせねぇ~よ」



ヴァジム「ムフフ フハハハハハハハ」 



エレナ「あぁ~ムカつくこいつ いい加減いいかな?」



御見内「…」



ヴァジム「正義感振りかざそうが貴様個人でどうこう出来る問題では無いぞ 何故ならこっちには核よりも強力な兵器を所持してるんだからな」



今の発言で眉をピクリとさせた2人



御見内「核よりも強力な兵器だと?」



ヴァジム「いざとなればこの国を一瞬にして焦土する事もたやすい」



エレナ「何よ核兵器よりも強力なものって?」



勝ち誇った笑みを浮かべるヴァジムの口から発せられた。



ヴァジム「EMP兵器 それを搭載したミサイルがサハリンのソコル空軍基地発射台に乗せられた ボタンを押せば…」



そして歪んだ笑みで折れ曲がった手を軽く上に押し挙げる仕草を行った



ヴァジム「ボンだ フハハハハハハハハハハハ 貴様も 貴様もな」



エレナ「ゲス野郎! もう駄目 殺らせて」



目つきを鋭くさせ、殺気だつエレナがトリガーに掛けた指に力を入れようとした時だ



エレナの首にいきなり腕が回された。



エレナ「なっ」



そしてこめかみにピタッと銃口が押し付けられた。



月島「ムフフ おいおいおいおいおいおい もう一人いる事完全に忘れてただろ」



エレナ「つ…月島」



御見内「月島!」



エレナを羽交い絞め、銃を突きつける月島がいた。



気配、足音共に全く気づかなかった…



しくった…



ヴァジムに気を取られ、完全にバックを取られたエレナの首が絞められる



エレナ「うっ…」



御見内はすかさず矢先を月島へと向けた。



月島「おっと この女の脳味噌をブチ撒けるぞ」



御見内「チッ」



月島「ヴァジム なんてザマだ 遊ぶつもりが遊ばれてるじゃないか」



ヴァジム「フッ」



ヴァジムは立ち上がり、脚を引きずらせながら拳銃を拾い上げた。



そしてそれを御見内へと向けた。



ヴァジム「遊びは終わりだ」



御見内を狙うハンドガン



月島もシグ・ザウエルP229の銃口を御見内へと向けた。



月島「そうだな…… ヴァジム こいつら2人の頭を撃つな 頭以外を狙え おまえ等は一度死に、ゾンビとして生まれ変わるんだ この森をフラフラと徘徊し空虚で哀れなウォーカーにしてくれよう フフ 心配するな 後でバスタードがきちんと掃除してくれるからな ハハハハ」



御見内「月島 テメー ペラペラとよく動く口になったな 黙らせてやる」



すると月島が再びエレナのこめかみに銃口を押し付け、その銃口を押し付けながら胸元へとスライドさせた。



月島「ハッハ~ おみなぁ~い おみない おみない おみない 随分と手こずらせて貰ったが こっちも仕事を片付けてそろそろ戻らにゃならない そろそろ幕引きだ 弓を捨てろ この女の心臓をふっとばすぞ」



エレナ「駄目よ 下ろしちゃ」



月島「…」



月島の指に力が入りかける



マジで引き金をひく気だ…



御見内「チッ」



御見内が和弓の構えを解(と)き、それを素直に放り投げた。



エレナ「駄目ぇ」



月島「フッ 潔(いさぎよ)いな」



カチャ



丸腰な御見内へ再度P229が向けられ、またヴァジムも御見内へ向け、2者から狙われる



月島「おまえ等のお仲間もすぐにゾンビとして送ってやるから先に逝っとけ」



御見内が月島から視線を外さず睨みつけ、月島が引き金をひこうとした



その時だ



2つの足音が近づき



御見内等の両サイドから颯爽と現れた人影



サザザ



飛び出してきたと同時に銃が構えられる



村田「遅いと思ったらこんな所で」



エレナ「村田さん」



三ツ葉「発砲音が聞こえましたので」



御見内「三ツ葉さん」



月島「三ツ葉?」



ピンチな状況に現れた村田、三ツ葉の両名



御見内「最高にグッドタイミングだ」



隙を突いた御見内が素早く腰に掛けたサブマシンガンを構えた



村田「おまえ等くたばってなかったのか?」



月島、ヴァジムへ交互に銃口を向ける村田



三ツ葉「月島… 一体何をしてるんです?」



エレナを人質に取る月島の姿に驚きの表情を浮かべる三ツ葉



月島「三ツ葉…」



村田「そうか… あんたまだ事情を知らなかったか そいつはとんでもない悪党だ ロシアとつるみ、教団と結託する裏切り者で… 尚且つあんたらがマークする大元のテロ組織の一員だったんだよ」



三ツ葉「おまえがカザックの… 月島… それは本当か?」 



エレナ「私達の動きをロシアにリークしてたのもこいつよ」



三ツ葉「リーク?」



月島「…」



エレナ「山吹の教団は日本を侵略する上で重要な中継地点… 従って全くの別件で争い、抵抗する私達レジスタンスがこのうえなく邪魔な存在だった しかも増援でZACTが加勢するとなれば尚更 スペツナズが出てきて私達を襲った理由はそこよ そしてそれを手引きした裏切り者こそがこの男… あんたのせいで私達の仲間が大勢死んだの 許せない」



三ツ葉「本当なんですか?」



月島「…」



三ツ葉「ずっと私を騙し続けていたのか? しかも事もあろうにロシアに肩入れしてるなんて」



月島「…」



三ツ葉「月島 どうなんです 答えろ」



三ツ葉が同モデルのP229を月島へと向けた。



月島「フッ あぁ その通りだ 教団と小競り合う目障りなネズミを徹底的に駆除する必要が生じた 正直 弱小相手にわざわざスペツナズが出張る事はなかったんだがZACTが介入するとなればこっちも動かざるをえなくなってな まぁ俺としては好都合な状況 動き易い状況だったよ」



三ツ葉「取り返しのつかない事をしてくれましたね」



月島「フフフ ハハハハ 数匹の犠牲がなんだ 新たな理想郷を造る上で我らにとって不要な者、邪魔する者は何ぴとたりとも生かしておくものか 貴様等も皆 ゾンビ共々屍となり、骸を重ねてくれよう カザック日本支部建国の礎となるがいい」



三ツ葉「それは聞き捨てなりませんね おまえをただちに拘束します 東本部へ連行する 営倉でじっくり頭でも冷やすんだ」



月島も三ツ葉へ向けP229を身構えた。



互いに向け合う銃口



月島「やれるものならやってみろ 三ツ葉ぁ~」

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