感染症Sequel

第117話 熱戦

オープンブローで構える御見内に若竹が向かってきた。

手首のスナップを利かした横打ち

御見内はこれを肘で防ぎ

怒りにまかせた若竹から続いて素早い手首への小手打ち　　からの面打ち２連打が放たれるが

これも腕で捌き、受け流した。

また喉元を狙った貫手の突き

脇腹を狙った中段のサバットキックが放たれるが…

感情露わな若竹の連撃は連続で防がれた。

高速な徒手戦

互いに払いのけの応酬が成されるも

手の捌き合い、脚の取り合いが互角となる

スピードは変わらぬも先程より明らかに若竹のキレが落ちている事に気づいた御見内…

足首の負傷と激情が作用しているのだろうか…

冷静さを欠いた若竹の攻撃は、打ち込む前にわずかなモーションのブレが生じ…

粗い…

今まで防御に間に合わなかった御見内も反応する事が出来た。

手を止めぬ若竹からまだ攻撃は続く

だが…

下段打ちはスネでブロックし

中段打ちは手のひらで弾き

上段打ちはヒラリとかわす

御見内は猛打をことごとく回避成功させていった。

そして距離を取ろうと一旦バックステップで後退

攻撃を全て防がれ、ムキになった若竹が逃がすまいと追い込み、大振りからの打撃へ転じようとした時だ

御見内はカウンターで右のストレートを繰り出した。

しかしこれは読まれ、ブロッキングで防がれるや、逆に若竹が貫手のカウンターを打ち込んで来た。

だが…　御見内もこれを読んでいた。

貫手は空を切り、空振る

その間に上体を屈み、踏み込んでいた。

若竹の懐へと入り込んだ御見内

御見内が左の腕刀打ちをかました。

鼻筋を捉え、ついにまともな一撃が若竹を捉えた。

若竹「ぐぅ…」

よろけた若竹にすぐさま御見内はふくろはぎを刈り込む左のローを繰り出した。

それから左のバックハンド（裏拳）

キレイな顔に連発で打撃が入り

若竹はぐらついた

次いでチャンスとばかりに御見内は低空タックルで若竹を押し倒した。

カラン

タックルは見事に決まり、床に倒れた２人

手からスティックが離れた。

よし　離れた…

若竹がそのスティックへ手を伸ばすよりも先に

御見内がスティックを蹴っぽった。

カラカラン

手の届かぬ位置まで転がっていく短棒

若竹からディスアームを成功させた。

さぁ　このままボッコにしてやるぜ…

それから御見内はこの好機を逃すまいとマウント上から右の拳を叩き込もうとした

その時だ

パンチが素早くブロッキングされ、手首が捻られ、また同時にブリッジした若竹

そのブリッジの反動で御見内の身体は浮かされ

同時に腹部へ膝が押し当てられるや

手首の関節をキメながら小手返しのようにクルッと横へひっくり返された。

マウント上からいきなり背面が床に着き、回された御見内

なんだ…？

そして顔を上げた途端

バコッ

寝た状態からのサバット（爪先蹴り）がこめかみに入れられた。

御見内「ぐぅ」

強烈な蹴りが入り、御見内がこめかみに手を当てると血が付着

こめかみから内出血を起こし、流血していた。

それから

ハッとした御見内が顔をあげると

既に立ち上がり、眼前で仁王立つ若竹の姿があった。

益良「フッ　愚か者め　武器を奪ったくらいで勝った気になりおって…アーニスはあらゆる局面に適応された武術なんだよ…」

臼井「…」

益良「むしろ…」

柊「…」

益良「不利に置かれたエンプティーハンド（素手）の方が優れていよう」

激高は静まり、以前の落ち着いた感じ…

ニヒリティックな冷めた目

若竹は無表情に戻っていた。

そして武術らしい構えを取りはじめた。

つかず離れずな適度の距離で再び対立する２人

今までの事がリセットされたかのように互いにステゴロ（素手の喧嘩）で向き合い、御見内もボクシングスタイルをとった。

場が沈黙…　しじまが流れ込み

どちらが先手を出すか…？

互いに動向を探り合っていた。

カリはカウンター、ジョイントロック（関節技）、ディスアーム（武器奪い取り）が主体…

スピードは格段に奴の方が上だ…

迂闊に仕掛ければ…　カウンターを合わされ…　関節かフルボッコの餌食にされるだけ…

ヘタには動けない…

こめかみからタラリと一筋の垂れ落ちる流血を拭いもせず、若竹を目にする御見内

すると

益良「どうした小童…？　戦意喪失でもしたのか？」

益良のヤジが飛び、ほんの一瞬だけ視線を逸らした　その瞬間

若竹の目が見開き

若竹が先に動いた。

スン・ガー（貫手）のストレートとフック２連発を見舞ってきた。

反応が遅れるも御見内はこれをパーリングで弾き、回避

次いで左膝蹴り、左肘打ち、衣服を掴もうとする手が飛んで来たのだが

これらも寸間で弾き返した。

その後若竹の手数が増え

高速で繰り出される、息もつかせぬパナトゥカン（パンチ）やパナジャカン（キック）をかろうじてブロッキングする御見内

臼井の目前では目で追うのがやっとなハイスピード、ハイレベルな打撃の攻防戦が繰り広げられた。

御見内も応戦し、左ジャブを放つも若竹は自ら肩に受け、ヒゴット・ハンパック（受け打ち）なるカウンターでバックハンドブローを打ち込んできた。

御見内はギリギリでそれを回避し、今度は右のショートフックを打ち込み

続けざまタックルでテイクダウンを狙った。

腰に手を回し、捕まえ

そのままの勢いで押し倒そうとするや

手首が捻られ、関節がキメられ、腕が解かれながら、口頭部にルバットハンパック（受け解き打ち）なる肘の鉄槌が食らわされた。

くぅふ…

衝撃で目の前に電光が走り、よろめき、体躯が受け流されるや

肩をクルッと回された御見内の顔面に小刻みな左右のジャブの連打

5～6発が入れられる

それから腹部に強烈な膝蹴り

次いで右膝へのローな前蹴り

その後　懐へと入り込み、腕の関節をキメながら若竹が肩を入れ込んだ

そして背負い投げの要領で御見内は投げ飛ばされた。

ブノ（投げ技）され、地面に叩きつけられた御見内の身体

エンプティーハンドの猛攻は止まらない

バカッ　ボカッ　バシィ　バシ

背をつけた御見内の顔面に今度は容赦なく拳が打ち込まれていった。

益良「フッ　勝負ありだな」

バシィ　ボカッ

馬乗りな若竹からラプティック（打ち抜き）ブローの滅多打ち

そのさまを見て益良がニンマリと笑みを浮かべた。

バシ　ボカッ

冷酷な目で振り下ろされるナックルに血が付着する。

ボカッ　バコ　ビシィ

そして若竹の振り下ろす拳が止まった。

唇が切れ、頬やまぶたが切れ

出血した御見内の顔

力が抜け、無惨にも横たわる御見内を見下ろしながら若竹が立ち上がった。

カリの達人を前に敗北を喫し、沈黙されたのだ

益良「よしよし　よくやったぞ」

柊「あわ…ま…負けた…」

益良「若竹！さっきの軍人を追え　奴も始末するんだ」

若竹は無言で動き出した。

すると

臼井「と…止まれ…」

臼井が手を震わせ銃器を若竹へと向けた。

益良「フフ　脅えおって　無駄だ　貴様等の処分は後程ゆっくりとだな」

臼井「うう…」

銃口を向けられた若竹はゆっくりと臼井へと近づく

臼井「く…来るな…」

益良「臼井…　お前の女房は確か臨月間近だったな？　腹の子は娘だったか？　ならば貴様の目の前でそのはらんだ腹をかっ捌いて、そのまだ見ぬ愛娘と対面させてくれよう　伴侶共々死に際を見せてくれるわ」

接近する若竹にトリガーを添える指が尋常じゃない程に震えていた。

益良「ハッハハハハハ　それとも女房よりも先に逝っときたいかぁ？」

臼井「来るなぁ～」

平然と近づく若竹が臼井の前に立つや、素早い打撃が打ち込まれ、あっさりと銃器がディスアームされた。

若竹「…」

益良「あそこでくたばる哀れなザコなんぞにすがりおって　おぉ～そうだ…今いい事を思いついたぞ　なんなら貴様のボディーを最後のバスタード体として　その娘の心臓を材料に接合する…　娘と一体になれるなんてのはどうだ？　なかなかの名案だろう」

臼井「ぐっ…　教授…　あんたって人は…悪魔め」

益良「若竹　臼井をその銃で撃ち殺してすぐに奴を追え」

命に従いMPの銃口を臼井の額に押し当てた若竹

柊「う…臼井さん」

益良「案ずるな　柊…　次はおまえだ」

非情な無面で引き金が引かれようとしている。

若竹「…」

命を奪う事に一切動揺しない没義道な若者、若竹がまばたきもせず無感情な冷めた目で臼井を見据え、今　引き金を弾こうとした　その時だ

シュ

グサッ

突然何かが飛行し

その何かが若竹の右肩に突き刺された。

構えた銃を下ろし

若竹が視線を向けると肩から飛び出した一本の矢先が目に映った。

益良「どした？」

御見内「おいおい　相手がちゃうだろうが」

益良「なに？」

益良が声へ振り向き

臼井、柊も…

若竹もゆっくり後ろを振り返るや

そこには肩膝を立てて起き上がり、和弓を手にした御見内の姿が目に映った。

臼井「あんさん！」

益良「チッ　まだ生きてたか？　力量もないクセにしぶとさだけはありおる　若竹　そいつで撃ち殺せ」

御見内「はぁ　はあ　最近特に負けず嫌いな性分になってしまってね　やられっぱなしじゃ死んでも死にきれねぇーわ」

御見内は和弓を床へ置きながら立ち上がった。

そして

御見内「おい　カリ野郎　テメェー武人ならそんな武器は捨てろよ　タイマンの白黒にそいつはいらねぇーだろ　最後までこいつで通そぉーぜ」

御見内は握る拳を示した。

益良「若竹　そんな口車に乗るな　さっさと撃ち殺せ」

そして今度は御見内が人差し指を向け、クイックイッと動かしながら…

御見内「次はテメェーを床に這いつくばらせてやっからかかってこいよ」

挑発した。

益良「ほざけ　そんな口車に若竹が…」

すると　若竹がそれを受け入れ、銃器を投げ捨てた。

益良「若竹　何をしておる…さっさと拾え……おい　聞こえなかったのか？　さっさとその小童を撃ち殺せと言ったんだぞ」

若竹「…」

益良「貴様　まさか命（めい）に背くつもりか？　ボディーガードの分際で裏切るなら貴様もバスタードに…」

すると

シュ

突然強烈なサバットキックが益良の首へと打ち込まれ

益良の首がへし折られた。

そしてボソッと一言

若竹「うるせぇ」

若竹が初めて言葉を発した

首をへし折られた老体は床に崩れ落ち

若竹の一撃で益良教授が殺害された。

御見内「ほぉ～　うるせぇー奴がいなくなったな　じゃあ　続きをやろうか…」

若竹は腕を伸ばし、筋肉をほぐしながら御見内へと歩み寄る。

また御見内も首を振りながらウォーミングアップをし、構えを取った。

御見内「おまえが武道の達人ならこっちは日々ゾンビや感染者相手に生きるか死ぬかの瀬戸際で命をかけてきたストリートファイトがある」

若竹「…」

御見内「このラウンドでお終いだ…」

互いに距離が縮まり、構えが取られた。

御見内「こっちはブチギレだぜ　もうさっきとは違うからな　出し惜しみなんかしないで本気でこい！」