第119話 露軍

この声…



奥から複数の人の声が聞こえてきた。



「うぅぅぅうう」



「早治さん 早治さぁん 誰かぁ~ 早治さんが息してなぃの~」



「あ~ 敬愛なるスキャットマン様 スキャットマン様の御陰で私はこうして生まれ変わる事が出来ました なんて言うかこう…心が解放されたような 幸福感に満たさた気分でいっぱいであります これも故にあなた様の御陰 あなた様のためならどんな事でも忠実に行います 言いなりになります 忠誠を誓います……ですから…ですからもうこれ以上妖術だけは勘弁して下さいませ…」



足元も見えぬまっ暗闇な室内



開いた扉から差し込む明かりのみが唯一の頼りだが…



この声は視界無き部屋の奥から聞こえて来る



川畑「何にも見えないぞ これ」



美菜萌も室内を覗き込むと、そこは光1つ遮られた視界0な暗闇の世界



斉藤「声だ よし 中に人がいる」



その深暗な先から聞こえて来る声を美菜萌も耳にし、いざ踏み込もうとした時だ



ここで待てのジェスチャー…



それは赤塚によって制止された。



隊から少し離れた壁にもたれる青木



簡単過ぎる…



ここのみんなは何処へ消えたんだ…



青木は1人廊下の先へと視線を配っていた。



赤塚が海原、渋谷、太田の3人に手話の如く無言で指示を送った。



太田には窓の遮光カーテンを剥がせ…



2人は…俺に続けと



そして赤塚等が暗闇の中、銃を身構えながらゆっくりと奥へ進んで行った。



ライトも無い、スコープに赤外線機能もついてない…



この想定外な暗闇



肉眼では何も見えない隊は先から聞こえて来る声に向かって一歩一歩慎重に進めていく



すると床を踏みしめる感触が急にタイルから畳へと変わった。



暗闇の中から発せられる声はどれも異常を喫している



果たしてどんな状況が待ち受けているのだろうか…?



赤塚の脈動が緊迫から激しくなってきた。



そして声が間近に聞こえ



赤塚が歩を止めた瞬間



ザァー



太田によって次々にカーテンが開かれた。



日を浴びた室内が一気に明るくなり



明瞭な視界に映し出された室内



何て事だ…



唖然とした3人の瞳に…



犬のように首輪がつけられ鎖で繋がれた多数の町民等の悲惨な姿が照らしだされた。



60~70か…



建物支柱やら後付けされただろう鉄柱に10人づつ鎖で繋がれ



受け皿には残飯が置かれている



太田「非道い」



渋谷「まるで犬の扱いですか?」



赤塚「いや もっとヒドい…」



老若男女関係なく



目が開かぬ程に顔が腫れ上がり横たわる若い女性から…



全身アザだらけな70近い男性老人まで



大半の者が酷い暴行を受けていた。



監禁 暗黒 暴力 恐怖 支配によるマインドコントロールの過程におかれた人々



既にアイデンティティー、自己の価値観、団結力から判断力、気力は消え失せ



洗脳操作に屈していた。



精神は崩れ去り



大半の人が自我の失われた廃人へと堕ちていた。



赤塚「太田 皆を呼んで来い」



太田「はい」



「スキャットマン様のお力で私をここまで立派に育てて頂き感謝しております 私がこの世に生まれた事、家内と運命的出会いをし結婚した事、息子の寛太が一流企業の内定を貰えた事も 甥っ子の結くんが海外留学して、無事帰国出来た事も… 全てがスキャットマン様の御陰だと心から感謝しています」



ブツブツ意味不明な事を喋り続ける町民の前にしゃがみ込んだ海原



海原「駄目です 目がイっちゃってます 正常な人はもういないんじゃ…」



赤塚「……海原 鎖は銃で断ち切れ」



すると



渋谷「隊長」



渋谷の呼び声で赤塚等が駆け寄った。



そこには60近い御婦人を抱きしめる渋谷の姿



老女は渋谷の胸の内でガタガタ身体を震わせながら呟いていた。



「早治さんを助けて 早治さんが…早治さんが…」



渋谷「隊長」



赤塚がすかさず横たわりし老人の口元へ耳を近づけ、同時に首筋の脈へ指を添えた。



だが… 呼吸も脈も無い…



立ち上がった赤塚が首を横に振った。



「いやぁぁあ~~~~」



不乱に泣き叫ぶ老女



海原「かなり取り乱してはいますが見たとこ精神が尋常なのはこの人のみのようです」



赤塚「あぁ」



すると



阿部「ゲッ なにこれ?」



入って来た一同も異様な光景を目にし皆が絶句する。



斉藤「ひでぇ」



多摩岡「隊長 ストレッチャー6台あります」



徳間「担架も用意出来ました」



赤塚「よし ここのみんなを回収する すぐに取り掛かるぞ」



一斉に動き始めたザクトの隊員達



タン ピキュン



弾丸によって鎖が切断され、幽閉されし民が回収されていく



赤塚「自力で歩けない重傷者を最優先、担架かストレッチャーを使って運び出せ テキパキこなせよ 大人数だ」



徳間「この人は歩行困難だ 先に運ぼう ストレッチャー持ってこい」



ピキュ



渋谷「こっち側の鎖は全部切った こっちから運んでくれ」



赤塚がインカムを手にし「こちらB班より指揮車へ 只今拘留された町民達の解放作業を開始しました」



麻島「こちら指揮車よりB班へ どのくらいかかりそうだ?」



赤塚「30分ではとてもじゃないですが無理です まともに歩けそうな人がいないのと回収人数が多いのと ここは最上階です… そうですね… えぇ~ 多く見積もっても1時間はかかるかと」



麻島「了解した なるべくその目安で急がせろ これから所定のポイントに回収車を送り込む 約10分後だ 出口はC2 第2駐車場での合流だぞ いいな?」



赤塚「こちらB班了解しました」



暴行でボロボロになった負傷者を背負い駆け出す斉藤



何とか歩けそうな男性に肩を貸し、共に部屋から出て行く阿部



美菜萌「1 2ので乗せますよ?」



谷口「いいよ」



美菜萌「1 2のハイ」



谷口「じゃあ俺が運ぶから美菜ちゃんはあっちを手伝って」



町民がストレッチャーへと乗せられ外に運ばれて行った。



レジスタンス、ザクトによる懸命な救出活動



誰しもが必死な表情で作業を行っているさなか



町民を担架で運び出してきた海原、渋谷があるものを目にし、廊下で足を止めた。



海原「おい そこのおまえ 何ボォ~と突っ立ってる?手伝え」



皆がせわしなく動いてる中、廊下の隅で壁にもたれながら呑気に煙草を吸う青木の姿を見つけた。



青木「は?」



渋谷「そんな所でタバコなんか吸ってないでさっさとみんなを手伝え」



青木「フ~ え?なんで?」



渋谷「なんでって… この状況を分かってんのか?そんなの…」



海原「おまえ…俺はガイドだから…とかほざくつもりか?」



青木「そ 御名答 分かってんじゃん だから俺はパ…」



海原「違うな おまえはこの作戦に参加した以上 隊の一部だ 隊の端くれに特別などない ガイドだけしてればいいとかそんな事俺から言わせればクソ食らえだ 力強くで任に就かされる前に黙って協力しろ」



青木「フッ 何それ まさか脅しのつもり?」



海原「あぁ そうだ ぶっとばされない内に大人しく命令に従え」



青木がソッポ向いて煙を吸い込み



プハァ~



吐き出すや



ゆっくり海原に振り向いた。



そして火が点いたままのタバコをデコピン、海原の胸に当てられた。



青木「断る」



青木は人を怒らせるようなおちょくった態度と不敵な薄ら笑みを浮かべた。



海原「このクソ忙しい時に貴様にはこの場で教育が必要なようだ」



渋谷「海原さん もうこんな奴放っておいて 早くしないと」



海原「調和の乱れはチームに危険を招く こいつにはここでの指導が必要だ」



海原が担架を下ろした。



渋谷「しかし急がないと…」



海原「すぐに終わる 引きずってでもおまえをその中に連れていく」



青木「…」



シカトする青木へと近づき、海原が胸倉を掴んだ  その時だ



海原の首筋に刃物の冷たい感触が伝わった。



海原の首にいつの間にかプッシュダガーナイフが添えられていたのだ



こいつ…



いつの間に…



そして青木が咄嗟に掴む手を弾いた。



青木「俺に触るな」



海原「テメェー」



逆上した海原が殴りかかろうとした寸前



赤塚「おまえ等何してる?」



背後に赤塚が立ち、拳がストップされた。



海原「主任 こいつ何なんですか? あまりにナメた態度と非協力的な姿勢に腹が立ちまして これからシバいてやろうかと思ってます」



赤塚「止めろ 今はそんな事してる場合じゃないぞ さっさと運べ 時間がない」



すんなりと拳をおさめた海原が青木にそっと耳打ちした。



海原「命拾いしたな ガイド」



青木「…」



赤塚「さぁ 行け」



海原「了解」  渋谷「了解です」



2人は担架を持ち、この場をあとにした。



赤塚「おまえはあくまで手を貸さないつもりか?」



青木「まぁ うん… そうゆう事だね 俺には関係ないから」



赤塚「関係ない…? そうか… 関係ないか… なら… 何もせずこのまま傍観を決め込むと言うなら おまえにもう用は無い とっととここから消えろ」



青木「あ!ホント?もういいんだぁ ならお言葉に甘えて失礼するよ」



赤塚「あぁ 邪魔なだけだ 早々に消え失せろ」



青木「はぁ~い さっさと消え失せまぁーす じやあ おつかれしたぁ~」



清々する… っといった表情で赤塚の横を通り過ぎて行った青木



赤塚はその後青木へ振り向く事無く救出作業へと戻って行った。



赤塚「進行状況はどうだ?」



太田「まだ3分の1弱です」



赤塚「分かった」



斉藤「美菜萌 この人右脚が折られてる 添え木で固定するからここをぐっと押さえてろ」



美菜萌「はい」



「担架が不足してる 戻りはまだ?」



徳間「なら自分で背負え」



「うわぁぁ~ 私はESPが開花したんだぞぉ テレパスなんだぞぉ 私は思考を読み取る事が出来るんだぞぉ~ ああああ~」



多摩岡「暴れるなぁ 誰かぁ~~ この人取り押さえるのを手伝ってくれ」



1人 また1人と気が触れた人々を救い出して行くB班の隊員達



その救出活動に励む隊員等をよそに1人ふらっと外に飛び出して来た青木



手を貸す気などサラサラない青木が次々駐車場へと運ばれてくる町民等やそれを運ぶ隊員等を完全他人事な横目で目にしていた。



全くご苦労なこったな…



まぁ 俺には関係ねぇ~~し…



さて… 用済みなようだし これから自由にのびのびやらせて貰うわ…



じゃあ ハサウェイ…俺はこれにてドロンするぜ…



そして森の中へ姿をくらまそうとした その時



バタバタバタバタバタ



ん?



微かに聞こえてくる、ある音を耳にした。



バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ



なんだこの音…?



上空に視線を向けた青木



耳を澄ますと その音が徐々に近づいて来るのが分かった…



この音…



ヘリコプターの羽の音だ



青木はしばし空を眺めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



上空



3つのプロペラ音



バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ



そして機内では外国語のやりとり



「Этоーостаток6килограммовкпредназначению(目的地まで残り6キロ)」



「ザァ разрушьтекждоездание(建物ごと破壊しろ)ザァ」



「Япоялего(了解)」



バタバタバタバタバタ バタバタバタバタバタ



並行する2機の機体が現れた。



翼両サイドに広がる重武装のミサイルや機関砲群



これは



ロシア製戦闘ヘリコプター



Kaー52



通称 カモフアリゲーターなる機体だ



その戦闘ヘリが森の真上を飛行し木々を揺らしていく



またそのすぐ後続からあるドデカな機体が1機現れた。



こいつはロシア軍多目的輸送ヘリコプター



Miー26



通称 ヘイローなる機体だ



ヘイロー内には既に武装された30名程のロシア兵士が乗っている



そう… こいつらは特殊部隊スペツナズなる部隊だ



これより廃病院に…



急襲 スペツナズが迫り来る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る