第138話 暗視

コーキュートス(下水処理場)



地下3階 地下坑道



羽ばたく黒き虫が壁にへばりつき、蝋燭の灯りに照らされたゴキブリが壁を這いずる



また



ブンブン飛び回る無数の羽音の中



チューチュー鳴き喚く小動物の鳴き声がする中



灯された蝋燭の火が揺れる度



幾つもの足音が坑道を通過して行った。



村田が進行しながら無線機のチェックをおこなうがやはり反応なし



村田「チッ どうなってやがる」



あまりの悪臭にむせるポン吉、もげそうな鼻を腕で押さえる小泉に続き柊、臼井、月島の順で奥に進み



それから後衛には中山、海老名、霞の3名が配置され、追っ手を警戒しながら後ろ足で進んでいた。



その最前には村田、次いで御見内、エレナ、根城と続く



部隊が最初の分岐に差し掛かるやそこには



冴子のシークレットベースはこっち⇒ 180メートルだよ…



…と手書きで掲げられた看板が目に入ってきた。



先頭を歩む村田が迷う事無く矢印とは別の道へ進入



奥に進んで行った。



奥に進む事数十メートル程でランタンや蝋燭の灯りは一切無くなり、暗闇に包まれた坑道に入った村田が口にした。



村田「ここから先真っ暗気だ 各自ライト点灯させろ」



そしてMPや小銃に装備されたウェポンライトが次々と点灯され、坑道が照らし出された。



その瞬間



途端に地、壁、天井に敷き詰められた大量のゴキブリ達が照らし出され、光に反応したのか一斉にいくつもの塊がバラけ始める



一斉にザワワと散った虫



ガサゴソと見た事も無い程の無数のゴキブリが逃げ回り、身の毛もよだつ光景を目撃した。



流石に肝の座ったエレナも悲鳴をあげそうになるがとっさに口を押さえる中



ポン吉「うわぁあああ」



小泉「ひぃいいいぃい」



村田「うわぁぁあ キメぇぇ~」



数名の男子は悲鳴をあげ、坑道に響き渡った。



部隊はたちまち立ち止まり、御見内やエレナの足下や壁、天井を逃げて行くゴキブリの群れ



天井から落下してきたゴキブリが小泉や柊、霞、中山の衣服につき



臼井「うわぁぁ 気持ちわりぃ~」



また足下を這ってきたゴキブリなどがただちに払われた。



これほどの大群…



今まで見た事が無い一同は生きた心地がせず ただ過ぎ去るのをジッと待った。



そしてそれは10秒程続き ゴキブリの群れは何処かへと消えて行った。



気持ち悪い昆虫の群れが過ぎ去り、棒立ちで足が止まった一行に



御見内「進みましょう」



村田「お おぅ」



御見内の掛け声で進行が再開された。



それから2つ目の別れ道へと差し掛かった。



Y字に別れた進路



村田「どっちだ?」



柊が先頭にやってきて



柊「こっちへ行きましょ」



右側を選び進行



進んで行くと今度は┣字の岐路に差し掛かった。



村田「これは?」



柊が少し悩んだ末



柊「右で」



村田「おい 道ちゃんと分かってるのか?」



柊「私達が向かいたいのは東です なら右へ右へ向かえば目的地に近づける筈です」



村田「大雑把だな それでホント大丈夫か?」



エレナ「ホントよ こんな所で迷ったらマズいわ 大丈夫?」



御見内「大丈夫だ 今は進むしかない それよりも心配なのは追っ手だ」



進んで行くとライトに土運び用の一輪車が照らされた。



サビだらけな古びたネコ車が一台端に放置され、それを横目に通り過ぎる一行が今度は∠字の分岐点へと迫った。



指さし、先導する柊



柊「直進しましょう」



村田「柊さん 俺より前には出るな」



柊「あ すいません」



エレナ「追っ手ってスペツナズの事?」



御見内「あぁ こんな場所で奴等とカチ合えば断然こっちが不利になる」



村田「確かに… 狭いしな」



御見内「いや それだけじゃない… 向こうはナイトゴーグルを持ってたから…」



エレナ「…」



御見内「奴等はライト無しでも行動可能だ… 追いつかれる前に外界に出たい」



次に三差路にぶつかり



柊「右に行きましょう」



後ろ足で後方を見張る霞等の視界にはまだ敵の姿は見られない



ーーーーーーーーーーーーーーーー



同じく地下坑道



エレナ達から400メートル程離れた場所



真っ暗な坑道を一切ライトも照らさず、靴音と息遣いのみが聞こえてきた。



坑道に進入、エレナ達を追跡するポリーナの部隊だ



各自ノクトヴィジョン(暗視装置)が装備され、灰色の映像で鮮明に視界が確保されていた。



視界良好な部隊は足早に移動



冴子の手書き看板を通り過ぎ



速やかな移動でエレナ等を追尾する



そして二股に分かれた道の手前でポリーナが停止、しゃがみ込み、何やら床を調べた。



そこには長年溜まったチリや埃が被る道



よく見ると複数の足跡が残り、ヴィジョンされた。



そう… くっきりと道しるべが記されていた。



フフフッ 痕跡も消さず… お馬鹿さん達ね…



それに… あなた達を見失う事はまず無いわ…



ニヤリとさせたポリーナ



すぐにあなた達に追いつけるわよ…



ポリーナがすぐに立ちあがり



部隊に前進の合図を送った。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



地下坑道 エレナ等一行



右折、直進を繰り返し、奥へ奥へと歩みを進めていくパーティー



ある道へ差し掛かった時だ



複数のライト光がある物を照らした



何だあれ…?



先頭を歩む村田、御見内、エレナ、柊がその照らした物に恐る恐る近づき、見下ろした。



村田「骨…」



頭蓋骨が照らしだされる



するとエレナが



エレナ「見て そこら中に落ちてる」



皆が暗がりを照らすや周辺には幾つもの骨が散乱していた。



ポン吉「なんだよここ… 墓場?」



村田「これ……全部人骨だぞ…」



なんだここは… なんでこんな所に人の骨が沢山あるんだ…



不穏を感じた御見内が坑道の先を照らすと人骨はその先まで続いていた。



エレナ「昔 ここは鉱山だったのよね この坑道だってその時作られたもんでしょ ならこれってそん時何かしらの事故で亡くなった人達のじゃない?」



村田「そうかもな」



すると



柊がある事を話しはじめた。



柊「すいません 1ついいですか」



御見内「…」



柊「ここは5~60年前にできた かなり古い坑道だと聞いてます この地域の至る箇所に坑道が掘られてますんで昔は鉱山資源の発掘でだいぶこの辺一帯は栄えていたんだと思います…」



エレナ「…」



柊「ですが今ではこの森一帯が何て呼ばれてるか知ってますか?死の森と呼ばれてるんです 森一帯無数の亡霊に取り憑かれ、呪われた森だと現地人はこの森を恐れてあまり踏み入れないと聞いた事があります」



村田「死の森?」



柊「えぇ そしてその発端とされるある不吉な話しを小耳に挟んだ事がありまして…」



エレナ「…」



柊「その話しとは、なんでも発掘当時 複数の失踪者が出たらしいんです それも何百人単位でです」



村田「落盤事故か?」



すると割り込んできた臼井が話しを続けた。



臼井「神隠しだ」



神隠し…?



御見内「何百もの人が忽然と消えたと?」



臼井「そうだ 1人や2人じゃないぞ 何百もの人が作業中 一夜にしてだ」



村田「まさかそれがこれか」



落ちた骨を指さす村田に対し



臼井「いや 話しだと行方不明者は徹底的に捜索がなされたが1人も発見されなかったそうなんだ」



御見内「どうゆう事だ? ならこの骨はなんだ?」



臼井「分からない不可解だよ だが以前からここいらの現場ではある不吉な噂が囁かれてたそうなんだ……地中に得体の知れない何かがいるってな…」



村田「なんだそれ…」



臼井「この地域では有名な噂話しさ それがキッカケで鉱場は次々と閉鎖されたようだ 数百人の行方不明者のみを残してな」



御見内「数百人とは具体的にはいくつ?」



臼井「何人だったかな…」



柊「確か2~300って聞きました」



村田「たった一夜でそんな大人数を忽然と消せるもんか」



御見内「まさに神隠しか… その得体の知れない何かによって消された訳か…」



村田「おい 信じるのか?そんな50年前の噂話しを」



御見内「攫った奴の正体はさておき、ここにある骨は紛れもない事実 これは間違いなく失踪者達の物だと思われる」



エレナ「ねぇ~ 道 気味が悪いよぉ~ 早く行こうよ」



御見内「そうだな 村田さん ロシアも迫ってる とにかく先を急ぎましょ」



村田「だな 分かった」



後ろを見張る霞、海老名、中山から伸びた3本のライト光が通路を照らす中



村田「みんな行くぞ」



村田の掛け声がかかり



移動を再開したA班



後方を守る3人も動き、背を向け移動をはじめた



その直後



暗闇に同化し、隅角から現れた人影が現れた



そして



タタタタタタタ タタタタタタタ


タタタタタタタ タタタタ



4つの火花が散り



突如 銃撃された。

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