第133話 来渦

コーキュートス 屋外



キュルキュルバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ



ガザガサ



木々の合間から引きずる足音が鳴り、樹林から半分腐った人間が姿を現した。



「う~ うぅぅううう」



泥まみれでボロボロなハイカー姿のゾンビがアスファルトに踏み入れ、駐車場をノロノロと歩行



その後ろから 横からも



続々と森林の中からゾンビが現れ



駐車場ど真ん中に着陸されるヘイロー



テイルローターのスラップ音を奏で、プロペラが勝手に回り続ける大型輸送機に奴等がこぞって集まって来た。



バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ



操縦席のドアは全開に開かれ、地面から骨を砕く咀嚼(そしゃく)音が聞こえる



アスファルトにはおびただしい血痕が付着し、惨殺され死に絶えたロシア人の死体が転がっていた。



その死体に幾体ものゾンビが既に群がり食卓を囲んでいる。



ヘリの羽音に導かれたのか…?



「う うっ うっ うっ うっ」



「あぁぁあ~~~~~~ああ~~」



山中から次々と誘(いざなわ)れ、貴重な人肉の詰まった箱(建物)を目指す奴等の群れが駐車場をスローペースで横断していく中



バタバタバタバタバタバタ



何体かのゾンビが上空を見上げた瞬間



ドゥルルルルルルルルルルルル

ドゥルルルルルルルルルルルル



2A42 30mm機関砲が唸りをあげ



縦に連なる射線上にゾンビ等の肉片が瞬く間に飛び散った。



またカモフアリゲーターのガンポッドからある爆弾が射出、投下され



ドカァァー



それはゾンビ共の頭上で爆発



無数の子爆弾をバラ撒き



ドカァァー ボォーン ドカァァー



拡散された子爆弾も一斉に爆発を起こし、辺り一面のゾンビが爆撃された。



FABー500 クラスター爆弾だ



アスファルトには無数のクレーターが出来上がり、肉片と共にかろうじてピクピク動かすゾンビ達



2機の戦闘ヘリによって一瞬にして4~50体が一掃されたのだが…



木々の合間から次々と奴等の後続が現れ、アスファルトを踏みしめた。



四方八方から… 数が多すぎる…



2機の戦闘ヘリでは侵入を食い止める事は出来なかった…



焼け石に水を思わせる多勢の群れ



ハボックの操縦士が唖然とした表情でボソッと口にした。



「Этиребятакакиетеламы?(こいつら何体いやがるんだ?)」



そして…



森の中からゾンビに混ざり奴等も現れた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



コーキュートス 屋内



急変し、落ち着きを無くしたスペツナズの部隊



ポリーナのナイフもゲオルギーの銃器も…



突きつけられた銃口が即座に外され、騒々しい雰囲気となる



ヴァジム「Подсмотрелгеиз(外を見張れ)」



A班の存在を前に指示を送ったヴァジムが扉へと振り返った。



村田「何遍言わせる 敵を前に背を向けやがって シカトし…」



すると



振り返ったヴァジムが村田の額に銃口を突きつけていた。



ヴァジム「貴様等の処理はあとでゆっくりとする その前に片付けねばならん…」



2人の兵士が扉へ近づき、外に出て行った。



村田「くっ… 何が起きた?」



ヴァジム「コントロール不能になった2体の生体兵器が脱走した この施設に入り込んだ」



御見内「何? まさかバスタードか…?」



ヴァジム「あぁ その通りだ やはり欠陥品は欠陥品と言う事だな しかしいくら欠陥品とて我々に牙を剥くとなればそれは絶大なる脅威…」



村田「おい 都合よすぎだぜ 俺達をシカトしてターゲット変更なんて… 出来ると思ってんのか?」



ヴァジム「フッ 寿命を少しだけ延ばしてやったんだ 感謝しろ」



村田「テメェー」



ヴァジム「そういえば 何故おまえ等が今も生きてるのだ? 先に1体を放出したのだがな…」



御見内「その人形なら俺が始末したよ」



ヴァジム「貴様が?」



御見内「あぁ かなり手こずったよ あんな厄介なもん作りやがって あれは人間がコントロール出来るしろもんじゃない 奴等をコントロールするなんて無理な話しなんだよ」



ヴァジム「……」



その時だ



「タタタタタタ タタタタタタ ぐぎゃゃゃやや~ う…うわぁぁ」



扉の先から聞こえてきた銃声と悲鳴



先程見張りに出ていった2名のものと思われる



ヴァジムが再度振り返り扉へ向け拳銃を構えた。



村田「クソ」



また村田も  御見内も



ゴン ゴン



扉が強打され、ヘコミ出す



ゴン ゴンガン



殴打された扉がみるみる隆起、鉄板が膨らんでいく



スペツナズ、A班総員が扉に向け銃器を構えた。



ポリーナ「большойразруЬшительнойсилы(凄い破壊力)」



ポリーナがナイフを仕舞い、両手でウダフを構えると御見内も打根を収めMPサブマシンガンを構えた。



たて続けかよ…



ガンガン ガンガン



屈折していく鉄の扉に鋭い眼差しを送る御見内



ドンドン ガン



海老名「なんだ?なんだ?ドアがブチ破られるぞ」



エレナ「臼井さん 柊さん 私の後ろに! 離れないで下さい ポン吉さんもこっちに来て塊(かたま)って」



ポン吉「う…うん… 何だよあれ…」



エレナ「お人形さんよ…」



ガンガン



先頭に位置する御見内、ヴァジム、村田、ゲオルギー、ポリーナが敵味方も忘れ、それぞれ同じ方向に銃器の照準を合わせていた。



そして歪曲したドアが次の一打を受けた時



ゴン  バタン



ドアが壊され、倒れた



微かな埃と何処から入ってきたのか数枚もの枯れ葉が舞い上がる先から



2体の人形が顔を覗かせ入室してきた。



「フゥ~ フゥ~ フゥ~」



「フウー フ~~ フー」



静まる館内に2つの息吹



1体は二十歳そこそこな若者



米兵なみのバキバキなツーブロックヘアーにバトルスーツを纏っている



もう1体も同様のバトルスーツを着用した二十歳にも満たない若人の人形だ



どちらも合体されぬ純正の生身



2体は現世から遙か離れた虚空にいるような焦点のずれた4つの目を動かし、周囲へギョロつかせた



そして2体共にある者へ視点を合わせた。



その視点の先にはベレー帽を被り、片手持ちで拳銃を構えるヴァジムの姿



ヴァジムも2体を睨みつけていた。



それから1体が口をあんぐりと開け、踏み込むと同時に…



パァーン



ヴァジムが引き金をひいた。



バトルスーツの右胸部付近に2発着弾、ぐらついた姿態 



だがすぐ背後からもう1体がそいつを押しのけ、振り払った。



押しのけ払われた人形は転げ、そいつが代わりに突っ込んで来た。



ヴァジムは素早くそいつに銃口を定めるも張り裂けんばかりに口をあんぐり開け、掴みかかって来る人形に…



バスタードのプレッシャーにヴァジムは咄嗟に横へと回避



村田「くっ…」



また突撃してきた人形に御見内、村田、ゲオルギー、ポリーナも一瞬にしてその場からバラけた。



A班、スペツナズが乱立するサークル内にバスタードが乱入



バスタードは乱入と同時に目の前にいるスペツナズの兵士へと掴みかかった。



脇腹をガッシリと掴み



「がぁ ああああああ」



それからプレスした。



たちまち過度の力が加えられ、圧迫されフェイスガードの下でもがき苦しむ顔が想像出来る程の絶叫をあげる



「ぐぁああぁぁあ~」



万力で腹部が締め付けられ、そして押し潰された。



圧死で首がダラリと下がった兵士



次いで



バスタードはその死体を投げ捨て、新たな標的に狙いを定めた。



目を合わせたバスタードが今度は村田に襲いかかり拳を振り上げた。



村田「チッ」



村田は即座に銃器を向け発砲に転じようとしたが、それよりも先に急接近で間合いを詰めてきたバスタードから大振りなフックが振るわれた。



村田はたまらずサブマシンガンを盾にし防御に移ったが…



バコン



鉄のドアをぶち破る程のパワー



村田の身体は弾かれ、脚が浮遊



身体が吹き飛ばされた。



御見内「村田さぁ~ん」



弾き飛ばされ、床を滑る村田の姿を目にする御見内の前で2体目もサークル内へと突入



そいつはスペツナズ兵士の顔を両手で掴むや顔面にかじりついた。



「うごぉぉがぁああああ」



何度も顔面に噛みつき、ムシャムシャと食べられていく兵士が手足をバタつかせる中



村田を吹き飛ばしたバスタードが新たな標的を探し、次に狙いをつけたのはゲオルギー



間髪入れずに襲いかかった。



ゲオルギー「Хорошопоесть(喰らえ)」



パァン パン パン



ゲオルギーが発砲



至近距離から胸部、頬に弾着させた。



だが…



頬の肉が飛び散ろうと勢いは止まらない



ドカァ



強烈なショルダータックルを喰らいゲオルギーがテイクダウンされた。



ゴロゴロ数回転しながら床を転げたゲオルギーにバスタードが覆いかぶさり、拳を振りかぶると…



パアン パアン パアン



ポリーナが側面から発砲、こめかみと肩に被弾させバスタードがよろけた。



それからポリーナがナイフを抜き出すやそれを人形の喉元へと刺し込み、そのまま捌いた。



ブシュー



横一線に切り裂かれた傷口から鮮血が吹出、バスタードがふらつくとポリーナが続いて前蹴りを浴びせた。



馬乗りになる人形がどかされ、ゲオルギーに手を貸すポリーナ



ポリーナ「Tвердые(しっかりしてよ)」



ゲオルギー「Ясожлею(わりぃ)」



2人はヴァジムの元まで後退する。



ヴァジム「Тывпорядке?(大丈夫か?)」



ゲオルギー「ах Нонеприятныйновый2человекпогибли(あぁ しかし厄介だな2人も殺られたぞ)」



ムクッと起き上がった人形が振り返った。



口から頬にかけ銃痕でえぐられ、喉から出血多量する血まみれな人形の顔



ヴァジム等3人の背筋がゾクッとし、3者一斉に銃を向けた。



一方



スペツナズ兵士の顔面を食いちぎるバスタードがいきなり、標的を変え、ザクトの隊員に襲いかかった。



「ぐぉえおおぉぉ~」



霞「津田ぁ~」



首筋を噛み切り、返り血を浴びた人形が今度は中山隊員に狙いを定め



飛びかかろうとした寸前



タタタタタタ



顔面に銃弾が撃ち込まれた。



倒れ込んだバスタードと発砲した相手を交互に振り返った中山



中山の目に発砲したエレナの姿が映った。



エレナ「今の内にみんなそいつから離れて下さい! すぐに隊形を組んで」



そして面々がバスタードから距離をとった その直後



御見内が村田へと駆け寄った直後



エレナ、ポン吉、小泉、百村、臼井、柊等が後ずさりした直後だ



「あぁぁぁぁぁぁ~」



「うあぁぁぁぁあ~」



声が聞こえてきた。



村田「何だ この声?」



それは…



ブチ壊された入口の先から聞こえて来る



ポン吉「これ…」



しかも多数もの叫喚だ



百村「おい この声って…」



お出ましだ…



御見内「奴等(ゾンビ)だ…」



エレナ「大変…」



たちまち青ざめるエレナ達をまえに



こっちへ真っ直ぐやって来る奴等の声が聞こえてきた。

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