第130話 変成

コーキュートス(下水処理場) 機械室



天井をつたうダクトの上で数匹の鼠達が駆けずり、キーキー チューチューと鳴き声をあげた



途端



ビビビビビビ



ダクトに電流が放たれた。



すると瞬く間に鼠達の毛が逆立ち、鼠達はその場でバタバタと息絶えていった。



音する物全て 無差別な電撃を行っていくバスタード



気づけば機械室のあらゆる装置はショートさせられ、煙りをあげていた



機械音は全て停止、まさに機械室は無音状態と化していた。



些細な音も危険なこの状況の中



連結通路を忍び足で渡る御見内、臼井、柊の3名の姿が見られた。



前方下をゆっくりした歩調で進むバスタードを警戒しながら慎重に進んで行く



柊が強張った表情で下を眺めるや、下には黒焦げた人間の死体が幾つも転がり、それは進むにつれ数を増やしていた。



黒焦げた皮膚には無数の気泡の痕



これらはバスタードの放電を受け皆殺しにされた奴隷達の死体の数々だ



そんな無惨に転がる死体を見下ろす3人



御見内はある箇所に目を向けた。



それは闘技場にされていたあの穴



あの時助けたあの2人の安否…



2人は…



御見内が向けた



するとその視線の先には…



黒焦げになった塊が映し出された。



鎖に繋がれたゾンビ、巨漢ゴメスと同様黒い塊にさせられた2つの遺体が目に入った。



御見内はそれを目に、心の中でこう呟いた。



助けられなかった… ホントすまない…っと



目を瞑り先頭を歩む御見内、次いで柊、臼井と続いた。



眼下を歩むバスタードとの距離は15メートル



緊張に包まれ、3人は忍び足で前進して行った。



ビビビビビビ



パリン ガシャ



蛍光灯が割れ、落下



下では相変わらず無差別放電が繰り返し行われ、そこら中から火の手があがっている。



ビビビビビビビビビビビビ



装置から途切れる事の無い電撃が放ち続けられ



ボン



配電盤のフタが勝手に開き、火花が飛び散る。



また 床を無数の稲妻が波紋の如く這い



まさに下は電流地獄と化していた。



そんな光景を唖然とした表情で眺める柊の身体がふとよろけ、思わず手すりにもたれそうになった時



寸前で臼井によって腕がキャッチされた。



あれ程の大電流



金属という金属に流電してる可能性がある…



手すりに触れた途端、心臓が停止する恐れがあるのだ…



臼井「ふ~」



危ないぞ 気をつけろと言った表情で柊を目にした臼井



振り返る御見内に



大丈夫だ 行こう…



そう合図を送り



3人は直進した。



バスタードとの距離8メートル 



7メートル 3メートルと徐々に近づき



そして真下につけた時、御見内が2人に屈めの指示を送った。



3人は身を屈めバスタードの頭上を低くしながら追い抜いて行く



御見内はその間バスタードの様子を伺った。



よし… 



気づかれてない…



頭上の通路を通過する3人に奴が気づいてる様子はない



そこら中に無意味な放電を撃ち続けるバスタードを横目に、少し緊張が和らいでいった



よし 行けるぞ!



このまま出口まで直行だ…



御見内が出口を目指し、扉へと目を向けた 



その時だ



思わぬアクシデント発生



チュー チュー チチ



3人の前にどこからともなく出没したある小動物



そいつは鳴き声をあげながら3人の前を横切ってきた



一匹のクマネズミだ



チュー チュチューチュー



なっ…



なんてタイミング…



フリーズさせた3人



臼井と柊の表情がみるみる青ざめ



血の気が引いた御見内



ヤバい…



そして緊張感跳ね上がった御見内がハッと奴を見下ろした時だ



潰れた顔でこちらを見上げる奴がいた。



MOT装置が取り付く腕をこちらへ向けながら…



やば…



見据えた3人がしゃがみ込み、回避態勢を取るや



装置から雷霆(らいてい)の矢が発射された。



ビビビビビビビビビビビビ



柊「うわぁ」



わずかに放電は反れ、手すりに直撃する。



バチバチバチ



ぶっとい雷光のギザ線が手すりに弾け、強烈な火花を散らした。



チューチュー



通路に敷かれたわずかなゴムシートのスペースを徘徊する鼠



その鼠が金属部へ伝った瞬間



3人の目の前でコテンと倒れ、鼠がくたばった。



側撃雷の影響を受け、感電死したと思われる。



3人はその場で静止した。



見つかったか…?



身を潜め、息を呑む中



バスタードから放電が止み、奴は再び前進をはじめた。



いや… 大丈夫だ…



柊「ぷはぁ~ 助かった」



過ぎ去ろうとする人形を垣間見、3人はホッと胸をなで下ろした



…のも束の間



御見内がバスタードの様子をうかがいながらそぉーと立ち上がろうとしたその時



チューチュー チュチュー チチ チューチュー チューチュー



背後から今度は複数の鳴き声が聞こえて来た。



3人同時に振り返った先に…



危険を察知し、逃げてるように見える群れ…



4~50匹は越える集団移動



配管やダクトを伝い、移動する鼠の群れを目にした。



臼井「おいおい… なんだこれ…」



すると



柊「う… うわぁ~」



数の多さに思わず悲鳴をあげた柊



臼井「おい」



チッ…



御見内、臼井が顔色を一変させ、バスタードに視線を向けるや



奴の姿が一瞬消えた。



次の瞬間



ガシ



手すりが掴まれ



潰れた顔がニョキっと上げられた。



柊「あ…あ…」



臼井「くぅ…」



ガシ



這い上がってきたバスタードにたじろぐ3人はゆっくりと後ずさった。



御見内が険しい表情でバスタードを目にする



チッ… 戦うしかないのか…



御見内「靴を履け」



小声でそう口にし、3人は後退した。



ガシ ガシ



手すりを跨ぎ、連結通路に降り立ったバスタードが着地と同時に…



横を移動する鼠達に向け



ビビビビビビ



放電した。



パイプやダクトを伝う鼠達が斃死(へいし)、バッタバタと落下していった。



バスタードとの距離3メートル



やつは目の前にいる…



MPを身構える御見内がチラッと後ろの2人を目にした。



1人ならまだしもこいつ相手に2人は庇いきれない…



無数の黒焦げた鼠の死骸が転がり、音がしなくなるやキョロキョロと探る様子の人形



MOT装置を四方へ向け、御見内等の足音に聞き耳をたてている様子だ



3人はピタリと動きを止め、息も止めた。



どうする… ここで殺り合うか…?



だが… ここで殺り合えば確実にこの2人が危ない…



まだ… 気づかれてない…



なら…



御見内が急に動いた。



手すりへ飛び乗るや、突然ジャンプしたのだ



ガシ



そして下に着地



その音に過敏なまでの反応を示したバスタードが手すりから見下ろし、腕を向けた。



すると



パスパスパスパスパスパス



御見内がサブマシンガンを発砲



バスタードのボディーや顔に被弾させた。



御見内「こっちだ ポンコツ人形」



銃弾を浴び、仰け反ったバスタードもジャンプ



囮を買って出た御見内の前にバスタードも着地した。



そして手すりから見下ろす2人に向け



御見内「2人共 今のうちだ先に行け」



柊「で…でも」



臼井「折角作ってくれたチャンスだ 行くぞ」



カンカンカン



柊、臼井が足音を奏で走り出す



その音に反応したバスタードが見上げ、装置を向け出すや



パスパスパスパスパスパスパスパスパス



再び御見内がサブマシンガンを連射した。



ボディーアーマーに的射された弾丸



バスタードがよろけた



カシャ



その隙に素早く弾倉が交換され、再度フルオート



パスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパス



バスタードの顔面にまた集中砲火で銃弾がブチ込まれていく



パスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパス



御見内「らぁぁ~~~」



バスタードが一歩また一歩と後退する度に



耳は弾け、血飛沫と一緒に顔部が一層破壊され、飛び散る肉片、欠損されていく



カシャ



パスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパス



弾倉が交換され、トリガーを押す指を止めない御見内



この勝機…逃してなるものか…



手を緩めず 持ち弾全弾ブチ込む勢いで追加の弾丸を浴びせていった。



パスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパス



前頭葉から頭頂葉にかけ脳みそが飛び散り、床を汚していく中



遂に御見内の手が止み、銃撃が止んだ



どうだ……



御見内の眼前にはほぼ何も残らず消失された首無しの人形



あれだけ銃弾を受けたにもかかわらず奴は倒れずに仁王立っているが…



バスタードの動きは停止された。



やったか…?



血みどろに染まった体躯で微動だにしないバスタードを警戒しつつ新たなマガジンを装着させ



死んだか…?



立ったまま死んだと思われる奴に御見内が近づこうとした矢先



バスタードの身体がピクリと動きはじめた。



ただちに歩を止め、静止、MPを身構える御見内



バスタードの身体にある異変が現れた。



欠損した首の付け根付近が激しく揺れ動き、隆起



そして身体全体が小刻みに振り子し始めた。



何だ…?



御見内が異変をしかめ面で見つめながら数歩後退した。



目の前で起こる振動させたバスタードに御見内は更に後退し、距離を取る



そしてバスタードの首からいきなりある物が突出してきた。



ブシュュュ~~



かろうじて残った顔部の肉片を完全に吹き飛ばし、付け根から飛び出した一本の物体



血の噴水を撒き散らし、うねうねしながら昇天したおぞましき物質



これは… あの忌まわしき現象



体液と血が混同した気味の悪い物体が飛び出し、そいつは空中でクネクネと浮遊している



御見内の前に現れた物体



それは1本の触手



こいつ… メタモルフォーゼ(変態)しやがった…のか…



唖然とする御見内の前に



バスタードから生まれた触手型が現れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る