第124話 交信

赤塚「何処行った?心当たりは?」



谷口「さっきまで居たんだ もしかしたら担架もストレッチャーも不足してるから別の階に探しに行ったんじゃ…」



徳間「どうしますか?2人を探しに行きますか?」



しばし考え込んだ赤塚が口にした。



赤塚「俺が探しに行く とりあえずここは危険だ みんな離れるぞ」



廊下のど真ん中で膝射の構えをとる海原の背後から次々と飛び出す隊員達



太田が先頭で廊下を駆けるやC5避難階段と表札された扉を発見



太田「あった これだ 徳間!先導しろ さぁ みんなこっから降りて降りて」



開いた扉を押さえどんどん誘導して行く太田



徳間、川畑が入り、谷口、桐野、雅史が続いて避難口へと進入



海原の隣りで立射の構えを取った赤塚が共に見張る中



2人の背後でどんどん退避して行った。



青木も避難口へと入り



そして残すは2人の隊員のみ



「隊長 これで以上です」



赤塚「よし おまえも行け」



海原「はい ですが主任…ホントに」



赤塚「いいから 先に行け 見つけたらすぐに後を追う 鉄球トラップの所で待ってろ」



海原「分かりました」



そして海原が立ち上がった時だ



音も立てずに階段を上がる、軍用の黒いブーツ



複数の人影が階段を駆け上がってきた



そして海原が背を向けた時だ



赤塚の目に…



階段を駆け上がり、突如現れた部隊が映し出されてきた。



既に身構えられ、AKの複数の銃口が向けられた時



赤塚がタックルするように海原の腰へと飛びつき、そのまま洗脳ルームへと押し倒した。



その直後…



タタタタタ タタタタタ タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ



銃撃の嵐



全身を貫通していく弾丸



廊下に立つ2人の隊員が瞬く間に蜂の巣にされた。



太田「うわぁ」



咄嗟に壁に隠れた太田



赤塚、海原、太田の前にスペツナズが姿を現した。



穴だらけにされた2人の隊員が床へと沈み



幾つもの銃口が向けられ、スペツナズが前進しようとするや



廊下に飛び出た赤塚



そして引き金がひかれた。



パスパスパスパスパス



スペツナズの1人に被弾



胸部と腹部から血が溢れ、横たわり脚をバタつかせた。



赤塚のいきなりの出現、発砲に不意を突かれたスペツナズは一斉に退き、また倒れたそいつは壁の死角へと引きずられて行く



赤塚も壁に隠れ、マガジンを交換しながら口にした。



赤塚「海原 平気か?」



海原「平気です」



そして海原が廊下へ顔を覗かせるや、再び前進を試みようとする部隊を目にし



発砲した。



パスパスパスパス パスパスパスパスパスパス



すると スペツナズは再度壁の奥へと姿を消した。



海原「奴等10人はいます」



カシャ



赤塚「あぁ 海原 援護する 太田の所まで後退しろ」



海原「了解」



そして壁を掩体かわりに身を乗り出した赤塚がMPをフルオートした。



パスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパス



赤塚「今だ ゴー」



赤塚の合図で廊下に飛び出した海原が退き



そして太田のいる避難口へと後退した。



壁に身を隠す太田と合流した海原がすぐさま身を乗り出した。



すると



向けられた幾つもの銃口



たちまちパッパッと火花の光を放ち



銃撃される



タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ



海原は焦って身を引かせた。



けたたましい銃撃音、壁には無数の銃穴が開き、布製の黒いフェイスガードで覆うその隙間から見える凶気な青い目のロシア人



7~8人の部隊が発砲しながら一歩を踏み出しはじめた。



赤塚「く…」



また2人仲間が殺られた…



しかめ面で赤塚が壁に身を隠す先では発砲しながら着々と前進する部隊がいる



タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ



一歩 また一歩と奴等が近づいて来た。



海原「クソ 来た このままじゃ主任が危ない」



タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ



太田「ですが これじゃあ 援護出来ません…」



何かないか… 一瞬でいい…



隙を作れる方法…



すると海原はある物に目が触れた



あった これだ…



赤塚との距離7~8メートル



一間の迎撃チャンスも与えぬ作戦なのだろう



絶え間なく弾幕が張られ、その間にスペツナズ共が接近



廊下に臥した部下2名を目の前に身を隠す壁際から銃撃音と共にいくつもの気配が近づいて来る



この部屋に踏み込まれるのも時間の問題… こうなったらこいつで…



1人や2人くらい…



赤塚が腰のホルスターに仕舞われたナイフを抜き出そうとグリップを握り締めた時だ



ガタ ブシュュー コロコロ



急に何かが廊下を転げてきた



そいつは凄い勢いで白い粉を吐き出し、廊下はたちまち煙幕に包まれた



海原によって放られた物



それは消火器だ



ブシュュー



ホースが勝手に暴れて白粉を撒き散らしている。



いきなり放られ、無人で吐き出す謎の白粉にスペツナズは一斉に警戒、銃撃を止めた。



そして後歩で退いた。



転がりながら尚も吐き出す消火剤の粉であっという間に廊下は白煙で充満され、視界不明瞭へと変わった。



よし 今だ…



このチャンスに廊下へ飛び出た赤塚が海原達の元に滑り込んだ



赤塚「おまえら ナイスだ でかしたぞ」



太田「良かった ご無事で」



海原「上手くいった さぁ すぐに退散しましょう」



赤塚「ちょっと待て どっちか手榴弾とか持ってないか?」



海原「あります え? 何を?」



赤塚「仲間を殺られたお礼をする」



赤塚が手榴弾と靴ヒモを手にドアノブになにやら細工を施しはじめた。



赤塚「よし 一丁あがり 行こう」



そして 3人がこの場から離れようとした



そのとき



タタタ タタ  タン タタタタタタタタタタタタ タタタタタ タン



隣りの部屋から銃撃音が響き渡ってきた。



赤塚「この音…」



タン タタタタタ タァン タタタ



太田「隣りの部屋からです…」



まさか…



海原「あいつらあの部屋の町民を撃ち殺してるんじゃ…」



赤塚が動き出そうとした寸前



海原によってガッシリ手首が掴まれた。



海原「主任 いけません」



赤塚「無差別虐殺を見逃せない」



海原「なりません これでハッキリしました 奴等の狙いはこの建物の者を全滅させる事です 町民の方達は残念ですが 今向かって行けば奴等の思いのまま… 術中にハマるだけです 行きましょう 逃げるなら今の内です」



赤塚「くっ…」



太田が中扉を開き



太田「さぁ 行きましょう」



タン  タタタタタ



そして海原に腕をひかれ、3人は避難階段を降りて行った。



タン



眉間が貫かれ、目を見開いたまま息絶える町民



「Этоーвсеэтом(これで全部です)」



1人残らず頭が撃ち抜かれ



洗脳ルームの民全員射殺



既に全滅させられていた。



部屋内にまだ生き残りがいないかを周歩するタミルトン



皆殺しを確認するや



タミルトン「Вы оставилиегоипреследуетемышьтолькочо(よし さっきのネズミを追え)」



「Да(はい)」



2人のロシア人がまだ白粉舞う廊下へと飛び出し、駆け出した。



そして ドアノブを握り



扉を開けた途端…



ボォォオオ~ン



細工された手榴弾が起爆



2名のスペツナズ兵が爆発をまともに喰らい、吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた



タミルトン「Чтозто?(何事だ?)」



「Зтоловушкаврага…(敵のトラップです…)」



「Бесполезен(駄目です) мертвый(死んでます)」



一気に怒りの表情に変わるタミルトン



タミルトン「Дерзкий(小癪な)」



そしてタミルトンが荒い口調で命令した。



タミルトン「Преследование(追えぇ~)」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



ゴミ集積所



120リットルのゴミ袋にパンパンに詰められた血のつく包帯やらガーゼやら脱脂綿



他にも使用済みの注射針から壊れた医療機器、器具などなど



俗にいう医療廃棄物と呼ばれるガラクタやゴミが捨てられ、それら山積みに放置された集積所に一行がやってきた。



徳間を先頭に桐野、多摩岡、谷口、川畑、雅史、他6名、青木と続く



徳間「あった あの扉だ 俺が見て来る 待て」



目の前にはゴミ収集車用の搬出口シャッター、その隣りに小口の扉が見られた。



徳間は皆にしばし待てのジェスチャーを送り、その扉を開いた。



そして そぉ~と外の様子をうかがった。



すると上空から…



バタバタバタバタバタ



ヘリの羽音が舞い込んできた…



バタン



慌てて扉は閉められ



徳間「駄目だ そこら中にヘリが飛んでる」



多摩岡「逃げ道なしか… おい それより海原さんと太田は? それに正治と駒田もいないぞ」



桐野「隊長と一緒だ… ちっと遅いな」



雅史「もしやロシアに殺られたんじゃ」



徳間「卦体(けったい)な事を口にするなよ」



雅史「すいません」



青木「…」



多摩岡「どうするよ?」



徳間「すぐに来る 待とう」



沈黙が流れ 徳間がドアに近づき、聞き耳をたてると…



ヘリローター音に加え、微かに聞こえてくる幾人ものロシア語…



上空、地上…



外周に奴等がいる



既に建物は奴等に取り囲まれてる…



すると



カンカンカン



階段を降る足音がしてきた。



スペツナズかもしれない…



徳間、桐野、多摩岡の3名が厳しい面で一斉に入口へと銃を身構えた。



そしてドアノブが捻られ、一同息を呑む中



入って来たのは赤塚、海原、太田等の3人だった



徳間「隊長」



ホッとした3名は直ちに構えを解いた。



赤塚「外の様子はどうだ? 行けそうか?」



徳間「いえ アカンです 上空にはヘリ 地上にも奴等がいます」



雅史「正治と駒田さんは?」



海原「殺られたよ…」



雅史「まじすか…」



青ざめた雅史を横切る赤塚がインカムを手にした。




ーーーーーーーーーーーーーーーー



指揮車



建物の見取り図やら地図やらが広げられ、分隊の連絡をただじっと待つ麻島、マツ、月島の3名の元に受信が入ってきた。



赤塚「こちらB班赤塚 今ゴミ置き場に到着。 たったいまスペツナズの人動襲撃を受け、新たに2名を失いました 正治、駒田2名死亡」



それを耳にし車内は重苦しい雰囲気



マツは言葉を失った。



また麻島も動揺を隠し切れず、顔を背けた後 マイクを手にした。



麻島「……分かった… すぐにそこから離れろ、すぐに森へ逃げろ…」



赤塚「隊長 それも困難かと…ガンシップが上空警戒し部隊に周囲を囲まれてるもよう」



麻島「なんだと… 手際がいいな…赤塚しばしそこで待機しろ 今から違う退避ルートがないかを探る」



赤塚「隊長 奴等の狙いは紛れも無く虐殺です たったいま幽閉された民が皆殺しにされました 恐らく救出者全員死亡 私達の班も一瞬で9名を失ってます これ以上部下を失う訳には行きません それと現在レジスタンスの斉藤、一条の2名が消息不明 班とはぐれてます これから私がその2人の捜索にあたるので班を安全な場所まで誘導お願いします」



それを耳にしたマツ



マツ「斉藤と美菜萌が…はぐれた」



麻島「待て その2人の居場所は分かってるのか?」



赤塚「いえ 分かってません…」



麻島「赤塚 早まるな とりあえずその場に待機しとけ 決して1人で行くんじゃない……」



各自に取り付けたカメラの調子が悪いのか?



大半のモニター映像がノイズだらけとなり、故障を起こしていた。



麻島がそのモニター機をひと叩き



麻島「クソ どうなってる…」



マツ「2人が班からはぐれたんですか?」



麻島「そのようです 何処にいる… 2人は何処にいるんだ…?」



麻島は広げられた館内の見取り図とにらめっこを始めた。



三ツ葉「この広い館内をこれから捜索するのは無理です まずは班の退避を優先させましょう」



マツ「何を言いだす? 2人は私の大事な仲間だ 2人を置き去りにしようってのか?」



三ツ葉「そうは言ってませんが 優先すべきはまずは安否のとれた班の安全です その2人が生きてるかどうかも保証は無い…」



マツ「あんた… 2人が殺されてるとでも言う口ぶりじゃないか」



三ツ葉「本心は違う事を願ってますが 現実 この事態ではありえます これは作戦です 救出者も苦肉の決断を下したんですから 2人にだって…」



マツ「貴様ぁ」



マツが三ツ葉の胸倉に掴みかかろうとした時



麻島「2人共 こんな時に止めろぉ」



マツ「生きてる保証と言ったな? あいつらが死んでる訳無い 美菜萌には個人的にトランシーバーを握らせてる これですぐに確認出来る」



マツがトランシーバーを三ツ葉の眼前に差し向け、交信を図った。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



2階 手術室



埃まみれな手術台の陰に隠れる2人



そこに斉藤と美菜萌



2名の姿があった。

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