第160話 狙者

エレナを盾に取る月島を鋭い眼差しで狙う三ツ葉



村田は新たに手にした89式自動小銃でヴァジムを狙い



御見内も月島に狙いつけた。



三ツ葉、月島、御見内、村田、ヴァジムの睨み合いが続きしばしの沈黙が30秒程続いた時



その沈黙を三ツ葉が破った。



三ツ葉「本気で日本を占領出来ると思ってるのですか?」



月島「あぁ 勿論だ おまえも分かってる筈だ 俺達が持つカードを 俺達の力をな…」



三ツ葉「電磁パルスミサイル、ECMの事か… 呆れますね 救いようの無い愚か者ですよあなたは… そんな手段で手に入れたまやかしの国家などすぐに滅びます…」



月島「これから死ぬ人間が案ずる事じゃないな」



三ツ葉「目を覚ましなさい 月島」



月島「そんな事より我が身を案じた方がいいぞ」



御見内「おい さっきから聞いてれば この状況分かってんのか?我が身を案ずるのはテメーの方だ 国盗りをする前にテメーの心配したらどうだ」



三ツ葉「そうです 速やかに銃を下ろし速やかに降伏しろ」



月島が喉輪の絞めつけを強めた。



エレナ「くっ かはっ」



御見内「エレナ」



三ツ葉「エレナさんを離しなさい 月島」



エレナの首を締め上げながら後退りしはじめた月島



月島「御見内 こいつはおまえにとって大事な女だったな 今から選択させてやる この女を犠牲にしてでも俺を殺るか? その銃を下ろすか? 状況は極めてイーブンといえる」



御見内「くっ エレナを離しやがれ この外道」



月島「さぁ どっちがいいか決めろ どうする?下ろすか この女を道ずれにするかだ フハハハハハ」



御見内「チッ」



すると



三ツ葉「この男は本気です 御見内さん 銃を下ろして下さい」



ジリジリと後ずさる月島を追いかける2人



御見内「ですが」



三ツ葉「この場にエレナさんの命より重いものなどありません」



月島「ハッハ 賢明だな さぁ 2人共下ろせ」



睨みをきかせた御見内が仕方なしにサブマシンガンを放り、三ツ葉も静かに地へ置いた。



月島「ヴァジム 撤退するぞ 自力で動けるか?」



ヴァジム「無理だ 手を貸せ」



月島「ふ~」



やれやれと言った顔つきで後退する月島に距離を保ちつつ後追いする三ツ葉と御見内



息苦しそうなエレナを強引に引きずり、銃器を捨てた2人へ交互に拳銃を向ける月島



2人は丸腰ながら月島から目を離さずジリジリと距離を詰めていた。



御見内「ただじゃ済まさねぇ~ぞ」



月島「ほぉ~ 手ぶらでどう…」



すると



銃口が御見内へ向けられピタリと止められた。



月島「御見内 袖下で掴むその手を離せ」



御見内「…」



袖下で密かに握られていた小槍



月島「暗器としてそいつを投げようって魂胆だろうが甘いな」



いつでも発射可能で握られていた隠し武器…



打根の存在が見破られていた。



そして月島がエレナの豊かな胸元に再度拳銃を押し付け



月島「2人共 止まれ」



その言葉で2人はピタリと足を止めた。



その間ジリジリと後退り、木の陰へ半身を隠した月島が再び御見内へ銃口を向けてきた。



睨みつける御見内と視線がぶつかり、数秒間睨み合うや



口角を緩めた月島



パァン



銃音が鳴り響き、弾が発射された。



微動だにしない御見内、三ツ葉の鼓膜を揺らした銃声



風切る弾道で風圧が頬に触れるが…



2人共撃たれた形跡は無い



2人は同時に後ろを振り返った。



すると そこには



額に穴が開けられたヴァジムがいた



なっ…



ヴァジムは途端に白目を剥き、両膝をつけて前屈みに倒れ込んだ



仲間を…



いきなり射殺されたヴァジムの死体を目にし、動揺した3人



仲間を撃ち殺しやがった…



「ゲホッ ケホ」



そして3人が振り向くと



激しく咳き込み、座り込むエレナを残し



月島がその場から姿を消していた。



エレナ「ガハッ コホォ」



むせかえり、へたり込むエレナが倒れる寸前



駆け寄る御見内によって受け止められた。



御見内「エレナ」



エレナ「カホォ ご…め… ゲホッ」



御見内「いいから喋るな」



村田「あの野郎 逃がしゃしね~」



逃走した月島を追いかけようとするや



三ツ葉「村田さん 駄目です 止めて下さい」



三ツ葉によって止められた。



村田「何でだよ 逃がすぞ」



御見内「暗い森の中を追うのは危険だ」



村田「だからってこのままおめおめと…」



三ツ葉「深追いは禁物です もう追っても無駄でしょう」



村田「クソ あの野郎」 




村田が苛立ちながら渋々と引き返し、御見内等の前にしゃがみ込んだ



村田「大丈夫か?」



エレナ「ケホ コホォ ちょ…」



御見内「喋らないでいい ゆっくり呼吸を整えろ」



エレナ「うん…ケホ ケホ」



村田「あいつどうするよ?このままじゃ終われねえだろ?」



御見内「あたりまえだよ 借りは返す」



村田「だな ぜってぇ~ 逃がしゃしねぇ~」



三ツ葉「それなら心配無用です 彼とはいずれまた会いますから」



懐にシグザウエルP229を仕舞い込む三ツ葉が口にした。



村田「ロシアに国外逃亡するかもしれないぞ」



三ツ葉「それも一理ありえますが… 恐らく大丈夫 すぐにまた会えます」



村田「…」



咳き込むエレナを抱きしめたまま御見内が三ツ葉に目を向けた。



御見内「魔法使い野郎か…?」



三ツ葉「そうです 接触するでしょう 山吹と交戦すればいずれあいつも姿を見せると思います」



三ツ葉もエレナの様子を伺いしゃがみ込んだ



三ツ葉「エレナさん 大丈夫ですか?」



エレナは次第に呼吸が整い、落ち着きを取り戻した。



エレナ「コホォ もう大丈夫です ホントみんなごめんなさい」



三ツ葉「いいえ 無事でなによりです」



御見内「三ツ葉さん あんたの追い求めている例のヴェチェ…なんたら大佐ってやつ」



三ツ葉「ヴェチェラフ大佐です」



御見内「そこでくたばる馬鹿なロシア人が口を滑らせたよ そいつの情報を掴んだ」



三ツ葉「本当ですか? 何です?」



御見内「奴の居所」



三ツ葉「大佐の居所… どこにいるんです? サハリンに戻りましたか?」



御見内「いや サハリンじゃないよ もっと近くにいる…」 



三ツ葉「…」



御見内「この国内だそうだ」



村田「まじ?もう日本にいるってのか?」



御見内「えぇ」



三ツ葉「もしかして北海道ですか?」



御見内が無言でコクリと頷いた。



村田「おいおいまじかよ すぐ上じゃねぇか」



御見内「隠し球の件もゲロってた」



村田「隠し球? 何の話しだ」



三ツ葉「ミサイルの件です 後で詳しくお話しします」



御見内「サハリンの空軍基地のミサイル発射台に乗せられたと言ってました」



エレナ「急いで対処しないと日本が消滅しちゃうよ」



村田「おいおい ミサイルとか消滅とか一体何の話ししてんだよ」



三ツ葉「大丈夫です ミサイルはあくまでも脅しのカードに過ぎません 占領する地をわざわざ荒廃させる程馬鹿じゃありません それに大佐が国内にいるのなら尚更です ですが 何かしら劣勢になったり、占領を諦めた時は危険です やけっぱちで何をしでかすか分かりませんから なんにせよ早急に対処しなければ」



御見内「あぁ どっちみちその大佐とはやり合わないといけない」



三ツ葉「えぇ そうです 貴重な情報ありがとうございます 通信が復活したらすぐにでも本部に報告します」



御見内「エレナ 立てるか?」



エレナ「うん」



御見内がエレナを支えながら立ち上がった。



御見内「ヴェチェラフって奴のその前に俺達にはやらなきゃならない相手がいる」



村田、三ツ葉も立ち上がり



村田「おいおい 話しが見えねぇよ」



三ツ葉「後でじっくり話しますから」



御見内「まずはインチキ魔術師と俺等に潰されるキチガイな仲間達の掃除といこうか」



三ツ葉「すいません 一つお願いがありまして 月島の件… その件は私に委ねて貰えませんか 同僚が犯した謀反(むほん)行為 責任を持って私の手で処理したいと思ってます あの男は本部に連行致します 」



御見内が村田と目を合わせ、2人共頷いた。



御見内「分かりました おまかせしますよ」



三ツ葉「ありがとうございます」



村田「よっし じゃあ とりあえず行くぞ 怪我人だらけだかんな」



そして4人が動き出そうとした時だ



ザッ ザッザッ



足音が近づき



臼井「いたいた おい 急げ 小泉の容態がもう最悪だ」



エレナ「大変」



村田「まじか… 行くぞ」



三ツ葉「こっちが何よりも優先でしたね」



慌てた様子で迎えに来た臼井に連れられ、4人は駆け出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



トラップの森



緩やかな斜面の崖を滑り下りる男、明神



手にするロシア製狙撃銃 ドラグノフのスコープを覗き込みセレクターのつまみを回し倍率を上げた。



また同時にサイドフォーカス(ターゲットのピント)やディオプター(焦点合わせ)を素早く微調整しながらレンズの角度を変え



引き金をひいた。



タァーーーン



その60メートル程先では…



「はっ はっ」



美菜萌の手を引く青木の姿




2人が森の中をつっ走っていると



青木の50センチ程頭上をいきなり銃弾が掠めて行った。



青木「うっ」



あぶね…



2人は頭を低くして木の陰へと潜り込んだ



明神「チッ」



舌打ちした明神が片膝で座射の構えを取る



こう暗くなると狙撃しずらいな…



青木「はっ は…」



青木が木の陰から暗くて何も見えぬ先に視線を向けた。



青木「はっ は 昼間だったらもう頭を撃ち抜かれてるね こんな暗い中 大した腕だよ明神さんは」



もう40センチ下か…



レンズを覗きながら計算する明神



パララックス(スコープと銃口の高さによるズレ)調整でエレベーションノブ(スコープの上下調整)のダイヤルをいじりはじめた。



青木「いこう」



そして青木が再び幹から飛び出し走り出す



「う~ う~」



日も沈み、視界の確保が困難な中



周りから聞こえてくる屍人の呻き声を耳にする2人



ギュッと握り締められた手に引かれ、青木の後について行く美菜萌がふと呻き声のする方へ横目でよそ見をした時だ



土から剥き出した根っこに足を取られ、転びそうになった美菜萌の頭が下がった途端



パァーーーーン



銃音と共に弾道が美菜萌の頭上を掠めていった。



美菜萌「え?」



頭をよぎった銃弾



青木「にゃろ~」



焦った様子の青木は再び木の陰に逃げ込んだ



もし… さっき足をつまづかせ頭を屈めていなかったら…



頭を撃ち抜かれていた…



美菜萌は一瞬にして青ざめ、冷や汗が出てきた。



青木「もう修正かけてきやがった ヤバいよ もう必殺必中で外さない… 迂闊に飛び出せばたちまち撃ち殺されちまう」



16倍率で投影された灰色に映る世界、円形のレンズ内に描かれる十字線(レティクル)



その十字線に所々丸が描かれ、投影された対物の大きさとそれぞれの丸の間隔によって相手の距離が正確に割り出される



いわゆるミル計算ってやつだ



青木等との距離は45メートル



次は仕留める…



明神は青木等が隠れているだろう木に狙いを定めた。



片目を瞑り、トリガーに掛けられた指



一瞬でも木陰から出てきた所をシューティングするつもりだ



美菜萌「な…なんでこの暗い中 あんな正確に狙えるんですか? しかも周りにはこんなにも沢山の木が生えてるのに…」



青木「ずっと森の中をさまようゾンビを狙撃してた人だから こうゆう場は慣れてるんだよ まぁそれ以前にあの人の命中精度はズバ抜けてるから 美菜萌さん達の仲間も沢山犠牲になったんだ どれくらい凄腕かは嫌でも分かるっしょ」



美菜萌「はい…」



青木「さて それよりこっからどうすっかな…」



確実に出た途端当てられる…



まずはどっから狙ってきてるのかをしっかり把握しなきゃ動けない…



どうする… どうする…



考える青木の目に美菜萌が手にする長棒が映った。



これだ…



青木「美菜萌さん ちょっとその棒貸して」



美菜萌「え? あ はい どうぞ」



青木「古典的だけど…」



棒を受け取り、迷彩の下に着た黒フードを脱ぐやそのフードを棒に引っ掛けた青木



美菜萌「何するんですか?」



青木「まぁ見てて 引っ掛かってくれるといいんだけど」



そして青木が素早く長棒を伸ばすや否や



タァーーーーン



銃声が鳴り、フードの部分に穴が開けられた。



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