第145話 逆徒

醜怪な円形状の口から糸引くよだれがポタリと落ち



穴から覗くデスワームを見上げた御見内



くっ…



御見内が即座にMPのトリガーへ指を掛けた時だ



照らされた光に驚きデスワームが穴の奥へと消えて行った。



よく見ると天井には幾つもの穴が開いている



ここは…



それとまた



積もった人骨に視線を向けると…



骨の所々に黒い物体が付着している事に気付いた。



御見内はしゃがみ込み、それらに目を凝らすとそれは…



排泄物のような物だった



ここは…もしかすると奴等の排泄場所…?



御見内が懸命に処置にあたる臼井等に目を向けた



臼井「ポン吉さん こっちにも光をくれ 外腹斜筋部の弾痕が深いな…直接圧迫してるのに中々血が止まらない」



柊「何だこの物質 これ固くて素手じゃ取り剥がせない」



その光景を目にした御見内は何も言わずに口を噤んだ



バッタリ奴と遭遇した事を今話せば混乱を生じさせるだけ



応急処置に専念するのが優先だ…



御見内「どうだ?」



臼井「背中に計3つの銃創が見られる 内2箇所はきつく縛って血が止まったが背中下部の1箇所だけが駄目だ 中々止まらない 止血剤の投与と縫合が必要だ しかる場所で適切な治療を行わないと」



御見内「そっちは?」



柊「取れない 刃物かなんかで地道に削り取るしかないよ」



御見内「ならこれを使って」



御見内が懐から小型のナイフを取り出し、手渡した。



柊はそれを受け取るとアイスピック持ちで慎重に氷を割るように突き刺した。



御見内「手伝う 指示してくれ」



一方 外で待機するエレナ、村田、月島の3名



村田とエレナが後方から迫るスペツナズを警戒していた。



エレナ「村田さんのご出身はどちらなんです?」



村田「俺か 俺は茨城県の守谷って所だよ あんたは?」



エレナ「博多です」



村田「博多かぁ 本当に?案外都会人なんだな」



エレナ「どうゆう意味ですか?」



村田「この青森がしっくりきてるからてっきり地方の芋姉かと」



エレナ「青森県民の人に怒られますよ 私にも失礼です どう見たって垢抜けてるでしょ 守谷ってどんな所ですか?」



村田「ほんの少しだけ栄えたただの田舎町だ」



エレナ「へ~ そうなんですね お務めは元自衛官のお仕事されてたんですか?」



村田「あぁ 古河駐屯地で補給部隊として8年務めてた」



エレナ「8年も?ベテランですね 失礼ですが今おいくつなんです?」



村田「今年31になる」 



エレナ「へ~ そうなんですか?40くらいかと思ってました」



村田「おい 失礼だな そっちは以前は何してたんだ?」



エレナ「私も村田さんと同じで公務員です 区役所勤めしてました」



村田「そうか… ん? でもおかしいな 公務員がその手慣れた銃捌き… 素人が急激にそこまで成長したとは思えない どこでそんなの覚えた?」



エレナ「銃は幼い頃から触れてました 親が猟師をしてたんです それで小さい頃からよく一緒に狩りに連れてって貰ってました その時に少々手解きを受けてたんです だからです」



村田「ライセンスは持ってるのか?」



エレナ「いえ 持ってません 同行した時に内緒で扱ってましたから あ!この事は内密ですよ」



村田「はは バレた所で今更誰も咎めねぇーよ むしろ射撃スキルのある奴は重宝される」



エレナ「……」



暗いトンネルに2人の会話だけが響き渡り、しばしの沈黙後 2人はある事に気付いた。



村田「ん? 揺れが止んでる…」



周囲の土中を移動する震動がやんでいたのだ



エレナ「地震が止まったって事は奴等の動きが止まったのかしら… もしかして遠ざかっていったのかな…」



村田「そこの奴 こっちに寄れ」



少し離れた月島を呼びよせ



村田「油断するな 奴等が諦めるとは思えん 周囲を警戒しろ」



エレナ「はい」



静けさ漂う洞穴にライト光線がそこら中に照らされ警戒にあたるエレナ



月島「…」



村田も緊張気味な表情で後方に注意をしていると背面越しからエレナがある事を口にしだした。



エレナ「村田さん ごめんなさい」



村田「あ? いきなり神妙に何だよ…?」



エレナ「この件にザクトを巻き込んでしまった事… 大事な仲間を無駄死にさせてしまった事 申し訳ありません 考えが浅はかでした これは私達の作戦ミスです」



村田「今ここで言う事じゃないぞ… それにあんた等に謝罪される筋合いは無いな 作戦に死はつきものだ そんな事はとうに覚悟の上で任にあたってる…」



エレナ「でも…」



村田「スペツナズの侵攻とて想定内だったしな 余計な感情は捨てろ 今はこれ以上犠牲者を出さない事を考えろ」



エレナ「…」



エレナは無言で頷いた。



そして再び会話が途切れ、洞穴に静寂が包み込んだ時だ



「ふっ ふふふふ」



微かに鼻で笑う音が2人の耳に舞い込んできた。



「ふふふふ…」



エレナ、村田が目を向けた先には…



突然 鼻で笑い出す月島の姿が映し出された。



エレナ「…」



村田「何がおかしい?」



明らかな嘲笑



今まで何一つ語る事無く同行を共にしてきた月島が突然笑いはじめたのだ



村田「面白いギャグを披露した覚えは無いがな まさか俺達2人が田舎っぺなのがそんなにウケたか?」



エレナ「私は田舎者じゃないですから…」



月島「ふふふ… 愚かだな…」



村田「何?」



村田が目つきを変えた。



月島「先程これが想内の範疇だとか言ってたな?」



村田「あぁ ジャンボミミズは違うけどな」



月島「作戦が失敗しておきながらこれが想内の範疇だと言ってるその馬鹿さかげんにウケたんだよ」



エレナ「違うわ それは介在するロシアの存在と侵攻の事よ」



月島「ふふふふ なら負けを認めるか?」



村田「テメェー! テメェーこそ何を言ってる?」



月島「私は表向きは元空自の情報保安部の人間だと言う事は挨拶で話したな」



村田「あぁ おまえ等スペツナズのリーダーをマークしてるんだろ?それが何だ?」



月島「ふふふふふふふふ」



エレナがいきなり月島に向け、小銃を身構えた。



エレナ「まさか… あなた…」



月島「察しがついたか その通りだよ」



村田「まさか!?」



村田も月島にMPを向けた。



村田「裏切り者なのか?」



月島「情報保安の人間と言うのは本当の事だ だがもう1つ私達もある顔を持ってるんだよ」



村田「…」



月島「ちなみに貴様等の銃床をよく見てみろ」



エレナ、村田が銃床を確認するやそこには豆粒程のくっついた物



月島「発信器だ 作戦時に各自につけさせて貰ったよ それで貴様等の位置はスペツナズに筒抜けだ」



村田「おいテメェー ロシアに魂を売ったのか?非国民にも程があるぜ」



月島「魂を売る? 違うな そもそも同志なんだよ 大佐とはな…」



村田「同志?」



エレナ「あんた誰?」



月島「先程も言ったが私も二足のわらじを履く者 私が所属するもう一つの組織とは…それは」



エレナ「…」



月島「カザックだよ」



なっ…



驚きとショックで目を見開けたエレナと村田



月島「もう手遅れだ 貴様等はこの洞穴からは出させない」



パチン



月島が指を鳴らしたと同時に暗闇からスペツナズの部隊が現れた。

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