第132話 包囲

周囲に散らばる完全武装した兵隊達



最新モデルのAKー12が四方から向けられ



A班は即座に囲まれた。



クソ…



ポリーナへ向け身構える御見内、村田



エレナ「チェ まぁ ぞろぞろとお出ましですか…」



ポン吉「ひぃぃ」



エレナ、ポン吉も小銃を構え



霞「くっ…」



小泉「なんなんだよ こいつら…」



囲まれたA班総員も四方へ銃口を向けた。



御見内が周囲に目を配る



30人前後…



この囲まれた状況で銃撃戦にでもなれば大半が…命を落とす…



ポリーナ「ウフフフゥ Яумере(勇ましいこと)」 



御見内、村田がポリーナを睨みつけた。



村田「ニヤニヤ笑ってんじゃねぇよ」



銃口を向けられてるにも関わらず素敵な笑顔を浮かべるポリーナが右腕を高らかに挙げはじめた。



ポリーナ「тьсмелыйи(死になさい)」



一斉射撃の合図



クソ… 撃ち合う気か…?



睨みをきかせた御見内が引き金に添える指に力を込めようとした時だ



「Немогудодаться(待て!)」



ポリーナの背後から中止の掛け声がかかった。



そして御見内が視線を向けた先から



2人の男が入室して来た



振り返ったポリーナ



御見内、エレナ、村田、A班各員の目の前に新たに現れた2名の男の姿



そして1人の男が口にした。



ヴァジム「ニッポン人よ 銃を下ろせ」



ヴァジムの背後からゲオルギーなる男がハンドガンを向けてきた。



またポリーナが後ろ足であとずさり



ヴァジムなる男が深紅のベレー帽を指先でそっと触れながらべしゃりを続けた。



ヴァジム「衆寡敵せず…確かニッポンにはこんな言葉があったな」



発音、アクセント共に上手な日本語を話すヴァジム



ヴァジム「囲まれし今 おまえ達に勝ち目は無い その牙を落とせ 無駄に抗(あらが)おうとするな」



村田「ふざけた事ぬかしやがる 自慢気にペラペラと日本語なんか喋りやがって」



すると



ヴァジム「ふふふ 祖国に比べここは過ごしやすい気候だな 季節は秋… いや…冬期へと入ったか… 私はこれまで公私共に幾度となくこの国を訪れた事がある… この国は実に素晴らしく…お気に入りな外国の1つだよ」



御見内「…」



エレナ「…」



ヴァジムが両手を後ろに組み、ゆっくりと歩きながら語らいはじめた。



根城「…」



大堀「…」



ヴァジム「ほんの小さな島国の小国であるにも関わらずこのニッポンという国には大変感銘を受けてる なぜならこの国には一年を通し楽しむ事の出来る素晴らしい四季折々な気候があるからだ 我が国にはここまで愛でる程の明確な変化は無い 周期でハッキリと移りゆくこの美しくも変化する自然の姿に身も心も奪われてしまう 多くの異国の民が訪れた際 私同様この国に魅了されてしまうのも無理はないな この地に生まれ、住まうおまえ達がじつに羨ましいよ…」



霞「…」



百村「…」



ヴァジム「今後平和で平穏に過ごすには申し分ない国土だな」



村田「テメェー ようこそ日本へとか言って欲しいのか? 歓迎なんかした覚えはねぇーぞ」



エレナ「ねぇ あんた達って 山吹の差し金なんでしょ?」



ヴァジム「山吹? 誰だそれは?聞かない名だな」



エレナ「え?違うの… ならあんた達は何しに…」



ヴァジム「我々は大佐のめいを受け、先遣でこの地へやってきた 忠義を尽くすのは常に大佐のみだ」



御見内「この国を乗っ取れとの命令か?」



ヴァジム「北海の地、それからみちのくを我々が頂く」



村田「頂くだぁ? 何混乱のどさくさに紛れて占領宣言なんかしてんだよ そんなの誰が許すか」



ヴァジム「ふ… ふははははははは」



心の底から笑い声をあげるヴァジム



柊「…」



村田「何がおかしい?」



ヴァジム「何故(なにゆえ)貴様等に許しを乞わねばならない これから死体となる身に」



ヴァジムが歪んだ笑みを浮かべはじめた



村田「テメェー」



村田がMPの銃口をヴァジムに向けるやゲオルギーもハンドガンMPー443グラッチの銃口で睨みをきかせてきた。



月島「…」



御見内「1つだけ聞かせろ ならこの襲撃の意図は何だ?」



ヴァジムがA班の周りをゆっくりした歩調で歩み始める。



ヴァジム「意図? さぁな 理由は知らぬ さほど深い意味も無いだろうに… 先程も申したが我等は大佐の命令でここへやって来た…」



そしてヴァジムが御見内等の周囲を舐めまわす様に円を描き、ある前で立ち止まった。



臼井「…」



横たわり並べられた瀕死の生存者達の前でだ



ヴァジム「…それで大佐から受けた命令はたったの1つだ…」



すると



ヴァジムが拳銃を抜くやいきなり引き金がひかれた。



パァン パン パン



並んだ3つの額に銃弾が撃ち込まれ 



エレナ「な!」



開いた穴から血が漏れ出す



村田「テメェー」



ヴァジム「…この施設内にいる者を抹殺せよ…それだけよ」



そしてヴァジムは次に目の前に位置する大堀の額にスッと拳銃を向けるや



パァン



何の躊躇も無しにまたも発砲した。



小泉「大堀さん!」



エレナ「チッ」



御見内「チッ」  ポン吉「わっ」



仰け反る体躯



大堀が射殺され、倒れ込んだ



村田「殺りやがったな」



村田がMPサブマシンガンをヴァジムへ向けるや後頭部に押し付けられた銃口



側面からゲオルギーがハンドガンで狙ってきた。



そして引き金がひかれようとする寸前



同時にゲオルギーのこめかみに押し当てられた銃口



御見内がサイドから飛び込みゲオルギーを狙った。



ゲオルギーと目を合わせた御見内



ゲオルギー「……」



御見内「馬鹿な事すんな」



だが 目を合わせるなりゲオルギーがうっすら唇を緩め微笑した。




すると 今度は御見内の背中に何やら突きつけられてきたのだ



ポリーナ「フフフ」



背後からポリーナによってロシア製大型拳銃 ウダフが押し付けられてきた。



ヴァジムを村田が 村田をゲオルギーが



そしてゲオルギーを御見内 御見内をポリーナが…



各人 二重三重で連なる銃の突きつけ合いの形になった。



そして



ポリーナが御見内の耳元へ口を寄せ、何やら発せようとした時だ



ピタッとそれを止めたポリーナ、振り向いた先には…



自動小銃をこちらに向け、狙っているエレナに気がついた。



ポリーナが視線を合わせるや



エレナ「ノンノン させないわよ」



ポリーナの引き金をひく指が制止され



瞬時に出来上がった連鎖的銃の突きつけ合いに加わりポリーナを狙うエレナ



また周囲の兵隊 A班各人も互いに銃口を向け合い



緊迫した瘴気(しょうき)が漂い、一色触発の空気に包まれた。



対峙した双方部隊に沈黙が流れだし



数秒間の睨み合いが成されたのち



それを真っ先に打ち破り、先制で動いたのは… 御見内だった



隙を突いた御見内



背中につけられた銃口を即座にズラし、銃を握る腕を脇に挟んでロック



素早くポリーナのサイドへ位置づけるや



変形式ビクトル投げで前転



鮮やかにポリーナの身体が回され背中が地につけられた。



ポリーナが驚きの表情を浮かべ見上げる視線の先には…



既に銃口を向け、見下ろす御見内の姿があった。



御見内「おい ベレー帽 おまえがチームの頭ならば…この女兵士の命…どう…」



すると その瞬間



ゲオルギーがグラッチを御見内に向ける仕草を見せ



反応早く



その寸前 御見内が踏み込み



ゲオルギーに頭からタックルを決めた。



そしてゲオルギーの足元がふらつくや、左の内手刀を手首にヒット



続けざまに右の掌底を打ち込み



手から離れたグラッチが床を回転した。



ゲオルギー「Этотублюок(この野郎)」



油断を喫したゲオルギーから銃器が剥がされ、目の色が変わるや



スリングに吊され、ブラつくMPサブマシンガンが再び握られた。



身構える御見内



御見内「日本人だからって油断しすぎだ」



エレナ「道 やるぅ~」



だが…



ヴァジム「フフ 残念だがそれはおまえにも言える事だな」



御見内「……」



ヴァジムが不敵な笑みを浮かべた。



すると



御見内は背後からある殺気を感じた



エレナ「道ぃ 後ろ!」



ブン



エレナの呼び声でとっさに避け、振り返ると



拳銃ウダフを鈍器がわりに殴りつけてきたポリーナを目にした。



ポリーナ「Придетсямнесмеешьпоумнеть(よくもでんぐり返しなんかしてくれたわね)」



そしてポリーナが懐から大型のナイフを取り出した。



右手に拳銃ウダフを握り



左手にロシア製メリタ社のタクティカルナイフを握り締める



ポリーナ「Это будетсамоелучшеесрезешеи(一番にその首チョン切って差し上げるわ)」



互いに背を合わせる柊と臼井



柊「最悪な状況だ…」



臼井「あぁ…」



柊の身体は震えている



背中からそれが伝わってきた。



互いに向け合う数々の銃口



中山隊員「クソッ どうなんだ俺ら?」



海老名隊員「1発でも引き金がひかれれば両者共倒れでみんな死ぬな…」



中山「勘弁しろよ スペツナズなんて聞いてねぇーぞ… 俺達は救出のタスクフォースのはずじゃなかったのかよ」



海老名「お前 前夜の作戦の話し聞いてなかったのか? ロシア軍との対人戦闘の可能性の話しはちゃんとしてたぞ」 



中山「スペツナズが?」



海老名「あぁ それは示唆してた」



中山「まじかよ…」



霞「おい おまえらぺちゃくちゃ喋ってんな」



この場の銃を握る誰もがほんの少し引き金に力を加えるだけで殺められる緊迫した状態



そんな状況下で こいつらよく私語なんて出来るな…



霞はある意味呆れを通り越し敬意さえ覚えた表情で2人を注意した。



互いに膠着状態と化す中



御見内vsポリーナ



ヴァジム「Ποлина…(ポリーナ…)」



そしてヴァジムが一歩踏み出すや否や



カチャ



村田「おっと 動くな」



対面する村田がヴァジムの会話と動きを制止した。



また



御見内を狙って動こうとするゲオルギーの後頭部に銃口が押し付けられた。



エレナ「だから させないって」



それもエレナによって封じられた。



今自由に動けるのは御見内とポリーナのみとなり



タイマンの構図が出来上がっていた



ヴァジム「Πолна…Πреждевсего、вырезатьшеюребенкаиливкачествепримера(ポリーナ… まずはそこのガキの首をハネ飛ばして 見せしめにするんだ)」



村田「おい」



カチャ



ヴァジムの額に銃口が押し付けられた。



ヴァジム「フフ Бояться(恐怖を与えろ)」



村田「黙れ」



ポリーナ「Язнаю、Приходят От Игрыэймальчик(言われなくたって分かってるわよ、さぁ 坊や 遊んであげるから来なさい)」



村田「御見内 そいつは田上の首を切り落とした殺人鬼だ 女だからどうとか言ったらしょうちしねぇぞ マジで殺れ」



エレナ「そうよ道 負けたら往復ビンタなんかじゃ済まないんだから」



御見内「って おい 怖ぇ~よ」



女がどうこう以前にこいつは…



女は女でもただの女じゃない…



訓練を積んだ、れっきとした軍人…



ましてやロシアの特殊部隊だ…



力の差は計り知れない…



一体いかほどか…



御見内がMPサブマシンガンを解除、後ろへ回すや右腕に巻きつける打根を垂らした。



そしてその小槍を掴み取り、構えた。



ポリーナ「フフ」



両チームの睨み合いで停頓するさなか



ポリーナ「Неприходит?(来ないの?)」



やるしかない…



ポリーナ「Япониячеловкатрус(日本男児って腰抜けね) Tогдаяиду(じゃあ私から行くわよ)」



御見内の表情が険しくなり、両者がファイティングポーズを取った



その時だ



ヴァジムの目つきがいきなり変わった。



それはゲオルギーも 他の兵士達も



そして襲いかかる寸前のポリーナも踏み込みを止めた…



ヴァジムが耳に取り付けた小型無線機を指で押さえ、何やら聞き入れている。



それは同時にこの場のいるスペツナズ全員がだ



どうした…?



構えたまま辺りを見渡す御見内



「ピィ Чрезвычайнойситуации(緊急事態発生) ピ 」



上空を旋回待機する攻撃ヘリから無線が入ってきたようだ



「ピピ Рейдыубегающихкуклы2единицхРанения(保管中の2体の人形が突如暴走 現在襲撃を受けてます)ピピ」



ヴァジム「Что?(何?)」



ゲオルギー「Вотпочемуясказал、ядолжен、какчтокуклы(だから言ったんだ あんな人形宛になんねぇーて)」



急に様子がおかしくなったスペツナズに戸惑いを見せるA班



A班そっちのけで総員無線に気を取られていた



ポン吉「なに?なに?」



エレナ「何? どうした訳?」



村田「おい 何話してやがる シカトしてんなよ」



ヴァジム「…」



「ピピ Яубилпилотовторанспортныхсамолетов(輸送機のパイロットが殺害されてます)ピピ」



ヴァジム「Немедленноатаковать(直ちにそいつらを攻撃しろ) Перерыв(壊せ)」



「ピ Зто беополезнопошливубегай2отеля(駄目です 2体逃亡 館内に入って行きました) ピィ」



ヴァジム、ゲオルギーをはじめ兵士達が慌てて扉へと振り向いた。



百村「何だよ 何かあったのか?」



霞「何か起きたな…」



それからもう1つ…



「ピピ Γорячий(マズいです)ピィ」



ヴァジム「Чтодальше?(次は何だ?)」



「ピ Измоссыэомбивнешниивидлеса…(森中から大量のゾンビが出現しました…)」




「Вокружении(囲まれてます)」

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