第129話 総攻

全身フルアーマードジャケットで装甲されたバスタード



胸のプロテクターにはデカデカとJM(ジェノサイドマシーン)003の文字が書かれている。



カツン カツン



身体は成人男性の物… だが…



頭部はパンチヘアーをきかせたコテコテのおばちゃんの物だった…



アンバランスに合体された人形



異様な容姿のバスタードがゆっくりした足取りで3人へと近づいて来た。



臼井「確実に破棄した筈だ… どうして…」



柊「いや よく見て JM003って書かれてる あれ昨日ロシアに納品した人形じゃ」



御見内「…」



臼井「ホントだ 正規の人形と一緒に渡した試作品か… って事は… あいつはロシアが…」



柊「えぇ プロトタイプと言っても十分実戦投入可能な代物 間違いない こいつはきっとロシアの奴等が送り込んできたものだよ」



ロシアが送りつけてきた人形…



御見内「つまり スペツナズがここに到着したあかしか」



臼井「そのようだ」



御見内「エレナ達が危ない 急いで戻らないと」



臼井「あぁ しかし…」



3人の前に立ちはだかるバスタードが歩みを止めた。



左手には髪を鷲掴み、黒焦げた生首が3つぶら下がる。



そして



バスタードがいきなり右腕を側面に伸ばすと



ビビビビビビ



突然稲妻が走った



腕に取り付けられた装置からいきなり放電されたのだ



何だあれ…?



御見内「雷……?」



柊「臼井さん… あれって…」



臼井「くっ… テスラコイルのレールガンか…」



御見内「レールガン?」



臼井「雷に似た現象を発生させる電磁波装置だよ コンパクトに携帯出来る指向性エネルギー発射装置で メーザー いや レーザーと呼んだ方がよいか バスタードを調教する際、通電によく使ってた ようは電撃発生装置だよ…」



柊「いや 臼井さん… 違う あの稲光の色… テスラコイルのものじゃない MOTだよ」



臼井「何?」



御見内「何だそれ 教えろ」



臼井「電子レンジに使用されるトランスが組み込まれた装置でアーク放電で電撃を発生、稲妻を飛ばせる装置だよ… あれでどんな生物もいちころだ 特にバスタードの処分には最適だったよ… 稲妻に触れれば感電、即御陀仏だ」



御見内「そりゃ感激だな」



柊「逃げよう 直電を受ければあの生首の様に一瞬にして黒焦げにされる」



御見内「逃げるたって何処に?あいつを倒さなきゃ先には進めない」



御見内がMPを身構え、バスタードを睨みつけた。



御見内「俺があのオバハンを殺る 2人は下がって安全な場所に隠れてろ」



柊「無茶だ 電撃を一回受けただけで即死だよ」



御見内「受ければだろ 何とかする 離れてろ」



臼井「柊 いいから言う通りにするぞ」



柊の襟首を掴み後退した2人



御見内は黒焦げた生首に視線を向けた。



どおりで奴等(奴隷)が1人もいないと思ったら…



こいつが一掃したのか…



MPを身構えつつ御見内がサイドにゆっくり動きを展開した。



おばはんの顔が不気味なまでの小刻みに揺り動かされ、横移動する御見内へ視線が向けられた。



注意が完全自分に向くのを確認し



隠れる2人を確認した後



御見内が素早く動いた。



すると



右腕前腕部に装着されたMOT装置が御見内に向けられ



ビビビビビビ



放電された稲光が飛ばされた。



バチバチバチ



雷撃は外れ、落地点にライトニングボルトの火花が散る。



バスタードはすぐさま横に逃げる御見内を目で追い、2発目を発射



ビビビビビビ



バチバチバチ



またも外れ、電撃が接触しスパーク(火花)が壁全体に拡散した。



物陰に隠れながらバスタードを周回して移動する御見内



バスタードは御見内を見失い



ビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビ



放電し続けながら乱れ撃ちを始めた



パチパチバチバチバチ



まるで雷撃のウィップ(鞭)と化し四方八方に当てずっぽうで放出



周囲の金属という金属にスパークが散った。



パチ バチバチバチ



柊「うわ」



壁に火花が走り、柊が身を引いた



臼井「鉄製の物には触るな 感電するぞ」



ビビビビビビビビビビビビビビビビビビ



バリン ピキィン



幾つもの蛍光灯が突然破裂、粉々に砕け散る



バチバチ バチ パチ バチバチ



パリィー ピン



柊「はい…」



柊がそぉーと陰から顔を覗かせた。



その目には手当たり次第電撃を放出するバスタードが映し出される。



ビビビビビビ ビビビビビビ



死んだ目を動かし、御見内を探すバスタードが動き出した途端



背後から現れた御見内



御見内「ババア こっちだ」



二重ダンパ(空気調和設備)の陰から姿を出しMPのトリガーを引いた。



パスパスパスパスパスパス



背中に弾着はしたが…



背中のプロテクターは防弾加工、それにインナーウェアーにもそれは施され弾は通用しなかった。



チッ…やはり防護されてるか…



バスタードが振り返りざまから放電



ビビビビビビビビビビビビ



御見内はすぐさま陰に身を隠した。



バチバチとダンパに激しく閃光が走り



御見内を見つけたバスタードが生首を放り捨て、ダンパに近づいてきた。



物陰に隠れているだろう御見内へと迫り、バスタードが力まかせにそれをどかした。



簡単に転がされたダンパが倒れる



だが居る筈の御見内はそこから消えていた。



その瞬間



真後ろにあるコンテナからヒョイと姿を現した御見内が飛び出し、MPで狙い撃ちした。



パスパスパスパスパスパス



サブマシンガンのフルオートだ



たちまちオバハンの顔部は見るも耐え無い穴だらけとなり、顔面に集中攻撃を受けたバスタードが仰け反り、そのまま床に背をつけた。



やったか…?



硝煙立ち込める銃口を向けたまま、倒れたバスタードを伺う御見内



ローラーブレード野郎の時と同じボディーは防弾されてるが頭部は生身…



どうだ…?



そのまま倒れてろや…



だが…



その数秒後



御見内の願いもむなしく



指が動き、再起動したバスタードが上体を起き上がらせはじめた。



畜生…



立ち上がろうとするバスタードを目に、御見内がその場から離れた。



潰れた目や鼻



原型を留めぬ崩れた顔面は真っ赤に染まり、ポタポタと血液を滴らせる



直立した人形は見える筈も無いそのぐちゃぐちゃな面でキョロキョロ周囲へ振り向き、再び御見内を探しはじめた。



カツン カツン



足音のみが不気味に響き



ピタッと停止してはキョロキョロ首を振り、また歩きはじめる



その動作を何度も繰り返し、さまよう人形を背後に周った御見内が気づかれぬよう階段を上りながら観察した。



そして高架台の手すりからジッと奴の様子を伺っていると…



カラン



つま先に当たった鉄くずの転がる音に反応を示したバスタードが放電を行った。



あいつ…



中2階から高見する御見内はMPから和弓へと換装



弓が引かれ、ある物に狙いが定められた。



そして  シュ



放たれた矢が1本の配管に突き刺さり



ブシュュュー



たちまち勢いよく蒸気が漏れ出すや



音に即反応を示した人形がその方向に電撃を見舞った。



それを確認した御見内



やはりそうか… 



多少なりとも機械じかけの人形だと思っていたが



どうやらこいつは違うようだ…



レーダーのたぐいは装備されてない…



奴の感知は俺と同じ耳や目だけの…



生身…



すなわち奴は今 視覚を失い完全に盲目で…



耳だけを頼りに俺達を探している…



チャンスだ…



MPに持ち替え、御見内が移動した。



その頃どんどん遠ざかって行くバスタードを見つめる柊と臼井



臼井「入口に向かってる…」



柊「えぇ それより御見内さんは何処行った?」



同時に周囲を見渡し御見内の姿を探す2人



臼井「どこかに隠れているんだろう 柊 御見内さんを探して逃げよう! 今なら逃げられるかもしれん」



柊「え?」



臼井「あの人形は顔が潰れて何も見えてない 今なら逃げるチャンスだ あそこの通路を使えば奴より先に入口まで行ける」



機械室内に設置された立体架台(中2階)、そこから伸びる連絡通路を指さした。



臼井「あれを使って先回り、ここから脱出出来る」



すると



御見内「奇遇だな 俺も同じ事を考えてた」



いきなり背後から現れた御見内



柊「御見内さん」



臼井「無事で何よりだ」



御見内「あぁ しかしウゼェー武器だなあれは… リスクがでかすぎる」



御見内も壁から顔を覗かせ、さまようバスタードの背を目にした。



御見内「奴は今、目が見えない 俺が奴の顔面にしこたま銃弾を浴びせてやったからな」



臼井「やはり あいつにセンサーの装置はついて無い 今ならあれを使えば奴に気づかれずに脱出出来るな」



3人は4~5メートル程の高さの連結通路を眺めた。



柊「なら急ぎましょう 入口に向かってる あそこに留まられたらもうホントに戦うしかなくなる」



御見内「ただし一つだけ あいつはやたらと音に敏感になってる へたに物音をたてればすぐに反応してあれをかましてくるぞ」



柊「やだ 黒焦げになりながら死ぬのだけは」



臼井「心配するな MOTを直接受ければ痛みを感じる前に死ねる」



柊「冗談じゃない…」



御見内「靴を脱げ 足音が鳴る」



御見内の言葉で頷き、一斉に靴を脱ぎ始めた3人



柊「靴下は?」



臼井「それはいいだろ」



そして脱ぎ終えた靴を脇に抱える柊



両手に持つ臼井と共に壁の陰から様子を伺った。



御見内はふとインカムに触れるがまるで反応しない



チッ… 壊れてやがる…



若竹との戦闘時に故障したのだろうカメラ付きのインカム



そのカメラのレンズは既に割れていた。

 


御見内はインカムをそっと床へ置き



御見内「行こう 何があっても音を立てるな」



3人は動き出した。



その頃… この施設の外では…



駐車場



風に飛ばされ、空に舞う枯れ葉が放置された一台の車両の窓ガラスに反射、そこにうっすら映し出されたプロペラが見られた。



バタバタバタバタ



回り続けるプロペラ



一機の輸送機が…



ヘイローが駐車場に着陸していた。



その周りには武装した30名にも及ぶ外国人達の姿が見られる。



また…



バタバタバタバタ バタバタバタバタ



上空では2機のヘリが旋回飛行し、片膝を付き、しゃがみ込む1人の男がそれを見上げていた。



その背後から近づいて来た男が口にする。



「Выможете ожидать его?? такаястраннаЯкукла(あてになんのか?? あんな薄気味悪い人形)



「Хорошо…(さぁな…)」



深紅のベレー帽を被りし男



タミルトン同様大佐の左腕となるこの男の名は



チームの指揮官



ヴァジム・ファルコン



またその後ろに立つ男の名は…



ゲオルギー・スミルノフ



ゲオルギー「Этоможет скоробытьхоршо?(そろそろいいんじゃないか?)」



そしてもう1人…



ヴァジム「Ждите Полина?(待て ポリーナは?)」



ゲオルギー「Друтаясторонасовершаетнабег нането теперь?(向こうはもう急襲はじめてんだろ?)」



すると



「Заставьте ждатьего(お待たせ)」



ポニーテールで結ばれ、尻まで伸びた髪を揺らしながら近づいて来た1人の女性



手には1つの生首を掴んでいた…



口が開かれ、張り裂けんばかりに見開かれた瞳で切り落とされたばかりの新鮮な首…



ポタポタ フレッシュな血の痕をコンクリートに垂らすその生首は…



輸送で待機していたZACTの隊員の物だった…



身長170は越えてるだろう



ロシア美女



生首を手にするこの紅一点な女は…



ポリーナ・グティレス



ヴァジム「Яоставилегоиявляюсьпоружеием(よし こっちも突入するとしよう)」



そしてヴァジム率いる



こちらも急襲が行われようとしている。



スペツナズの本格的な総攻撃が開始される。

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