第118話 解錠

肩から突き出た矢尻を意に介さず、戦闘フォームを取った若竹



顔の数ヶ所から血を流す御見内もオープンフィンガーで構え



改めて敵対する両者が向かい合い、数度めの静けさが訪れた。



互いに傷つく身体で構えを取り、互いに放つプレッシャーを感じ取り、先制の機会を伺っている。



そんな両人を見詰める臼井と柊の間にも緊迫感が流れ込み、柊の目に御見内のこめかみから流れる一筋の血



それを目で追った時



先に仕掛けたのは御見内だった



左の前蹴りを放ちながらのイン



右の外手刀、左のジャブ、右のボディーブローと3連発を放った。



だが これらは全て避けられ、若竹は後退



御見内は更にステップインし



今度は左ローをかました。



だがこれも空を斬り、脚が遊んだ



…と思いきや御見内はクルッと身体を捻らせ、素早い反動をつけるや



そのまま回転をつけ左上段廻し蹴りに移行



スピードを乗せた強力な廻し蹴りが発射させた。



バシィ



ヒット音が臼井と柊の耳に届き



入ったか…?



そう思われ、2人が注目するが



上段蹴りはしっかり両腕でガードされ、寸前で阻まれていた。



すると今度は若竹が素早く足首を掴み、前に出るや、脚払い



ラリアットのように首に腕を絡ませ、押し倒した。



御見内はバランスを崩され、そのまま投げつけられ、倒された。



御見内「ぐぅ」



背中から打ちつけた御見内はすぐに起き上がり視線を向けると追い打ちをかけずに構える若竹から手招きの挑発が送られてきた。



クイッ クイッ



来いよ…



無言の挑発行為…



ヤロー…



このナメたジェスチャーに一瞬 血の気が登った御見内だったが



すぐに冷静さを取り戻し、御見内は立ち上がった。



流石…



達人とほざくだけはある…



打撃スキル、コンビネーション、スピード…



どれをとっても俺の数段上を行ってる…



認めるのは悔しいが…



このまま真っ向から挑んでも勝算はなさそうだ…



このままじゃ一生勝てそうにない…



っとならば…やっぱオーソドックスに張り合のは止めて…



俺にあったストリート式(なんでもあり)で攻めてみるか…



闘志をみなぎらせた御見内は構えも取らずに踏み出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



御見内が激しいバトルを繰り広げる頃…



サンクチュアリー(廃病院)



B班 赤塚隊



忍び足で階段を上がって来た2人の隊員渋谷、海原の姿が見られた。



2人はMPサブマシンガンを構え、広い廊下を索敵した。



敵の姿は無い…



海原が安全確認で親指を立て、ジェスチャーを送るや



その後青木、赤塚が階段から現れ、次いで川畑、斉藤、美菜萌、阿部等が上がってきた。



所々微かに日光が漏れて差し込む薄気味悪い廊下



そして無音な室内



私語はおろか音をたてぬよう皆が気を使い



渋谷、海原を先頭に一行は静寂に包まれた廊下を慎重かつ忍び足で進んで行く



一行のすぐ右手にはカンファレンス室、左手にはレクリエーションが見えた。



後続の隊員等がその室内へと入り込み、目視で安全チェックをおこなっていく



それから右手隣りにはデイルーム、食堂、左手隣りにはランドリー室、リネン室、入浴場と続いた。



フロアー内の全部屋を隈無くチェックしていく隊員達



通路の壁には数枚のボロボロになった貼り紙が貼られ…



美菜萌がそれらの貼り紙にチラリと目を配った。



セカンドオピニオン外来案内は一階受付にて承っております。



エンテロウイルス、手足口病 全国に感染拡大の危険 幼児の10%が発症傾向にあります それに伴い当院では只今特別検査を実施しております。 お子さまに症状の見られる方はお早めに当院での検査を行って下さい  院長 日下部 祐一



人間ドック 月曜日~金曜日 8時半開始 



半日コース28000円 1日コース48000円



追加プランはプラス5000円 当日変更も可能です



検査項目 身体測定 問診 血液一般検査 胸部X線直接撮影検査 循環器系検査 消化器検査(バリウム検査) 内視鏡検査(胃カメラ) 超音波測定検査 骨密度検査 感染免疫CRP検査 ヘリカルCT検査 脳MRI検査



受付は当窓口にて承ります



緊急ニュース 昨年より新型ウイルス豚インフルエンザが流行ってます おかしいなと感じた方はすぐにお近くの医療機関、保健所又は当院にて検査を行って下さい



などなどすっかり黄ばみきった告知や案内の貼り紙を流し目しながら廊下を進んで行くと



廊下の先



突き当たりの部屋を…



青木が指さした。



そして沈黙を破る一言を発した。



青木「着いた あの部屋だ」



一同が視線を向ける先には…



デカデカ老人介護ルームと書かれたプレート



恐る恐る近づいた。



赤塚「鍵?」



観音式扉の取っ手には幾重にも巻かれた鎖に南京錠が取り付けられ



また扉の小窓には板が打ちつけられ内部の様子が完全見えなくなっている。



赤塚が小声で「ガイド ホントにここか?」



青木「うん 確かだよ」



錠を手に取った海原



海原「鍵式ですね…太田 ピッキング出来るか?」



太田「見てみます」



太田が南京錠の鍵穴を覗き込んだ



太田「これなら楽勝ですね… あ!一条さん ヘアピンとか持ってませんか?」



美菜萌「え? あ!はい ありますよ…どうぞ」



美菜萌からヘアピンを受け取るや太田はそのピンを変形させ鍵穴へと突っ込ませた。



そしてガチャガチャとピッキング作業を行う間



赤塚「よし その間に準備を整えよう 手前のレクリエーション室にストレッチャーが数台置いてあったのを見た 多摩岡と徳間で全部持ってこい」



徳間「了解」



赤塚「担架を全て広げておけ 突入次第すぐに収容者を回収するぞ」



桐野「了解 雅史 そっちの全部出して組み立てろ」



雅史「了解」



赤塚「ガイド こうもあっさり辿り着いちゃ お前の仕事はなかったな」



青木「なきゃないで別に…」



すると



ガチャン



太田「開きました」



斉藤「すげぇー ヘアピン一本でマジ開けたよ 映画みたい」



いとも簡単に錠を開き、鎖が解かれていく



そして取っ手を掴んだ太田



太田「開けますよ?」



赤塚「ちょっと待て 皆 一旦下がれ 海原 渋谷」



一同数歩下がり



扉の目の前で身構える海原と渋谷



赤塚が壁に背をつけ、太田に開けろの指示を送った。



そして2人に視線を合わせたのち、太田が扉を開いた。



その瞬間 2人は中へと突入



赤塚も2人に続き内部へと入り込んだ



電気は消され、遮光カーテンで締めきられた部屋は暗闇に包まれていた。



真っ暗闇…



人は無しか…?



そう思われた矢先



暗闇の中から人の声が聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る