第131話 露国

階段を下り、無事機械室出口に辿り着いた柊、臼井の両名が振り返った。



その先には…



バスタードから長く伸びた異様な物体が空中をうねっているのを目にした。



臼井「見ろ」



柊「何だあれは?」



臼井「触手…」



柊「触手? そんな馬鹿な… JMレベルには遺伝子組み換え、それに増殖、成長の抑制剤を投与してるんだから 通常では同化なんてありえない コントロールされてる筈だ」



臼井「分からん… 御見内さんを助けないと」



柊「俺等に何が出来る?」



臼井「う…」



手助けも出来ず唇を噛み締め、見守る事しか出来ない2人



1本のぶっとく醜い肉腫



各所で不規則に脈動し



体液や血液をポタポタ落とし、ユラユラと揺れている。



MPを構えながら御見内は更に距離を取った。



こいつを倒すにはこいつを潰すほかない…



触手に着目させ、銃口を向けるや



ブン



バスタードが触手を一回し、一輪を描いた。



次の瞬間



シュ



槍の如く突きが放たれた。



御見内は足を使い咄嗟に斜め後方に移動、回避する。



触手は床にぶち当たり、先端部がグチャっと潰れる音が鳴った。



御見内が横移動し、バスタードの側面へ周り込もうとするや



戻された触手が再び頭上でひと回し、円が描かれ、反動がつけられるや



ブン



今度は横薙を振るってきた。



御見内は上体を屈め、飛びつきで床を一回転させながら横薙を回避、そのまま障害物の陰へと姿をくらました。



バスタードが動きはじめた。



触手を振り回し、今度は四方八方無差別に打鞭を振るい出したのだ



ガシャ バン  



鉄製の支柱やパイプ、ダクトにおもいっきし触手をぶつけ、潰れて血を吹き出している



また床にも凄い勢いで叩きつけられ



あらゆる部位を自ら傷つけながら



自らのダメージなどまるで厭わぬ捨て身のクリティカルヒットが連打されていた。



前進するバスタード



そして周囲が乱打され、ボロボロで血まみれな触手の振り回しが一時的に弱まった時だ



それを見計らったかのように



障害物から身を乗り出した御見内が現れた。



パスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパス



唸る銃口からパラベラム弾が発射され



フルオートで的撃ちされた。



パスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパス



着弾した触手が空中でのたうつ



撃たれる度肥大した肉が収縮、銃撃を嫌がっている。



手応えあり…



畳みかける…



御見内はある箇所へ的を絞り、そこを狙い撃ちにした。



パスパスパスパスパスパスパスパスパス



止まらぬシューティングで被弾する度 縮こまる肉腫が悲鳴をあげてるように見えた



触手の付け根に集中砲撃で弾丸が浴びせられていたのだ



撃ち込まれた数20発… 



そして30発程ブチ込んだ時



触手がぶった切られ、床に落ちた。



切断された触手は床でうねり、暴れれた瞬間



御見内はすかさずその落ちた触手へと的を変え、連射した。



パスパスパスパス



触手の動きが止まった。



また仁王立つ首なしの本体の両膝も落ち



バスタードが前から崩れ落ちた。



御見内は倒れたバスタードへ尚も銃口を向け警戒する。



どうだ…?



やったのか…?



新たな触手が生えるなんて事は…



そのまま様子を伺うがピクリとも動かない壊れし人形



どうやら完全に沈黙したようだ



確信を得た御見内がやっとこ射撃の構えを解除



ふと懐をまさぐるや弾倉がもう無い事に気づいた…



そう… 弾はもう尽きかけていたのだ…



これで倒していなければ…



たちまち背筋がゾッとした。



柊「御見内さん」



柊、臼井が御見内の元に駆け寄って来た。



臼井「大丈夫か?」



御見内「あぁ ギリギリで何とか倒せた」



柊「こいつを頂戴しましょう」



柊がバスタードの腕から電撃発射装置を取り外し、手に入れた。



柊「あとでフルチャージしよう」



御見内「それで雷撃を飛ばせるのか?」



柊「そう ゾンビ、感染者、バスタード、人間… 生き物ならなんだって一瞬にして倒せる 非常に役立つ武器になると思う あとでもっと扱いやすく改良してみる」



御見内「それは楽しみだ」



御見内がハッとした表情に変えた。



御見内「こうしちゃいらんねぇ エレナ達が危ない 急ごう」



こうして壊れた継ぎ接ぎ人形を残し、御見内、臼井、柊はエレナ等の元へと急いだ



ーーーーーーーーーーーーーーーー



バスタード研究&実験室をあとにした3人は拷問の間に足を踏み入れ



第1、第2沈殿池エリアを颯爽と駆け抜けた。



頼む…



無事であってくれ…



そう願いエレナの元へ向かう御見内



そして消毒プラントエリアに進入



扉を開いた先に



エレナを発見した。



御見内「エレナ!」



良かった… 無事だった…



御見内が安心した表情でエレナに駆け寄った。



エレナ「道! え? そちらさんは?」



通路床に運び出された人達の治療を行うエレナが御見内の背後にいる見知らぬ2人に目を向けた。



ポン吉「御見内さん」



半死の生存者を背負ったポン吉がやってきて、シーツが敷かれ、並べられたその隣りにソッと生存者が降ろされる



またその後続から村田隊員、根城、海老名隊員、霞隊員等も生存者達を担ぎ次々とやってきた。



御見内「大変だ ロシアがやって来るぞ」



エレナ「え?」



ポン吉「ロシアって…」



村田「全員のインカムの受信がおかしい ノイズだらけなんだがおまえのはどうだ?」



生存者を降ろし、イラつく素振りで村田が近づいて来た。



御見内「インカムは壊れた 連絡がとれなくなった」



村田「まじかよ おまえのもか 参ったぞこれ そこの2人は何だ?」



御見内「紹介は後だ それよりすぐにロシアが攻めて来る 村田さん 救出活動を中断して すぐにでも皆に戦闘態勢を取らせてくれ」



村田「ロシアが… おい 隊長は?」



御見内「……」



村田「隊長はどうした?」



眉間にシワを寄せ、俯く御見内が顔をあげ重い口を開いた。



御見内「隊長なら死んだ… 町民の襲撃に遭い、倒れたよ」



村田「なにぃ?」



エレナ「うそ」



ポン吉「はぁ?」 霞「死んだ?」



御見内「野々宮隊長が倒れた今 次にチームの隊員等を引っ張り、束ねる役目はあなただ B班の様に奇襲を受ける前にすぐに態勢を整えてくれ すぐにだ 早く!」



村田「わ…分かった… 海老名 すぐに皆を呼んでこい ここに呼び集めるんだ 救出作業を中断、戦闘態勢に入る」



海老名「了解」



村田「霞 ここは戦場になる おまえはここの生存者をとりあえず安全な場所に避難させろ ここの者を移すぞ」



霞「分かった」



霞、海老名が駆け足で動きはじめた。



根城「攻めて来るってどこから来るんだよ…」



御見内「誰か弾をくれ」



村田「俺のを使え」



3個の弾倉が手渡され



マガジンを装填する御見内



ガシャン



根城がSC3ショットガンをポンプアクションした。



御見内「他のみんなは今どこに?」



エレナやポン吉も89式自動小銃を手に取り、構えを取りはじめた。



エレナ「今 地下2階 まだ閉じ込められた人達の救出まっ最中よ」



村田「なぁ御見内 そのロシアってB班を襲撃した奴等の仲間なのか?」



御見内「えぇ 恐らく 例のスペツナズだと思われる」



村田「クソ 1人1人が殺し屋みてぇーな相手だぞ」



エレナ「ねぇ 無線が使えないんじゃ 外で待機してる輸送車との交信も出来ないじゃない ここの搬送どころか私達の脱出はどうなるの?」



御見内「それも今考え中だ」



御見内、エレナ、村田、ポン吉、根城が四方に銃口を向け警戒した。



静けさ漂うプラント内



一同の左方にはドデカいプールが見え、行程上段階的に濾過させキレイになった水が最終段階で塩素処理される場



廃場となり長期間作動されてない筈なのだが塩素の影響なのか、槽に溜まった水はある程度キレイさを保っていた。



バタバタバタバタ



そんなプラント内に一つの羽音が鳴り響き、エレナが見上げると一羽の羽ばたく野バトが目に止まった。



プラント内の延々と続く天窓から差し込むお日様にその鳩が照らされ、また落ちゆく羽が幻想的で美しく見えた。



その光景にしばし見とれたエレナは廃墟マニアが何故こうゆう場に興味を持つのか… 何となく理解する事が出来た。



御見内の背後でキョロキョロ辺りを見渡す柊、臼井を目にした村田が口にする。



村田「そろそろ そこのどこの馬の骨とも分からぬ2人の素性を教えろよ」



御見内「あぁ この2人は研究所で出会った バスタードの開発に携わってた者達だよ 奴等に肉親、妻子を人質にとられ強制されていた」



臼井「うすいです こっちはひいらぎ」



柊「初めまして」



村田「そうか… 奴等に… 村田だ」



エレナ「初めまして 野崎エレナです」



ポン吉「本木です ども」



根城「俺はねじろです」



各自おのおの自己紹介を終えた時



霞、海老名等が残りの者を引き連れ、戻って来た。



それと同時に



プラント入口の扉が突如開かれ



1人の女性が中に入って来た。



一同が振り向き、目にするや



長く伸びた髪を結い直し、口に何やらくわえる白人女性



ブルーの瞳でこちらを見据えながら中へと入ってきた。



あまりに唐突



あまりに堂々とした登場にその場の誰もが茫然と眺めているや



髪を結い直し終えたその女性が口に咥えた物を掴むや



それをいきなり放り投げてきた。



ゴロゴロ



床を転げ



村田の足下付近まで転げた物



それは人の生首だった…



ポリーナ「НастроеииеЯпонии?(日本の皆さんご機嫌いかがかしら?)」



床に転がる、飛び出んばかりに見開かれた瞳の生首を目にした村田



こいつ… 輸送係りの田上…



ポリーナ「フフフフ」



ポリーナが近づきながら指パッチンした。



ポリーナ「Выбудетеиметьребятамкак(そこの方みたいにしてあげるわね)」



パチン



すると



その合図と共に黒ずくめの武装した兵士共が入室、ポリーナの両脇から散開しはじめた。



ポリーナ「フフフフ」



最強の特殊部隊スペツナズがついに御見内、エレナ等の前に現れた。



※ちなみにスペツナズはロシア語で特殊部隊って意味ですが本作では部隊名としてますm(__)m

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