第144話 小屋

コーキュートス(下水処理場)



地下坑道



ハンマーブローが巨大ミミズの身体にブチ込まれた。



「キィィィイ~」



表皮を突き破られ、暴れまくるミミズを怪力で持ち上げると



頭部を外壁に叩きつけた



ピクピクさせ大人しくなるミミズに



バカァ~



もう一発ナックルが叩きつけられた。



壁が壊され



頭から突っ込まれたミミズの尾っぽがダラリと垂れ下がり、活動が停止する。



すると



今度はもう一匹のミミズが怪しげな粘液球を吐き出してきた。



ベタベタな粘着質の液体をまともに受け、バスタードの身体が急速硬化するも…



「うぐぅぅぅぅうああああああ~」



固まりつつある身体を力業で強引に動かし、ミミズにハンマーパンチを浴びせた。



外皮に拳がめり込み、くの字に折れ曲がったミミズの口から体液らしき分泌物が吐き出され



次にバスタードはミミズの口に両手を突っ込み力の限りにこじ開け、引き裂いた。



化け物対化け物の潰し合い



人間の付け入る隙などない壮絶なモンスター同士の殺し合いをただ静観するポリーナ達の前で



ミミズの口が真っ二つに引き裂かれた。



ブシャー



暗視ゴーグルに化け物の血が降りかかり、ポリーナが濡れたレンズを指で弾くと同時に



この場のミミズを全て葬ったバスタードが次に標的をこちらに向け襲いかかってきた。



バコーン



兵士の顎にアッパーカットが打ち込まれ



首が天井に突き刺さる



「わぁ~」



また兵士がおそれをなして逃げ出すと



「うぐぅぅぅぅうああああああ~」



凄まじい形相のバスタードが追いかけ、ポリーナの真横を通過



逃げ出す兵士を背後から押し倒すやうつ伏せ状態の首を掴み、そのままキャメルクラッチでへし折った。



ベキバキバキ



背骨が折られる嫌な音が鳴り



後頭部をピタリと尻に吐け、真っ二つに折り畳まれた。



ポリーナただ1人を残し、巨大デスワーム、兵士等を皆殺しにしたバスタードが立ち上がりゆっくりと振り返った。



暗視ゴーグル越しに標的を見据えたイかれる目つきのバスタードと向かい合い



くっ…



ポリーナは我に返り



右手に拳銃ウダフ、左手にタクティカルナイフを握り、ファイティングポーズを取った。



「ぅぐぅううぅぅうぅ~ うおおおお~」



来るなら来い…



低音の唸りから瞋恚(しんい)の炎を燃やしたバスタードが襲い来る寸前



小走りでやってくる靴音



ポリーナの耳に複数の足音が聞こえてきた。



またバスタードもその音に反応を示し振り向くや、曲がり角から現れたのは…



先頭で飛び出したきたゲオルギーだ



ゲオルギーは登場と同時にMP443グラッチを発砲した。



パァン パァン パンパンパン



弾はバスタードの胸部から腹部にかけ被弾



「うぐううぉおおおおお~」



目移りしたバスタードがゲオルギーに向かおうとするや今度はウダフの銃口が後頭部に置かれ



パァーン



至近距離から発砲された。



バスタードの頭に風穴が開き、血を吹き出してよろける



すると



ゲオルギー「Полина избежать(ポリーナ 離れろ)」



手にした手榴弾



ポリーナが咄嗟に離れるやその手榴弾が投げ込まれた。



よろめくバスタードの足元にコロコロと転がり



ゲオルギー「Пошелнахуй(くたばれよ)」



手榴弾に銃が向けられ発砲、命中された。



ドカァ~



そして爆発した



まともに喰らったバスタードはピヨりながらもまだ唸り声をあげ、まだ向かって来ようとするが



コロン コロコロコロ



追い討ちの手榴弾が4個、地を転がりバスタードの足元へと転がってきた。



その2~3秒後



ドカァ~ ドカァ~ ボォカァ ドォォ~



4連発の起爆、天井や壁が崩れ、煙りに包まれた。



ゲオルギーの後ろからぞろぞろと部隊が現れ



それからヴァジムがやってきた。



ヴァジム「Илиубили?(始末したか?)」



ゲオルギー「Да Каквыможетевидть(あぁ ご覧の通り)」



崩れた土壁の下敷きになり沈黙したまま横たわるバスタードの亡骸を確認したヴァジムとゲオルギー



また辺りに転がる巨大デスワームの死骸を目にしたヴァジムがナイトスコープをいじりながら怪訝な面持ちで尋ねた。



ヴァジム「Что тушкизтогосушества?(なんだ この生き物の死骸は?)」



ゲオルギー「Не знаю(さぁな)」



ヴァジム「Πолина Πолина~(ポリーナ ポリーナ~)」



ポリーナ「Яслышал(聞こえてるわよ)」



黒煙と土煙りの中からポリーナが現れ



ヴァジム「Какиезатяжной(何を手間取ってる)」



ポリーナ「Ясожалею Это был неопытный противник(ごめんなさい 不慣れな相手だったのよ)」



ゲオルギーや兵士等が見たこともないUMA生物の死骸を観察



また凝固した物質内に閉じこめられ死亡する仲間や天井に頭が突き刺さる仲間を見渡す兵士達の顔色が曇っている。



ヴァジム「Каковбылпроцесскрыса(ネズミの処理はどうした?)」



ポリーナ「еще(まだよ)…Онушелвспину(奥に逃げてったわ)」



ガシャ



ヴァジムがハンドガンのマガジンを新しいのに差し替えた



ヴァジム「Следозать(追うぞ)」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



スペツナズから150メートル程離れた場所



現存リスト



御見内、エレナ、村田、ポン吉、臼井、柊、月島



負傷者



百村、小泉



御見内、村田を先頭に出口を探す一団



迷路な暗い坑道を右に折れ、左に折れ、ひたすら出口を求め進んでいた。



村田「クソ ここも行き止まりだ  みんな戻れ! さっきの道を右だ」



ゴオオオ~



地中を移動するデスワームが付け狙い、周辺をうろちょろしながら様子を伺っている…



ポン吉「あわややや いつまた襲って来るのかな… 怖いよ」



御見内「大丈夫だよ いいからしっかりついて来て」



御見内がポン吉の肩をそっと叩き先頭に立った



村田「大丈夫?どんな気休めだよ …」



御見内「大丈夫ですよ もうこれ以上奴等の餌食にはさせませんから」



そう言い放ち、御見内はどんどん進んで行く



自信に満ちた断言とも取れる口ぶりに立ち止まった村田がボソッと口にした。



村田「いきなりなんだよ あの芽生えたような自信は…」



エレナ「相当頭にきてるのかもしれませんね 彼はもうあんな化け物に動じないと思うわよ さぁ 行きましょ 隊長さん」



村田の耳元で囁いたエレナも後に続き



村田「動じない…」



一団の背中を見つめ、地響きを起こす天井を見上げながら村田がまたボソッと口にした。



柊「ねえ ちょっと そっちちゃんと持ってよ」



衰弱しつつある百村を懸命に引きずる2人



ライトがなければ数ミリ先も見えぬ深き闇のトンネルで…



いつまた襲って来るかも分からぬ恐怖にポン吉はそわそわする。



ポン吉「ねぇ… やっぱこうゆうのってパターン的に卵がいっぱい産みつけられた産卵場所があったり、産まれたての幼虫がうじゃうじゃいたりするとか… 極めつけは卵を産みつけるクィーンみたいなのがいたりとかしたりとかしないよね? ね?」



柊「どうだか… 想像したく無い」



臼井「ありえるぞ」



負傷者をおぶる臼井が背後から割り込み、ポン吉を脅した。



柊「怖がらせてどうすんの?」



ポン吉「え~ まじすか? もう嫌だよ 怖い怖い」



臼井「少なくとも50年前から存在する未知の地底生物だ、今尚うじゃうじゃいるって事は繁殖してる証拠だろ… じゃあ誰がその卵を産んでるんだ?」



ポン吉「え~」



柊「ちょっとぉ~ だからビビらせてどうすんの」



村田「よせ 変な事考えずに脱出する事だけを考えろ」



エレナ「後もう一息なんだから頑張って無事に脱出しましょ」



ポン吉「もう一息って… だって道に迷ってんじゃん ホントにこの道で合ってるの? また行き止まりになるんじゃないの?」



エレナ「それは…」



ポン吉「…第一出口に辿り着けるの? そもそも地上に出る出口なんてホントにあるの?」



柊「それはある 信じて進むんだ」



村田「あぁ そうだ信じろ とにかくごちゃごちゃ言わずに進め」



柊「それに急がないと… この人の身体…また冷たくなってきてる 早くこの付着してるやつを剥がさないと流石にヤバいよ」



恐怖と不安が入り混じるポン吉のそわそわは止まらず、百村の状態もみるみる悪化していた



臼井「こっちもヤバい 一刻も早く止血しないと」



また重体となる小泉の命も危ない



エレナ「…」



エレナ、村田が顔色を変えた。



そんな時だ



先陣切ってどんどん歩を進める御見内から掛け声がかかった。



御見内「みんな 進展ありだ」



ライト頼りに前進して行くと一行は狭き坑道からひらけた道へと飛び出した。



幾線ものライトが照らしだした道の中央にはレールが引かれ、錆びついたトロッコが置かれている。



御見内「よし レールにトロッコがあるぞ って事は迷宮を抜けたな 出口はこの先にある 近いぞ」



エレナ「あれ見て」



エレナが向けたライトの先には土壁に張られたプレートが照らされた。



出口までの距離1.2キロと表示されたプレートだ



エレナ「1.2キロ… 少しあるわね」



それから右方に詰め所らしき木造のプレハブ小屋が照らされ



臼井「なぁ 小屋があるぞ この2人は保ちそうもない あそこで一旦応急処置がしたい」



エレナ「しないとマズいわね」



御見内が村田と視線を交え軽く頷いた。



村田「しょうがねぇ 急げ! 後ろから奴等も迫ってるんだ 5分で済ませろ」



臼井「よしきた あそこに運ぶぞ」



村田が後方に銃を構え、警戒



御見内等は小走りで小屋へと近づいた。



百村「ぅうぅ…」



弱りきる百村は今や掠れた呻き声をあげ、意識が混濁している。



木製のスライド式の扉に手を掛け、ゆっくり扉を開いた御見内



そして室内を照らしながら一歩踏み込んだ瞬間



御見内等の目に入ってきたのは小屋中に敷き詰められた人骨の数々だった。



ポン吉「また骨だぁ~ 何なんだよここ 骨イヤだぁ~」



御見内が床一面の人骨を蹴散らしながら入室、部屋の中を調べた



奴等の姿は無く



見渡す限り特に危険は無い…



異常な量の人骨があるのみで安全なようだ…



それを確認した御見内から



御見内「大丈夫 入って」



ポン吉「入るのやだぁ~」



柊「いいから早く入って」



臼井「早く入れ」



そして御見内が骨をどかしスペースを作るやポン吉を無理矢理小屋へ押し込め、百村と小泉を床に寝かせた。



臼井「止血する」



柊「ポン吉さん ライトを当てて」



ポン吉「ううう… は はい…」



臼井は急いで自らの白衣を脱ぐや、ちぎり始め、柊は百村の負傷箇所を触診しはじめた。



その間 再度部屋を調べる御見内



隈無く光をあてていくと



あるカレンダーに目を止めた。



1963年 昭和38年と表記



50年以上も前のカレンダーだ



また隣りには



気を抜けば事故の元 指差し呼称で安全第一



そう書かれた安全標語のスローガンが貼られている



光が横にスクロールされると今度は流しが照らされた。



流しの上にはコップの中に何十本も入った歯ブラシからもう壊れてるだろう埃まみれのラジカセなどが照らされ



もう一生このまま使用される事も無い蛇口にシンク、戸棚が映しだされた。



御見内はそのまま流し見しようとした時だ



ポタッ



ライト光にある一滴の雫が照らされ、それがシンクに落ちた。



何だ…?



光で照らしゆっくりシンクを覗き込むやそこには一滴の雫が落ちていた。



すると



ポタリ



また一滴 シンクに垂れ落ち、御見内が何気無く天井を見上げた時だ



天井に開いた穴から覗き込み



照らされたデスワームの頭部



御見内をジッと見下ろしていた。

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