第137話 尾行

斉藤「おまえ…」



目の前に現れた青木に驚きの表情を見せる2人



青木が死したスペツナズ兵の戦闘服をまさぐり何やら探し出す



斉藤「どうしておまえがここに…?」



青木「みんなはもうこの建物から脱出したよ これから後を追う」



斉藤「脱出した? なんだよ俺達は置き去りか?」



青木「だから俺が代わりに迎えに来たんだ」



タクティカルベストのポケットを1つずつ探り、手に取るのはAK用の弾倉ばかり



青木はそれをポイポイ捨てていく



斉藤「おまえ1人でここまで来たのか?」



青木「そうだよ ねぇーなぁー」



レッグホルスターやらショルダーホルスターなどあらゆる箇所を漁るが出てくるのはナイフやら突撃銃のマガジンのみ



そして2人目の死体も調べ始めた。



レッグホルスターに拳銃マカロフを見つけ、懐を探りだすや



見つけた…



青木が取り出したのはマカロフ用の弾倉だ



弾倉は全部で4個



青木はそれら全てを自らの懐に仕舞い込みマカロフを取り出すと弾倉を交換しはじめた。



ガシャ



青木「さぁ 行こう モタモタしてる暇は無いよ」



美菜萌「青木さん みんなは… 皆無事なんですか?」



青木「……」



それからマカロフのスライドが引かれ、言葉を噤(つぐ)んだ青木



斉藤「無事じゃないのか?」



青木「うん… 何人も殺られたよ」



美菜萌「うそ…」



青木「戦闘ヘリの襲撃を受けた 脱出用のバスがやられたんだ… その時生存者の大半とザクトの兵隊さんも何人か殺された…」



美菜萌「そんな…」



斉藤「阿部さん 川畑さん 谷口は平気か?」



青木「阿部って人がその襲撃で亡くなった…」



斉藤「まじかよ… 阿部さんが…」



青木「そこら中にロシア野郎がうろちょろしてる 急ぐよ ついて来な」



美菜萌「はい」



斉藤「お…おぅ」



そして美菜萌が長棒、斉藤が小銃を手にとり、青木と共にオペ室をあとにする。



廊下から顔を覗かせ、左右の安全を確認したのち



ウィーバースタンスで拳銃を身構え、廊下へ飛び出した青木の後を追う2人



ナースステーション、カンファレンス室を小走りで越え階段へ差し掛かった時だ



ドタドタドタ



「Нитденебудт(何処にもいないぞ)」



「Найти(探せ)」



下階で駆けずり回る足音と飛び交うロシア語が聞こえる



青木「チッ 血眼(ちまなこ)だな やっぱ単純には抜けれねぇか」



斉藤「おまえ よくこの中をここまで辿り着けたな」



青木「まぁ 単独ならね 3人もいちゃ話しが違う 厳しいよ… 別のルートで行こう こっちだ」



青木に言われるがままあとを追う2人



3人は廊下を小走りで引き返した。



オペ室を通過し、突き進むと押し扉を開き、更に廊下を進んで行くと



病棟エリア



番号がふられた幾つもの部屋を通過し、長い廊下を駆け抜けた。



斉藤「何処行くんだ?」



青木「こっちにもう1つ外に面した非常階段がある こっちなら分かりずらい もしかしたらまだ奴等に気づかれてないかも知れない」



別ルートに望みを託し



そして食堂、売店を通り過ぎた辺りで



フロアー内のどこからかロシア語が響き渡ってきた。



フロアー内をうろつくスペツナズの声に緊張を高め、3人は無言で廊下を駆け抜けていく



いきなり飛び出して来るかもしれない敵に注意し、前方へ身構えながら先頭を進む青木が病理診断室を越え、ある部屋へと入って行った。



臨床生理検査室のネーム、それと連なり事務室とプレートに書かれる部屋



室内は長年使用されてない形跡、埃が被り、デスクの上には紐で縛られ重ねられた未処分な書類系の束が放置されていた。



クリアケースやファイリングケースが収納されたままのオフィス用引き違い書庫やスチール製のキャビネットが並んだ棚が見られ、青木はその裏へと周り込んだ



一見 壁に接着してるように思われたが、扉一枚開く程のギリギリな隙間があり、そこに1つのドアが存在した。



非常階段だ



そして青木がそのドアを開き、外階段へと踏み出した時だ



上がって来る1人のロシア兵の姿



青木がそいつと目を合わせた



鉢合わせだ



ヤバ…



ロシア兵がアサルトライフルを構えるよりも先に



階段から跳び蹴りを放った青木



バカァ



ダイレクトに胸部へ喰らわせ、踊り場まで転げ落ちる兵士



青木がすぐさま戻りながら口にした。



青木「戻れ」



すると下から駆け上がって来た2人の兵士がAKを構え、発砲してきた。



タタタタタ  タンタンタン



カンカンカンカン バタン ピキュン ピン



同時にドアが閉まると、銃痕がつけられる



青木「チキショー ロシアだ」



青木が鍵を掛けようとするが



閉まらない…



青木「やべー 鍵壊れてやがる… 何か押さえる物を…」 



斉藤「この棚を倒そう 美菜 手伝え」



美菜萌「はい」



ガタッ



2人で棚を傾ける



斉藤「青木 そこどけ」



そして青木が扉から離れると



棚が倒されドアが塞がれた。



ガチャガチャガチャガチャ



外から勢いよくノブが回されるが侵入阻止はなんとか成功



青木「ここも駄目か…」



他に経路は……



頭の中で必死に逃走ルートを考える青木に



斉藤「おい 他にいい抜け道はねぇのかよ」



青木「待って 今考え中だから ちゅうかあればとっくに行ってるし」



すると



「Обнаружениецели(目標を発見した) Южныйкорпус2изтаж(南棟の2階だ)」



扉の外から聞こえて来る声に耳を澄ました美菜萌



美菜萌「何か連絡してるようです」



斉藤「やべぇーぞ すぐ来る 取り囲まれちまう」



仕方ない…



青木「2人共こっちだ」



飛び出す青木等が食堂へと入って行った。



倒れたパイプ椅子や割り箸、割れた醤油瓶の欠片から皿、お盆などが散乱し、それらを踏みしめた青木が窓際に近寄り



割れた窓ガラスを開けた。



美菜萌が覗くと外にはゾンビ達がそこら中にうようよしている。



美菜萌「凄い数ですね…」



ノロノロ歩行で樹木の間から姿を現し次々とアスファルトに…



途切れる事無く音に誘(いざな)われた奴等が森から姿を現していた。



その直後



バタバタバタ



プロペラ音が鳴り響き



ドドドドドド



機関砲を鳴り響かせ、西棟から1機の戦闘ヘリが掃射しながら旋回してきた。



斉藤「まじぃ あのヘリだ」



バタバタバタバタバタバタバタバタ



3人が咄嗟に身を隠すや目の前を発砲しながら通過していく



斉藤「おい これからどうする気だ?」



青木が顔を覗かせ口にした。



青木「このまま館内を抜けるのは難しい ここから外に出よう」



美菜萌「え? ここから?」



斉藤「冗談だろ? 2階たって5~6メートルくらいあるじゃねえか 落ちたら死んじまうぞ」



青木「あれを伝う」



青木が指さす先には雨樋(あまどい)



斉藤「まぁ 出来なくはないが ってか降りるったって下にはこんなにゾンビが…」



青木「スペツナズを相手にするよりはましだろ」



斉藤「どっちもどっちだろ つ~か だったら外には戦闘ヘリが飛び回ってんだぞ」



青木「それも大丈夫 今ゾンビの掃討に夢中だし 今ならチャンスだよ」



美菜萌「青木さん ここを降りたらどうするんですか?」



青木がその問いに一呼吸入れ、指さした。



青木「みんなはこの森の先にいる…ある小屋で待ってる…」



ドドドドドド ドカァー



爆発音が轟き



青木「こんな森 滅茶苦茶嫌いだよ もう2度と入るのは御免だと思ってたけど しょうがない… この森を突っ走る」



美菜萌「え? このゾンビだらけな中をですか」



青木「あぁ それしか道はない」



2階から見渡せる広大な森



青木等は再びトラップの森へ…



ーーーーーーーーーーーーーーーー



ゴミ集積所



イジャスラフ「Ионпошелкуда?(奴等何処行った?)」



「Исчез(消えました)」



イジャスラフ「Найтибольшесистемы(もっと隈無く探せ)」



集積所をあとにしたタミルトンが廊下で片膝をつき、しゃがみ込んだ



何処に消えた……



タミルトン「Онпахнеттабаком…(タバコの臭いがした…) Ябылздесьбезсомнения(ここに居た事は間違いない)」



イジャスラフ「Ливыпобежалииздругойето?(もう外に逃げられたか?)」



タミルトン「Отчетыизвертолетатомаловероятно(ヘリからの報告は受けて無い それは無いだろう)」



イジャスラフ「Еоливывышливлюбомместе(なら何処に消えたんだ)」



ネズミ一匹逃す事はない…



何故なら外を飛び回るヘリには熱感知センサーが搭載されているんだ…



あれだけの人数外に出ればすぐに発見出来る…



したがって奴等はまだ外に出ていない…



なら…何処に…



タミルトンが前方を注視しながら、立ち上がるや銃器を肩に掛け歩き始めた。



そして ふと男子トイレに目が止まり、立ち寄るや中を覗いた。



小便器が2つ 大便用の個室が2つの特に変わった様子の無い便所…



変わってると言えば清掃もされず汚いって事だけだ…



タミルトンは中に入り、念の為大の扉を開いていった。



やはり特に変わった様子は無い



タミルトンは洗面台に手をつき、目の前の鏡で自分を見つめた。



ありえぬ…



移動出来る別のルートでも存在するというのか…?



考えを巡らし、鏡に映る自分を凝視する中



ふとある箇所にタミルトンの目が止まった。



それは鏡に映る清掃用具庫の扉だ



タミルトンは振り返りその扉を直視するや



その扉にうっすらこびりつく血の痕を発見した。



そしてその血を指でなぞった時



この付着した血液…



まだ新しい…



タミルトンはその扉をゆっくり開き、中を覗いた。



一見こちらも何も変わらぬ用具庫に思えたのだが…



目を凝らしたタミルトンの目に映ったのは…



隠し扉



タミルトンはその扉を開けた。



暗闇に包まれた空間



そしてタミルトンが銃器のライトを点灯、先を照らすや現れたのは階段



見つけた…



タミルトンが男子トイレから飛び出た時だ



「ザァ Обнаружениецели(目標を発見した) Южныйкорпус2изтаж(南棟の2階だ)ザァ」



タミルトン、イジャスラフが無線に聞き耳を立てた。



タミルトン「Сколько?(何匹だ)?」



「ザァ Триподтверждаются(確認では3名です)ザァァ」



タミルトン「フフフ Этимышейбыли(逃げ遅れた鼠が残ってたか)」



イジャスラフ「…」



タミルトン「Остальныездесьявлястсянахождениескрытыйпроход(残りの奴等はここだ 隠し通路を発見した)」



親指をたて、示された男子トイレ



タミルトン「Собратьвсе(総員集まれ)」



「ザァ Япоялего(了解)ザザ」



「ザァ Япоялего(了解)ザ」



タミルトン「ИзЯслав Следуйзамнойздесьвычеканкатримыши(イジャスラフ 貴様は3匹の鼠を追え こっちの鼠は俺が始末する)」



イジャスラフ「Согласился(承知しました)」



ガシャ ガシャ



コッキングレバーが引かれ、排莢された弾



イジャスラフがその場にいる10名のスペツナズ兵を従え



青木等追跡に動き出す

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