第136話 暗殺

サンクチュアリー(廃病院) オペ室



カーテン1枚を挟んだ1室



生体モニター装置、脳波計、心電図、パルスオキシメータ、人工呼吸器から内視鏡、除細動器などなど



長年眠っているだろう透明なカバーがかけられた手術機器の数々



それらに囲まれた一室に美菜萌と斉藤が身を隠していた。



体育座りでジッとする美菜萌をよそに 飽きたのか? 周囲の機器を物色する斉藤



斉藤「脳波スペクトル分析装置… ふ~ん ディ… デフィ ブ リ レー デフィブリレータか 読みずれぇ名前だな これ何に使うんだ?」



美菜萌「斉藤さん あまり触らないようにして下さい」



斉藤「何で? 別に構わないだろ 潰れた病院なんだし… それよりいつまでここにいるつもりだよ?」



美菜萌「分かりません まだ連絡ないので もうしばらくいましょう」



斉藤「まじかよ… こんな狭い所におまえと2人きりじゃ息が詰まるわ」



美菜萌「どうゆう意味ですか?」



斉藤「Cカップの堅物で色気のねぇ女に監禁されてやれやれって事だよ」



美菜萌「止めて下さい そんな言い方」



斉藤「なぁ だってもうかれこれ30分も経つのに誰も来ないぞ なんかあったんじゃねえのか? 指揮車との無線もまだ駄目なんだろ?」



美菜萌「はい まだ通じません」



何度もマツに交信を試みるが急に無線が使えなくなっていた…



美菜萌「妨害電波によるものかもしれません…」



斉藤「尚更やべぇ~状況だろ こんな所でのんびりしてる場合じゃねぇぞ」



美菜萌「ですが… マツさんには…」



斉藤「そこが堅物だって言ってんだよ 連絡なきゃ一生ここにいるつもりかよおまえは?」



美菜萌「そんな事ないですが…」



斉藤「かくれんぼして遊んでる訳じゃないんだ 状況が変わったんだよ そろそろ行くぞ」



そして斉藤が壁に立て掛けられた89式小銃を手にし動こうとするや



美菜萌「待って下さい 行くったって何処に? 外にはスペツナズがうろちょろしてるんです」



斉藤「みんなと合流に決まってんだろ」



美菜萌「ですがみんなの居場所が分からない今 的確な場所の情報を知るまでは危険です 今 無闇に動くのは絶対駄目です」



咄嗟に通せんぼする美菜萌



斉藤「だからそんな悠長な事言ってる場合じゃないんだよ こっちの居場所を教えたにも関わらず誰も来ないならこっちから動くしかねぇーだろ どけ 行くぞ」



美菜萌「駄目です 通しません まだ2~30分たらずです もう少しだけお願いしますから我慢して下さい」



美菜萌を睨み付ける斉藤



凛としてどこうとしない美菜萌と目を合わせるや



斉藤「……はぁ~ クソ真面目で堅い女は嫌いだ…」



美菜萌「私は斉藤さんが大好きです ですから絶対死んで欲しくありません」



斉藤「なら後15分だ 15分待ってそれで何の音沙汰もなければ… そん時はいいな?」



美菜萌「はい… 分かりました… それで手を打ちましょう」



斉藤が小銃を下ろし、壁に立て掛けるや



斉藤「なぁ 美菜 ちっとションベンしたいんだけど それはいいよな?」



美菜萌「え? あ あはい…」



通せんぼが解除され、斉藤が廊下に向かって行った。



美菜萌「ちょ 斉藤さん!」



斉藤「トイレ行くだけだよ すぐに戻る」



バタン



扉が閉められた。



はぁ~



やっとの思いで美菜萌から解放され深い溜め息を吐いた斉藤がタバコを咥え、火を点けながらトイレを探した。



あそこか…



青い人型のトイレマークに下にはTOILETの文字のプレートを見つけ、タバコを吸いながら廊下を歩いて行く



人気は無く静まり返る廊下に煙りを吐き出す吐息のみが聞こえ



ウロちょろって… スペツナズなんか1人もいねぇーじゃねぇかよ…



チッ 今なら移動するチャンスだろ…



舌打ちする斉藤が男子トイレへ入り



咥えタバコで小便のようをたした。



その際 小窓に目をとめた斉藤



バタバタバタバタ



それから音が聞こえてきた。



ん?なんだ…?



フゥ~



灰を小便器に捨て、タバコを吸いながらその小窓へ近づくや、数センチ程開いた窓を全開に開き外を眺めた時だ



バタバタバタバタ



爆音をあげ低空飛行で飛び去る戦闘ヘリが目に入り込んできた



斉藤「わぁ」



思わず声をあげ、尻込みした斉藤が慌てて窓を閉めた。



バタバタバタバタバタバタバタバタ



もう1機のプロペラ音



2つの羽音が建物の周りを旋回し響かせている



なんだよ… あれ…



火の点いたタバコを落とし



小窓から後退りで離れる斉藤



外には… 戦闘ヘリが待ち受けてやがるのかよ…



タバコをくゆらせたまま、そそくさとトイレから飛び出た。



そして…



バタン



ドアが閉められた。



その直後



先にある階段から上がって来た人影



静かに、密やかに現す頭部



黒のフェイスガードで顔部を覆い、最新モデル アサルトライフルAKー12を手にした2人の兵士が姿を現した。



1人はレーザーサイト、もう一人はホログラフィックサイトを装着させ



赤いレーザーポイントが伸ばされた



扉へ近づく2人組



スペツナズに見つかってしまった…



魔の手が2人に忍び寄る



斉藤「美菜萌 えらい事になってるぞ」



美菜萌「え?」



斉藤「なんだあれ… え~ そうだ アパッチみてぇなやつ そいつが外でブンブン飛んでんだよ」



動揺を隠せない荒げた様子の斉藤



斉藤「おまえもトイレ行って見てみろよ 攻撃用のヘリだぞ この建物ごとぶっ壊すつもりなのかもしれない こうしちゃいらんねぇ」



美菜萌「落ち着いて下さい」 



小銃を手に取り



斉藤「すぐにでも逃げるぞ 今なら奴等もいないし 今しかない」



美菜萌「斉藤さん 冷静になって下さい」



斉藤「自分の目で確かめてみろ 早く行くぞ」



壁際に背をつけ、中の話し声に耳を澄ました2人の兵士がハンドシグナルを交わし



それから そぉ~とドアノブが握られ、開かれた。



斉藤が美菜萌の長棒を投げ渡しながら



斉藤「すぐ出発だ 早くしろ」



美菜萌「まだ15分経ってません 約束は?」



斉藤「やっぱり却下だ そんなの知るか いいから行くぞ おい 離せ」



美菜萌「離しません」



カーテンの奥から聞こえてくる口論



手術台を挟んで2人のロシア人が忍び足で静かに近寄る



斉藤「いいから その手を離せ」



美菜萌「約束が違います ちゃんと守って下さい」



悶着する度カーテンが揺れ、その先で2人の兵士が銃器を構えながら顔を見合わせた。



そしてレーザーポイントが揺れるカーテンに照射され、ホロサイトを覗き込む兵士がトリガーに指を添えた



その時だ



開かれたドアからスゥーと人影が侵入



2人組の背後へ近寄る



1人の兵士がその気配に気付き、振り返った瞬時



ズブ



頸動脈に刃物が押し込まれた。



ブシュュ



そして切り裂かれ、壁に多量の血痕が付着された。



次いで片割れの兵士が振り返った途端、眼球に閃光の如く横線が刻まれた。



視界を失ったロシア人



「うぐぅあああ」



目を押さえ、たじろいだロシア人兵士の首筋に再度刃物が突かれ、再びかっさばかれた。



ブシャャャ~



こちらも出血多量な血のシャワーを吹き出し、カーテンと壁が真紅に染まった。



なんだ…?



物音がし、斉藤が勢いよくカーテンを開けるや崩れ落ちた2人のロシア兵の姿



またその背後に佇む1人の男を目にした。



プュッシュダガーを指に嵌め、2人のロシア兵を一瞬にして暗殺、葬った男



美菜萌「青木さん」



2人の前にあの青木がいた。

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